「ナトリウムチャネル」の版間の差分

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 またNavチャネルと似た配列を持つNaxと呼ばれるタンパク質が存在する。アミノ酸配列上、Navチャネルと同様、電位センサーおよびポアドメインに似た構造を持っているが、電位依存的にナトリウムイオンを透過させる機能を持っていない。Naxは中枢神経系などに発現し、チャネルではなくナトリウムセンサーとして働いているという報告がある7。  
 またNavチャネルと似た配列を持つNaxと呼ばれるタンパク質が存在する。アミノ酸配列上、Navチャネルと同様、電位センサーおよびポアドメインに似た構造を持っているが、電位依存的にナトリウムイオンを透過させる機能を持っていない。Naxは中枢神経系などに発現し、チャネルではなくナトリウムセンサーとして働いているという報告がある7。  


 サソリやイソギンチャク、クモなどの種々の生物毒はNavチャネルに結合することが知られているが、結合性はαサブユニット間で異なる。[[フグ毒]]として知られているテトロドトキシン(tetrodotoxin, TTX)はナトリウムチャネルの細胞外側に結合し、ナトリウムイオン透過を阻害する。テトロドトキシンは多くのナトリムチャネルに結合するが、Nav1.5、Nav1.8およびNav1.9はテトロドトキシン抵抗性である。  
 [[wikipedia:ja:サソリ|サソリ]]や[[wikipedia:ja:イソギンチャク|イソギンチャク]]、[[wikipedia:ja:クモ|クモ]]などの種々の生物毒はNavチャネルに結合することが知られているが、結合性はαサブユニット間で異なる。[[フグ毒]]として知られているテトロドトキシン(tetrodotoxin, TTX)はナトリウムチャネルの細胞外側に結合し、ナトリウムイオン透過を阻害する。テトロドトキシンは多くのナトリムチャネルに結合するが、Nav1.5、Nav1.8およびNav1.9はテトロドトキシン抵抗性である。  


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=== プロテインキナーゼAによるリン酸化  ===
=== プロテインキナーゼAによるリン酸化  ===


 ラットの神経系のナトリウムチャネルでは、リピートIとIIの間の細胞内側のリンカー部分に、[[wikipedia:ja:プロテインキナーゼ|プロテインキナーゼA(PKA)]]により[[wikipedia:ja:リン酸化|リン酸化]]を受けるコンセンサス配列が存在し、実際にリン酸化されていることが示されている。リン酸化によりチャネルの開口確率が減り、電流が減少する。また、ホスファターゼ2A、およびカルシニューリンが、この部位を脱リン酸化することも知られている。  
 [[wikipedia:ja:ラット|ラット]]の神経系のナトリウムチャネルでは、リピートIとIIの間の細胞内側のリンカー部分に、[[wikipedia:ja:プロテインキナーゼ|プロテインキナーゼA(PKA)]]により[[wikipedia:ja:リン酸化|リン酸化]]を受けるコンセンサス配列が存在し、実際にリン酸化されていることが示されている。リン酸化によりチャネルの開口確率が減り、電流が減少する。また、ホスファターゼ2A、およびカルシニューリンが、この部位を脱リン酸化することも知られている。  


=== プロテインキナーゼCによるリン酸化  ===
=== プロテインキナーゼCによるリン酸化  ===
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== RNA editing  ==
== RNA editing  ==


 ショウジョウバエのNavチャネルには、[[wikipedia:RNA editing|RNA editing]]が存在していることが知られている9。ショウジョウバエのナトリウムチャネルをコードしている[[wikipedia:ja:遺伝子座|遺伝子座]](para)には、少なくとも10か所の[[wikipedia:ja:選択的スプライシング|選択的スプライシング]]を受けるサイトが知られている。ここから転写されるアイソフォームの多くは、[[wikipedia:ja:アデノシン|アデノシン]]が[[wikipedia:ja:イノシン|イノシン]]に“編集”されるRNA editingを受けている。これまでのところナトリウムチャネルのRNA editingは、[[wikipedia:ja:昆虫|昆虫]]でのみ報告されており、哺乳類を含め他の生物種では見られていない。  
 [[wikipedia:ja:ショウジョウバエ|ショウジョウバエ]]のNavチャネルには、[[wikipedia:RNA editing|RNA editing]]が存在していることが知られている9。ショウジョウバエのナトリウムチャネルをコードしている[[wikipedia:ja:遺伝子座|遺伝子座]](para)には、少なくとも10か所の[[wikipedia:ja:選択的スプライシング|選択的スプライシング]]を受けるサイトが知られている。ここから転写されるアイソフォームの多くは、[[wikipedia:ja:アデノシン|アデノシン]]が[[wikipedia:ja:イノシン|イノシン]]に“編集”されるRNA editingを受けている。これまでのところナトリウムチャネルのRNA editingは、[[wikipedia:ja:昆虫|昆虫]]でのみ報告されており、哺乳類を含め他の生物種では見られていない。  


== チャネル病  ==
== チャネル病  ==
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 Navチャネルは活動電位の形成に本質的な役割を担っており、変異が生じると重篤な病気の原因となる。骨格筋に発現しているNav1.4のαサブユニットにおけるある種の変異は、家族性の[[wikipedia:ja:周期性四肢麻痺|周期性四肢麻痺]]や筋強直症を引き起こす。高カリウム性の周期性四肢麻痺では、Nav1.4の不活性化が不完全になり、持続的にナトリウム電流が流れる。そのため膜の再分極が浅くなり、Navチャネルの不活性化が解除されなくなる。その結果、活動電位が伝搬しなくなり筋の麻痺が生じる10 11。  
 Navチャネルは活動電位の形成に本質的な役割を担っており、変異が生じると重篤な病気の原因となる。骨格筋に発現しているNav1.4のαサブユニットにおけるある種の変異は、家族性の[[wikipedia:ja:周期性四肢麻痺|周期性四肢麻痺]]や筋強直症を引き起こす。高カリウム性の周期性四肢麻痺では、Nav1.4の不活性化が不完全になり、持続的にナトリウム電流が流れる。そのため膜の再分極が浅くなり、Navチャネルの不活性化が解除されなくなる。その結果、活動電位が伝搬しなくなり筋の麻痺が生じる10 11。  


 また心筋に発現しているNav1.5の変異は、先天性QT延長症候群(LQT)、特発性の心室細動等の[[wikipedia:ja:不整脈|不整脈]]を引き起こす。LQTを引き起こす変異は複数存在するが、その多くはチャネルの不活性化が不完全になる変異である12 13 14。このため持続的にナトリウム電流が流れ膜の再分極が遅れるため、QT間隔が伸長する。LQTの患者のうちNav1.5に変異を持つのは約10%である。  
 また心筋に発現しているNav1.5の変異は、[[wikipedia:Long QT syndrome|先天性QT延長症候群(LQT)]]、特発性の心室細動等の[[wikipedia:ja:不整脈|不整脈]]を引き起こす。LQTを引き起こす変異は複数存在するが、その多くはチャネルの不活性化が不完全になる変異である12 13 14。このため持続的にナトリウム電流が流れ膜の再分極が遅れるため、QT間隔が伸長する。LQTの患者のうちNav1.5に変異を持つのは約10%である。  


 中枢神経系で発現しているNav1.1の変異は[[てんかん]]の原因になる。これまで、全般てんかん熱性痙攣プラス(generalized epilepsy with febrile seizures plus, GEFS+)および乳児重症ミオクロニーてんかん(severe myoclonic epilepsy of infant, SMEI)を引き起こすNav1.1の変異が多数例、報告されている。不活性化が不完全になり持続的にナトリウム電流が流れるような変異や、不活性化がより高い電位で起こるような変異が報告されている。またGEFS+を引き起こす変異はβ1サブユニットにも見だされ、この変異を持ったβサブユニットは、αサブユニットの機能の調整をすることができない15 16。 侵害受容に関わる一次知覚ニューロンに発現しているNav1.7の変異は、先天性の無痛症(congenital insensitivity to pain, CIP)や先端紅痛症(erythromelalgia, IEM)、発作性の神経痛(paroxysmal extreme pain disorder, PEPD)に関わっている。これまで知られているCIPを引き起こす変異はすべてNav1.7をコードする遺伝子の途中に[[wikipedia:ja:終止コドン|終止コドン]]が挿入され、チャネルとしての機能を喪失することが分かっている17。またIEMでは遺伝子の変異により、低い電位でナトリウムチャネルが開口するため、[[閾値]]が低くなり活動電位が生じやすくなる17。PEPDの患者では速い不活性化に関わっているリピートIIIとIVの間に変異が見つかっている。この変異を持ったナトリウムチャネルは速い不活性化が起こる膜電位が高い電位にシフトする。そのため低い膜電位でも電気的に興奮しやすくなり、PEPDの症状が現れると考えられている17。
 中枢神経系で発現しているNav1.1の変異は[[てんかん]]の原因になる。これまで、全般てんかん熱性痙攣プラス(generalized epilepsy with febrile seizures plus, GEFS+)および乳児重症ミオクロニーてんかん(severe myoclonic epilepsy of infant, SMEI)を引き起こすNav1.1の変異が多数例、報告されている。不活性化が不完全になり持続的にナトリウム電流が流れるような変異や、不活性化がより高い電位で起こるような変異が報告されている。またGEFS+を引き起こす変異はβ1サブユニットにも見だされ、この変異を持ったβサブユニットは、αサブユニットの機能の調整をすることができない15 16。 侵害受容に関わる一次知覚ニューロンに発現しているNav1.7の変異は、先天性の無痛症(congenital insensitivity to pain, CIP)や先端紅痛症(erythromelalgia, IEM)、発作性の神経痛(paroxysmal extreme pain disorder, PEPD)に関わっている。これまで知られているCIPを引き起こす変異はすべてNav1.7をコードする遺伝子の途中に[[wikipedia:ja:終止コドン|終止コドン]]が挿入され、チャネルとしての機能を喪失することが分かっている17。またIEMでは遺伝子の変異により、低い電位でナトリウムチャネルが開口するため、[[閾値]]が低くなり活動電位が生じやすくなる17。PEPDの患者では速い不活性化に関わっているリピートIIIとIVの間に変異が見つかっている。この変異を持ったナトリウムチャネルは速い不活性化が起こる膜電位が高い電位にシフトする。そのため低い膜電位でも電気的に興奮しやすくなり、PEPDの症状が現れると考えられている17。
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