「知的障害関連遺伝子」の版間の差分

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 [[知的障害]](Intellectual Disability、以下IDと称す)は全人口のうち約2-3%に認めるといわれ、特徴的な身体所見や検査所見を伴う症候性IDと、ID以外に付随症状を伴わない非症候性IDに分類される。IDのうち約50-60%で遺伝的原因が解明、それらは[[wikipedia:ja:染色体異常|染色体異常]]、[[wikipedia:ja:ゲノム構造異常|ゲノム構造異常]]、単一遺伝子異常など多岐にわたる。[[マイクロアレイ]]や[[wikipedia:DNA_sequencing#High-throughput_sequencing|次世代シーケンサー]]など[[wikipedia:ja:分子遺伝学|分子遺伝学]]検査の急速な進歩・普及により、現在ID関連遺伝子は約450遺伝子以上も報告され、そのうち症候性IDの原因として約400遺伝子、非症候性IDの原因として約50遺伝子が認知されている。また[[wikipedia:ja:X連鎖性遺伝子|X連鎖性遺伝子]]は約22%(約100遺伝子)で、男性にIDの頻度が高い要因となっている。非症候性IDに対する[[wikipedia:Exome sequencing|エクソーム解析]]によって、[[wikipedia:ja:常染色体|常染色体]]上の関連遺伝子の同定が相次いでいる。高速かつ網羅的な解析が可能となることで、疾患の重症度に複数の遺伝子異常の関与も示唆され始めている。ID関連遺伝子の多くは、[[シナプス形成]]・機能に関連する蛋白質をコードし、さらに多くの関連遺伝子の同定が進むことで、ID発症メカニズムの詳細が明らかになると期待される。  
 [[知的障害]](Intellectual Disability、以下IDと称す)は全人口のうち約2-3%に認めるといわれ、特徴的な身体所見や検査所見を伴う症候性IDと、ID以外に付随症状を伴わない非症候性IDに分類される。IDのうち約50-60%で遺伝的原因が解明、それらは[[wikipedia:ja:染色体異常|染色体異常]]、[[wikipedia:ja:ゲノム構造異常|ゲノム構造異常]]、単一遺伝子異常など多岐にわたる。[[マイクロアレイ]]や[[wikipedia:DNA_sequencing#High-throughput_sequencing|次世代シーケンサー]]など[[wikipedia:ja:分子遺伝学|分子遺伝学]]検査の急速な進歩・普及により、現在ID関連遺伝子は約450遺伝子以上も報告され、そのうち症候性IDの原因として約400遺伝子、非症候性IDの原因として約50遺伝子が認知されている。また[[wikipedia:ja:X連鎖性遺伝子|X連鎖性遺伝子]]は約22%(約100遺伝子)で、男性にIDの頻度が高い要因となっている。非症候性IDに対する[[wikipedia:Exome sequencing|エクソーム解析]]によって、[[wikipedia:ja:常染色体|常染色体]]上の関連遺伝子の同定が相次いでいる。高速かつ網羅的な解析が可能となることで、疾患の重症度に複数の遺伝子異常の関与も示唆され始めている。ID関連遺伝子の多くは、[[シナプス形成]]・機能に関連する蛋白質をコードし、さらに多くの関連遺伝子の同定が進むことで、ID発症メカニズムの詳細が明らかになると期待される。  


==IDの概略==
==概略==


[[Image:図1. XLID症候群とその責任遺伝子.png|thumb|300px|'''図1. XLID症候群とその責任遺伝子'''<br /> 症候性XLIDの100症候群とその責任遺伝子75遺伝子を示す。(Greenwood Genetic Center, updated June 2011より改変引用)]] <br>
[[Image:図1. XLID症候群とその責任遺伝子.png|thumb|300px|'''図1. XLID症候群とその責任遺伝子'''<br /> 症候性XLIDの100症候群とその責任遺伝子75遺伝子を示す。(Greenwood Genetic Center, updated June 2011より改変引用)]] <br>
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としている。軽度(IQ 50-69)、中等度(IQ 35-49)、重度(IQ 20-34)、最重度(IQ 20以下)に分類される。  
としている。軽度(IQ 50-69)、中等度(IQ 35-49)、重度(IQ 20-34)、最重度(IQ 20以下)に分類される。  


 全人口に占めるIDの頻度は約2-3%、中等度~重度ID(IQ&lt;50)は0.3-0.5%で、IDの約85%は軽症である。男女比は1.3:1で、男性が女性より多い。遺伝的な要因が同定されているのは約50-60%(中等度から重度で約65%、軽度で約20%)で、軽度IDは環境要因が大きいと推定されている。<ref name=ref1><pubmed> 21910631 </pubmed></ref>IDと、[[精神遅滞]](mental retardation: MR)はほぼ同義語であるが、日本では1998年9月公布の精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律において、米国では2010年5月公布のRosa’s Lawにおいて、知的障害(Intellectual Disability)へ呼称を変更することが、法律に明記された。
 全人口に占めるIDの頻度は約2-3%、中等度~重度ID(IQ&lt;50)は0.3-0.5%で、IDの約85%は軽症である。男女比は1.3:1で、男性が女性より多い。遺伝的な要因が同定されているのは約50-60%(中等度から重度で約65%、軽度で約20%)で、軽度IDは環境要因が大きいと推定されている。<ref name=ref1><pubmed> 21910631 </pubmed></ref>


 IDは、症候性と非症候性に大別できる。症候性IDは、特徴的な身体所見、臨床経過および生化学的所見などから他の疾患と区別可能な場合をいう。染色体異常やゲノム構造異常による複数の遺伝子の[[wikipedia:ja:欠失|欠失]]・[[wikipedia:ja:重複|重複]]、または単一遺伝子異常が原因であることが多い。一方非症候性IDは、他のIDをきたす疾患と区別されるような知能以外の特徴的な症状を伴わない場合をいい、単一遺伝子異常や環境要因が原因とされている。小児期にはID以外の身体的特徴が明らかでない場合もあり、両者の区別は時に困難である。  
 IDと、[[精神遅滞]](mental retardation: MR)はほぼ同義語であるが、日本では1998年9月公布の精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律において、米国では2010年5月公布のRosa’s Lawにおいて、知的障害(Intellectual Disability)へ呼称を変更することが、法律に明記された。
 
 IDは、症候性と非症候性に大別できる。症候性IDは、特徴的な身体所見、臨床経過および生化学的所見などから他の疾患と区別可能な場合をいう。染色体異常やゲノム構造異常による複数の遺伝子の[[wikipedia:ja:欠失|欠失]]・[[wikipedia:ja:重複|重複]]、または単一遺伝子異常が原因であることが多い。一方非症候性IDは、他のIDをきたす疾患と区別されるような知能以外の特徴的な症状を伴わない場合をいい、単一遺伝子異常や環境要因が原因とされている。小児期にはID以外の身体的特徴が明らかでない場合もあり、両者の区別は時に困難である。


==IDの遺伝学的原因==
==IDの遺伝学的原因==

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