「高速液体クロマトグラフィー」の版間の差分

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==原理==
==原理==


 高速液体クロマトグラフィーとは、物質が固定相(カラムの担体)とこれに接して流れる移動相(液体)との親和力の違いから一定の比率で分布し、その比率が物質によって異なる事を利用して分離する方法である。現在では、物質の精製や分析には欠かせない存在となっている。高速液体クロマトグラフィーには、[[wikipedia:JA:イオン交換|イオン交換]]、[[wikipedia:Reversed-phase chromatography|逆相]]、[[wikipedia:High-performance_liquid_chromatography#Normal-phase_chromatography|順相]]、[[wikipedia:ja:クロマトグラフィー#.E5.88.86.E5.AD.90.E6.8E.92.E6.96.A5.E3.82.AF.E3.83.AD.E3.83.9E.E3.83.88.E3.82.B0.E3.83.A9.E3.83.95.E3.82.A3.E3.83.BC|サイズ排除]]([[wikipedia:JA:ゲル濾過|ゲル濾過]])、[[wikipedia:JA:アフィニティー|アフィニティー]]など様々な方法がある<ref name=ref1> '''入江 照四''' <br />高速液体クロマトグラフ 科学機器入門[増補改訂版]<br />''東京科学機器協会'', 2010, 180-181</ref>。
 高速液体クロマトグラフィーとは、物質が固定相(カラムの担体)とこれに接して流れる移動相(液体)との親和力の違いから一定の比率で分布し、その比率が物質によって異なる事を利用して分離する方法である。現在では、物質の精製や分析には欠かせない存在となっている。高速液体クロマトグラフィーには、[[wikipedia:JA:イオン交換|イオン交換]]、[[wikipedia:Reversed-phase chromatography|逆相]]、[[wikipedia:High-performance_liquid_chromatography#Normal-phase_chromatography|順相]]、[[wikipedia:High-performance_liquid_chromatography#Size-exclusion_chromatography|サイズ排除]]([[ゲル濾過]])、[[wikipedia:JA:アフィニティークロマトグラフィー|アフィニティー]]など様々な方法がある<ref name=ref1> '''入江 照四''' <br />高速液体クロマトグラフ 科学機器入門[増補改訂版]<br />''東京科学機器協会'', 2010, 180-181</ref>。


===高速液体クロマトグラフィーの基本構成===
===高速液体クロマトグラフィーの基本構成===


[[ファイル:HPLC 図1.jpg|thumb|300px|right|'''図1. (A) HPLCの基本フローチャート.  (B) プレカラム法の基本フローチャート.  (C) ポストカラム法の基本フローチャート.''']]
[[ファイル:HPLC 図1.jpg|thumb|300px|right|'''図1 (A) HPLCの基本フローチャート.  (B) プレカラム法の基本フローチャート.  (C) ポストカラム法の基本フローチャート.''']]


 移動相として溶媒や緩衝溶液を送るポンプ、試料を注入するインジェクター(試料導入部)、物質を分離するためのカラム、検出器、データ処理装置(PC)から構成されている(図1-A)。
 移動相として溶媒や緩衝溶液を送るポンプ、試料を注入するインジェクター(試料導入部)、物質を分離するためのカラム、検出器、データ処理装置(PC)から構成されている(図1-A)。


#ポンプ<br> 移動相の制御に欠かせない装置である。メーカーによって多少異なる形をしているが基本的な構造は同じである。1台のポンプで1つの移動相が基本であるが、2つの電磁弁が付属していると2つの移動相を制御することができる。高速アミノ酸分析計(HITACHI)では電磁弁が5つ付属しており、1台のポンプで5種類の移動相を切り替えて1分析で約40種類のアミノ酸を定量することができる。電磁弁以外では、リザーバ−切り替えバルブがあり同様に6種類の移動相を変えることが可能である。
====ポンプ====
#インジェクター<br> インジェクターには、マイクロシリンジを用いて手動でサンプルを注入するマニュアルインジェクターと、専用バイアル瓶に入れたサンプルをオートサンプラーと呼ばれる装置を用いて自動的に注入するオートインジェクターがある。各メーカーでシステムに合わせたオートサンプラーを開発しており、生体サンプルを取り扱うための冷却機能を備えた装置や誘導化するための反応型オートサンプラーがある。現在では、オートサンプラーを使用して分析する事が多い。
 
#カラム<br> カラムは、分析する物質の性質を考慮して種類を選択しなければならない。カラムの種類には、主にイオン交換、逆相、順相、サイズ排除(ゲル濾過)そして[[wikipedia:JA:光学異性体|光学異性体]]分離カラムがある。イオン交換カラムには、[[wikipedia:JA:陽イオン|陽イオン]]、[[wikipedia:JA:陰イオン|陰イオン]]、両イオン型の3つのタイプがある。これらは、[[wikipedia:JA:金属|金属]]イオン、[[wikipedia:JA:無機酸|無機酸]]、[[wikipedia:JA:アミノ酸|アミノ酸]]、ペプチドやタンパク質の分析・分取に用いられる。逆相カラムは、最も種類が多く様々なカラムが開発されている。特に低分子の分析に用いられることが多く神経伝達物質、誘導化したアミノ酸、医薬品、[[wikipedia:JA:ホルモン|ホルモン]]、ペプチドの分析などに用いられている。順相カラムは、有機合成した化合物の分離に多く用いられる。サイズ排除カラムは、タンパク質を分子量ごとに分画または会合体としてモノマー、ダイマー、トリマーの分析・分取に用いられる。光学異性体分離カラムはアミノ酸のD体とL体や医薬品などの光学異性体化合物の分析・分取に用いられている。
 移動相の制御に欠かせない装置である。メーカーによって多少異なる形をしているが基本的な構造は同じである。1台のポンプで1つの移動相が基本であるが、2つの電磁弁が付属していると2つの移動相を制御することができる。高速アミノ酸分析計(HITACHI)では電磁弁が5つ付属しており、1台のポンプで5種類の移動相を切り替えて1分析で約40種類のアミノ酸を定量することができる。電磁弁以外では、リザーバ−切り替えバルブがあり同様に6種類の移動相を変えることが可能である。
#検出器<br> 様々な検出器が開発されており紫外線(UV)検出器、[[蛍光]]検出器、[[電気化学検出器]]、[[質量分析器]]、蒸発光散乱検出器などが用いられている。HPLCにおいて、最も汎用的な検出器はUV 検出器であり、次いで蛍光検出器、電気化学検出器の順である。
 
====インジェクター====
 
 インジェクターには、マイクロシリンジを用いて手動でサンプルを注入するマニュアルインジェクターと、専用バイアル瓶に入れたサンプルをオートサンプラーと呼ばれる装置を用いて自動的に注入するオートインジェクターがある。各メーカーでシステムに合わせたオートサンプラーを開発しており、生体サンプルを取り扱うための冷却機能を備えた装置や誘導化するための反応型オートサンプラーがある。現在では、オートサンプラーを使用して分析する事が多い。
 
====カラム====
 
 カラムは、分析する物質の性質を考慮して種類を選択しなければならない。カラムの種類には、主にイオン交換、逆相、順相、サイズ排除(ゲル濾過)そして[[wikipedia:JA:光学異性体|光学異性体]]分離カラムがある。イオン交換カラムには、[[wikipedia:JA:陽イオン|陽イオン]]、[[wikipedia:JA:陰イオン|陰イオン]]、両イオン型の3つのタイプがある。これらは、[[wikipedia:JA:金属|金属]]イオン、[[wikipedia:JA:無機酸|無機酸]]、[[wikipedia:JA:アミノ酸|アミノ酸]]、ペプチドやタンパク質の分析・分取に用いられる。逆相カラムは、最も種類が多く様々なカラムが開発されている。特に低分子の分析に用いられることが多く神経伝達物質、誘導化したアミノ酸、医薬品、[[wikipedia:JA:ホルモン|ホルモン]]、ペプチドの分析などに用いられている。順相カラムは、有機合成した化合物の分離に多く用いられる。サイズ排除カラムは、タンパク質を分子量ごとに分画または会合体としてモノマー、ダイマー、トリマーの分析・分取に用いられる。光学異性体分離カラムはアミノ酸のD体とL体や医薬品などの光学異性体化合物の分析・分取に用いられている。
 
====検出器====
 
様々な検出器が開発されており紫外線(UV)検出器、[[蛍光]]検出器、[[電気化学検出器]]、[[質量分析器]]、蒸発光散乱検出器などが用いられている。HPLCにおいて、最も汎用的な検出器はUV 検出器であり、次いで蛍光検出器、電気化学検出器の順である。
#データ処理ソフトウェア<br> 検出されたデータを取得し、そこからピークの検出・解析をおこなう。各HPLCメーカーから装置の制御機能を合わせ持った製品が出されている。様々なメーカーの装置と接続可能な汎用ソフトウェアには、 EZChrom (Agilent)、 Empower (Waters)、 PowerChrom (eDAQ Pty Ltd)、 Unicorn(GE)などがある。
#データ処理ソフトウェア<br> 検出されたデータを取得し、そこからピークの検出・解析をおこなう。各HPLCメーカーから装置の制御機能を合わせ持った製品が出されている。様々なメーカーの装置と接続可能な汎用ソフトウェアには、 EZChrom (Agilent)、 Empower (Waters)、 PowerChrom (eDAQ Pty Ltd)、 Unicorn(GE)などがある。


===測定方法===
===測定方法===


#プレカラム法とポストカラム法<br> HPLCで目的の物質がそのまま分析できない場合、感度を上げるために誘導化を行うことが多い。その誘導化の方法には、プレカラム法(図1-B)と ポストカラム法(図1-C)がある。。<br />プレカラム法は成分を分離する前に誘導化する方法であり、ポストカラム法はカラムで成分を分離してから誘導化する方法である。一般に感度を上げるためにプレカラム法で蛍光誘導化が行われる事が多い。蛍光誘導化(ラベル化)とは、蛍光を発しない物質を化学反応で蛍光を発する物質に変換すること、蛍光物質を化学的に結合させることである。測定する物質の種類にもよるが蛍光誘導化するとfmol-pmolまで測定可能になる。ポストカラム法では、分離後誘導化試薬と反応するため別途ポンプが必要となる。また、反応させるための反応コイルや反応カラムを使用することによってサンプルが拡散するため、ポストカラム法はプレカラム法に比べ特に溶出時間が遅くなり物質の感度が悪くなることがある。
====プレカラム法とポストカラム法====
#アイソクラティック法とグラジエント法<br> 目的物質を移動相の溶媒の性質を変えて分離条件良く分析する方法には、アイソクラティック(Isocratic)法とグラジエント(Gradient)法がある。アイソクラティック法では単一な移動相を用いシンプルな装置で分析する。移動相の組成は複雑で、緩衝溶液のほかに有機溶媒やイオンペア試薬の添加をすることが多い。一方のグラジエント法は、2種類以上の移動相を用いるためHPLCシステムが少々複雑になる。一般的には移動相として水系の[[wikipedia:JA:緩衝溶液|緩衝溶液]]と[[wikipedia:JA:有機溶媒|有機溶媒]]の2つを用い、徐々に濃度勾配をつけて分離を行う。この方法で良い分離が得られない場合は、移動相の濃度をステップワイズに変えたり、これと直線的に変える方法を組み合わせるとよい。
 
#イオンペア試薬<br> イオンペア試薬は、陽イオンと陰イオンの2種類ある。目的の物質が正に電荷して陽イオン(+)の場合は[[wikipedia:JA:アルキルスルホン酸|アルキルスルホン酸]]塩を、負に電荷して陰イオン(−)の場合は[[wikipedia:JA:第4級アンモニウム|第4級アンモニウム]]塩を用いる。イオン性物質のサンプルは、イオンペア試薬とイオン結合して電気的に中性となり、さらにイオンペア試薬の[[wikipedia:JA:アルキル鎖|アルキル鎖]]により逆相カラムに保持されて分離できるようになる。数種類のアルキル鎖の長さが異なる試薬があり、分離の度合いを見て選択する。
 HPLCで目的の物質がそのまま分析できない場合、感度を上げるために誘導化を行うことが多い。その誘導化の方法には、プレカラム法(図1-B)と ポストカラム法(図1-C)がある。
 
 プレカラム法は成分を分離する前に誘導化する方法であり、ポストカラム法はカラムで成分を分離してから誘導化する方法である。一般に感度を上げるためにプレカラム法で蛍光誘導化が行われる事が多い。蛍光誘導化(ラベル化)とは、蛍光を発しない物質を化学反応で蛍光を発する物質に変換すること、蛍光物質を化学的に結合させることである。測定する物質の種類にもよるが蛍光誘導化するとfmol-pmolまで測定可能になる。ポストカラム法では、分離後誘導化試薬と反応するため別途ポンプが必要となる。また、反応させるための反応コイルや反応カラムを使用することによってサンプルが拡散するため、ポストカラム法はプレカラム法に比べ特に溶出時間が遅くなり物質の感度が悪くなることがある。
 
====アイソクラティック法とグラジエント法====
 
 目的物質を移動相の溶媒の性質を変えて分離条件良く分析する方法には、アイソクラティック(Isocratic)法とグラジエント(Gradient)法がある。アイソクラティック法では単一な移動相を用いシンプルな装置で分析する。移動相の組成は複雑で、緩衝溶液のほかに有機溶媒やイオンペア試薬の添加をすることが多い。一方のグラジエント法は、2種類以上の移動相を用いるためHPLCシステムが少々複雑になる。一般的には移動相として水系の[[wikipedia:JA:緩衝溶液|緩衝溶液]]と[[wikipedia:JA:有機溶媒|有機溶媒]]の2つを用い、徐々に濃度勾配をつけて分離を行う。この方法で良い分離が得られない場合は、移動相の濃度をステップワイズに変えたり、これと直線的に変える方法を組み合わせるとよい。
 
====イオンペア試薬====
 
 イオンペア試薬は、陽イオンと陰イオンの2種類ある。目的の物質が正に電荷して陽イオン(+)の場合は[[wikipedia:JA:アルキルスルホン酸|アルキルスルホン酸]]塩を、負に電荷して陰イオン(−)の場合は[[wikipedia:JA:第4級アンモニウム|第4級アンモニウム]]塩を用いる。イオン性物質のサンプルは、イオンペア試薬とイオン結合して電気的に中性となり、さらにイオンペア試薬の[[wikipedia:JA:アルキル鎖|アルキル鎖]]により逆相カラムに保持されて分離できるようになる。数種類のアルキル鎖の長さが異なる試薬があり、分離の度合いを見て選択する。


 HPLCの分析では、検出器の選択、カラムの選択、高感度にするための誘導化、移動相の種類、分離条件(2つの移動相の割合を変えて分離する)、などを組み合わせて目的物質の分析法を確立する。
 HPLCの分析では、検出器の選択、カラムの選択、高感度にするための誘導化、移動相の種類、分離条件(2つの移動相の割合を変えて分離する)、などを組み合わせて目的物質の分析法を確立する。

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