「空間的注意」の版間の差分

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英:spatial attention 独:räumliche Aufmerksamkeit 仏:attention spatiale
英:spatial attention 独:räumliche Aufmerksamkeit 仏:attention spatiale


関連語:選択的注意、半側空間無視、頭頂連合野、前頭連合野
(要約を御願い致します)
 
==空間的注意とは==


 脳はすべての[[感覚]]入力を等しく処理しているわけではなく、その一部だけを優先的に処理して外界の[[認知]]や[[行動]]の制御に用いている。このように感覚入力を選択し、処理を促進させる神経機構を[[注意]](attention)という。注意は特定の感覚種(modality)や属性(attribute)に受動的、能動的に向けられる。例えば、オーケストラの特定の楽器の音色にだけ注意を向けることができるし、文字列の中から数字だけを選び出すことができる。また、視野内に不意に現れたボールに反射的に注意が向けられることもある。こうした属性のうち、特定の位置に向けられるものを空間的注意とよび、その神経機構と脳損傷による障害が主に[[視覚]]系を中心に詳しく調べられている。  
 脳はすべての[[感覚]]入力を等しく処理しているわけではなく、その一部だけを優先的に処理して外界の[[認知]]や[[行動]]の制御に用いている。このように感覚入力を選択し、処理を促進させる神経機構を[[注意]](attention)という。注意は特定の感覚種(modality)や属性(attribute)に受動的、能動的に向けられる。例えば、オーケストラの特定の楽器の音色にだけ注意を向けることができるし、文字列の中から数字だけを選び出すことができる。また、視野内に不意に現れたボールに反射的に注意が向けられることもある。こうした属性のうち、特定の位置に向けられるものを空間的注意とよび、その神経機構と脳損傷による障害が主に[[視覚]]系を中心に詳しく調べられている。  


== 空間的注意の測定方法 ==
==測定方法 ==


[[Image:Posner.jpg|thumb|right|300px|'''図1. Posner課題''']]
[[Image:Posner.jpg|thumb|right|300px|'''図1. Posner課題''']]
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 しかし、空間的注意は常に知覚を向上させるわけではない。例えば、前述の復帰抑制は、注意を向けたことによってその位置における検出力が一定時間後に低下した例である。他にも、重ねて提示した[[wkipedia:ja:ガボールフィルター|ガボール]]パッチの運動方向弁別力が時間周波数選択的に低下することが報告されているし<ref><pubmed> 15793010</pubmed></ref>、複数の視覚刺激を高速逐次呈示(rapid serial visual presentation, RSVP)したときに、その中に含まれる2つのターゲットの出現間隔が500ミリ秒より短いと2つめが見落とされやすいといった、[[注意の瞬き]](attentional blink)とよばれる現象が知られている<ref><pubmed> 21223931</pubmed></ref>。興味深いことに、Oliversらは、音楽を聴くなどの別の課題同時に課すことで被験者の注意を視覚刺激からそらせると、注意の瞬きが無くなることを報告している<ref><pubmed> 15828972</pubmed></ref>。
 しかし、空間的注意は常に知覚を向上させるわけではない。例えば、前述の復帰抑制は、注意を向けたことによってその位置における検出力が一定時間後に低下した例である。他にも、重ねて提示した[[wkipedia:ja:ガボールフィルター|ガボール]]パッチの運動方向弁別力が時間周波数選択的に低下することが報告されているし<ref><pubmed> 15793010</pubmed></ref>、複数の視覚刺激を高速逐次呈示(rapid serial visual presentation, RSVP)したときに、その中に含まれる2つのターゲットの出現間隔が500ミリ秒より短いと2つめが見落とされやすいといった、[[注意の瞬き]](attentional blink)とよばれる現象が知られている<ref><pubmed> 21223931</pubmed></ref>。興味深いことに、Oliversらは、音楽を聴くなどの別の課題同時に課すことで被験者の注意を視覚刺激からそらせると、注意の瞬きが無くなることを報告している<ref><pubmed> 15828972</pubmed></ref>。


== 空間的注意の神経機構 ==
==神経機構 ==


[[Image:Visual search.jpg|thumb|right|300px|'''図3. 視覚探索(visual search)課題'''<br />赤い丸を検出する。]]
[[Image:Visual search.jpg|thumb|right|300px|'''図3. 視覚探索(visual search)課題'''<br />赤い丸を検出する。]]
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 私たち昼行性の[[霊長類]]では、視覚によって物の位置を特定することが多いが、[[wikipedia:ja:フクロウ|フクロウ]]のような夜行性の動物では、[[聴覚]]によって音源の位置を正確に特定できる。そのような聴覚処理においても、眼球運動領野によって空間的注意が制御されていることが示されている。Knudsenらは、音源の位置に対する正確なマップがある[[視蓋]](上丘)から音刺激に対するニューロン活動を記録し、霊長類の前頭眼野に相当する[[外套部]]に電気刺激を与えた<ref><pubmed>16421572 </pubmed></ref>。記録しているニューロンと刺激部位が担当する空間位置が一致しているときは、音刺激に対する感覚応答が上昇して音源に対する空間選択性が高くなり、逆に一致していない場合には、音刺激に対する応答が低下して空間選択性が低くなった。
 私たち昼行性の[[霊長類]]では、視覚によって物の位置を特定することが多いが、[[wikipedia:ja:フクロウ|フクロウ]]のような夜行性の動物では、[[聴覚]]によって音源の位置を正確に特定できる。そのような聴覚処理においても、眼球運動領野によって空間的注意が制御されていることが示されている。Knudsenらは、音源の位置に対する正確なマップがある[[視蓋]](上丘)から音刺激に対するニューロン活動を記録し、霊長類の前頭眼野に相当する[[外套部]]に電気刺激を与えた<ref><pubmed>16421572 </pubmed></ref>。記録しているニューロンと刺激部位が担当する空間位置が一致しているときは、音刺激に対する感覚応答が上昇して音源に対する空間選択性が高くなり、逆に一致していない場合には、音刺激に対する応答が低下して空間選択性が低くなった。


== 空間的注意の病態 ==
==病態 ==


 空間的注意が障害される病態として、[[半側空間無視]](hemineglect)が有名である。一般に、右の[[側頭―頭頂―後頭葉接合部]](図4のTPJ)の損傷で起こるとされるが、他に前頭葉、[[視床]](特に[[視床枕]])、[[大脳基底核]](特に[[被核]]・[[尾状核]])、[[内包後脚]]の損傷などでも生じることがある。
 空間的注意が障害される病態として、[[半側空間無視]](hemineglect)が有名である。一般に、右の[[側頭―頭頂―後頭葉接合部]](図4のTPJ)の損傷で起こるとされるが、他に前頭葉、[[視床]](特に[[視床枕]])、[[大脳基底核]](特に[[被核]]・[[尾状核]])、[[内包後脚]]の損傷などでも生じることがある。
==関連項目==
*[[選択的注意]]
*[[半側空間無視]]
*[[頭頂連合野]]
*[[前頭連合野]]


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==

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