「細胞骨格」の版間の差分

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====GTPキャップと動的不安定性モデル====
====GTPキャップと動的不安定性モデル====
 in vitroで微小管の重合脱重合を観察すると、隣り合う微小管が、一方が伸長し、他方が脱重合する場合がある。一般には、同一条件においては、化学反応は同じ方向に進むと考えられるので、この現象は不思議に思われ、動的不安定性(dynamic instability)といわれる。この解釈として以下の説が広く知られている。微小管の+端がGTPチュブリンで覆われているときは、微小管は重合する。この覆いをGTPキャップという。微小管内でGTPチュブリンは加水分解されてGDPチュブリンとなる。微小管の+端のチュブリンまでが加水分解されて、GDPチュブリンが露出されると微小管は不安定になり、端がGTPチュブリンに覆われているところまで脱重合する。端にGTPキャップを持った微小管は再び重合をはじめる。この動的不安定性はin vivoでも起きている。しかしその場合は様々な微小管関連タンパク質の修飾を受けることになる。
 in vitroで微小管の重合脱重合を観察すると、隣り合う微小管が、一方が伸長し、他方が脱重合する場合がある。一般には、同一条件においては、化学反応は同じ方向に進むと考えられるので、この現象は不思議に思われ、動的不安定性(dynamic instability)といわれる。この解釈として以下の説が広く知られている。微小管の+端がGTPチュブリンで覆われているときは、そこに新たにGTPチュブリンが結合し、微小管は重合する。この覆いをGTPキャップという。微小管内でGTPチュブリンは加水分解されてGDPチュブリンとなる。微小管の+端のチュブリンまでが加水分解されて、GDPチュブリンが端で露出されると微小管は不安定になり、脱重合する。この動的不安定性はin vivoでも起きている。しかしその場合は様々な微小管関連タンパク質の修飾を受けることになる。


 神経細胞の特に長い軸索における微小管が、どのような形で輸送されるかは、軸索輸送の重要な問題の一つである。蛍光標識したチュブリンの神経細胞への微量注入による実験では、一般には塊として移動する微小管は観察されず、脱重合状態で運ばれ、その後、重合し微小管にとりこまれると結論づけられた。その後GFPラベルしたチュブリンの移動が一部の細胞の軸索で観察されたが、全ての神経細胞(例えば良く使われる海馬の神経細胞)で観察されるわけでない。微小管を管のままの輸送がたとえあるにせよ、微小管の軸索輸送の主体をなすとは限らない。
 神経細胞の特に長い軸索における微小管が、どのような形で輸送されるかは、軸索輸送の重要な問題の一つである。蛍光標識したチュブリンの神経細胞への微量注入による実験では、一般にはポリマーとして移動する微小管は観察されなかった。そこでおそらく脱重合状態で運ばれ、その後、重合し微小管にとりこまれると結論づけられた。その後GFPラベルした細胞骨格タンパク質の移動が一部の細胞の軸索で観察されたが、全ての神経細胞(例えば良く使われる海馬の神経細胞)で観察されるわけではない。


===結合・関連タンパク質===
===結合・関連タンパク質===
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===神経細胞での特徴===
===神経細胞での特徴===
 軸索や樹状突起の中を突起に平行に走行し、[[オルガネラ]]や小胞輸送のためのレールの役割を果たしている。軸索輸送に重要な役割を果たす。
 軸索や樹状突起の中を突起に平行に走行し、[[オルガネラ]]や小胞輸送のためのレールの役割を果たしている。軸索輸送に重要な役割を果たす。海馬神経細胞では軸索内は+端が遠位になるように微小管がならび、成熟した樹状突起では+-両極性が混ざった状態である。


== 中間径フィラメント ==
== 中間径フィラメント ==
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===神経での特徴===
===神経での特徴===
 3つの異なるサブユニットが重合し、フィラメント間に多くの架橋構造を形成するのが特徴的である。H鎖はリン酸化のターゲット分子であり神経細胞では[[軸索]]の遠位部で強く[[リン酸化]]されていて、リン酸化抗体は軸索のマーカー分子として使われる。細胞の構造的補強以外の機能は諸説ある。
 3つの異なるサブユニットが重合し、フィラメント間に多くの架橋構造を形成するのが特徴的である。H鎖はリン酸化のターゲット分子であり神経細胞では[[軸索]]の遠位部で強く[[リン酸化]]されていて、リン酸化抗体は軸索のマーカー分子として使われる。細胞の構造的補強以外の機能は諸説ある。有髄軸索では軸索の大部分をニューロフィラメントが占めるが、ランビエの絞輪は直径が小さく微小管が主体となる。


== アクチンフィラメント(微細線維、マイクロフィラメント) ==
== アクチンフィラメント(微細線維、マイクロフィラメント) ==
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===結合・関連タンパク質===
===結合・関連タンパク質===
 アクチンの研究は筋の研究からはじまり歴史が長く、対象生物も酵母、粘菌からヒトまで幅広いため、関係する蛋白を網羅するのは難しい。そこで、アクチンが主に作用する幾つかの良く研究されている細胞内の事象に関連するタンパク質を概説する。
 アクチンの研究は筋の研究からはじまり歴史が長く、対象生物も酵母、粘菌からヒトまで幅広いため、関係する蛋白を網羅するのは難しい。そこで、アクチンが主に作用する幾つかの良く研究されている細胞内の事象に関連するタンパク質を概説する。
====アクチンフィラメント端での重合脱重合====
====アクチンフィラメント端での重合脱重合====
プロフィリンは12-15 kDのアクチンモノマー結合タンパク質。単量体アクチンのADP-ATP交換反応を加速する。プロフィリンはアクチン伸長を助けるが、アクチン重合核の形成に対しては阻害的に働く。一方ADF/コフィリンは、アクチン繊維を切断・脱重合する活性をもつ20 kDaのアクチン結合タンパク質である。ADP結合型のアクチンに対してより高い親和性を持ち、古いアクチン線維を切断・脱重合すると考えられている。キャッピングタンパク質がアクチンフィラメントの端につくと、重合も脱重合もしない安定なフィラメントを形成する。
 プロフィリンは12-15 kDのアクチンモノマー結合タンパク質。単量体アクチンのADP-ATP交換反応を加速する。プロフィリンはアクチン伸長を助けるが、アクチン重合核の形成に対しては阻害的に働く。一方ADF/コフィリンは、アクチン繊維を切断・脱重合する活性をもつ20 kDaのアクチン結合タンパク質である。ADP結合型のアクチンに対してより高い親和性を持ち、古いアクチン線維を切断・脱重合すると考えられている。キャッピングタンパク質がアクチンフィラメントの端につくと、重合も脱重合もしない安定なフィラメントを形成する。
 
====微絨毛====
====微絨毛====
小腸上皮細胞の頂部等にある突起。この中には突起先端を+端としたアクチンフィラメントの束がある。これを束ねる架橋形成タンパク質にビリンやフィンブリンなどがあり、アクチンの束と細胞膜の間にはミオシンIが豊富である。
 小腸上皮細胞の頂部等にある突起。この中には突起先端を+端としたアクチンフィラメントの束がある。これを束ねる架橋形成タンパク質にビリンやフィンブリンなどがあり、アクチンの束と細胞膜の間にはミオシンIが豊富である。
 
====移動細胞におけるラメリポディア====
====移動細胞におけるラメリポディア====
Arp2/3複合体は、二つのアクチン関連タンパク質 (actin-related protein) Arp2とArp3を含むヘテロ七量体のタンパク質複合体であり、枝分かれしたアクチン 繊維を形成することができる。これらはさらにWASPやracにより制御されている。
 移動細胞では進行方向に薄く広がる細胞の突出が出来ることがありラメリポディアという。ラメリポディアは上下の面を細胞膜で覆われて、薄い細胞質はアクチン細胞骨格が主体をなす。Arp2/3複合体は、二つのアクチン関連タンパク質 (actin-related protein) Arp2とArp3を含むヘテロ七量体のタンパク質複合体であり、枝分かれしたアクチン 繊維を形成することができる。これらはさらにWASPやracにより制御されている。
 
====アクチンの重合によるリステリア菌の細胞内移動====
====アクチンの重合によるリステリア菌の細胞内移動====
この菌は侵入した細胞内で、菌の一方の端(後ろ)にActAを用いて宿主細胞のアクチンフィラメントを重合させ, その反作用で前に進む。  
 この菌は侵入した細胞内で、菌の一方の端(後ろ)にActAを用いて宿主細胞のアクチンフィラメントを重合させ, その反作用で前に進む。  
 
====細胞膜の裏打ち====
====細胞膜の裏打ち====
ERMタンパク質 エズリン、ラディキシン、モエシン はN末に赤血球細胞骨格タンパク質のBand4.1 様のドメインFERMがあり、膜と結合する。一方、C末はアクチン線維と結合する。
 赤血球では膜タンパク質にバンド4.1 アンキリン スペクトリン等を介してアクチンフィラメントが結合する。ERMタンパク質 エズリン、ラディキシン、モエシン はN末に赤血球細胞骨格タンパク質のBand4.1 様のドメインFERMがあり、膜と結合する。一方、C末はアクチン線維と結合する。
 
====細胞接着====
====細胞接着====
ラミニンなどと結合したインテグリンはタリン、ビンクリンを介してアクチン細胞骨格を制御する。カドヘリンは細胞間の接着に役割を果たすが、細胞内ではαβカテニンを介してアクチン細胞骨格に結合する。
 ラミニンなどと結合したインテグリンはタリン、ビンクリンを介してアクチン細胞骨格を制御する。カドヘリンは細胞間の接着に役割を果たすが、細胞内ではαβカテニンを介してアクチン細胞骨格に結合する。
 
====アクチンフィラメント上のモーター分子====
====アクチンフィラメント上のモーター分子====
ミオシン:ATPを加水分解し、アクチンフィラメントの上を移動する。骨格筋の収縮を担うミオシンはミオシンIIである。ミオシンV は神経細胞にも豊富だが、その機能としては細胞内のメラニン顆粒の分布の制御が詳しく研究されている。
 ミオシン:ATPを加水分解し、アクチンフィラメントの上を移動する。骨格筋の収縮を担うミオシンはミオシンIIである。ミオシンV は神経細胞にも豊富だが、その機能としては細胞内のメラニン顆粒の分布の制御が詳しく研究されている。


===細胞内分布と機能===
===細胞内分布と機能===
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