「優位半球・劣位半球」の版間の差分

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===言語===
===言語===


 半球優位性が最も明確に確認されている機能は言語で、一側性皮質損傷後の失語症の出現率やWada testの結果から、右利き成人の95%程度は左半球優位であり、左利き成人では60~70%程度が左半球優位であるとされることが多い。この左半球優位性の説明として、左半球のBroca野が右半球の相同領域よりも大きいとする結果が報告されている一方で、差がないとする結果も報告されており現段階でコンセンサスが得られているとは言い難い<ref name=ref1><pubmed></pubmed></ref> (Keller, Roberts et al. 2009)。最近では、右利きにおける左半球への言語機能の側性化の頻度が、家族に左利きがいるかどうかや右手をどれくらい頻繁に使用するかに影響されることが報告されている<ref name=ref6><pubmed></pubmed></ref> (Tzourio-Mazoyer, Petit et al. 2010)
 半球優位性が最も明確に確認されている機能は言語で、一側性皮質損傷後の失語症の出現率やWada testの結果から、右利き成人の95%程度は左半球優位であり、左利き成人では60~70%程度が左半球優位であるとされることが多い。この左半球優位性の説明として、左半球のBroca野が右半球の相同領域よりも大きいとする結果が報告されている一方で、差がないとする結果も報告されており現段階でコンセンサスが得られているとは言い難い<ref name=ref1><pubmed>19923293</pubmed></ref>。最近では、右利きにおける左半球への言語機能の側性化の頻度が、家族に左利きがいるかどうかや右手をどれくらい頻繁に使用するかに影響されることが報告されている<ref name=ref6><pubmed>20926657</pubmed></ref>。


===利き手===
===利き手===


 利き手とは上肢の使いやすさに関わる現象で、日常必須の習慣的行為における一方の手の多用傾向を言う。経頭蓋的直流刺激法を用いて左右の手の使用頻度について検討した研究は、左の後部頭頂皮質を刺激した場合に左手の使用頻度が増加する一方で、右の後部頭頂皮質を刺激しても影響がないことを報告している<ref name=ref3><pubmed></pubmed></ref> (Oliveira, Diedrichsen et al. 2010)。このことから、後部頭頂皮質はどちらの手を使用するか決定することに関わっていることが示唆されている。
 利き手とは上肢の使いやすさに関わる現象で、日常必須の習慣的行為における一方の手の多用傾向を言う。経頭蓋的直流刺激法を用いて左右の手の使用頻度について検討した研究は、左の後部頭頂皮質を刺激した場合に左手の使用頻度が増加する一方で、右の後部頭頂皮質を刺激しても影響がないことを報告している<ref name=ref3><pubmed>20876098</pubmed></ref>。このことから、後部頭頂皮質はどちらの手を使用するか決定することに関わっていることが示唆されている。


===行為===
===行為===
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===視空間認知===
===視空間認知===


 病巣と反対側の刺激に対して、発見して報告したり、反応したり、その方向を向いたりすることが障害される半側空間無視は、右半球損傷後に多く認められる。また、まれではあるが、左半球損傷後に半側空間無視が出現する場合もある。しかしながら、そのような場合、出現しても一過性で軽度であることが多い。このことからも、空間性注意には右半球の果たす役割が大きく、側性化が起こっていると考えられている。経頭蓋的直流刺激法を用いて視空間イメージの神経基盤について検討した研究も、左に比べ、右の頭頂葉重要な役割を果たしていうことを報告している<ref name=ref4><pubmed></pubmed></ref> (Sack, Sperling et al. 2002)。最近では、左半球に比べ右半球において、白質繊維の容積が大きいことや、右の後部頭頂皮質が脳梁を介して左の頭頂葉と運動野の連絡に抑制的に働いていることも明らかにされている <ref name=ref2><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref5><pubmed></pubmed></ref>(Koch, Cercignani et al. 2011; Thiebaut de Schotten, Dell'Acqua et al. 2011)
 病巣と反対側の刺激に対して、発見して報告したり、反応したり、その方向を向いたりすることが障害される半側空間無視は、右半球損傷後に多く認められる。また、まれではあるが、左半球損傷後に半側空間無視が出現する場合もある。しかしながら、そのような場合、出現しても一過性で軽度であることが多い。このことからも、空間性注意には右半球の果たす役割が大きく、側性化が起こっていると考えられている。経頭蓋的直流刺激法を用いて視空間イメージの神経基盤について検討した研究も、左に比べ、右の頭頂葉重要な役割を果たしていうことを報告している<ref name=ref4><pubmed>12123619</pubmed></ref>。最近では、左半球に比べ右半球において、白質繊維の容積が大きいことや、右の後部頭頂皮質が脳梁を介して左の頭頂葉と運動野の連絡に抑制的に働いていることも明らかにされている <ref name=ref2><pubmed>21677180</pubmed></ref> <ref name=ref5><pubmed>21926985</pubmed></ref>。


===顔認知===
===顔認知===


 顔の認知には後頭葉や側頭葉が関わっていることが多くの研究から明らかにされている。また古くから相貌失認の研究などにより右半球の優位性が示唆されており、近年の機能的磁気共鳴画像 (fMRI)研究や拡散協調画像 (DTI)研究もこの見方を支持している<ref name=ref8><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref> (Derenzi et al., 1994; Ishai et al., 2005; Thomas et al., 2009)。マカクザルを対象としたfMRI研究は、前頭葉にも顔に選択的に反応する領域が存在することを明らかにし、更にこの前頭葉における顔選択的な領域が左半球よりも右半球に多く存在することも報告している<ref name=ref11><pubmed></pubmed></ref>(Tsao et al., 2008)
 顔の認知には後頭葉や側頭葉が関わっていることが多くの研究から明らかにされている。また古くから相貌失認の研究などにより右半球の優位性が示唆されており、近年の機能的磁気共鳴画像 (fMRI)研究や拡散協調画像 (DTI)研究もこの見方を支持している<ref name=ref8><pubmed>7969865</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>16140166</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>19029889</pubmed></ref>。マカクザルを対象としたfMRI研究は、前頭葉にも顔に選択的に反応する領域が存在することを明らかにし、更にこの前頭葉における顔選択的な領域が左半球よりも右半球に多く存在することも報告している<ref name=ref11><pubmed>18622399</pubmed></ref>。


===情動===
===情動===


 情動は言葉のメロディーとして表現されうる(情動的プロソディー)。この情動的プロソディーの障害は、右半球損傷後に認められることが多い<ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref> (Ross, 1981)。最近では、情動の半球優位性に関してGainottiにより提唱された’right hemisphere hypothesis’を支持する結果が脳損傷患者を対象とした研究や、メタアナリシスにより比較的多く報告されている<ref name=ref7><pubmed></pubmed></ref> (Gainotti, 2012)。しかしながら、情動全般に関わる半球優位性に関していくつかのモデルが提唱されているが、決定的な見解は確立されていない。
 情動は言葉のメロディーとして表現されうる(情動的プロソディー)。この情動的プロソディーの障害は、右半球損傷後に認められることが多い<ref name=ref12><pubmed>7271534</pubmed></ref>。最近では、情動の半球優位性に関してGainottiにより提唱された’right hemisphere hypothesis’を支持する結果が脳損傷患者を対象とした研究や、メタアナリシスにより比較的多く報告されている<ref name=ref7><pubmed>22197572</pubmed></ref>。しかしながら、情動全般に関わる半球優位性に関していくつかのモデルが提唱されているが、決定的な見解は確立されていない。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==

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