「基底膜」の版間の差分

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== 基底膜の構造  ==
== 基底膜の構造  ==


 透過電子顕微鏡で見た基底膜は3層構造で、上皮細胞や実質細胞に近い部分から、比較的電子密度の低い透明板(lamina lucida)、電子密度が高い緻密板(lamina densa)、その外側の線維細網板(lamina fibroreticlularis)が区分される。このうち緻密板は様々な基底膜成分が共局在する部位で、通常20〜50 nm厚である。中枢神経組織や内皮の基底膜では最外層の線維細網板は認められないことが多い<ref><pubmed> 19396173 </pubmed></ref>。光学顕微鏡で基底膜を観察するには渡銀等の特殊な組織染色か、基底膜成分に対する免疫組織化学によるのが一般的である。  
 透過電子顕微鏡で見た基底膜は3層構造で、上皮細胞や実質細胞に近い部分から、比較的電子密度の低い透明板(lamina lucida)、電子密度が高い緻密板(lamina densa)、その外側の線維細網板(lamina fibroreticlularis)が区分される。このうち緻密板は様々な基底膜成分が共局在する部位で、通常20〜50 nm厚である。中枢神経組織や内皮の基底膜では最外層の線維細網板は認められないことが多い<ref name=ref1><pubmed> 19396173 </pubmed></ref>。光学顕微鏡で基底膜を観察するには渡銀等の特殊な組織染色か、基底膜成分に対する免疫組織化学によるのが一般的である。  


 基底膜の主成分は、IV型[[wikipedia:ja: コラーゲン|コラーゲン]] (Type IV collagen)、[[wikipedia:ja: ラミニン|ラミニン]] (laminin) 、ニドゲン (nidogen)、ヘパラン硫酸[[wikipedia:ja: プロテオグリカン|プロテオグリカン]] (HSPG) である<ref><pubmed> 2653817 </pubmed></ref>。これら分子間の相互作用の解析にもとづき(後述)、基底膜ではIV型コラーゲンがその骨格をなす網目構造を形成し、これにニドゲンを介したラミニンやヘパラン硫酸プロテオグリカンが組み込まれるというモデルが提唱されている<ref><pubmed> 17395644 </pubmed></ref>。  
 基底膜の主成分は、IV型[[wikipedia:ja: コラーゲン|コラーゲン]] (Type IV collagen)、[[wikipedia:ja: ラミニン|ラミニン]] (laminin) 、ニドゲン (nidogen)、ヘパラン硫酸[[wikipedia:ja: プロテオグリカン|プロテオグリカン]] (HSPG) である<ref name=ref2><pubmed> 2653817 </pubmed></ref>。これら分子間の相互作用の解析にもとづき(後述)、基底膜ではIV型コラーゲンがその骨格をなす網目構造を形成し、これにニドゲンを介したラミニンやヘパラン硫酸プロテオグリカンが組み込まれるというモデルが提唱されている<ref><pubmed> 17395644 </pubmed></ref>。  


== 中枢神経系における基底膜の分布  ==
== 中枢神経系における基底膜の分布  ==


 [[wikipedia:ja: 神経管|神経管]](neural tube)は、胚盤背側の外胚葉が溝状に陥没すると同時に溝の両側が伸び出し左右が接触・融合することによって形成される。この過程を通じて外胚葉の直下や神経管の周囲には連続した基底膜が観察される<ref><pubmed> 3332260 </pubmed></ref>。 成熟した中枢神経組織の実質最外層では、[[wikipedia:ja: アストログリア|アストログリア]]の突起(astrocyte endfeet)が層をなし、限界膠(glial limitation)を形成する。基底膜はこのアストロサイトの突起の層を裏打ちするように認められ、神経実質と[[wikipedia:ja: 軟膜|軟膜]]とを隔てている (軟膜基底膜:pial basement membrane) <ref><pubmed> 19779720 </pubmed></ref>。  
 [[wikipedia:ja: 神経管|神経管]](neural tube)は、胚盤背側の外胚葉が溝状に陥没すると同時に溝の両側が伸び出し左右が接触・融合することによって形成される。この過程を通じて外胚葉の直下や神経管の周囲には連続した基底膜が観察される<ref><pubmed> 3332260 </pubmed></ref>。 成熟した中枢神経組織の実質最外層では、[[wikipedia:ja: アストログリア|アストログリア]]の突起(astrocyte endfeet)が層をなし、限界膠(glial limitation)を形成する。基底膜はこのアストロサイトの突起の層を裏打ちするように認められ、神経実質と[[wikipedia:ja: 軟膜|軟膜]]とを隔てている (軟膜基底膜:pial basement membrane) <ref name=ref5><pubmed> 19779720 </pubmed></ref>。  


 中枢神経系に出入りする血管は、軟膜の一部を伴って脳実質へ侵入する。血管の実質内への侵入に伴って血管壁の平滑筋細胞が失われるため、やがて血管の周囲は内皮基底膜 (endothelial basement membrane) と軟膜基底膜の延長である脳実質基底膜(parenchymal basement membrane)の二層によって囲まれるようになる。さらに脳実質内に侵入すると両基底膜は融合し、この基底膜(composite basement membrane)は一面で血管内皮と他面でアストログリアの突起と接することになる。<ref name=ref5 />。  
 中枢神経系に出入りする血管は、軟膜の一部を伴って脳実質へ侵入する。血管の実質内への侵入に伴って血管壁の平滑筋細胞が失われるため、やがて血管の周囲は内皮基底膜 (endothelial basement membrane) と軟膜基底膜の延長である脳実質基底膜(parenchymal basement membrane)の二層によって囲まれるようになる。さらに脳実質内に侵入すると両基底膜は融合し、この基底膜(composite basement membrane)は一面で血管内皮と他面でアストログリアの突起と接することになる。<ref name=ref5 />。  
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== 中枢神経系における基底膜の構成成分  ==
== 中枢神経系における基底膜の構成成分  ==


  組織を問わず全ての基底膜に共通して存在する基底膜の主成分に、IV型コラーゲン (Type IV collagen)、ラミニン (laminin) とニドゲン (nidogen)、ヘパラン硫酸プロテオグリカン (HSPG) がある<ref name=ref2 />。これらには以下に述べるようなアイソフォームが存在し、その組み合わせにより組織や細胞に特異的な基底膜を形成する。各アイソフォームの分布は、論文以外にもTHE MATRIOME PROJECT (http://www.matrixome.com/bm/Home/home/home.asp) に詳しく記載されている<ref><pubmed> 18757743 </pubmed></ref>。  
  組織を問わず全ての基底膜に共通して存在する基底膜の主成分に、IV型コラーゲン (Type IV collagen)、ラミニン (laminin) とニドゲン (nidogen)、ヘパラン硫酸プロテオグリカン (HSPG) がある<ref name=ref2 />。これらには以下に述べるようなアイソフォームが存在し、その組み合わせにより組織や細胞に特異的な基底膜を形成する。各アイソフォームの分布は、論文以外にもTHE MATRIOME PROJECT (http://www.matrixome.com/bm/Home/home/home.asp) に詳しく記載されている<ref name=ref8><pubmed> 18757743 </pubmed></ref>。  


 IV型コラーゲン (Type IV collagen):IV型コラーゲンは非線維性であり、基底膜の骨格をなす網目状構造の形成に関与している。他のコラーゲンと同様に、α鎖と呼ばれるポリペプチド鎖が3本集まり、3重らせん構造を形成している。IV型コラーゲンには6種類のα鎖が存在し、各アイソフォームはその組み合わせに応じて[α1(IV)]2α2(IV)のように表記される。脳実質基底膜 (parenchymal basement membrane)には、[α1(IV)]2α2(IV)と[α5(IV)]2α6(IV) の2種類が共発現しているが、血管内皮基底膜 (endothelial basement membrane)では[α1(IV)]2α2(IV)のみが発現す る<ref><pubmed> 12164337 </pubmed></ref>。脈絡叢の基底膜では、毛細血管基底膜には[α1(IV)]2α2(IV)が、脈絡叢上皮基底膜にはα3(IV)α4(IV)α5(IV)で構成されたIV型コラーゲンが存在している<ref><pubmed> 12164337 </pubmed></ref>。フラクトンにはIV型コラーゲンが含まれているが、各α鎖の分布などは明らかになっていない<ref><pubmed> 17569787 </pubmed></ref>。  
 IV型コラーゲン (Type IV collagen):IV型コラーゲンは非線維性であり、基底膜の骨格をなす網目状構造の形成に関与している。他のコラーゲンと同様に、α鎖と呼ばれるポリペプチド鎖が3本集まり、3重らせん構造を形成している。IV型コラーゲンには6種類のα鎖が存在し、各アイソフォームはその組み合わせに応じて[α1(IV)]2α2(IV)のように表記される。脳実質基底膜 (parenchymal basement membrane)には、[α1(IV)]2α2(IV)と[α5(IV)]2α6(IV) の2種類が共発現しているが、血管内皮基底膜 (endothelial basement membrane)では[α1(IV)]2α2(IV)のみが発現す る<ref name=ref9><pubmed> 12164337 </pubmed></ref>。脈絡叢の基底膜では、毛細血管基底膜には[α1(IV)]2α2(IV)が、脈絡叢上皮基底膜にはα3(IV)α4(IV)α5(IV)で構成されたIV型コラーゲンが存在している<ref name=ref9 />。フラクトンにはIV型コラーゲンが含まれているが、各α鎖の分布などは明らかになっていない<ref><pubmed> 17569787 </pubmed></ref>。  


 ラミニン(laminin):ラミニンは、α、β、γの3つの鎖からなる3量体糖タンパク質で、それぞれの鎖のC末の3重らせんドメインで会合した十字架構造をしている<ref><pubmed> 19693542 </pubmed></ref>。α鎖が5種類、β鎖が3種類、γ鎖が3種類存在し、それらの組み合わせによって、例えばα1、β1、γ1ならばラミニン-111、α5、β2、γ1ならばラミニン-521のように命名されている。現在までに18種類の組み合わせが報告されている。α、β、γの鎖のなかで、α鎖が細胞の接着に関わる主要な鎖としてラミニンの機能に大きく関わっている。血管内皮基底膜には、ラミニン-411と-511が存在している。また、脳実質基底膜 (parenchymal basement membrane)には、ラミニン-111とラミニン-211が共発現する。血管が脳実質内に侵入し、2つの基底膜が融合した部分では、ラミニン-211、-411、-511が共発現する<ref><pubmed> 19779720 </pubmed></ref>。脈絡叢上皮基底膜にはラミニン-511が存在している。一方、脈絡叢の毛細血管基底膜はラミニン-411である<ref name=ref8/>。血管内皮基底膜を除く各基底膜では、同時にβ2およびγ3鎖の発現も見られることから、ラミニン-421/-423/-521/-523が同時に含まれることが予想される<ref name=ref8 /> 。フラクトンには、β1とγ1鎖が存在しているが、これらと会合するα鎖は明らかになっていない<ref><pubmed> 17569787 </pubmed></ref>。  
 ラミニン(laminin):ラミニンは、α、β、γの3つの鎖からなる3量体糖タンパク質で、それぞれの鎖のC末の3重らせんドメインで会合した十字架構造をしている<ref><pubmed> 19693542 </pubmed></ref>。α鎖が5種類、β鎖が3種類、γ鎖が3種類存在し、それらの組み合わせによって、例えばα1、β1、γ1ならばラミニン-111、α5、β2、γ1ならばラミニン-521のように命名されている。現在までに18種類の組み合わせが報告されている。α、β、γの鎖のなかで、α鎖が細胞の接着に関わる主要な鎖としてラミニンの機能に大きく関わっている。血管内皮基底膜には、ラミニン-411と-511が存在している。また、脳実質基底膜 (parenchymal basement membrane)には、ラミニン-111とラミニン-211が共発現する。血管が脳実質内に侵入し、2つの基底膜が融合した部分では、ラミニン-211、-411、-511が共発現する<ref><pubmed> 19779720 </pubmed></ref>。脈絡叢上皮基底膜にはラミニン-511が存在している。一方、脈絡叢の毛細血管基底膜はラミニン-411である<ref name=ref8/>。血管内皮基底膜を除く各基底膜では、同時にβ2およびγ3鎖の発現も見られることから、ラミニン-421/-423/-521/-523が同時に含まれることが予想される<ref name=ref8 /> 。フラクトンには、β1とγ1鎖が存在しているが、これらと会合するα鎖は明らかになっていない<ref><pubmed> 17569787 </pubmed></ref>。  


 ニドゲン (nidogen):ニドゲンはエンタクチン(entactin)とも呼ばれ、2種類のアイソフォーム(nidogen-1 and -2)が知られている。どちらもラミニンγ1鎖に結合し、ラミニンをIV型コラーゲンに結びつけることで基底膜の形成と維持に関与している<ref><pubmed> 11, </pubmed></ref>。どちらも中枢神経組織内におけるほとんどの基底膜に共発現している<ref><pubmed> 18757743 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 18219668 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 12122064 </pubmed></ref>。フラクトンには、ニドゲン-1は存在しているが、ニドゲン-2については明らかになっていない<ref><pubmed> 17569787 </pubmed></ref>。  
 ニドゲン (nidogen):ニドゲンはエンタクチン(entactin)とも呼ばれ、2種類のアイソフォーム(nidogen-1 and -2)が知られている。どちらもラミニンγ1鎖に結合し、ラミニンをIV型コラーゲンに結びつけることで基底膜の形成と維持に関与している<ref><pubmed> 18219668 </pubmed></ref>。どちらも中枢神経組織内におけるほとんどの基底膜に共発現している<ref name=ref8 /></ref> <ref><pubmed> 18219668 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 12122064 </pubmed></ref>。フラクトンには、ニドゲン-1は存在しているが、ニドゲン-2については明らかになっていない<ref><pubmed> 17569787 </pubmed></ref>。  


 ヘパラン硫酸プロテオグリカン (heparan sulfate proteoglycan):基底膜に含まれるヘパラン硫酸プロテオグリカンとしてパールカン(perlecan)とアグリン(agrin)がある。血管内皮基底膜では、パールカンが、軟膜基底膜および脳実質基底膜では、アグリンがそれぞれ主要なヘパラン硫酸プロテオグリカンとして存在する。脳実質内に侵入した血管基底膜のうち、脳実質基底膜と融合した部分では、パールカンとアグリンの両方が存在している<ref name=ref5 />。脈絡叢では、ともに脈絡叢上皮と毛細血管の基底膜で発現している<ref name=ref8 /> <ref><pubmed> 9337134 </pubmed></ref>。フラクトンには、パールカンは存在しているが、アグリンについては明らかになっていない<ref><pubmed> 17569787 </pubmed></ref>。<br>  
 ヘパラン硫酸プロテオグリカン (heparan sulfate proteoglycan):基底膜に含まれるヘパラン硫酸プロテオグリカンとしてパールカン(perlecan)とアグリン(agrin)がある。血管内皮基底膜では、パールカンが、軟膜基底膜および脳実質基底膜では、アグリンがそれぞれ主要なヘパラン硫酸プロテオグリカンとして存在する。脳実質内に侵入した血管基底膜のうち、脳実質基底膜と融合した部分では、パールカンとアグリンの両方が存在している<ref name=ref5 />。脈絡叢では、ともに脈絡叢上皮と毛細血管の基底膜で発現している<ref name=ref8 /> <ref><pubmed> 9337134 </pubmed></ref>。フラクトンには、パールカンは存在しているが、アグリンについては明らかになっていない<ref><pubmed> 17569787 </pubmed></ref>。<br>  
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