「プリオン」の版間の差分

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=== 菌類におけるプリオン  ===
=== 菌類におけるプリオン  ===


 タンパク質のみからなる感染性因子(遺伝因子)としてのプリオンは、[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]や[[wikipedia:ja:カビ|カビ]]などの菌類においても見出されており、精力的に研究が行われている。菌類におけるプリオンの発見は1994年にWicknerが[[wikipedia:ja:出芽酵母|出芽酵母]](''Saccharomyces cerevisiae'')の[wikipedia:ja:URE3|''[[URE3]]'']や[[wikipedia:PSI+|''PSI<sup>+</sup>]]'']といった細胞質性の遺伝因子がプリオンの要素を満たしており、それぞれ[[wikipedia:Ure2|Ure2]]、[[wikipedia:Sup35|Sup35]]タンパク質が構造変化を起こしたものが原因となっていることを発見した<ref><pubmed> 7909170 </pubmed></ref>。その後、出芽酵母では[[wikipedia:Rnq1|Rnq1]]、[[wikipedia:Swi1|Swi1]]、[[wikipedia:Cyc8|Cyc8]]などいくつかのプリオンとなるタンパク質(プリオン化タンパク質)が同定されている<ref name="ref3" />。また、[[分裂酵母]]の[[wikipedia:Cin|Cin]]や[[wikipedia:ja:タマホコリカビ|タマホコリカビ]]の[ [[wikipedia:Het-s|Het-s]] ]などもプリオンであると考えられている。出芽酵母において発見されたプリオンタンパク質の特徴の一つとして、[[wikipedia:ja:グルタミン|グルタミン]]とアスパラギンに富んだドメインを有しており、このドメインが構造変化に大きく寄与していると考えられている。また、出芽酵母では100を超えるタンパク質がそのようなドメインを有し、プリオン化する可能性が高いと考えられている。一方、動物のPrPタンパク質や[Het-s]の原因タンパク質であるHET-sはそのようなドメインを有していない。また、出芽酵母においてもそのようなドメインを有さないプリオン化タンパク質として[[wikipedia:Mod5|Mod5]]が同定され、さらに多くのタンパク質がプリオン化する可能性があると考えられている<ref><pubmed> 22517861 </pubmed></ref>。
 タンパク質のみからなる感染性因子(遺伝因子)としてのプリオンは、[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]や[[wikipedia:ja:カビ|カビ]]などの菌類においても見出されており、精力的に研究が行われている。菌類におけるプリオンの発見は1994年にWicknerが[[wikipedia:ja:出芽酵母|出芽酵母]](''Saccharomyces cerevisiae'')の[''[[wikipedia:URE3|URE3]]'']や[''[[wikipedia:PSI+|PSI<sup>+</sup>]]'']といった細胞質性の遺伝因子がプリオンの要素を満たしており、それぞれ[[wikipedia:Ure2|Ure2]]、[[wikipedia:Sup35|Sup35]]タンパク質が構造変化を起こしたものが原因となっていることを発見した<ref><pubmed> 7909170 </pubmed></ref>。その後、出芽酵母では[[wikipedia:Rnq1|Rnq1]]、[[wikipedia:Swi1|Swi1]]、[[wikipedia:Cyc8|Cyc8]]などいくつかのプリオンとなるタンパク質(プリオン化タンパク質)が同定されている<ref name="ref3" />。また、[[分裂酵母]]の[[wikipedia:Cin|Cin]]や[[wikipedia:ja:タマホコリカビ|タマホコリカビ]]の[ [[wikipedia:Het-s|Het-s]] ]などもプリオンであると考えられている。出芽酵母において発見されたプリオンタンパク質の特徴の一つとして、[[wikipedia:ja:グルタミン|グルタミン]]とアスパラギンに富んだドメインを有しており、このドメインが構造変化に大きく寄与していると考えられている。また、出芽酵母では100を超えるタンパク質がそのようなドメインを有し、プリオン化する可能性が高いと考えられている。一方、動物のPrPタンパク質や[Het-s]の原因タンパク質であるHET-sはそのようなドメインを有していない。また、出芽酵母においてもそのようなドメインを有さないプリオン化タンパク質として[[wikipedia:Mod5|Mod5]]が同定され、さらに多くのタンパク質がプリオン化する可能性があると考えられている<ref><pubmed> 22517861 </pubmed></ref>。


 出芽酵母は、モデル生物として広く利用されている生物であり、プリオン研究においても有用なモデル生物として利用されてきた。特に[[wikipedia:ja:大腸菌|大腸菌]]から精製したプリオン化タンパク質を酵母内に導入することで酵母をプリオン化させる、タンパク質の凝集体の性質の違いによってプリオン株の違いが引き起こされる、などプリオン仮説を強く支持するような研究結果が出芽酵母において報告されている<ref><pubmed> 15029196 </pubmed></ref>。
 出芽酵母は、モデル生物として広く利用されている生物であり、プリオン研究においても有用なモデル生物として利用されてきた。特に[[wikipedia:ja:大腸菌|大腸菌]]から精製したプリオン化タンパク質を酵母内に導入することで酵母をプリオン化させる、タンパク質の凝集体の性質の違いによってプリオン株の違いが引き起こされる、などプリオン仮説を強く支持するような研究結果が出芽酵母において報告されている<ref><pubmed> 15029196 </pubmed></ref>。


 プリオン病を引き起こす動物のプリオンと違い、酵母プリオンは宿主細胞に対して毒性を示すことは少ない。むしろ酵母プリオンは宿主細胞に対して有益であることがあるのではないかという考え方が広がっている。実際、いくつかの酵母プリオンは[[ストレス]]環境下への応答などに関与していることが示唆されている。また、自然界に存在する野生株酵母においてSup35などいくつかのタンパク質がプリオン化していることが発見され、酵母プリオンが宿主細胞に対して有益であるとの主張を支持している<ref><pubmed> 22337056 </pubmed></ref>。一方で酵母プリオンも動物プリオンと同様に病気の状態であるという主張も存在している。  
 プリオン病を引き起こす動物のプリオンと違い、酵母プリオンは宿主細胞に対して毒性を示すことは少ない。むしろ酵母プリオンは宿主細胞に対して有益であることがあるのではないかという考え方が広がっている。実際、いくつかの酵母プリオンは[[ストレス]]環境下への応答などに関与していることが示唆されている。また、自然界に存在する野生株酵母においてSup35などいくつかのタンパク質がプリオン化していることが発見され、酵母プリオンが宿主細胞に対して有益であるとの主張を支持している<ref><pubmed> 22337056 </pubmed></ref>。一方で酵母プリオンも動物プリオンと同様に病気の状態であるという主張も存在している。


=== 長期記憶におけるプリオン  ===
=== 長期記憶におけるプリオン  ===

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