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同義語:低分子量GTPアーゼ (small GTPase) | 同義語:低分子量GTPアーゼ (small GTPase) | ||
低分子量Gタンパク質とは、分子量20-30kDaの[[wikipedia:ja:グアノシン三リン酸|グアノシン三リン酸]](GTP)結合タンパク質である。[[wikipedia:ja:グアノシン二リン酸|グアノシン二リン酸]](GDP)結合型からGTP結合型への転換により活性型となり、特異的な標的分子に結合して[[細胞内シグナル]] | [[image:低分子量Gタンパク質1.png|thumb|300px|'''図.低分子量G蛋白質の活性調節と作用機構''']] | ||
低分子量Gタンパク質とは、分子量20-30kDaの[[wikipedia:ja:グアノシン三リン酸|グアノシン三リン酸]](GTP)結合タンパク質である。[[wikipedia:ja:グアノシン二リン酸|グアノシン二リン酸]](GDP)結合型からGTP結合型への転換により活性型となり、特異的な標的分子に結合して[[細胞内シグナル]]を伝達する分子スイッチとして機能する(図)<ref name="ref1"><pubmed>22270915</pubmed></ref>。活性調節は時間的、空間的に制御されており、バイオタイマーとしても機能する<ref name="ref2"><pubmed>11152757</pubmed></ref>。5つのファミリーに分類され、[[細胞増殖|増殖]]、[[分化]]、[[遺伝子発現]]、[[運動]]、[[小胞輸送]]などの細胞機能を制御する(表1)。神経系においては、低分子量G蛋白質は、神経細胞の軸索や樹状突起の伸長といった形態形成、神経細胞間の情報伝達など様々な機能を制御する(表2)。 | |||
== 低分子量Gタンパク質とは == | == 低分子量Gタンパク質とは == | ||
[[三量体Gタンパク質]]に対して、分子量20-30kDaのサブユニット構造を持たないGTP結合タンパク質を低分子量Gタンパク質という。[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]から[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]までの[[wikipedia:ja:真核生物|真核生物]]に存在する。ヒトや[[マウス]]では150以上の分子からなり<ref name="ref1"><pubmed>22270915</pubmed></ref> | [[三量体Gタンパク質]]に対して、分子量20-30kDaのサブユニット構造を持たないGTP結合タンパク質を低分子量Gタンパク質という。[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]から[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]までの[[wikipedia:ja:真核生物|真核生物]]に存在する。ヒトや[[マウス]]では150以上の分子からなり<ref name="ref1"><pubmed>22270915</pubmed></ref>、5つのファミリーに分類される(表1)。不活性型のGDP結合型と活性型のGTP結合型が存在し、両者の転換により細胞内シグナルを伝達する分子スイッチとして機能する(図)。なお、低分子量Gタンパク質は低分子量GTPアーゼ(small GTPase)とも表記されるが、GTPase活性のない分子もあることや、他のGTPaseとは異なり、GTPase活性は標的分子への作用には必要なく、作用の終了後に必要であることから、低分子量GTPアーゼよりも低分子量Gタンパク質と表記する方がより適切である。 | ||
== 分類と機能 == | == 分類と機能 == | ||
低分子量Gタンパク質は、[[Ras]]<ref name="ref3"><pubmed>18568040</pubmed></ref>、[[Rho]]<ref name="ref4"><pubmed>16212495</pubmed></ref>、[[Rab]]<ref name="ref5"><pubmed>21248164</pubmed></ref>、[[Ran]]<ref name="ref6"><pubmed>16931595</pubmed></ref>、[[Sar]]/[[Arf]]<ref name="ref7"><pubmed>21587297</pubmed></ref> | 低分子量Gタンパク質は、[[Ras]]<ref name="ref3"><pubmed>18568040</pubmed></ref>、[[Rho]]<ref name="ref4"><pubmed>16212495</pubmed></ref>、[[Rab]]<ref name="ref5"><pubmed>21248164</pubmed></ref>、[[Ran]]<ref name="ref6"><pubmed>16931595</pubmed></ref>、[[Sar]]/[[Arf]]<ref name="ref7"><pubmed>21587297</pubmed></ref>の5つのファミリーに分類される(表1)。 | ||
=== Rasファミリー === | === Rasファミリー === | ||
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=== Ranファミリー === | === Ranファミリー === | ||
Ran (Ras-related nuclear protein)は細胞質−[[wikipedia:ja:核|核]]間の輸送、[[wikipedia:ja:有糸分裂|有糸分裂]]の[[wikipedia:ja:紡錘体|紡錘体]] | Ran (Ras-related nuclear protein)は細胞質−[[wikipedia:ja:核|核]]間の輸送、[[wikipedia:ja:有糸分裂|有糸分裂]]の[[wikipedia:ja:紡錘体|紡錘体]]集合、微小管構築、[[wikipedia:ja:核膜|核膜]]形成を制御する。最近では、[[細胞増殖]]やがん化との関連も報告されている。 | ||
=== Sar/Arfファミリー === | === Sar/Arfファミリー === | ||
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=== GFFとGAPによる活性調節 === | === GFFとGAPによる活性調節 === | ||
低分子量Gタンパク質は、[[GDP/GTP交換因子]](GDP/GTP exchange factor: | 低分子量Gタンパク質は、[[GDP/GTP交換因子]](GDP/GTP exchange factor: GEF)によってGDPとGTPが交換され、GDP結合型からGTP結合型となる結果、活性化される(図)。一方、[[GTPase活性化タンパク質]](GTPase activating protein: GAP)によって低分子量Gタンパク質自身の有するGTPase活性が亢進して、結合しているGTPが加水分解されてGDPとなる結果、不活性化される。 | ||
=== GDFとGDIによる活性調節 === | === GDFとGDIによる活性調節 === | ||
Rasを除く低分子量Gタンパク質は、通常、不活性型のGDP結合型の時には、[[GDP解離阻害因子]](GDP dissociation inhibitor: GDI) | Rasを除く低分子量Gタンパク質は、通常、不活性型のGDP結合型の時には、[[GDP解離阻害因子]](GDP dissociation inhibitor: GDI)と複合体を形成して細胞質に存在する(図)。これにより、GDPが解離して活性型に変換されるのが阻害されている。[[GDI置換因子]](GDI displacement factor: GDF)により、GDIが遊離するとGFFによる活性化が可能となる。 | ||
=== プレニル化 === | === プレニル化 === | ||
低分子量Gタンパク質が細胞膜で活性化されるためには、細胞質から細胞膜に移行して結合する必要がある。低分子量Gタンパク質はC末端側の[[wikipedia:ja:システイン|Cys]]残基が[[プレニル化]]されて細胞膜に結合する。プレニル化には、[[ファルネシル基]]が結合する[[ファルネシル化]]と[[ゲラニルゲラニル基]]が結合する[[ゲラニルゲラニル化]]がある。Rasはファルネシル化を受けるのに対し、RhoやRabなど多くの低分子量Gタンパク質はゲラニルゲラニル化を受ける。 | 低分子量Gタンパク質が細胞膜で活性化されるためには、細胞質から細胞膜に移行して結合する必要がある。低分子量Gタンパク質はC末端側の[[wikipedia:ja:システイン|Cys]]残基が[[プレニル化]]されて細胞膜に結合する。プレニル化には、[[ファルネシル基]]が結合する[[ファルネシル化]]と[[ゲラニルゲラニル基]]が結合する[[ゲラニルゲラニル化]]がある。Rasはファルネシル化を受けるのに対し、RhoやRabなど多くの低分子量Gタンパク質はゲラニルゲラニル化を受ける。 | ||
== 神経系における低分子量G蛋白質の機能 == | |||
低分子量G蛋白質は、神経細胞の形態や神経細胞間のシグナル伝達など様々な機能を制御する(表2)。Rasファミリーは、前シナプスからのグルタミン酸やGABAなどの神経伝達物質の放出や後シナプスでのグルタミン酸受容体のターンオーバーを調節し、シナプスの可塑性を制御する[8]。RhoファミリーやRanファミリーは、神経細胞の軸索や樹状突起の伸長など、形態形成を制御する[9, 10]。Rabファミリーは、神経細胞の軸索突起の伸長、シナプス小胞のエクソサイトーシスとエンドサイトーシス、輸送を制御する[11]。Sar/Arfファミリーは、形態形成およびシナプス小胞のエクソサイトーシスとエンドサイトーシスを調節し、シナプスの可塑性を制御する[12]。 | |||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references /> | <references /> | ||
== Figure legend == | |||
GDIと複合体を形成しているGDP結合型(不活性型)の低分子量G蛋白質はGDF によりGDI が遊離すると、GFFによりGTP結合型(活性型)となり、標的蛋白質に作用する。一方、GTP結合型の低分子量G蛋白質はGAPによりGTPが加水分解されてGDP結合型(不活性型)となる。 | |||
GDI:GDP解離阻害因子 | |||
GDF:GDI置換因子 | |||
GEF:GDP/GTP交換因子 | |||
GAP:GTPase活性化蛋白質 | |||
(執筆者:力武良行、高井義美 担当編集委員:河西春郎) | (執筆者:力武良行、高井義美 担当編集委員:河西春郎) |