「外傷後ストレス障害」の版間の差分

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 症状は再体験、回避・精神麻痺、過覚醒の3つの症状クラスターに大別される。再体験にはフラッシュバック、悪夢、想起刺激による身体生理反応など、回避・精神麻痺には記憶を想起させる場所、物事、状況への回避、感情麻痺など、過覚醒には睡眠障害、集中困難、物音などへの過敏反応などが含まれる。DSM‐Ⅳ‐TRでは再体験症状1項目以上、回避・精神麻痺症状3項目以上、過覚醒症状2項目以上が1ヶ月以上持続し、強い苦痛ないし生活上の機能障害を伴うとPTSDと診断される。  
 症状は再体験、回避・精神麻痺、過覚醒の3つの症状クラスターに大別される。再体験にはフラッシュバック、悪夢、想起刺激による身体生理反応など、回避・精神麻痺には記憶を想起させる場所、物事、状況への回避、感情麻痺など、過覚醒には睡眠障害、集中困難、物音などへの過敏反応などが含まれる。DSM‐Ⅳ‐TRでは再体験症状1項目以上、回避・精神麻痺症状3項目以上、過覚醒症状2項目以上が1ヶ月以上持続し、強い苦痛ないし生活上の機能障害を伴うとPTSDと診断される。  


==症状と診断  ==
== 症状と診断  ==


 診断基準はDSM‐Ⅳ‐TR(表1)とICD‐10共に収載されているが、研究では前者の診断基準が用いられることが多い。  
 診断基準はDSM‐Ⅳ‐TR(表1)とICD‐10共に収載されているが、研究では前者の診断基準が用いられることが多い。  
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 尚、PTSDは他の精神障害とは異なり、診断基準に外傷的出来事への曝露が含まれている。症状が診断基準を満たしても、出来事がA基準を満たさなければ、DSM‐Ⅳ‐TRでは適応障害と診断すると教示されている。その一方で、出来事がA基準を満たしていても、出現した症状が他の精神障害の診断基準を満たしたときはその診断を下す、もしくはPTSDと併記しなければならない。  
 尚、PTSDは他の精神障害とは異なり、診断基準に外傷的出来事への曝露が含まれている。症状が診断基準を満たしても、出来事がA基準を満たさなければ、DSM‐Ⅳ‐TRでは適応障害と診断すると教示されている。その一方で、出来事がA基準を満たしていても、出現した症状が他の精神障害の診断基準を満たしたときはその診断を下す、もしくはPTSDと併記しなければならない。  


{| width="996" cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" height="180"
|-
| colspan="2" | '''A. その人は、以下の2つがともにあてはまる外傷的出来事に曝露した'''
|-
| (1)
| 実際にまたは危うく死ぬないし深刻なケガを負うような、あるいは自分または他人の身体的保全が脅かされるような、1つまたは複数の出来事を、その人が体験したり、目撃したり、直面した
|-
| (2)
| その人の反応は、強い恐怖、無力感と戦慄を伴った
|-
| colspan="2" | '''B. 外傷的出来事は、少なくとも以下の1つのかたちで再体験され続けている'''
|-
|(1)
| イメージや思考または知覚を含む出来事の反復的で侵入的かつ苦痛な想起
|-
|(2)
| 出来事についての反復的で苦痛な夢
|-
|(3)
| 外傷的出来事が再び起こっているかのように行動したり感じたりする(体験が蘇る感覚、錯覚、幻覚、および解離性フラッシュバックのエピソードなど。覚醒時または中毒時に起こるものを含む)
|-
|
|-
|
|}


<br>


=== 症状評価方法  ===
=== 症状評価方法  ===


 症状評価方法は自記式質問紙法と構造化面接法に大別される。一般に自記式質問紙法は簡便であるが診断精度は構造化面接に劣るとされる。一方で、構造化面接はより精度の高い評価が可能であるが、1人の評価に時間を要すること、被面接者の負担が大きいなどの問題がある。このため、目的に応じた使用が求められる。
 症状評価方法は自記式質問紙法と構造化面接法に大別される。一般に自記式質問紙法は簡便であるが診断精度は構造化面接に劣るとされる。一方で、構造化面接はより精度の高い評価が可能であるが、1人の評価に時間を要すること、被面接者の負担が大きいなどの問題がある。このため、目的に応じた使用が求められる。  


==== 自記式質問紙法  ====
==== 自記式質問紙法  ====
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#The PTSD checkkist (PCL):PTSDチェックリスト<br> PCLはDSM-Ⅳの17症状により構成された自記式質問紙である<ref>'''Weathers, F. W.、 Litz, B. T.、 Herman, D. S. et al'''<br>The PTSD Checklist (PCL): Reliability, validity, and diagnostic utility<br>''Paper presented at the 9th Annual Conference of the ISTSS, San Antonio, TX.'':1993</ref>。従軍経験でのトラウマ体験へはmilitary version (PCL-M)、特定されていない市民生活でのトラウマ体験へはcivilian version (PCL-C)、既に確定している特定のトラウマ体験へはspecific version&nbsp;(PCL-S)を用いる。最近1か月の17症状についてその強度を1-5点で評価し49/50点をカットオフ値とする。  
#The PTSD checkkist (PCL):PTSDチェックリスト<br> PCLはDSM-Ⅳの17症状により構成された自記式質問紙である<ref>'''Weathers, F. W.、 Litz, B. T.、 Herman, D. S. et al'''<br>The PTSD Checklist (PCL): Reliability, validity, and diagnostic utility<br>''Paper presented at the 9th Annual Conference of the ISTSS, San Antonio, TX.'':1993</ref>。従軍経験でのトラウマ体験へはmilitary version (PCL-M)、特定されていない市民生活でのトラウマ体験へはcivilian version (PCL-C)、既に確定している特定のトラウマ体験へはspecific version&nbsp;(PCL-S)を用いる。最近1か月の17症状についてその強度を1-5点で評価し49/50点をカットオフ値とする。  
#Posttraumatic Symptom Scale (PTS-10):外傷後症状尺度<br> Weisaethらにより開発された尺度<ref><pubmed>2624136</ref>で、災害後の特異的なストレス症状10項目の有無を評価する簡便な質問紙である。阪神淡路大震災の被災者を対象とした健康調査でも使用された。  
#Posttraumatic Symptom Scale (PTS-10):外傷後症状尺度<br> Weisaethらにより開発された尺度<ref><pubmed>2624136</ref>で、災害後の特異的なストレス症状10項目の有無を評価する簡便な質問紙である。阪神淡路大震災の被災者を対象とした健康調査でも使用された。  
#Posttraumatic Diagnostic Scale(PDS): 外傷後ストレス診断面接尺度<br> DSM-Ⅳの診断基準に準拠してFoaらによって作られた成人用の自記式質問紙である。長江らによって日本語版が作成され、信頼性と妥当性が検証されている<ref>'''長江信和、廣幡小百合、志村ゆずほか'''<br>日本語版外傷後ストレス診断尺度作成の試み-一般の大学生を対象とした場合の信頼性と妥当性の検討<br>''トラウマティック・ストレス 5'':51-56,2007</ref>。  
#Posttraumatic Diagnostic Scale(PDS): 外傷後ストレス診断面接尺度<br> DSM-Ⅳの診断基準に準拠してFoaらによって作られた成人用の自記式質問紙である。長江らによって日本語版が作成され、信頼性と妥当性が検証されている<ref>'''長江信和、廣幡小百合、志村ゆずほか'''<br>日本語版外傷後ストレス診断尺度作成の試み-一般の大学生を対象とした場合の信頼性と妥当性の検討<br>''トラウマティック・ストレス 5'':51-56,2007</ref>。


==== 構造化面接法  ====
==== 構造化面接法  ====


#Clinician-Administered PTSD Scale (CAPS):PTSD臨床診断面接尺度<br> CAPSはアメリカのNational Center for PTSDの研究グループによって開発された構造化診断面接法<ref><pubmed>7712061</ref>で、最も精度の高い診断法として世界的に広く用いられている。一定のトレーニングを受けた面接者がDSM-Ⅳで示される17症状について既定の質問を行い、症状の頻度と強度の両方をアンカーポイントにそって評価するものである。日本語版は飛鳥井らが作成し、その信頼性と妥当性が検証<ref>'''飛鳥井望、廣幡小百合、加藤寛ほか'''<br>CAPS(PTSD臨床診断面接尺度)日本語版の尺度特性<br>''トラウマティック・ストレス1'':47-53,2003</ref>されている。心理検査として診療報酬点数450点が認められている。  
#Clinician-Administered PTSD Scale (CAPS):PTSD臨床診断面接尺度<br> CAPSはアメリカのNational Center for PTSDの研究グループによって開発された構造化診断面接法<ref><pubmed>7712061</ref>で、最も精度の高い診断法として世界的に広く用いられている。一定のトレーニングを受けた面接者がDSM-Ⅳで示される17症状について既定の質問を行い、症状の頻度と強度の両方をアンカーポイントにそって評価するものである。日本語版は飛鳥井らが作成し、その信頼性と妥当性が検証<ref>'''飛鳥井望、廣幡小百合、加藤寛ほか'''<br>CAPS(PTSD臨床診断面接尺度)日本語版の尺度特性<br>''トラウマティック・ストレス1'':47-53,2003</ref>されている。心理検査として診療報酬点数450点が認められている。


#Structured Clinical Interview for DSM-Ⅳ(SCID): DSM-Ⅳのための構造化臨床面接<br> 高橋らによって日本語版が出版されている<ref>'''(翻訳)高橋三郎、北村俊則、岡野禎治'''<br>精神科診断面接マニュアル SCID:使用の手引き・テスト用紙 第2版<br>''日本評論社'':2010</ref>。SCIDはDSM-ⅣのPTSD17症状の有無のみを問う形式のため、評価者の臨床経験により、評価がばらつく恐れがある。  
#Structured Clinical Interview for DSM-Ⅳ(SCID): DSM-Ⅳのための構造化臨床面接<br> 高橋らによって日本語版が出版されている<ref>'''(翻訳)高橋三郎、北村俊則、岡野禎治'''<br>精神科診断面接マニュアル SCID:使用の手引き・テスト用紙 第2版<br>''日本評論社'':2010</ref>。SCIDはDSM-ⅣのPTSD17症状の有無のみを問う形式のため、評価者の臨床経験により、評価がばらつく恐れがある。


#MINI International Neuropsychiatric Interview (M.I.N.I):精神疾患簡易構造化面接法<br> Sheehanらによって開発されたスクリーニング目的に短時間で施行可能な包括的構造化面接である。大坪らが日本語版を作成している<ref>'''(翻訳)大坪天平、宮岡等、上島国利'''<br>M.I.N.I._精神疾患簡易構造化面接法<br>''星和書店'':2000</ref>。SCIDと同じく症状項目の有無のみを問う形式である。
#MINI International Neuropsychiatric Interview (M.I.N.I):精神疾患簡易構造化面接法<br> Sheehanらによって開発されたスクリーニング目的に短時間で施行可能な包括的構造化面接である。大坪らが日本語版を作成している<ref>'''(翻訳)大坪天平、宮岡等、上島国利'''<br>M.I.N.I._精神疾患簡易構造化面接法<br>''星和書店'':2000</ref>。SCIDと同じく症状項目の有無のみを問う形式である。

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