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英:loss aversion | 英:loss aversion | ||
損失回避(loss | 損失回避(loss aversion)とは、ある額を得る場合(gain)の効用と失う場合(loss)の不効用を比べると、後者のほうが大きいという個人の選好である。[[行動経済学]](behavioral economics)における重要な理論である、[[プロスペクト理論]](prospect theory)を構成する一要素である。 | ||
==期待効用理論とその反証== | ==期待効用理論とその反証== | ||
「くじ」のようなリスクのある事象に対する[[意思決定]]問題は、古くから議論がなされてきた。いくつかのくじからどれが選ばれるか、という問題を説明するのに第一に使われたのは、[[wikipedia:ja:期待値|期待値]](expected value)である。期待値はくじの結果 <math>x_i \!</math> をそれぞれの出現確率 <math>p_i \!</math> で加重和をとったもので、 | |||
<math>EV=\textstyle \sum p_i x_i \!</math> | <math>EV=\textstyle \sum p_i x_i \!</math> | ||
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と記述できる。しかし、期待値では個人がリスクを好むかどうかを表現することはできない。例えば、「1/2の確率で200万円が当たるくじ(はずれは0円)」と「確実に100万円が当たるくじ」は同じ期待値を持つが、現実にはリスクを好む人は少なく、後者を選ぶ人が多いだろう。 | と記述できる。しかし、期待値では個人がリスクを好むかどうかを表現することはできない。例えば、「1/2の確率で200万円が当たるくじ(はずれは0円)」と「確実に100万円が当たるくじ」は同じ期待値を持つが、現実にはリスクを好む人は少なく、後者を選ぶ人が多いだろう。 | ||
個人のリスクを好むかどうかを捉えた理論が、[[ | 個人のリスクを好むかどうかを捉えた理論が、[[期待効用]]理論(expected utility theory)である。この理論では、個人はそれぞれくじの結果に対する効用 <math>u(x_i) \!</math> を持ち、その効用の期待値を最大化するような選択をすると考える。期待効用は | ||
<math>EU=\textstyle \sum p_i u(x_i) \! </math> | <math>EU=\textstyle \sum p_i u(x_i) \! </math> | ||
と記述することができる。<math>u(x_i) \!</math>が上に凸(concave)である(<math>u''(x_i) <0 \!</math>)とすると、個人は大きな額をあまり高く評価せず、リスク回避的(risk averse)であると言える。逆に下に凸の場合は、リスク愛好的(risk love)、線形であればリスク中立的(risk | と記述することができる。<math>u(x_i) \!</math>が上に凸(concave)である(<math>u''(x_i) <0 \!</math>)とすると、個人は大きな額をあまり高く評価せず、リスク回避的(risk averse)であると言える。逆に下に凸の場合は、リスク愛好的(risk love)、線形であればリスク中立的(risk neutral)と呼ばれる。期待効用理論は個人のリスク態度を考慮できる簡便な方法であり、[[wikipedia:ja:経済学|経済学]]のモデルに幅広く用いられている。 | ||
しかし、期待効用理論にも欠点があり、多数の「パラドックス」があることが知られている。例えば、有名な「アレのパラドックス(Allais paradox)」<ref>'''Maurice Allais'''<br>Le Comportement de l'Homme Rationnel devant le Risque: Critique des Postulats et Axiomes de l'Ecole Americaine. <br>''Econometrica'': 1953, 21(4);503-546</ref><ref name=KT1979>'''Daniel Kahneman, Amos Tversky'''<br>Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk. <br>''Econometrica'': 1979, 47(2);263-292</ref> | しかし、期待効用理論にも欠点があり、多数の「パラドックス」があることが知られている。例えば、有名な「アレのパラドックス(Allais paradox)」<ref>'''Maurice Allais'''<br>Le Comportement de l'Homme Rationnel devant le Risque: Critique des Postulats et Axiomes de l'Ecole Americaine. <br>''Econometrica'': 1953, 21(4);503-546</ref><ref name=KT1979>'''Daniel Kahneman, Amos Tversky'''<br>Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk. <br>''Econometrica'': 1979, 47(2);263-292</ref> | ||
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<math>V=\textstyle \sum w(p_i) v(x_i) \! </math> | <math>V=\textstyle \sum w(p_i) v(x_i) \! </math> | ||
<math>w(p_i) \!</math> | <math>w(p_i) \!</math> は確率に対する[[wikipedia:ja:加重関数|加重関数]](weighting function)を表し、個人が確率をある程度主観的に評価しているとする([[wikipedia:ja:主観確率|主観確率]])。<math>v(x_i) \!</math> は[[wikipedia:ja:価値関数|価値関数]](value function)である。価値関数の最大の特徴は、参照点依存(reference-dependent)であるという点である。<math>x_i \!</math> がある参照点より大きいか小さいかで、その評価が異なる。プロスペクト理論では、<math>x_i \!</math> が参照点より小さい場合により大きい不効用を感じる、という損失回避を仮定する。さらに、 <math>x_i \!</math> が参照点より大きい場合はリスク回避的だが、小さい場合はリスク愛好的であるとされる。 | ||
損失回避によって、以下の様な現象が説明できる。 | 損失回避によって、以下の様な現象が説明できる。 |