「扁桃体」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
792 バイト追加 、 2015年4月16日 (木)
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
 
(2人の利用者による、間の3版が非表示)
1行目: 1行目:
<div align="right"> 
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0127854 田積 徹]</font><br>
''文教大学 人間科学部 心理学科''<br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/hisaonishijo 西条 寿夫]</font><br>
''富山大学 医学部大学院システム情動科学''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2012年12月11日 原稿完成日:2013年月日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noritakaichinohe 一戸 紀孝](国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)<br>
</div>
{{box|text=
 [[大脳辺縁系]]の重要な機能の1つは、[[情動]]発現や情動行動の遂行であり、これらの機能に重要な役割を果たしているのが扁桃体である。まず初めに扁桃体の構造について、[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]と[[wikipedia:ja:サル|サル]]を比較しながら概説する。[[wikipedia:ja:系統発生|系統発生]]学的にサルとラットでは扁桃体を構成する神経核の発達が異なる。次に、サルとラットの扁桃体内部の線維結合の違いについて概説する。サルにおいては、内側の神経核から外側の神経核への投射が少ないが、ラットにおいてはそのような結合はサルよりも多く、内側と外側の神経核が相互に結合する。さらに、扁桃体への求心性線維と遠心性投射線維について概説する。最後に、扁桃体の破壊によって生じるKlüver-Bucy症候群や、ラットを用いて詳細に調べられてきた扁桃体の情動[[学習]]や情動[[記憶]]の機能、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]のイメージング研究によって提唱されている扁桃体の社会的認知機能を踏まえて、生得的に評価される価値や経験によって獲得された価値を含めた生物学的価値評価全般に扁桃体が重要な役割を果たしていることを提唱する。 (編集 コメント:辞典としての性質を鑑み、「最初に---を概説する」「---を提唱する」と言った表現ではなく、なるべく内容自体をまとめて頂ければと思います。)
 [[大脳辺縁系]]の重要な機能の1つは、[[情動]]発現や情動行動の遂行であり、これらの機能に重要な役割を果たしているのが扁桃体である。まず初めに扁桃体の構造について、[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]と[[wikipedia:ja:サル|サル]]を比較しながら概説する。[[wikipedia:ja:系統発生|系統発生]]学的にサルとラットでは扁桃体を構成する神経核の発達が異なる。次に、サルとラットの扁桃体内部の線維結合の違いについて概説する。サルにおいては、内側の神経核から外側の神経核への投射が少ないが、ラットにおいてはそのような結合はサルよりも多く、内側と外側の神経核が相互に結合する。さらに、扁桃体への求心性線維と遠心性投射線維について概説する。最後に、扁桃体の破壊によって生じるKlüver-Bucy症候群や、ラットを用いて詳細に調べられてきた扁桃体の情動[[学習]]や情動[[記憶]]の機能、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]のイメージング研究によって提唱されている扁桃体の社会的認知機能を踏まえて、生得的に評価される価値や経験によって獲得された価値を含めた生物学的価値評価全般に扁桃体が重要な役割を果たしていることを提唱する。 (編集 コメント:辞典としての性質を鑑み、「最初に---を概説する」「---を提唱する」と言った表現ではなく、なるべく内容自体をまとめて頂ければと思います。)
}}


== 扁桃体とは ==
== 扁桃体とは ==
7行目: 18行目:
==解剖==
==解剖==
=== 構造 ===
=== 構造 ===
[[Image:扁桃体1.png|thumb|300px|'''図1.ラット(左図)とサルの扁桃体の位置と扁桃体を構成する神経核'''<br>ラット(左図);上図は矢状断面図、下図は上図の矢印位置における冠状断面図(Paxinos & Watson, 1997に基づいて作成)<br>サル(右図):上図は右脳の側面図、下図は上図の矢印位置における冠状断面図(Martin & Bowden, 2000に基づいて作成)]]  
[[Image:扁桃体1.png|thumb|300px|'''図1.ラット(左図)とサルの扁桃体の位置と扁桃体を構成する神経核'''<br>ラット(左図);上図は矢状断面図、下図は上図の矢印位置における冠状断面図(<ref>'''Paxinos & Watson'''<br>The Rat Brain in Stereotaxic Coordinates<br> Elsevier, 1997</ref>に基づいて作成)<br>サル(右図):上図は右脳の側面図、下図は上図の矢印位置における冠状断面図(<ref>'''R. F. Martin & D. M. Bowden'''<br>Primate Brain Maps: Structure of the Macaque Brain: A Laboratory Guide with Original Brain Sections, Printed Atlas and Electronic Templates for Data and Schematics<br>Elsevier, 2000</ref>に基づいて作成)]]  


 扁桃体は側頭葉の背内側部に位置しており、複数の神経核から構成されている。扁桃体の名前はその形がアーモンド(扁桃:amygdala)に似ていることに由来している。図1は、ラットとサルの扁桃体の位置と扁桃体を構成する主要な神経核を示している。これらの神経核の中で、外側核と基底外側核、基底内側核を合わせて基底外側核群と定義される場合がある。このように、扁桃体神経核の分類は古くより染色法による細胞構築という観点から行われてきたが、研究者によりまた動物種により分類や名称が異なっている。表1~2にラットとサルの英米の一般的な分類を示す。表中の同じ番号が振られた神経核は名称は異なるが、それぞれ動物種を越えて同じ神経核であることを示している。
 扁桃体は[[側頭葉]]の背内側部に位置しており、複数の神経核から構成されている。扁桃体の名前はその形が[[wikipedia:ja:アーモンド|アーモンド]](扁桃:amygdala)に似ていることに由来している。図1は、ラットとサルの扁桃体の位置と扁桃体を構成する主要な神経核を示している。これらの神経核の中で、外側核と基底外側核、基底内側核を合わせて基底外側核群と定義される場合がある。このように、扁桃体神経核の分類は古くより染色法による細胞構築という観点から行われてきたが、研究者によりまた動物種により分類や名称が異なっている。表1~2にラットとサルの英米の一般的な分類を示す。表中の同じ番号が振られた神経核は名称は異なるが、それぞれ動物種を越えて同じ神経核であることを示している。


 これらの神経核は、系統発生学的に古い皮質内側核群(表中の1~10までの神経核)と新しい基底外側核群(おなじく、11~13まで)に分類することができる。サルでは皮質内側核群の発達が悪く、前皮質核や後皮質核の存在を明確に確認することができない。また、外側嗅索核はラットでは明瞭であるが、サルでは明確に確認することができない。逆に、扁桃体周囲皮質はサルでよく発達し、さらに4つの区分に分けられるが、ラットではそれほど発達しておらず3つを識別するにとどまる。一方、基底外側核群は系統発生により大脳皮質の発達に伴い扁桃体内で占める割合が増加しおり、[[wikipedia:ja:ハリネズミ|ハリネズミ]]では60%であるが、ヒトでは80%になっているという報告がある。  
 これらの神経核は、系統発生学的に古い皮質内側核群(表中の1~10までの神経核)と新しい基底外側核群(おなじく、11~13まで)に分類することができる。サルでは皮質内側核群の発達が悪く、前皮質核や後皮質核の存在を明確に確認することができない。また、外側嗅索核はラットでは明瞭であるが、サルでは明確に確認することができない。逆に、扁桃体周囲皮質はサルでよく発達し、さらに4つの区分に分けられるが、ラットではそれほど発達しておらず3つを識別するにとどまる。一方、基底外側核群は系統発生により大脳皮質の発達に伴い扁桃体内で占める割合が増加しおり、[[wikipedia:ja:ハリネズミ|ハリネズミ]]では60%であるが、ヒトでは80%になっているという報告がある。  
192行目: 203行目:
Price, J.L. (1981). Toward a consistent terminology for the amygdaloid complex. In Y. Ben-Ari (Ed.), The Amygdaloid Complex, , pp. 13-18. New York: Elsevier.  
Price, J.L. (1981). Toward a consistent terminology for the amygdaloid complex. In Y. Ben-Ari (Ed.), The Amygdaloid Complex, , pp. 13-18. New York: Elsevier.  


田積徹・西条寿夫・小野武年(2004). 自己の情動反応の表出と他個体の情動反応の認知における扁桃体の役割~動物を対象にした侵襲的脳研究の動向~. 心理学評論, 47, 2-28.  
田積徹・西条寿夫・小野武年(2004). 自己の情動反応の表出と他個体の情動反応の認知における扁桃体の役割~動物を対象にした侵襲的脳研究の動向~. 心理学評論, 47, 2-28.
 
 
(執筆者:田積徹、西条寿夫 担当編集委員:岡本仁)

案内メニュー