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このような細胞時計により、視交叉上核の細胞は[[分散培養]]系においても安定した概日振動を示すが<ref name=ref7><pubmed>7718233 </pubmed></ref>、この細胞時計の分子機構は末梢の細胞においても共通したものである。実は、視交叉上核のマスター時計としての特殊性は、先述した神経伝達物質を介した「細胞間コミュニケーション」にある。これにより、末梢組織の概日振動はin vitroの培養系ではすぐに減衰してしまうのに対し、視交叉上核では神経細胞同士がお互いに連絡しあい同期することによって、組織として非常に安定した概日振動を何週間も生み出すことができる。最も重要な時計遺伝子のひとつであるPer1遺伝子のプロモーターの下流に、[[wikipedia:ja:ホタル|ホタル]]発光遺伝子[[luciferase]]をつないだ[[レポーター遺伝子]]を導入したPer1-luc[[トランスジェニックマウス]]の視交叉上核切片培養系を用いたリアルタイムイメージングにより、個々の細胞におけるPer1の発現リズムを観察すると、常に、背内側部の特に[[第三脳室]]に面した領域からその振動は始まり、続いて中間部から腹外側部へと波のように広がっていく<ref name=ref8><pubmed>14631044</pubmed></ref>(動画1)。 | このような細胞時計により、視交叉上核の細胞は[[分散培養]]系においても安定した概日振動を示すが<ref name=ref7><pubmed>7718233 </pubmed></ref>、この細胞時計の分子機構は末梢の細胞においても共通したものである。実は、視交叉上核のマスター時計としての特殊性は、先述した神経伝達物質を介した「細胞間コミュニケーション」にある。これにより、末梢組織の概日振動はin vitroの培養系ではすぐに減衰してしまうのに対し、視交叉上核では神経細胞同士がお互いに連絡しあい同期することによって、組織として非常に安定した概日振動を何週間も生み出すことができる。最も重要な時計遺伝子のひとつであるPer1遺伝子のプロモーターの下流に、[[wikipedia:ja:ホタル|ホタル]]発光遺伝子[[luciferase]]をつないだ[[レポーター遺伝子]]を導入したPer1-luc[[トランスジェニックマウス]]の視交叉上核切片培養系を用いたリアルタイムイメージングにより、個々の細胞におけるPer1の発現リズムを観察すると、常に、背内側部の特に[[第三脳室]]に面した領域からその振動は始まり、続いて中間部から腹外側部へと波のように広がっていく<ref name=ref8><pubmed>14631044</pubmed></ref>(動画1)。 | ||
このような階層性のある時空間的制御ネットワーク機構は、[[ | このような階層性のある時空間的制御ネットワーク機構は、[[Förster共鳴エネルギー移動]]を利用したCaシグナルの概日リズムを検出することによっても確認されている<ref name=ref9><pubmed>23213253</pubmed></ref>。この視交叉上核内ネットワークは概日リズムの特徴である温度補償性に寄与しているとされる<ref name=ref10><pubmed>20947768</pubmed></ref>。また最近、この特徴的な視交叉上核内の時空間特異性の形成が、分子レベルで明らかとなった。視交叉上核全体の中でも最背内側部の細胞において、時計遺伝子は最も早く発現するが、その理由の一つに、視交叉上核に特異的に発現する、[[GTPase]]活性を制御する[[RGS]]([[Regulator of G-protein signaling]])である[[RGS16]]がある。夜明け前に、最背内側部の細胞は[[RGS16]]を発現することで、ターゲットの抑制性Gタンパク質を不活性化し、細胞内の[[cAMP]]を増やし、[[cAMP responsive element]] ([[CRE]])シグナル伝達を亢進し、時計遺伝子Per1の転写を高める。RGS16変異マウスでは、視交叉上核において先頭集団である最背内側部におけるPer1の発現が遅れるため、マウス個体の概日行動リズムの周期が長くなる<ref name=ref11><pubmed>21610730</pubmed></ref>。 | ||
=== 時計遺伝子と光同調 === | === 時計遺伝子と光同調 === |