「皮質板」の版間の差分

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英語名:cortical plate  
英語名:cortical plate  


 皮質板は[[大脳皮質]](cerebral cortex)の発生期に[[脳室帯]](ventricular zone)および脳室下帯(subventricular zone)の前駆細胞から分化した神経細胞が法線方向に移動して[[辺縁帯]](marginal zone)と[[サブプレート]](subplate)の間に形成する層であり、将来の大脳皮質6層構造のうち第II層から第VI層になる部位である。成体の大脳皮質では皮質板という言葉は使われないが、いつの時期までを皮質板と呼ぶのかははっきりしない。  
 皮質板は[[大脳皮質]](cerebral cortex)の発生期に[[脳室帯]](ventricular zone)および脳室下帯(subventricular zone)の前駆細胞から分化した神経細胞が法線方向(放射状)に移動して[[辺縁帯]](marginal zone)と[[サブプレート]](subplate)の間に形成する層であり、将来の大脳皮質6層構造のうち第II層から第VI層になる部位である。成体の大脳皮質では皮質板という言葉は使われないが、いつの時期までを皮質板と呼ぶのかははっきりしない。  


== 皮質板形成の流れ  ==
== 皮質板形成の流れ  ==
[[ファイル:皮質板.jpg|thumb|right|350px|皮質板形成の流れ  NE, neuroepithelium; PP, preplate; IMZ, inter mediate zone; VZ, ventricular zone; MZ, marginal zone; CP, cortical plate; SP, subplate; SVZ, subventricular zone; WM, white matter; E, ependymal layer]]


 初期の[[神経管]]では[[神経上皮細胞]](neuroepithelial cell)が[[側脳室]](lateral ventricle)の拡大に伴って[[脳室]]面(ventricular surface)において対称分裂を繰り返して増殖しているが、神経細胞の産生が始まる時期になると[[放射状グリア細胞]](radial glial cells)が現れ、これが非対称分裂を行って自身と神経細胞を産生する。(つまり、放射状グリア細胞は[[神経幹細胞]] neural stem cellsである。)産生された神経細胞(主に[[グルタミン酸]]作動性神経細胞、ヒトでは[[GABA]]作動性神経細胞の一部も含むとされる)は脳室面から中間層(intermediate zone)を通って皮質の表面に向かって放射状に移動する(radial migration)。最初に産生される神経細胞は脳室帯に重層する[[プレプレート]] (preplate、[[原子網状層]] primordial plexiform zone)を形成する。
 初期の[[神経管]]では[[神経上皮細胞]](neuroepithelial cell)が[[側脳室]](lateral ventricle)の拡大に伴って[[脳室]]面(ventricular surface)において対称分裂を繰り返して増殖しているが、神経細胞の産生が始まる時期になると[[放射状グリア細胞]](radial glial cells)が現れ、これが非対称分裂を行って自身と神経細胞を産生する。(つまり、放射状グリア細胞は[[神経幹細胞]] neural stem cellsである。)産生された神経細胞(主に[[グルタミン酸]]作動性神経細胞、ヒトでは[[GABA]]作動性神経細胞の一部も含むとされる)は脳室面から中間層(intermediate zone)を通って皮質の表面に向かって放射状に移動する(radial migration)。最初に産生される神経細胞は脳室帯に重層する[[プレプレート]] (preplate、[[原子網状層]] primordial plexiform zone)を形成する。


 その後に産生された神経細胞が同様に法線方向に移動してプレプレートに侵入すると、プレプレートは上層の[[辺縁帯]]と下層の[[サブプレート]]に分かれ、移動してきた神経細胞はこれら2層の間で皮質板を形成する。その後も神経細胞の産生は続くが、皮質板内では、早く産生された神経細胞がより下層(深層)を占め、後から産生された神経細胞はすでに皮質板内に存在する神経細胞を追い抜いてより上層(浅層)に分布する(インサイドアウト・パターン)ので、分化した神経細胞としては、最初は将来VI層になる細胞だけが存在し、次第により浅層の神経細胞が加わって厚みを増していく(編集コメント:この点模式図があればと思います)。
 その後に産生された神経細胞が同様に法線方向に移動してプレプレートに侵入すると、プレプレートは上層の[[辺縁帯]]と下層の[[サブプレート]]に分かれ、移動してきた神経細胞はこれら2層の間で皮質板を形成する。その後も神経細胞の産生は続くが、皮質板内では、早く産生された神経細胞がより下層(深層)を占め、後から産生された神経細胞はすでに皮質板内に存在する神経細胞を追い抜いてより上層(浅層)に分布する(インサイドアウト・パターン)ので、分化した神経細胞としては、最初は将来VI層になる細胞だけが存在し、次第により浅層の神経細胞が加わって厚みを増していく(図参照)。


 ただし、よくある大脳皮質の発達のモデル図にはあまり描かれていないが、大脳皮質の形成期にはサブプレートと成熟した神経細胞の間に、移動中の未成熟な細胞のかなり厚い層が存在している<ref name=Sekine><pubmed>21697392</pubmed></ref>。また発生後期には神経細胞の産生が終わり、[[アストロサイト]] (astrocyte、[[アストログリア]] astroglia、[[星状膠細胞]])が産生され、やはり法線方向に移動して皮質板に加わる。
 ただし、よくある大脳皮質の発達のモデル図にはあまり描かれていないが、大脳皮質の形成期にはサブプレートと成熟した神経細胞の間に、移動中の未成熟な細胞のかなり厚い層が存在している<ref name=Sekine><pubmed>21697392</pubmed></ref>。また発生後期には神経細胞の産生が終わり、[[アストロサイト]] (astrocyte、[[アストログリア]] astroglia、[[星状膠細胞]])が産生され、やはり法線方向に移動して皮質板に加わる。
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 脳室帯で産生された神経細胞は中間層では多極性の形態を示すが、突起の一つで放射状グリア線維を掴むと双極性に形態を変化させ、線維を伝って皮質板へと移動する。
 脳室帯で産生された神経細胞は中間層では多極性の形態を示すが、突起の一つで放射状グリア線維を掴むと双極性に形態を変化させ、線維を伝って皮質板へと移動する。


 皮質板では先に到着している神経細胞を追い越し、その時点での皮質板の最上層に到達すると線維から離れ、terminal translocationにより最終的な分布位置に移動する。皮質板の最上層には成熟しきっていない[[NeuN]]陰性の神経細胞の層([[primitive cortical zone]], PCZ <ref name=Sekine/>)があり、放射状グリア線維を辿ってきた神経細胞はPCZに入る直前で一旦停止し、leading process(radial migrationを始める際に放射状グリア線維を掴んだ突起)の先端に発現する[[インテグリン]]が辺縁帯の[[細胞外マトリクス]]中の[[フィブロネクチン]]と結合すると、放射状グリア線維から離れてterminal translocationによりPCZ内に入り<ref><pubmed>23083738</pubmed></ref>、最終的な分化のステップを経て各層に特徴的な形態と遺伝子発現を獲得する。PCZ内へ進入する際に、すでに分化を終えた早生まれの神経細胞よりも上層に出るので、結果としてインサイドアウト・パターンが形成される(編集コメント:この点模式図があればと思います)。
 皮質板では先に到着している神経細胞を追い越し、その時点での皮質板の最上層に到達すると線維から離れ、terminal translocationにより最終的な分布位置に移動する。皮質板の最上層には成熟しきっていない[[NeuN]]陰性の神経細胞の層([[primitive cortical zone]], PCZ <ref name=Sekine/>)があり、放射状グリア線維を辿ってきた神経細胞はPCZに入る直前で一旦停止し、leading process(radial migrationを始める際に放射状グリア線維を掴んだ突起)の先端に発現する[[インテグリン]]が辺縁帯の[[細胞外マトリクス]]中の[[フィブロネクチン]]と結合すると、放射状グリア線維から離れてterminal translocationによりPCZ内に入り<ref><pubmed>23083738</pubmed></ref>、最終的な分化のステップを経て各層に特徴的な形態と遺伝子発現を獲得する。PCZ内へ進入する際に、すでに分化を終えた早生まれの神経細胞よりも上層に出るので、結果としてインサイドアウト・パターンが形成される(上図参照)。


== 層構造形成の分子機構  ==
== 層構造形成の分子機構  ==
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