「心身症」の版間の差分

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====HPA axis====
====HPA axis====
 ストレスは、視床下部、下垂体、副腎皮質を介して、[[コルチゾール]]上昇をもたらすが、これによりインスリン抵抗性が高まり糖尿病の発症に寄与する。さらに、脂質代謝にも関わっており、肥満・内臓脂肪蓄積・高血圧もこれに関連している。免疫系にも影響を与え、例えばNK細胞にはコルチゾール受容体があり、受容すると細胞死に至るため、細胞性免疫の低下につながる。さらに、血小板凝集能を亢進させ、血栓を形成させ易くする恐れがある(図3)。 [[Image:Yoshiyamoriguchi_fig_7.png|thumb|300px|'''図3.脳・自律神経・HPA axisと身体疾病 '''<br>]]
 ストレスは、[[視床下部]]、[[下垂体]]、副腎皮質を介して、[[コルチゾール]]上昇をもたらすが、これによりインスリン抵抗性が高まり糖尿病の発症に寄与する。さらに、脂質代謝にも関わっており、[[wj:肥満|肥満]]、[[wj:内臓脂肪|内臓脂肪]]蓄積・高血圧もこれに関連している。免疫系にも影響を与え、例えば[[wj:NK細胞|NK細胞]]には[[コルチゾール受容体]]があり、受容すると[[細胞死]]に至るため、細胞性免疫の低下につながる。さらに、[[wj:血小板]]凝集能|血小板]]を亢進させ、[[wj:血栓|血栓]]を形成させ易くする恐れがある(図3)。 [[Image:Yoshiyamoriguchi_fig_7.png|thumb|300px|'''図3.脳・自律神経・HPA axisと身体疾病 '''<br>]]


====免疫系====
====免疫系====
 胸腺・骨髄・脾臓・リンパ節などの免疫系組織は、自律神経系の支配を受けている。また、リンパ球などの免疫担当細胞の膜表面には様々なホルモンや神経伝達物質に対するレセプターが発現しており、ストレス負荷時にはこれらのレセプターや伝達物質を介して免疫系も影響される(図3参照)。急性ストレス時にはNK活性の亢進、リンパ球CD4/CD8比の低下、唾液中IgAの上昇などが認められ、慢性ストレスではNK活性低下・細胞数減少、ConA/PHAリンパ球幼若化試験によって測られるT[[細胞増殖]]能低下、唾液中IgA低下などが認められる。
 胸腺・[[wj:骨髄|骨髄]]・[[wj:脾臓|脾臓]]・[[wj:リンパ節|リンパ節]]などの免疫系組織は、自律神経系の支配を受けている。また、リンパ球などの[[wj:免疫担当細胞|免疫担当細胞]]の膜表面には様々なホルモンや[[神経伝達物質]]に対する[[レセプター]]が発現しており、ストレス負荷時にはこれらのレセプターや[[伝達物質]]を介して免疫系も影響される(図3参照)。急性ストレス時にはNK活性の亢進、リンパ球[[wj:CD4|CD4]]/[[wj:CD8|CD8]]比の低下、[[wj:唾液|唾液]]中[[wj:IgA|IgA]]の上昇などが認められ、慢性ストレスではNK活性低下・細胞数減少、[[wj:ConA/PHAリンパ球幼若化試験|ConA/PHAリンパ球幼若化試験]]によって測られる[[wj:T細胞]]増殖能低下、唾液中IgA低下などが認められる。


===身体から脳へ===
===身体から脳へ===
 こころと体がつながっているというのは、現在のニューロサイエンスの中では大きな注目を集めている。特に、上記に述べてきたように、従来、こころ(脳)が身体をコントロールしている部分が大きいことは広く認知されていたわけだが、逆に身体状態もまたこころを形作るということが、最近の脳機能イメージングなどを主体としたニューロサイエンスなどでトピックスになっているからである。
 こころと体がつながっているというのは、現在のニューロサイエンスの中では大きな注目を集めている。特に、上記に述べてきたように、従来、こころ(脳)が身体をコントロールしている部分が大きいことは広く認知されていたわけだが、逆に身体状態もまたこころを形作るということが、最近の[[脳機能イメージング]]などを主体としたニューロサイエンスなどでトピックスになっているからである。


 Damasioらは、特にWilliams Jamesらの考え方をベースにして、意思決定や意識、主観的な感情体験などは、身体の状態を基礎として形成される、という一連の考えを提唱している<ref>''' Damasio, A.R.. '''<br> Descartes' Error: Emotion, Reason, and the Human Brain <br>'' New York Putnam..'': 1994</ref>。特に「ソマティック・マーカー仮説」と呼ばれる考え方: 意志決定は「合理的、理性的」になされると考えられがちであるが、実際は、無意識のうちに起こる身体的な反応がそのオプションを絞り込み、合理的思考が働くのはそのあとである、という考えは多くの支持を呼んだ。また、DamasioやCraigは、島皮質が、身体表象から主観的な感情体験を生み出すもとであると考えている。Craigは、「内受容感覚」への気づき(Interoceptive awareness)が情動・意識を生み出すもとであり、それには前島皮質が関与しているというエビデンスを詳細にレビューし、従来不明な部分が多かった島皮質の機能を明るみにしたものとして注目されている<ref name=ref16 /> <ref name=ref17 />。
 Damasioらは、特にWilliams Jamesらの考え方をベースにして、意思決定や意識、主観的な感情体験などは、身体の状態を基礎として形成される、という一連の考えを提唱している<ref>''' Damasio, A.R.. '''<br> Descartes' Error: Emotion, Reason, and the Human Brain <br>'' New York Putnam..'': 1994</ref>。特に「[[ソマティック・マーカー仮説]]」と呼ばれる考え方: 意志決定は「合理的、理性的」になされると考えられがちであるが、実際は、無意識のうちに起こる身体的な反応がそのオプションを絞り込み、合理的思考が働くのはそのあとである、という考えは多くの支持を呼んだ。また、DamasioやCraigは、[[島]]皮質が、身体表象から主観的な感情体験を生み出すもとであると考えている。Craigは、「内受容感覚」への気づき(Interoceptive awareness)が情動・意識を生み出すもとであり、それには[[前島皮質]]が関与しているというエビデンスを詳細にレビューし、従来不明な部分が多かった島皮質の機能を明るみにしたものとして注目されている<ref name=ref16 /> <ref name=ref17 />。


 100年以上前から続く、James-Lange, Schachter-Singerなどの情動理論からは、やはり心身が不可分で密接につながっているという認識から、情動や意識の問題を扱っていたのだが、現在になってその考えが見直されてきている。今後は、身体→脳、脳→身体という双方向のダイナミズムが脳科学の研究の対象になっていき、心身症の病態解明にすすむことが予想される。
 100年以上前から続く、James-Lange、 Schachter-Singerなどの情動理論からは、やはり心身が不可分で密接につながっているという認識から、情動や意識の問題を扱っていたのだが、現在になってその考えが見直されてきている。今後は、身体→脳、脳→身体という双方向のダイナミズムが脳科学の研究の対象になっていき、心身症の病態解明にすすむことが予想される。


==診断==
==診断==
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==治療==
==治療==
 心身症の治療法のベースは、身体症状に関しては、各臓器別・診療科別の治療法をまずベースに置く。さらに、精神科における一般的な治療法(薬物療法、カウンセリング、一般精神療法、[[行動療法]]・[[認知行動療法]]、[[精神分析療法]]、家族療法、ブリーフセラピー、芸術療法、作業療法、リクリエーションなど)を併合し、こころの問題・心理社会的側面に対応する。
 心身症の治療法のベースは、身体症状に関しては、各臓器別・診療科別の治療法をまずベースに置く。さらに、精神科における一般的な治療法([[薬物療法]]、カウンセリング、一般精神療法、[[行動療法]]・[[認知行動療法]]、[[精神分析療法]]、[[家族療法]]、[[ブリーフセラピー]]、[[芸術療法]]、[[作業療法]]、リクリエーションなど)を併合し、こころの問題・心理社会的側面に対応する。


 ここで重要な点は、常に心身の相互作用(心身相関)を頭に入れながらのアプローチが必要であるということであり、身体・こころの問題に別個に対応するのみでなく、その両者が効果的に統合される必要がある。この心身への統合的なアプローチが、心身症に対する特徴的な治療法といえる。
 ここで重要な点は、常に心身の相互作用(心身相関)を頭に入れながらのアプローチが必要であるということであり、身体・こころの問題に別個に対応するのみでなく、その両者が効果的に統合される必要がある。この心身への統合的なアプローチが、心身症に対する特徴的な治療法といえる。

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