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<font size="+1">北岡志保、[http://researchmap.jp/read0192882 古屋敷智之]</font><br> | |||
''京都大学 大学院医学研究科 医学専攻 医学研究科 医学専攻''<br> | |||
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2012年8月13日 原稿完成日:2012年11月2日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | |||
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英:prostaglandin、英略語:PG、独:Prostaglandine、仏:prostaglandine<br> | 英:prostaglandin、英略語:PG、独:Prostaglandine、仏:prostaglandine<br> | ||
{{box|text= | |||
プロスタグランジンは五員環構造を含む20個の炭素鎖からなる生理活性[[wikipedia:ja:脂質|脂質]]である<ref name="ref1"><pubmed>116251</pubmed></ref>。プロスタグランジンと構造の類似した[[トロンボキサン]]を併せてプロスタノイド(prostanoid)と称する。1930年に[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]の[[wikipedia:ja:精液|精液]]に含まれる[[wikipedia:ja:子宮|子宮]]収縮物質として発見された。[[wikipedia:ja:非ステロイド性抗炎症薬|非ステロイド性抗炎症薬]](NSAID)の抗[[wikipedia:ja:炎症|炎症]]作用、[[wikipedia:ja:鎮痛|鎮痛]]作用、[[wikipedia:ja:解熱|解熱]]作用は、主にプロスタノイドの合成阻害によると考えられている<ref name="ref2"><pubmed>9597150</pubmed></ref>。生体には五員環構造の側鎖や炭素鎖の二重結合の数の異なる多種のプロスタノイドが存在するが、これまでの研究では主にプロスタグランジンD<sub>2</sub> (PGD<sub>2</sub>)、プロスタグランジンE<sub>2</sub>(PGE<sub>2</sub>)、プロスタグランジンF<sub>2α</sub>(PGF<sub>2α</sub>)、 プロスタサイクリン(プロスタグランジンI<sub>2</sub>、PGI<sub>2</sub>)、トロンボキサンA<sub>2</sub>(TXA<sub>2</sub>)の役割が解析されてきた。PGD<sub>2</sub>、PGE<sub>2</sub>、PGF<sub>2α</sub>、PGI<sub>2</sub>、TXA<sub>2</sub>はDP、EP、FP、IP、TPと呼ばれる特異的な[[Gタンパク質共役型受容体]]を介して、多様な生理機能、病態生理機能に関わる<ref name="ref3"><pubmed>21357250</pubmed></ref>。これらの機能には、[[wikipedia:ja:循環器|循環器]]・[[wikipedia:ja:消化器|消化器]]・[[wikipedia:ja:骨|骨]]の[[wikipedia:ja:恒常性|恒常性]]維持、[[wikipedia:ja:卵巣|卵巣]]や子宮といった[[wikipedia:ja:生殖器|生殖器]]の機能、局所炎症に伴う[[wikipedia:ja:血管透過性|血管透過性]]亢進や[[wikipedia:ja:疼痛|疼痛]]惹起、[[wikipedia:ja:細胞性免疫|細胞性免疫]]応答、[[睡眠]]、疾病時の発熱や[[wikipedia:ja:内分泌|内分泌]]応答、[[神経変性疾患]]や[[脳虚血]]に伴う[[神経細胞死]]、脳機能的充血、[[シナプス可塑性]]や[[記憶学習]]、[[心理ストレス]]下での[[情動]]制御などが含まれる。 | プロスタグランジンは五員環構造を含む20個の炭素鎖からなる生理活性[[wikipedia:ja:脂質|脂質]]である<ref name="ref1"><pubmed>116251</pubmed></ref>。プロスタグランジンと構造の類似した[[トロンボキサン]]を併せてプロスタノイド(prostanoid)と称する。1930年に[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]の[[wikipedia:ja:精液|精液]]に含まれる[[wikipedia:ja:子宮|子宮]]収縮物質として発見された。[[wikipedia:ja:非ステロイド性抗炎症薬|非ステロイド性抗炎症薬]](NSAID)の抗[[wikipedia:ja:炎症|炎症]]作用、[[wikipedia:ja:鎮痛|鎮痛]]作用、[[wikipedia:ja:解熱|解熱]]作用は、主にプロスタノイドの合成阻害によると考えられている<ref name="ref2"><pubmed>9597150</pubmed></ref>。生体には五員環構造の側鎖や炭素鎖の二重結合の数の異なる多種のプロスタノイドが存在するが、これまでの研究では主にプロスタグランジンD<sub>2</sub> (PGD<sub>2</sub>)、プロスタグランジンE<sub>2</sub>(PGE<sub>2</sub>)、プロスタグランジンF<sub>2α</sub>(PGF<sub>2α</sub>)、 プロスタサイクリン(プロスタグランジンI<sub>2</sub>、PGI<sub>2</sub>)、トロンボキサンA<sub>2</sub>(TXA<sub>2</sub>)の役割が解析されてきた。PGD<sub>2</sub>、PGE<sub>2</sub>、PGF<sub>2α</sub>、PGI<sub>2</sub>、TXA<sub>2</sub>はDP、EP、FP、IP、TPと呼ばれる特異的な[[Gタンパク質共役型受容体]]を介して、多様な生理機能、病態生理機能に関わる<ref name="ref3"><pubmed>21357250</pubmed></ref>。これらの機能には、[[wikipedia:ja:循環器|循環器]]・[[wikipedia:ja:消化器|消化器]]・[[wikipedia:ja:骨|骨]]の[[wikipedia:ja:恒常性|恒常性]]維持、[[wikipedia:ja:卵巣|卵巣]]や子宮といった[[wikipedia:ja:生殖器|生殖器]]の機能、局所炎症に伴う[[wikipedia:ja:血管透過性|血管透過性]]亢進や[[wikipedia:ja:疼痛|疼痛]]惹起、[[wikipedia:ja:細胞性免疫|細胞性免疫]]応答、[[睡眠]]、疾病時の発熱や[[wikipedia:ja:内分泌|内分泌]]応答、[[神経変性疾患]]や[[脳虚血]]に伴う[[神経細胞死]]、脳機能的充血、[[シナプス可塑性]]や[[記憶学習]]、[[心理ストレス]]下での[[情動]]制御などが含まれる。 | ||
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[[Image:ProstanoidSignaling.jpg|thumb|350px|'''図 プロスタグランジン合成経路''']] | [[Image:ProstanoidSignaling.jpg|thumb|350px|'''図 プロスタグランジン合成経路''']] | ||
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PGD<sub>2</sub>、PGE<sub>2</sub>、PGF<sub>2α</sub>、PGI<sub>2</sub>、TXA<sub>2</sub>は、それぞれ[[DP]]、[[EP]]、[[FP]]、[[IP]]、[[TP]]と呼ばれるGタンパク質共役型受容体に結合して作用を発揮する<ref name="ref3" />。DPには[[DP1]]と[[DP2]]が、EPには[[EP1]]、[[EP2]]、[[EP3]]、[[EP4]]が存在し、それぞれ異なる遺伝子によりコードされている。 | PGD<sub>2</sub>、PGE<sub>2</sub>、PGF<sub>2α</sub>、PGI<sub>2</sub>、TXA<sub>2</sub>は、それぞれ[[DP]]、[[EP]]、[[FP]]、[[IP]]、[[TP]]と呼ばれるGタンパク質共役型受容体に結合して作用を発揮する<ref name="ref3" />。DPには[[DP1]]と[[DP2]]が、EPには[[EP1]]、[[EP2]]、[[EP3]]、[[EP4]]が存在し、それぞれ異なる遺伝子によりコードされている。 | ||
これらPG受容体は組織、細胞レベルの発現分布や[[細胞内情報伝達]]が異なることで、特異的な機能を発揮すると考えられている<ref name="ref3" />。DP2以外の八種の受容体はプロスタノイド受容体ファミリーを形成し、細胞内情報伝達とその作用からrelaxant receptor、contractile receptor、inhibitory receptorの三種に分類されている<ref name="ref3" />。Relaxant receptorは主に[[Gs]]を介して[[CAMP]]上昇を惹起し[[平滑筋]]の弛緩を誘導する受容体で、DP1、EP2、EP4、IPを含む。Contractile receptorは主に細胞内Ca<sup>2+</sup>上昇を惹起し平滑筋の収縮を誘導する受容体で、TP、FP、EP1を含む。Inhibitory receptorは主に[[Gi]] | これらPG受容体は組織、細胞レベルの発現分布や[[細胞内情報伝達]]が異なることで、特異的な機能を発揮すると考えられている<ref name="ref3" />。DP2以外の八種の受容体はプロスタノイド受容体ファミリーを形成し、細胞内情報伝達とその作用からrelaxant receptor、contractile receptor、inhibitory receptorの三種に分類されている<ref name="ref3" />。Relaxant receptorは主に[[Gs]]を介して[[CAMP]]上昇を惹起し[[平滑筋]]の弛緩を誘導する受容体で、DP1、EP2、EP4、IPを含む。Contractile receptorは主に細胞内Ca<sup>2+</sup>上昇を惹起し平滑筋の収縮を誘導する受容体で、TP、FP、EP1を含む。Inhibitory receptorは主に[[Gi]]を介する[[cAMP]]抑制により平滑筋の弛緩を抑制する受容体で、EP3を含む。但し、EP3にはマウスでは三種、ヒトでは四種のalternative splicingアイソフォームが存在し、ヒトTPにもαとβと呼ばれる二つのアイソフォームが存在する。これらのアイソフォームは異なる細胞内情報伝達に共役することが知られている。DP2は他の八種の受容体とは別のファミリーに属し、CRTH2やGPR44とも称される<ref name="ref15"><pubmed>12895600</pubmed></ref>。Giと共役して[[Th2細胞]]、[[wikipedia:ja:好酸球|好酸球]]、[[wikipedia:ja:好塩基球|好塩基球]]の遊走を誘導することが知られている。 | ||
このように、プロスタグランジンの生合成や作用に関わる分子種は多岐にわたるが、PGを標的とした従来の化合物は特異性が低く、各種PGの作用機序は長らく不明であった。PG生合成酵素群やPG受容体の同定とクローニングが進み、[[遺伝子欠損マウス]]や特異的阻害薬が開発されたことで、各種PGとその受容体の特異的な役割が解明されてきた。本稿では、脳機能と関連の深い機能に限って紹介する。<br> | このように、プロスタグランジンの生合成や作用に関わる分子種は多岐にわたるが、PGを標的とした従来の化合物は特異性が低く、各種PGの作用機序は長らく不明であった。PG生合成酵素群やPG受容体の同定とクローニングが進み、[[遺伝子欠損マウス]]や特異的阻害薬が開発されたことで、各種PGとその受容体の特異的な役割が解明されてきた。本稿では、脳機能と関連の深い機能に限って紹介する。<br> | ||
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| PGD<sub>2</sub> | | PGD<sub>2</sub> | ||
| G<sub>s</sub>: cAMP上昇 | | G<sub>s</sub>: cAMP上昇 | ||
| | | 睡眠促進、[[摂食]]促進、筋萎縮性側索硬化症モデル | ||
|- | |- | ||
| EP2 | | EP2 | ||
| PGE<sub>2</sub> | | PGE<sub>2</sub> | ||
| G<sub>s</sub>: cAMP上昇 | | G<sub>s</sub>: cAMP上昇 | ||
| 疼痛、長期的空間学習、文脈型恐怖条件付け、<br>シナプス長期可塑性、興奮性神経細胞死、<br> | | 疼痛、長期的空間学習、文脈型恐怖条件付け、<br>シナプス長期可塑性、興奮性神経細胞死、<br>[[アルツハイマー病]]モデル、筋萎縮性側索硬化症モデル | ||
|- | |- | ||
| EP4 | | EP4 | ||
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| PGE<sub>2</sub> | | PGE<sub>2</sub> | ||
| 細胞内Ca<sup>2+</sup>上昇<br>(G蛋白は不明) | | 細胞内Ca<sup>2+</sup>上昇<br>(G蛋白は不明) | ||
| | | 末梢炎症によるACTH[[分泌]]、疼痛、<br>衝動性抑制、慢性ストレスによる抑うつ・不安、<br>コカインによる運動刺激作用、<br>興奮性神経細胞死、アルツハイマー病モデル | ||
|- | |- | ||
| FP | | FP | ||
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=== HPA系活性化 === | === HPA系活性化 === | ||
視床下部の[[室傍核]](paraventricular hypothalamic nucleus; PVN)の小細胞領域には[[コルチコトロピン放出因子]](corticotropin-releasing hormone; CRH)陽性の神経細胞が存在する。このCRH陽性神経細胞は[[正中隆起]](median eminence; ME)に[[軸索]]を投射しており、神経細胞の活性化に応じてCRHを[[下垂体門脈系]]に放出する。CRHは[[下垂体前葉]]からの[[副腎皮質刺激ホルモン]](adrenocorticotropic hormone; ACTH)放出を誘導し、ACTHは[[wikipedia:ja:副腎皮質|副腎皮質]]から[[糖質コルチコイド]] | 視床下部の[[室傍核]](paraventricular hypothalamic nucleus; PVN)の小細胞領域には[[コルチコトロピン放出因子]](corticotropin-releasing hormone; CRH)陽性の神経細胞が存在する。このCRH陽性神経細胞は[[正中隆起]](median eminence; ME)に[[軸索]]を投射しており、神経細胞の活性化に応じてCRHを[[下垂体門脈系]]に放出する。CRHは[[下垂体前葉]]からの[[副腎皮質刺激ホルモン]](adrenocorticotropic hormone; ACTH)放出を誘導し、ACTHは[[wikipedia:ja:副腎皮質|副腎皮質]]から[[糖質コルチコイド]]放出を促す。この一連の過程を[[HPA系]]活性化と称する。視索前野へのNSAIDとPGE<sub>2</sub>の局所投与実験から、LPSによるHPA系活性化に視索前野におけるPGE<sub>2</sub>作用が関与することが示唆されてきた<ref name="ref28"><pubmed>9922367</pubmed></ref>。 | ||
LPS投与によるHPA系活性化にはタイミングによって異なるPGE<sub>2</sub>生成機構が関与する。すなわちCOX-2やmPGES-1の欠損マウスではLPS投与から6時間後の[[コルチコステロン]]放出は減弱するが、LPS投与から1時間後では減弱を認めない<ref name="ref29"><pubmed>19193887</pubmed></ref>。LPS投与により脳内の血管内皮細胞におけるCOX-2とmPGES-1の発現が共に誘導されることから、LPSによるHPA系活性化の後期相に血管内皮からのPGE2産生が関与する可能性が示唆される。一方、COX-1欠損マウスではLPS投与から1時間後のコルチコステロン上昇が消失するのに対し、6時間後のコルチコステロン上昇は正常であることから、HPA系活性化の初期相にはCOX-1を介したPG産生が関わる<ref name="ref30"><pubmed>20034541</pubmed></ref>。COX-1特異的阻害薬の脳室内投与によりLPS投与によるHPA系活性化の初期相が阻害されることから、COX-1の作用点は脳内であると考えられる<ref name="ref31"><pubmed>19828811</pubmed></ref>。生理的条件下ではCOX-1はミクログリアや血管周囲マクロファージに発現しているが、LPS投与により速やかに血管内皮に誘導されることが報告されている<ref name="ref31" />。 | LPS投与によるHPA系活性化にはタイミングによって異なるPGE<sub>2</sub>生成機構が関与する。すなわちCOX-2やmPGES-1の欠損マウスではLPS投与から6時間後の[[コルチコステロン]]放出は減弱するが、LPS投与から1時間後では減弱を認めない<ref name="ref29"><pubmed>19193887</pubmed></ref>。LPS投与により脳内の血管内皮細胞におけるCOX-2とmPGES-1の発現が共に誘導されることから、LPSによるHPA系活性化の後期相に血管内皮からのPGE2産生が関与する可能性が示唆される。一方、COX-1欠損マウスではLPS投与から1時間後のコルチコステロン上昇が消失するのに対し、6時間後のコルチコステロン上昇は正常であることから、HPA系活性化の初期相にはCOX-1を介したPG産生が関わる<ref name="ref30"><pubmed>20034541</pubmed></ref>。COX-1特異的阻害薬の脳室内投与によりLPS投与によるHPA系活性化の初期相が阻害されることから、COX-1の作用点は脳内であると考えられる<ref name="ref31"><pubmed>19828811</pubmed></ref>。生理的条件下ではCOX-1はミクログリアや血管周囲マクロファージに発現しているが、LPS投与により速やかに血管内皮に誘導されることが報告されている<ref name="ref31" />。 | ||
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脳内のPGE<sub>2</sub>は、疾病応答のみならず、心理[[ストレス]]下での情動制御にも関与することが示されている<ref name="ref53"><pubmed>21116297</pubmed></ref>。EP1欠損マウスは、[[社会行動]]の破綻と[[攻撃性]]の亢進、断崖からの異常な飛び降り行動、[[音驚愕反応]]の亢進を呈する<ref name="ref54"><pubmed>16247016</pubmed></ref>。一方、[[オープンフィールド]]における運動量、[[高架式十字迷路]]における[[不安行動]]、[[Y字迷路]]における短期[[記憶]][[学習]]、ホームケージにおける行動には明らかな異常を認めない。これらの行動異常から、心理ストレス下での衝動性制御におけるEP1の役割が提唱されている。この行動異常の一部はEP1阻害薬投与により再現される。さらにEP1アゴニストの脳室内投与により攻撃性が抑制されることから、EP1の作用点は脳内にあることが示唆された<ref name="ref54" />。 | 脳内のPGE<sub>2</sub>は、疾病応答のみならず、心理[[ストレス]]下での情動制御にも関与することが示されている<ref name="ref53"><pubmed>21116297</pubmed></ref>。EP1欠損マウスは、[[社会行動]]の破綻と[[攻撃性]]の亢進、断崖からの異常な飛び降り行動、[[音驚愕反応]]の亢進を呈する<ref name="ref54"><pubmed>16247016</pubmed></ref>。一方、[[オープンフィールド]]における運動量、[[高架式十字迷路]]における[[不安行動]]、[[Y字迷路]]における短期[[記憶]][[学習]]、ホームケージにおける行動には明らかな異常を認めない。これらの行動異常から、心理ストレス下での衝動性制御におけるEP1の役割が提唱されている。この行動異常の一部はEP1阻害薬投与により再現される。さらにEP1アゴニストの脳室内投与により攻撃性が抑制されることから、EP1の作用点は脳内にあることが示唆された<ref name="ref54" />。 | ||
[[衝動性]]の制御には[[ドーパミン]]など[[モノアミン系]]の重要性が知られている。ドーパミン放出の生化学的指標であるドーパミン代謝回転計測や[[脳微小透析法]]による細胞外ドーパミン濃度計測から、EP1欠損マウスの[[前頭前皮質]]や[[線条体]]ではドーパミン放出が亢進していることが示唆された<ref name="ref54" /><ref name="ref55"><pubmed>20092576</pubmed></ref>。さらにEP1欠損マウスの攻撃性や音驚愕反応の亢進が[[ドーパミンD1様受容体]]阻害薬により消失することから<ref name="ref54" />、EP1欠損マウスの行動異常の少なくとも一部はドーパミン系亢進によると考えられている。このEP1作用に合致し、EP1アゴニストにより[[黒質緻密部]] | [[衝動性]]の制御には[[ドーパミン]]など[[モノアミン系]]の重要性が知られている。ドーパミン放出の生化学的指標であるドーパミン代謝回転計測や[[脳微小透析法]]による細胞外ドーパミン濃度計測から、EP1欠損マウスの[[前頭前皮質]]や[[線条体]]ではドーパミン放出が亢進していることが示唆された<ref name="ref54" /><ref name="ref55"><pubmed>20092576</pubmed></ref>。さらにEP1欠損マウスの攻撃性や音驚愕反応の亢進が[[ドーパミンD1様受容体]]阻害薬により消失することから<ref name="ref54" />、EP1欠損マウスの行動異常の少なくとも一部はドーパミン系亢進によると考えられている。このEP1作用に合致し、EP1アゴニストにより[[黒質緻密部]]のドーパミン神経細胞への[[抑制性シナプス]]入力が増強されることが示されている<ref name="ref55" />。 | ||
EP1によるドーパミン系抑制は[[反復ストレス]]による情動変容誘導にも重要である<ref name="ref56"><pubmed>22442093</pubmed></ref>。反復社会挫折ストレスは社会的忌避行動や不安様行動を誘導するが、EP1欠損マウスではこれらの情動変容が観察されない。[[社会挫折ストレス]]は[[前頭前皮質]]に投射する[[腹側被蓋野]]([[ventral tegmental area]]; [[VTA]] | EP1によるドーパミン系抑制は[[反復ストレス]]による情動変容誘導にも重要である<ref name="ref56"><pubmed>22442093</pubmed></ref>。反復社会挫折ストレスは社会的忌避行動や不安様行動を誘導するが、EP1欠損マウスではこれらの情動変容が観察されない。[[社会挫折ストレス]]は[[前頭前皮質]]に投射する[[腹側被蓋野]]([[ventral tegmental area]]; [[VTA]])ドーパミン神経細胞を活性化し、社会的忌避行動の発現を抑制する。社会挫折ストレスの反復により前頭前皮質ドーパミン系の応答は抑制されるが、EP1欠損マウスではこの前頭前皮質ドーパミン系の抑制が消失する。さらにEP1欠損マウスへのドーパミン[[D1様受容体]]阻害薬の投与により社会的忌避行動が回復することから、PGE<sub>2</sub>-EP1系による前頭前皮質ドーパミン系の抑制が反復ストレスによる情動変容に関わることが示唆される。反復ストレスによる社会的忌避行動誘導にはCOX-1が特異的に関与する<ref name="ref56" />。脳内ではCOX-1は[[ミクログリア]]に発現しており、反復ストレスによりミクログリア活性化が誘導されることが組織学的に示唆されている<ref name="ref56" />。これらの結果は、反復ストレスによる情動変容にミクログリア由来のPGE<sub>2</sub>産生が関与する可能性を提示するが、今後の検証が必要である。 | ||
一方、EP1欠損マウスでは、細胞外ドーパミン濃度を上昇させる[[コカイン]] | 一方、EP1欠損マウスでは、細胞外ドーパミン濃度を上昇させる[[コカイン]]やドーパミン[[D1]]様受容体アゴニストの全身投与による運動量増加の度合いが減弱している<ref name="ref57"><pubmed>18032663</pubmed></ref>。EP1は線条体では[[直接路]]と[[間接路]]を形成する[[中型有棘細胞]]に発現している。線条体[[スライス]]におけるEP1活性化は、ドーパミン[[D1受容体]]活性化による[[DARPP-32]] Thr34リン酸化亢進と[[ドーパミンD2受容体]]活性化によるDARPP-32 Thr34リン酸化抑制のいずれも促進することが示されている。 | ||
=== シナプス可塑性と記憶学習 === | === シナプス可塑性と記憶学習 === | ||
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海馬へのPG合成阻害薬の投与により、[[迷路|水迷路試験]]における海馬依存的な長期的[[空間学習]]の障害が認められる<ref name="ref58"><pubmed> 11917005 </pubmed></ref>。さらにEP2欠損マウスでも海馬依存的な[[文脈型恐怖条件付け]]<ref name="ref59"><pubmed> 19416671 </pubmed></ref>や水迷路試験による長期的空間学習<ref name="ref60"><pubmed> 19012750 </pubmed></ref>が障害されるとの報告がある。この行動異常に合致し、EP2欠損マウスでは海馬の複数のシナプスで[[シナプス長期可塑性]]の異常が報告されている<ref name="ref59" /><ref name="ref60" />。一方で、海馬でのIL-1βの過剰発現は海馬でのPGE<sub>2</sub>産生と同時に、海馬依存的な文脈型恐怖条件付けの障害を惹起するが、この両者がCOX-1欠損マウスでは見られない<ref name="ref61"><pubmed> 20412387 </pubmed></ref>。さらに背側海馬へのPGE<sub>2</sub>の局所投与により、海馬依存的な文脈型恐怖条件付けが障害される<ref name="ref62"><pubmed> 18035502 </pubmed></ref>。これらの結果は、海馬機能における生理的なPGE<sub>2</sub>の役割に対し、過度のPGE<sub>2</sub>産生は海馬機能を障害する可能性を示唆している。 | 海馬へのPG合成阻害薬の投与により、[[迷路|水迷路試験]]における海馬依存的な長期的[[空間学習]]の障害が認められる<ref name="ref58"><pubmed> 11917005 </pubmed></ref>。さらにEP2欠損マウスでも海馬依存的な[[文脈型恐怖条件付け]]<ref name="ref59"><pubmed> 19416671 </pubmed></ref>や水迷路試験による長期的空間学習<ref name="ref60"><pubmed> 19012750 </pubmed></ref>が障害されるとの報告がある。この行動異常に合致し、EP2欠損マウスでは海馬の複数のシナプスで[[シナプス長期可塑性]]の異常が報告されている<ref name="ref59" /><ref name="ref60" />。一方で、海馬でのIL-1βの過剰発現は海馬でのPGE<sub>2</sub>産生と同時に、海馬依存的な文脈型恐怖条件付けの障害を惹起するが、この両者がCOX-1欠損マウスでは見られない<ref name="ref61"><pubmed> 20412387 </pubmed></ref>。さらに背側海馬へのPGE<sub>2</sub>の局所投与により、海馬依存的な文脈型恐怖条件付けが障害される<ref name="ref62"><pubmed> 18035502 </pubmed></ref>。これらの結果は、海馬機能における生理的なPGE<sub>2</sub>の役割に対し、過度のPGE<sub>2</sub>産生は海馬機能を障害する可能性を示唆している。 | ||
シナプス可塑性におけるPGの関与は大脳皮質や小脳でも報告されている。[[ラット]][[視覚野]]の第IV層を刺激した際の第II/III層[[錐体細胞]] | シナプス可塑性におけるPGの関与は大脳皮質や小脳でも報告されている。[[ラット]][[視覚野]]の第IV層を刺激した際の第II/III層[[錐体細胞]]における[[興奮性シナプス]]応答は高周波数刺激により[[シナプス長期増強]]を示すが、このシナプス長期増強は[[RNA干渉法]]によるEP2の発現抑制により減弱し、EP3の発現抑制により亢進する。この結果は、大脳皮質のシナプス長期増強においてEP2とEP3が反対の作用を持つことを示唆する<ref name="ref63"><pubmed> 17021176 </pubmed></ref>。[[小脳]][[プルキンエ細胞]]の[[シナプス長期抑制]]はPG生成に関わるcPLA<sub>2</sub>α欠損マウスにより消失し、この異常が外来性に加えたアラキドン酸やPGD<sub>2</sub>、PGE<sub>2</sub>により正常化することも報告されているが、この作用を介達する受容体はまだ分かっていない<ref name="ref64"><pubmed> 20133605 </pubmed></ref>。 | ||
=== 脳機能的充血 === | === 脳機能的充血 === | ||
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=== 高血圧 === | === 高血圧 === | ||
近年、血中の[[アンジオテンシンII]]による交感神経系の活性化と高血圧における[[脳弓下器官]](subfornical organ; SFO)の関与が示唆されている。COX-1とEP1の遺伝子欠損マウスでは、アンジオテンシンII(angiotensin II; Ang II)投与による[[wikipedia:ja:高血圧|高血圧]]誘導が消失する<ref name="ref69"><pubmed>22371360</pubmed></ref>。AngIIはSFOにおける[[wikipedia:ja:活性酸素|活性酸素]]種の誘導を惹起するが、この活性酸素種の誘導がCOX- | 近年、血中の[[アンジオテンシンII]]による交感神経系の活性化と高血圧における[[脳弓下器官]](subfornical organ; SFO)の関与が示唆されている。COX-1とEP1の遺伝子欠損マウスでは、アンジオテンシンII(angiotensin II; Ang II)投与による[[wikipedia:ja:高血圧|高血圧]]誘導が消失する<ref name="ref69"><pubmed>22371360</pubmed></ref>。AngIIはSFOにおける[[wikipedia:ja:活性酸素|活性酸素]]種の誘導を惹起するが、この活性酸素種の誘導がCOX-1やEP1の遺伝子欠損およびEP1阻害薬により消失する。さらに、EP1欠損マウスの[[脳弓]]下器官にEP1を再導入すると、Ang IIによる高血圧が正常に誘導されることから、Ang IIはSFOのCOX-1-PGE2-EP1系を介して活性酸素種を発生させ、これが交感神経系の活性化と高血圧を誘導すると考えられている。 | ||
=== 神経細胞死 === | === 神経細胞死 === | ||
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神経細胞死におけるPGE<sub>2</sub>の作用機序についてはPGE受容体欠損マウスを用いた解析から、少なくともEP1、EP2、EP3の関与が示されている。[[NMDA]]の局所投与による神経細胞死や[[脳虚血]]による[[梗塞]]巣はEP1阻害薬投与やEP1欠損マウスでは減弱する<ref name="ref71"><pubmed>16432513</pubmed></ref><ref name="ref72"><pubmed>17600836</pubmed></ref>。興奮毒性には細胞内Ca2+上昇が重要であるが、NMDA刺激による[[Na+-Ca2+交換輸送体|Na<sup>+</sup>-Ca<sup>2+</sup>交換輸送体]]の機能低下と細胞内Ca<sup>2+</sup>上昇にEP1が関与することが遺伝子欠損マウスと特異的阻害薬により示されている<ref name="ref71" />。 | 神経細胞死におけるPGE<sub>2</sub>の作用機序についてはPGE受容体欠損マウスを用いた解析から、少なくともEP1、EP2、EP3の関与が示されている。[[NMDA]]の局所投与による神経細胞死や[[脳虚血]]による[[梗塞]]巣はEP1阻害薬投与やEP1欠損マウスでは減弱する<ref name="ref71"><pubmed>16432513</pubmed></ref><ref name="ref72"><pubmed>17600836</pubmed></ref>。興奮毒性には細胞内Ca2+上昇が重要であるが、NMDA刺激による[[Na+-Ca2+交換輸送体|Na<sup>+</sup>-Ca<sup>2+</sup>交換輸送体]]の機能低下と細胞内Ca<sup>2+</sup>上昇にEP1が関与することが遺伝子欠損マウスと特異的阻害薬により示されている<ref name="ref71" />。 | ||
一方、[[初代培養]]した海馬神経細胞や海馬[[スライス標品]] | 一方、[[初代培養]]した海馬神経細胞や海馬[[スライス標品]]では[[グルタミン酸]]受容体活性化による神経細胞死がEP2アゴニストや[[アロステリック]]なEP2[[賦活薬]]により減弱することが報告されている<ref name="ref73"><pubmed> 14715958 </pubmed></ref><ref name="ref74"><pubmed> 20080612 </pubmed></ref>。この結果に合致し、EP2欠損マウスでは脳虚血モデルにおける梗塞巣が増大する<ref name="ref75"><pubmed> 15852374 </pubmed></ref>。しかし、後に詳述する[[神経変性疾患]]モデルマウスにおける神経細胞死はEP2欠損により減弱し<ref name="ref76"><pubmed>16267225</pubmed></ref><ref name="ref77"><pubmed>18825663</pubmed></ref>、[[ピロカルピン]]投与による神経細胞死もEP2阻害薬により減弱することから<ref name="ref78"><pubmed>22323596</pubmed></ref>、神経細胞死におけるEP2の役割は複雑である。 | ||
EP3の活性化は興奮毒性による神経細胞死を促進することが示されている。大脳皮質へのNMDA局所投与や海馬スライスへのグルタミン酸投与による神経細胞死はEP3の機能阻害により減弱し、EP3アゴニストにより増強する<ref name="ref79"><pubmed>17275922</pubmed></ref><ref name="ref80"><pubmed>20590584</pubmed></ref>。[[カイニン酸]]投与による神経細胞死に伴い、血管周囲に隣接する[[アストロサイト]]の突起endfeetにはEP3の発現が誘導され<ref name="ref70" />、さらにカイニン酸投与によるアストロサイトでの細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度上昇にEP3が関与していることが薬理学的に示されている<ref name="ref81"><pubmed>21219953</pubmed></ref>。これらの結果から、カイニン酸による血管内皮からのPGE<sub>2</sub>がアストロサイトのEP3に作用する可能性が指摘されている。 | EP3の活性化は興奮毒性による神経細胞死を促進することが示されている。大脳皮質へのNMDA局所投与や海馬スライスへのグルタミン酸投与による神経細胞死はEP3の機能阻害により減弱し、EP3アゴニストにより増強する<ref name="ref79"><pubmed>17275922</pubmed></ref><ref name="ref80"><pubmed>20590584</pubmed></ref>。[[カイニン酸]]投与による神経細胞死に伴い、血管周囲に隣接する[[アストロサイト]]の突起endfeetにはEP3の発現が誘導され<ref name="ref70" />、さらにカイニン酸投与によるアストロサイトでの細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度上昇にEP3が関与していることが薬理学的に示されている<ref name="ref81"><pubmed>21219953</pubmed></ref>。これらの結果から、カイニン酸による血管内皮からのPGE<sub>2</sub>がアストロサイトのEP3に作用する可能性が指摘されている。 | ||
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=== アルツハイマー病 === | === アルツハイマー病 === | ||
アルツハイマー病([[Alzheimer’s disease]]; AD)は、[[認知機能]]低下、[[人格]]の変化を主とする[[認知症]]の一種である。脳病理所見としては、びまん性の[[脳萎縮]]と大脳皮質に[[βアミロイド]](Aβ)の蓄積である[[老人斑]]と[[神経原線維変化]]を認める。ADの小動物モデルとして、家族性ADの原因遺伝子として同定された[[アミロイド前駆タンパク質]](amyloid precursor protein; APP)や[[プレセニリン]](presenilin)の変異体を発現させた遺伝子改変マウスがある。これらAD小動物モデルでは、EP1、EP2、EP4の欠損により[[Aβ42]]、[[Aβ40]]の産生や[[アミロイド斑]]の形成が減少することが示されている<ref name="ref76" /><ref name="ref82"><pubmed>22015313</pubmed></ref><ref name="ref83"><pubmed>22044482</pubmed></ref>。この変化に合致し、EP1欠損によりADモデルでの神経細胞死が減少し、[[受動的回避行動テスト]]における恐怖条件付けの障害が改善することが示されている<ref name="ref82" />。EP4欠損によりモリス[[水迷路]]試験における長期空間学習の障害が改善することも報告されている<ref name="ref83" />。 | |||
培養細胞を用いた実験から、EP1、EP2、EP4が特異的な作用機序を介してAD病態に関わることが示唆されている。例えばEP1を欠損した[[初代培養神経]]細胞では、Aβ投与による細胞内[[CA2|Ca2]]+上昇と神経細胞死が減弱する<ref name="ref82" />。一方、HEK293細胞における過剰発現系を用いて、EP2やEP4の活性化がAβ産生を増強することが示された<ref name="ref84"><pubmed>19407341</pubmed></ref>。また、Aβによる神経細胞死はミクログリアの共培養により促進されるが、この作用はミクログリアのEP2に依存することが示されており<ref name="ref85"><pubmed>15793296</pubmed></ref>、ADの病態にミクログリアのEP2が関わる可能性も示唆されている。 | |||
=== 筋萎縮性側索硬化症 === | === 筋萎縮性側索硬化症 === | ||
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=== 精神疾患 === | === 精神疾患 === | ||
PG合成を阻害するNSAIDである[[セレコキシブ]]の併用により、既存の[[抗うつ薬]]の治療効果が増強されることを示す臨床報告が散見される。[[統合失調症]] | PG合成を阻害するNSAIDである[[セレコキシブ]]の併用により、既存の[[抗うつ薬]]の治療効果が増強されることを示す臨床報告が散見される。[[統合失調症]]でもセレコキシブの併用により[[抗精神病薬]]の作用が増強されることも報告されている<ref name="ref87"><pubmed>12042193</pubmed></ref><ref name="ref88"><pubmed>20570110</pubmed></ref><ref name="ref89"><pubmed>16491133</pubmed></ref><ref name="ref90"><pubmed>22516310</pubmed></ref>。これらの結果は、[[うつ病]]や統合失調症の病態にPGが関与する可能性を提示する。 | ||
一方、[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]]([[SSRI]])である[[シタロプラム]]や[[フルオキセチン]]は、前頭前皮質での[[炎症性サイトカイン]]の発現誘導や[[尾懸垂試験]]や[[強制水泳試験]]での[[抑うつ様行動]]を抑制するが、SSRIのこれらの作用がNSAIDである[[イブプロフェン]]や[[アスピリン]]で阻害されることが報告された<ref name="ref91"><pubmed>21518864</pubmed></ref>。さらに、[[シタロプラム]]服用によるうつ病の寛解率は、NSAID服用群の方が非服用群よりも有意に低いことも示く、SSRIの治療効果にもPGが関与する可能性が示唆されている<ref name="ref91" />。 | 一方、[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]]([[SSRI]])である[[シタロプラム]]や[[フルオキセチン]]は、前頭前皮質での[[炎症性サイトカイン]]の発現誘導や[[尾懸垂試験]]や[[強制水泳試験]]での[[抑うつ様行動]]を抑制するが、SSRIのこれらの作用がNSAIDである[[イブプロフェン]]や[[アスピリン]]で阻害されることが報告された<ref name="ref91"><pubmed>21518864</pubmed></ref>。さらに、[[シタロプラム]]服用によるうつ病の寛解率は、NSAID服用群の方が非服用群よりも有意に低いことも示く、SSRIの治療効果にもPGが関与する可能性が示唆されている<ref name="ref91" />。 | ||
これらの結果から、[[精神疾患]]の病態や薬物治療において複数のPG作用が示唆されるが、NSAIDにはPG合成阻害以外の作用もあることから、PG関連分子群の遺伝子改変マウスや特異的化合物を用いた解析が重要になると考えられる。 | |||
== 関連項目 == | == 関連項目 == | ||
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== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references /> | <references /> | ||