「光周性」の版間の差分

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==制御機構==
==制御機構==
===光周性の理解に貢献してきたモデル===
===光周性の理解に貢献してきたモデル===
[[Image:external coincidence.jpg'''図1 外的符合モデルの模式図。矢印で示した光誘導相に光があたると長日と認識される。黄色部分は明期を、灰色部分は暗期を示す。''']]。
[[Image:external coincidence.jpg|thumb|350px|'''図1.外的符合モデルの模式図'''<br>矢印で示した光誘導相に光があたると長日と認識される。黄色部分は明期を、灰色部分は暗期を示す。]]。
 
[[Image:internal coincidence.jpg|thumb|350px|'''図2.内的符合モデルの模式図'''<br>Morning振動体とEvening振動体の二つの振動体の位相関係の変化によって日長を測定する。黄色部分は明期を、灰色部分は暗期を示す。]]


 光周性は概日リズムの制御と同様に、光を受容する「入力系」、日長を測定する「振動体」、および行動や生理機能を制御する神経系、内分泌系などの「出力系」によって制御されている。生物はある一定の日長を境にして、光周反応を起こしたり、起こさなかったりするが、この境界となる日長を臨界日長あるいは限界日長(critical photoperiod)と呼ぶ。
 光周性は概日リズムの制御と同様に、光を受容する「入力系」、日長を測定する「振動体」、および行動や生理機能を制御する神経系、内分泌系などの「出力系」によって制御されている。生物はある一定の日長を境にして、光周反応を起こしたり、起こさなかったりするが、この境界となる日長を臨界日長あるいは限界日長(critical photoperiod)と呼ぶ。


 光周性の研究が始まった当初は、日長は砂時計のような仕組みによって測定されていると考えられていたが、現在は支持されていない。その後1936年にBünningは、概日時計が親明相(photophil phase)と親暗相(scotophil phase)を決定しており、この親暗相に光が当たるか否かによって長日、短日が判別されているというBünningの仮説(Bünning’s hypothesis)を提唱した<ref>'''E Bünning'''<br>Die endonome Tagesrhythmik als Grundlage der photoperiodischen Reaktion.<br> ''Ber. Dtsch. Bot. Ges. 1936, 54;590-607''</ref>。この仮説で初めて光周性が振動現象に基づく可能性が指摘された。1940~50年代になると生物を非24時間周期の明暗周期に曝す実験が行われ、概日時計が光周性の制御に関与していることが実験的に証明された。1960年代にはPittendrighがBünningの仮説を発展させた「外的符合モデル(external coincidence model)」を提案した <ref>'''C S Pittendrigh, D H Minis'''<br>The entrainment of circadian oscillations by light and their role as photoperiodic clocks.<br>''Am. Nat. 1964, 98;261-299''</ref>。このモデルでは、光の概日時計を同調させる役割と、光周反応を引き起こす役割の二つの役割が想定されている。またこのモデルでは、1日の中の特定の時間帯の光だけが光周反応を引き起こすことが示されており、光誘導相(photoinducible phase)、あるいは光感受相(photosensitive phase)と呼ばれている。その他のモデルとして、Morning振動体、Evening振動体の二つの振動体の位相関係が日長の変化によって変わることで、光周反応が引き起こされるとする「内的符合モデル(internal coincidence model)」も提唱されている<ref><pubmed> 4506793 </pubmed></ref> [[Image:internal coincidence.jpg'''内的符合モデルの模式図。Morning振動体とEvening振動体の二つの振動体の位相関係の変化によって日長を測定する。黄色部分は明期を、灰色部分は暗期を示す。''']]。外的符合モデル、内的符合モデルの二つのモデルは今日においても光周性の制御機構を理解する上で、重要な役割を果たしている。
 光周性の研究が始まった当初は、日長は砂時計のような仕組みによって測定されていると考えられていたが、現在は支持されていない。その後1936年にBünningは、概日時計が親明相(photophil phase)と親暗相(scotophil phase)を決定しており、この親暗相に光が当たるか否かによって長日、短日が判別されているというBünningの仮説(Bünning’s hypothesis)を提唱した<ref>'''E Bünning'''<br>Die endonome Tagesrhythmik als Grundlage der photoperiodischen Reaktion.<br> ''Ber. Dtsch. Bot. Ges. 1936, 54;590-607''</ref>。この仮説で初めて光周性が振動現象に基づく可能性が指摘された。1940~50年代になると生物を非24時間周期の明暗周期に曝す実験が行われ、概日時計が光周性の制御に関与していることが実験的に証明された。1960年代にはPittendrighがBünningの仮説を発展させた「外的符合モデル(external coincidence model)」を提案した <ref>'''C S Pittendrigh, D H Minis'''<br>The entrainment of circadian oscillations by light and their role as photoperiodic clocks.<br>''Am. Nat. 1964, 98;261-299''</ref>(図1)。このモデルでは、光の概日時計を同調させる役割と、光周反応を引き起こす役割の二つの役割が想定されている。またこのモデルでは、1日の中の特定の時間帯の光だけが光周反応を引き起こすことが示されており、光誘導相(photoinducible phase)、あるいは光感受相(photosensitive phase)と呼ばれている。その他のモデルとして、Morning振動体、Evening振動体の二つの振動体の位相関係が日長の変化によって変わることで、光周反応が引き起こされるとする「内的符合モデル(internal coincidence model)」も提唱されている<ref><pubmed> 4506793 </pubmed></ref>(図2)。外的符合モデル、内的符合モデルの二つのモデルは今日においても光周性の制御機構を理解する上で、重要な役割を果たしている。


===鳥類の光周性の制御機構===
===鳥類の光周性の制御機構===
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====鳥類の光周性を制御する情報伝達機構====
====鳥類の光周性を制御する情報伝達機構====
 1960~90年代にはウズラを用いて生理学的な実験が行われた。まず脳の破壊実験により、視床下部内側基底部を破壊すると光周性が失われることが示された<ref><pubmed> 5362399 </pubmed></ref>。また長日刺激によって、細胞の活性化マーカーであるc-Fosが視床下部内側基底部に発現することや、視床下部内側基底部の電気刺激によって性腺刺激ホルモンの分泌が促進されることなどから、視床下部内側基底部が光周性の中枢であると考えられるようになった。2000年代になって光誘導相の光照射によって視床下部内側基底部で発現変動する遺伝子が探索され、脊椎動物の光周性を制御する鍵遺伝子として、DIO2、DIO3遺伝子が単離された<ref><pubmed> 14614506 </pubmed></ref>。DIO2、DIO3遺伝子はそれぞれ、甲状腺ホルモン活性化酵素(2型脱ヨード酵素)と不活性化酵素(3型脱ヨード酵素)をコードしており、長日刺激によって、視床下部内側基底部において局所的に甲状腺ホルモンが活性化されることが、光周性の制御に重要であることが示された[[Image:dio2dio3.jpg'''視床下部内側基底部における甲状腺ホルモン活性化酵素(DIO2)と不活性化酵素(DIO3)のスイッチングが季節繁殖の鍵を握る。長日条件下ではDIO2によってプロホルモンのT4が活性型甲状腺ホルモンT3が合成されるが、短日条件下ではT4、T3ともに不活性型に代謝される。''']]。その後、ゲノムスケールの遺伝子発現解析によって、日長が12時間を超えると下垂体の付け根に位置する下垂体隆起部(pars tuberalis)において、甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone: TSH)が産生されることが明らかになった<ref name=ref7><pubmed> 18354476 </pubmed></ref>[[Image:animalphotoperiodism.jpg'''図4 鳥類と哺乳類の光周性の制御機構.鳥類と哺乳類では光の入力系が異なるが、下垂体隆起部よりも下流は同様な制御機構によって制御されている。''']]。TSHは甲状腺を刺激する下垂体前葉ホルモンであるが、下垂体隆起部で長日刺激によって産生される場合は視床下部内側基底部のDIO2、DIO3の発現を制御することで、光周性を制御するマスターコントロール因子として働くことが明らかにされている<ref name=ref7 />。
[[Image:dio2dio3.jpg'''図3.視床下部内側基底部における甲状腺ホルモン活性化酵素(DIO2)と不活性化酵素(DIO3)のスイッチングが季節繁殖の鍵を握る。長日条件下ではDIO2によってプロホルモンのT4が活性型甲状腺ホルモンT3が合成されるが、短日条件下ではT4、T3ともに不活性型に代謝される。''']]
 
[[Image:animalphotoperiodism.jpg'''図4.鳥類と哺乳類の光周性の制御機構'''<br>鳥類と哺乳類では光の入力系が異なるが、下垂体隆起部よりも下流は同様な制御機構によって制御されている。]]
 
 1960~90年代にはウズラを用いて生理学的な実験が行われた。まず脳の破壊実験により、視床下部内側基底部を破壊すると光周性が失われることが示された<ref><pubmed> 5362399 </pubmed></ref>。また長日刺激によって、細胞の活性化マーカーであるc-Fosが視床下部内側基底部に発現することや、視床下部内側基底部の電気刺激によって性腺刺激ホルモンの分泌が促進されることなどから、視床下部内側基底部が光周性の中枢であると考えられるようになった。2000年代になって光誘導相の光照射によって視床下部内側基底部で発現変動する遺伝子が探索され、脊椎動物の光周性を制御する鍵遺伝子として、DIO2、DIO3遺伝子が単離された<ref><pubmed> 14614506 </pubmed></ref>。DIO2、DIO3遺伝子はそれぞれ、甲状腺ホルモン活性化酵素(2型脱ヨード酵素)と不活性化酵素(3型脱ヨード酵素)をコードしており、長日刺激によって、視床下部内側基底部において局所的に甲状腺ホルモンが活性化されることが、光周性の制御に重要であることが示された(図3)。その後、ゲノムスケールの遺伝子発現解析によって、日長が12時間を超えると下垂体の付け根に位置する下垂体隆起部(pars tuberalis)において、甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone: TSH)が産生されることが明らかになった<ref name=ref7><pubmed> 18354476 </pubmed></ref>(図4)。TSHは甲状腺を刺激する下垂体前葉ホルモンであるが、下垂体隆起部で長日刺激によって産生される場合は視床下部内側基底部のDIO2、DIO3の発現を制御することで、光周性を制御するマスターコントロール因子として働くことが明らかにされている<ref name=ref7 />。


===哺乳類の光周性の制御機構===
===哺乳類の光周性の制御機構===

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