33
回編集
細編集の要約なし |
細 (→DSM-5による定義) |
||
16行目: | 16行目: | ||
[[DSM-5]]<ref name=ref4>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 5th ed. <br>''Washington DC, APA'', 2013</ref>では、妄想は次のように説明される(A-Cの番号は筆者による)。 | [[DSM-5]]<ref name=ref4>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 5th ed. <br>''Washington DC, APA'', 2013</ref>では、妄想は次のように説明される(A-Cの番号は筆者による)。 | ||
:'''A.'''「妄想とは、外部の現実に関する不正確な推論に基づく誤った信念 (belief) | :'''A.'''「妄想とは、外部の現実に関する不正確な推論に基づく誤った信念 (belief) であり、他のほとんどの人が信じていることに反しているにもかかわらず、また議論の余地のない明白な証拠や反証にもかかわらず、強固に維持される。その信念はその人の文化や下位文化の他の成員が通常受け入れているものではない(すなわち、宗教的信条ではない)」<br> | ||
:'''B.'''「誤った信念が価値判断を含む場合、その判断が信用できないほど極端な場合にのみ妄想とみなされる」<br> | :'''B.'''「誤った信念が価値判断を含む場合、その判断が信用できないほど極端な場合にのみ妄想とみなされる」<br> | ||
:'''C.'''「妄想的確信はときに[[優格観念]]から推論されうる(後者の場合、不合理な信念や観念を有しているが、妄想の場合ほど強固に信じていない)」<br> | :'''C.'''「妄想的確信はときに[[優格観念]]から推論されうる(後者の場合、不合理な信念や観念を有しているが、妄想の場合ほど強固に信じていない)」<br> | ||
40行目: | 40行目: | ||
まとめると、DSM-5ではJaspersによる妄想の外的メルクマールが採用され、妄想は正常な観念や信念とは質的に異なるという視点に立っている一方、妄想性の思考と非妄想性の思考の相違は確信の強度にあり、両者の間に明確な区別がないことも示唆しており、妄想の定義に矛盾が生じている。 | まとめると、DSM-5ではJaspersによる妄想の外的メルクマールが採用され、妄想は正常な観念や信念とは質的に異なるという視点に立っている一方、妄想性の思考と非妄想性の思考の相違は確信の強度にあり、両者の間に明確な区別がないことも示唆しており、妄想の定義に矛盾が生じている。 | ||
===ICD-10での取り扱い=== | ===ICD-10での取り扱い=== | ||
[[ICD-10]]<ref name=ref14>'''World Health Organization'''<BR>The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders; Clinical descriptions and diagnostic guidelines. <BR>''WHO, Geneva'', 1992<BR>(融道男,中根允文,小見山実ら訳<BR>ICD-10 精神および行動の障害—臨床記述と診断ガイドライン、新訂版<BR>医学書院、東京、2005.)</ref>では妄想は定義されていない。しかし、WHOが別に用意した用語集<ref name=ref13>'''World Health Organization'''<BR>Lexicon of psychiatric and mental health terms. 2nd ed,<BR>''Geneva, WHO'', 1994</ref>の中では「現実とも、また患者の背景や文化が有する社会的に共有された信念とも一致しない、誤った訂正不能な確信ないし判断」と定義される。この定義は、「不正確な推論に基づく」という指標がないことを除けば、DSM-5のものと基本的に同一である。用語集では、続けて「一次妄想は、患者の生活史・パーソナリティから本質的に了解不能である。二次妄想は心理学的に了解可能であり、病的および他の精神状態、たとえば感情障害や猜疑心から生じる。1908年にBimbaumに、また1913年にJaspersによって真正妄想と妄想様観念との区別が行われた。後者は過度に保持される誤判断にすぎない」と記載され、DSMとは異なり、了解可能性による一次妄想([[真正妄想]])と二次妄想([[妄想様観念]])との区別に触れている。ICD-10のテキストの中では、この区別は直接に触れられていないが、統合失調症の診断基準の中に、真正妄想の一形態である[[妄想知覚]]が挙げられている。 | [[ICD-10]]<ref name=ref14>'''World Health Organization'''<BR>The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders; Clinical descriptions and diagnostic guidelines. <BR>''WHO, Geneva'', 1992<BR>(融道男,中根允文,小見山実ら訳<BR>ICD-10 精神および行動の障害—臨床記述と診断ガイドライン、新訂版<BR>医学書院、東京、2005.)</ref>では妄想は定義されていない。しかし、WHOが別に用意した用語集<ref name=ref13>'''World Health Organization'''<BR>Lexicon of psychiatric and mental health terms. 2nd ed,<BR>''Geneva, WHO'', 1994</ref>の中では「現実とも、また患者の背景や文化が有する社会的に共有された信念とも一致しない、誤った訂正不能な確信ないし判断」と定義される。この定義は、「不正確な推論に基づく」という指標がないことを除けば、DSM-5のものと基本的に同一である。用語集では、続けて「一次妄想は、患者の生活史・パーソナリティから本質的に了解不能である。二次妄想は心理学的に了解可能であり、病的および他の精神状態、たとえば感情障害や猜疑心から生じる。1908年にBimbaumに、また1913年にJaspersによって真正妄想と妄想様観念との区別が行われた。後者は過度に保持される誤判断にすぎない」と記載され、DSMとは異なり、了解可能性による一次妄想([[真正妄想]])と二次妄想([[妄想様観念]])との区別に触れている。ICD-10のテキストの中では、この区別は直接に触れられていないが、統合失調症の診断基準の中に、真正妄想の一形態である[[妄想知覚]]が挙げられている。 |
回編集