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==== POMC神経 ==== | ==== POMC神経 ==== | ||
弓状核のPOMC神経はα- | 弓状核のPOMC神経はα-MSHを介して摂食行動を抑制する。POMC神経細胞の大部分は、NPY/AgRP神経細胞と異なりGABA作動性ではない。POMC神経細胞にはオレキシンの摂食、体重制御に重要な[[オレキシン2型受容体]]やレプチン、セロトニン、NPYの受容体も豊富に発現している<ref><pubmed> 19117547 </pubmed></ref>。POMC神経は腹内側核から興奮性入力を受けており、この入力によって摂食行動は抑制される(Sternson 2005)。[[エストロゲン]]は摂食行動を抑制するが、エストロゲン受容体は弓状核に豊富に発現しており、エストロゲンによってPOMCの発現が増加する<ref><pubmed> 17195839 </pubmed></ref>。 | ||
==== 腹内側核 ==== | ==== 腹内側核 ==== | ||
腹内側核の内側部はレプチン受容体やオレキシン受容体が豊富に発現しており、摂食行動に重要な働きをしている。腹内側核は[[視床下部#.E8.A6.96.E4.BA.A4.E5.8F.89.E4.B8.8A.E6.A0.B8|視交叉上核]]、弓状核、室傍核、背内側核、外側野と密な線維連絡を持ち、扁桃体、結合腕傍核からの投射を受ける。特に、腹内側核PACAP陽性細胞から弓状核POMC神経への興奮性投射は摂食行動抑制に重要である(Krashes 2014)。また、[[内在性カンナビノイド]]系を活性化すると摂食行動促進、体重増加を引き起こすが、[[カンナビノイド受容体]]CB1は腹内側核に豊富に存在している。 | |||
==== 背内側核 ==== | ==== 背内側核 ==== | ||
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==== 室傍核 ==== | ==== 室傍核 ==== | ||
室傍核は、弓状核のNPY/AgRP神経およびPOMC神経の投射先として重要であり、α-MSHの受容体であるメラノコルチン4受容体が豊富に発現している。室傍核でのメラノコルチン4受容体発現を低下させると肥満する(Balthasar 2005)。弓状核のNPY/AgRP神経やPOMC神経は、メラノコルチン4受容体を発現するSim1陽性に投射する。POMCはα-MSHを介して興奮性に、NPY/AgRP神経はNPY, AgRP, GABAを介して抑制性にSim1陽性メラノコルチン4受容体陽性神経を制御する。このSim1陽性メラノコルチン4受容体陽性神経の多くはオキシトシン産生細胞である(Atasoy 2012; Krashes 2014)。この細胞は、孤束核近傍に投射し、摂食行動の実行を制御する。 | |||
==== 外側野 ==== | ==== 外側野 ==== | ||
外側野は摂食行動を促進するオレキシン、[[メラニン凝集ホルモン]](melanin-concentrating hormone: MCH)および[[Polyglutamylated arginine-phenylalanineamide peptide]](QRFP)を産生する。オレキシン、MCH、QRFPはそれぞれ外側野の異なる細胞によって産生される。オレキシンは摂食行動を促進する物質として報告されたが、その後の研究から覚醒を促進し睡眠覚醒制御に重要であることが明らかとなった。オレキシンによるラット、マウスの摂食行動促進が明期に限局することから、オレキシンによる摂食量増加は、覚醒行動促進に伴う効果としても説明ができる。MCHもオレキシンと同様に摂食行動を促進するが、オレキシン欠損マウスが肥満傾向を示すのに対してMCH欠損マウスは痩せ型であることから、体重調節の点でオレキシンとMCHの作用は逆である。 | |||
=== 中脳 === | === 中脳 === | ||
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==== 腹側被蓋野 ==== | ==== 腹側被蓋野 ==== | ||
腹側被蓋野は眼窩前頭皮質を含めた皮質、側坐核、線条体、外側野、背側縫線核、青斑核、[[上丘]]、中心灰白質などと双方向性の線維連絡がある。ドーパミンを産生しないマウスは摂食量が少なく生後数週で死亡する<ref><pubmed> 10518589 </pubmed></ref> | 腹側被蓋野は眼窩前頭皮質を含めた皮質、側坐核、線条体、外側野、背側縫線核、青斑核、[[上丘]]、中心灰白質などと双方向性の線維連絡がある。ドーパミンを産生しないマウスは摂食量が少なく生後数週で死亡する<ref><pubmed> 10518589 </pubmed></ref>。腹側被蓋野は摂食の快楽的側面に関与しており、ドーパミン神経を活性化すると脂肪や甘味への嗜好性が高まる。ドーパミン神経は[[レプチン受容体]]を発現しており、レプチンは食餌内容の報酬価を低下させる<ref><pubmed> 22081158 </pubmed></ref>。 | ||
=== 橋 === | === 橋 === | ||
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==== 背側縫線核 ==== | ==== 背側縫線核 ==== | ||
背側縫線核は、摂食行動に関連する部位では眼窩前頭皮質、弓状核、腹内側核、外側野、腹側被蓋野に投射している。背側縫線核に代表される[[セロトニン神経]]も摂食や体重制御に関与しており、その主な作用は弓状核の[[セロトニン#5-HT2.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93| | 背側縫線核は、摂食行動に関連する部位では眼窩前頭皮質、弓状核、腹内側核、外側野、腹側被蓋野に投射している。背側縫線核に代表される[[セロトニン神経]]も摂食や体重制御に関与しており、その主な作用は弓状核の[[セロトニン#5-HT2.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|セロトニン1B, 2C受容体]]を介した摂食行動の抑制である。[[非定形抗精神病薬]]である[[オランザピン]]や[[クエチアピン]]はセロトニン2C受容体阻害作用があるため、副作用として摂食量増加、肥満を生じる。 | ||
==== 結合腕傍核 ==== | ==== 結合腕傍核 ==== | ||
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==== 孤束核 ==== | ==== 孤束核 ==== | ||
味覚は摂食行動に影響を与える。味覚の1次感覚ニューロンは[[顔面神経]]、[[舌咽神経]]および迷走神経を経て孤束核に終止する。孤束核の2次ニューロンは結合腕傍核で線維を変え[[内側毛帯]]を上行して視床後内側腹側核小細胞部を経て、[[大脳皮質]]([[43野]]、[[前頭弁蓋部島皮質移行部]]など)へ投射する。ほかに[[前頭葉]]や扁桃体中心核へも投射がある。孤束核にはNPY/ | 味覚は摂食行動に影響を与える。味覚の1次感覚ニューロンは[[顔面神経]]、[[舌咽神経]]および迷走神経を経て孤束核に終止する。孤束核の2次ニューロンは結合腕傍核で線維を変え[[内側毛帯]]を上行して視床後内側腹側核小細胞部を経て、[[大脳皮質]]([[43野]]、[[前頭弁蓋部島皮質移行部]]など)へ投射する。ほかに[[前頭葉]]や扁桃体中心核へも投射がある。孤束核にはNPY/AgRP神経や室傍核からの投射があるほか、大縫線核や[[不確縫線核]]からのセロトニン作動性興奮性入力がある。セロトニン神経はセロトニン2C受容体を介して孤束核神経を興奮させ、次いで孤束核から結合腕傍核へのグルタミン酸作動性入力により摂食行動を抑制する。 | ||
==== 最後野 ==== | ==== 最後野 ==== | ||
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== 末梢からの摂食神経回路制御 == | == 末梢からの摂食神経回路制御 == | ||
[[wikipedia:ja:脂肪組織|脂肪組織]]から分泌される[[wikipedia:ja:アディポサイトカイン|アディポサイトカイン]]は摂食行動に影響をあたえる。特にレプチンは摂食行動抑制、体重減少を引き起こすことが知られており、レプチン機能低下により著しい肥満を生じる。摂食行動に関するレプチンの作用部位は弓状核、腹内側核、外側野、腹側被蓋野、背側縫線核などである<ref><pubmed> 17937601 </pubmed></ref> | [[wikipedia:ja:脂肪組織|脂肪組織]]から分泌される[[wikipedia:ja:アディポサイトカイン|アディポサイトカイン]]は摂食行動に影響をあたえる。特にレプチンは摂食行動抑制、体重減少を引き起こすことが知られており、レプチン機能低下により著しい肥満を生じる。摂食行動に関するレプチンの作用部位は弓状核、腹内側核、外側野、腹側被蓋野、背側縫線核などである<ref><pubmed> 17937601 </pubmed></ref>。グルコースやインスリンも摂食神経回路に直接作用しての摂食行動を抑制する。脳全体や視床下部のインスリン受容体発現を低下させると、摂食量が増加する<ref><pubmed> 16460269 </pubmed></ref>。 | ||
コレシストキニン、[[ペプチドYY]](PYY)、グルカゴン様ペプチド1などの[[wikipedia:ja:消化管ホルモン|消化管ホルモン]]はいずれも迷走神経を介して摂食行動を抑制する。コレシストキニンは[[wikipedia:ja:十二指腸|十二指腸]]、[[wikipedia:ja:空腸|空腸]]に脂肪に富んだ食物が移行すると、小腸の[[wikipedia:ja:I細胞|I細胞]]から分泌される。PYYおよびGLP-1は十二指腸、空腸、[[wikipedia:ja:結腸|結腸]]の[[wikipedia:ja:L細胞|L細胞]] | コレシストキニン、[[ペプチドYY]](PYY)、グルカゴン様ペプチド1などの[[wikipedia:ja:消化管ホルモン|消化管ホルモン]]はいずれも迷走神経を介して摂食行動を抑制する。コレシストキニンは[[wikipedia:ja:十二指腸|十二指腸]]、[[wikipedia:ja:空腸|空腸]]に脂肪に富んだ食物が移行すると、小腸の[[wikipedia:ja:I細胞|I細胞]]から分泌される。PYYおよびGLP-1は十二指腸、空腸、[[wikipedia:ja:結腸|結腸]]の[[wikipedia:ja:L細胞|L細胞]]から分泌される。これらの消化管ホルモンは食事開始後に濃度が上昇し、食後数時間で低下することから、一回の食事の終止に関わると考えられている。また、迷走神経は摂食による腸管の拡張を直接感知して摂食行動を抑制する。主に胃から分泌されるグレリンは、摂食前に血中濃度が上昇し、直接または迷走神経を介して視床下部に作用し摂食行動の開始を促す。しかし、グレリン産生細胞を急性に死滅させても、摂食量に変化が認められなかったという報告もある(McFarlane 2014)。<ref><pubmed> 19560488 </pubmed></ref>。 | ||
== 摂食行動制御の時間的多階層性 == | == 摂食行動制御の時間的多階層性 == |