| 神経細胞以外にもmRNAはあり、蛋白質も発現していると考えられるが、神経細胞における発現が極めて高い。脳内での各種アイソフォームの発現については、mRNAレベルでは4つのアイソフォームについて、蛋白質レベルではDLGAP2以外の3つのアイソフォームについて、ラット、マウス脳を用いた解析結果が報告されている<ref><pubmed>15207911</pubmed></ref><ref>Welch JM, Wang D, Feng G. Differential mRNA expression and protein localization of the SAP90/PSD-95-associated proteins (SAPAPs) in the nervous system of the mouse. J Comp Neurol. 2004 Apr 19;472:24-39.</ref>。ちなみに、「異なるアイソフォームの分布は、オーバーラップしているが、それぞれに特異的である」と表現される。例えば、小脳を例にとると、[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/70528599 DLGAP1]は[[顆粒細胞]]、[[プルキンエ細胞]]の両方に等しく、[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/69626909 DLGAP2]は小脳になく、[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/70528605 DLGAP3]は顆粒細胞に強く、[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/68499267 DLGAP4]はプルキンエ細胞に強く発現する。海馬では、DLGAP1は[[CA1]]、[[CA3]]の[[錐体細胞]]と[[歯状回]]の顆粒細胞に発現するが、DLGAP4は歯状回の顆粒細胞にはない。DLGAP3は[[線条体]]に強く発現している。DLGAP3ノックアウトマウスの表現型が、線条体局所へのDLGAP3の強制発現により回復する観察から、DLGAP3は線条体において、他のアイソフォームによっては代償されない機能を果たしていると推論される<ref>Welch JM, Lu J, Rodriguiz RM, Trotta NC, Peca J, Ding JD, Feliciano C, Chen M, Adams JP, Luo J, Dudek SM, Weinberg RJ, Calakos N, Wetsel WC, Feng G. Cortico-striatal synaptic defects and OCD-like behaviours in Sapap3-mutant mice. Nature. 2007 Aug 23;448:894-900.</ref>。さらに、DLGAP3のmRNAは、神経細胞の[[細胞体]]でなく[[樹状突起]]に分布する点でも注目されている。 | | 神経細胞以外にもmRNAはあり、蛋白質も発現していると考えられるが、神経細胞における発現が極めて高い。脳内での各種アイソフォームの発現については、mRNAレベルでは4つのアイソフォームについて、蛋白質レベルではDLGAP2以外の3つのアイソフォームについて、ラット、マウス脳を用いた解析結果が報告されている<ref><pubmed>15207911</pubmed></ref><ref><pubmed>15024750</pubmed></ref>。ちなみに、「異なるアイソフォームの分布は、オーバーラップしているが、それぞれに特異的である」と表現される。例えば、小脳を例にとると、[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/70528599 DLGAP1]は[[顆粒細胞]]、[[プルキンエ細胞]]の両方に等しく、[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/69626909 DLGAP2]は小脳になく、[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/70528605 DLGAP3]は顆粒細胞に強く、[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/68499267 DLGAP4]はプルキンエ細胞に強く発現する。海馬では、DLGAP1は[[CA1]]、[[CA3]]の[[錐体細胞]]と[[歯状回]]の顆粒細胞に発現するが、DLGAP4は歯状回の顆粒細胞にはない。DLGAP3は[[線条体]]に強く発現している。DLGAP3ノックアウトマウスの表現型が、線条体局所へのDLGAP3の強制発現により回復する観察から、DLGAP3は線条体において、他のアイソフォームによっては代償されない機能を果たしていると推論される<ref name=ref2><pubmed>17713528</pubmed></ref>。さらに、DLGAP3のmRNAは、神経細胞の[[細胞体]]でなく[[樹状突起]]に分布する点でも注目されている。 |
| [[Image:PSD proteins.jpg|thumb|right|295px|<b>図 PSD蛋白質</b><br>Permission pending.]] DLGAPは[[NMDA型グルタミン酸受容体]]の裏打ち蛋白質PSD-95に結合する分子として同定され、Shankにも結合するため、興奮性シナプスの[[足場蛋白質]]と見なされている(図)。上述のように、多くの相互作用分子が同定されているものの、個々の相互作用の生理的意義は必ずしも明快に示されているとはいえない。ダイニン軽鎖との結合からは、PSD-95を含む複合体の輸送を担う機能が措定されている。DLGAP3ノックアウトマウスでは、DLGAP3が本来、強く発現する線条体の神経細胞において、[[代謝活性型グルタミン酸受容体]]5型(mGluR5)が細胞膜表面に留まり、そのシグナル活性が上昇し、その結果として[[AMPA型グルタミン酸受容体]]のシグナルの抑制、[[エンドカンナビノイド]] (endocannabinoid)による異常なシナプス抑制が観察される<ref>Chen M, Wan Y, Ade K, Ting J, Feng G, Calakos N. Sapap3 deletion anomalously activates short-term endocannabinoid-mediated synaptic plasticity. J Neurosci. 2011 Jun 29;31:9563-73.</ref><ref>Wan Y, Feng G, Calakos N. Sapap3 deletion causes mGluR5-dependent silencing of AMPAR synapses. J Neurosci. 2011 Nov 16;31:16685-91.</ref>。この知見をもとに、DLGAP3にはmGluR5の[[エンドサイトーシス]]を制御する機能があると推論されている。[[グリア細胞]]では、Dlg1を[[ダイニン]]につなぐ作用を通じて、[[wikipedia:ja:中心体|中心体]]の細胞内の位置決めに関与すると報告されている<ref>Manneville JB, Jehanno M, Etienne-Manneville S. Dlg1 binds GKAP to control dynein association with microtubules, centrosome positioning, and cell polarity. J Cell Biol. 2010 Nov 1;191:585-98.</ref>。なお、いずれのSAPAPも[[wikipedia:JA:界面活性剤|界面活性剤]]に不溶性であるが、その不溶性はN末端に依存し、N末端を欠くGKAP (DLGAP1 variant2)は比較的可溶化されやすい。神経細胞に発現させた場合のSAPAP1 (DLGAP1 variant1)とGKAPの挙動にも、差異があると予測される。したがって、それぞれの研究で、GKAPが論じられているのか、SAPAP1が論じられているのかについて、注意を払う必要がある。 | | [[Image:PSD proteins.jpg|thumb|right|295px|<b>図 PSD蛋白質</b><br>Permission pending.]] DLGAPは[[NMDA型グルタミン酸受容体]]の裏打ち蛋白質PSD-95に結合する分子として同定され、Shankにも結合するため、興奮性シナプスの[[足場蛋白質]]と見なされている(図)。上述のように、多くの相互作用分子が同定されているものの、個々の相互作用の生理的意義は必ずしも明快に示されているとはいえない。ダイニン軽鎖との結合からは、PSD-95を含む複合体の輸送を担う機能が措定されている。DLGAP3ノックアウトマウスでは、DLGAP3が本来、強く発現する線条体の神経細胞において、[[代謝活性型グルタミン酸受容体]]5型(mGluR5)が細胞膜表面に留まり、そのシグナル活性が上昇し、その結果として[[AMPA型グルタミン酸受容体]]のシグナルの抑制、[[エンドカンナビノイド]] (endocannabinoid)による異常なシナプス抑制が観察される<ref><pubmed>21715621</pubmed></ref><ref><pubmed>22090495</pubmed></ref>。この知見をもとに、DLGAP3にはmGluR5の[[エンドサイトーシス]]を制御する機能があると推論されている。[[グリア細胞]]では、Dlg1を[[ダイニン]]につなぐ作用を通じて、[[wikipedia:ja:中心体|中心体]]の細胞内の位置決めに関与すると報告されている<ref><pubmed>21041448</pubmed></ref>。なお、いずれのSAPAPも[[wikipedia:JA:界面活性剤|界面活性剤]]に不溶性であるが、その不溶性はN末端に依存し、N末端を欠くGKAP (DLGAP1 variant2)は比較的可溶化されやすい。神経細胞に発現させた場合のSAPAP1 (DLGAP1 variant1)とGKAPの挙動にも、差異があると予測される。したがって、それぞれの研究で、GKAPが論じられているのか、SAPAP1が論じられているのかについて、注意を払う必要がある。 |
| DLGAP3ノックアウトマウスは、ヒトにおける[[強迫性障害]] (obsessive-compulsive disorder(OCD))を連想させる行動異常を示す<ref>Welch JM, Lu J, Rodriguiz RM, Trotta NC, Peca J, Ding JD, Feliciano C, Chen M, Adams JP, Luo J, Dudek SM, Weinberg RJ, Calakos N, Wetsel WC, Feng G. Cortico-striatal synaptic defects and OCD-like behaviours in Sapap3-mutant mice. Nature. 2007 Aug 23;448:894-900.</ref>。この観察から、DLGAP3遺伝子は、ヒトのOCD、及び、OCDに関連するgrooming disorderや[[トゥーレット症候群]] (Tourette syndrome)の原因遺伝子であるという仮説が立てられ解析がなされている。しかし、現時点では、機能的な候補遺伝子の一つという評価に止まり、決定的な連関は示されていない<ref>Bienvenu OJ, Wang Y, Shugart YY, Welch JM, Grados MA, Fyer AJ, Rauch SL, McCracken JT, Rasmussen SA, Murphy DL, Cullen B, Valle D, Hoehn-Saric R, Greenberg BD, Pinto A, Knowles JA, Piacentini J, Pauls DL, Liang KY, Willour VL, Riddle M, Samuels JF, Feng G, Nestadt G. Sapap3 and pathological grooming in humans: Results from the OCD collaborative genetics study. Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet. 2009 Jul 5;150B:710-20.</ref><ref>Crane J, Fagerness J, Osiecki L, Gunnell B, Stewart SE, Pauls DL, Scharf JM; Tourette Syndrome International Consortium for Genetics (TSAICG). Family-based genetic association study of DLGAP3 in Tourette Syndrome. Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet. 2011 Jan;156B:108-14.</ref>。このほか、[[統合失調症]]患者において、DLGAP1の発現が高まっているという報告もある<ref>Aoyama S, Shirakawa O, Ono H, Hashimoto T, Kajimoto Y, Maeda K. Mutation and association analysis of the DAP-1 gene with schizophrenia. Psychiatry Clin Neurosci. 2003 Oct;57:545-7.</ref>。 | | DLGAP3ノックアウトマウスは、ヒトにおける[[強迫性障害]] (obsessive-compulsive disorder(OCD))を連想させる行動異常を示す<ref name=ref2><pubmed>17713528</pubmed></ref>。この観察から、DLGAP3遺伝子は、ヒトのOCD、及び、OCDに関連するgrooming disorderや[[トゥーレット症候群]] (Tourette syndrome)の原因遺伝子であるという仮説が立てられ解析がなされている。しかし、現時点では、機能的な候補遺伝子の一つという評価に止まり、決定的な連関は示されていない<ref><pubmed>19051237</pubmed></ref><ref><pubmed>21184590</pubmed></ref>。このほか、[[統合失調症]]患者において、DLGAP1の発現が高まっているという報告もある<ref><pubmed>12950712</pubmed></ref>。 |