「語用論」の版間の差分

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==主な理論==
==主な理論==
 代表的な理論(言語的モデル)としては、[[発話行為論]]、[[協調の原理]]、そして[[関連性理論]]を挙げることができる。
 代表的な理論(言語的モデル)としては、[[発話行為論]]、[[協調の原理]]、そして[[関連性理論]]を挙げることができる。
 
=== 発話行為論 ===
 [[発話行為論]]に関して、[[wj:ジョン・L・オースティン|オースティン]]<ref name=Austin1962>'''Austin, J'''<br>How to do things with words. <br>''In J. O. Urmson (Ed.), Cambridge, Mass. : Harvard University Press'':1962 (『言語行為』, 坂本百大訳, 大修館書店)</ref>は、われわれが何かを話すとき、何かを言うだけでなく、何かを行う、と主張し、[[発話行為論]]を展開した。まず、(a)「マットに猫がいる」という事実確認文に対して、(b)「私はこの猫をタマと命名する」という遂行文を区別している。そして、(c)「マットに猫がいる」という文は事実確認であると同時に、暗黙に「猫をマットからどけてほしい」という発話意図を読み取ることができる。(a)のように単に何かを言う行為を発語行為、(b)のように何かを言いつつ遂行する行為を発語内行為、そして(c)のように何かを言うことによって遂行する行為を発語媒介行為と呼んだ。
 [[発話行為論]]に関して、[[wj:ジョン・L・オースティン|オースティン]]<ref name=Austin1962>'''Austin, J'''<br>How to do things with words. <br>''In J. O. Urmson (Ed.), Cambridge, Mass. : Harvard University Press'':1962 (『言語行為』, 坂本百大訳, 大修館書店)</ref>は、われわれが何かを話すとき、何かを言うだけでなく、何かを行う、と主張し、[[発話行為論]]を展開した。まず、(a)「マットに猫がいる」という事実確認文に対して、(b)「私はこの猫をタマと命名する」という遂行文を区別している。そして、(c)「マットに猫がいる」という文は事実確認であると同時に、暗黙に「猫をマットからどけてほしい」という発話意図を読み取ることができる。(a)のように単に何かを言う行為を発語行為、(b)のように何かを言いつつ遂行する行為を発語内行為、そして(c)のように何かを言うことによって遂行する行為を発語媒介行為と呼んだ。
 
=== 協調の原理 ===
 [[協調の原理]]に関して、[[wj:ポール・グライス|グライス]]<ref name=Grice1975>'''Grice, P'''<br>Logic and conversation.<br>''In P. Cole and J. Morgan (Eds.), Syntax and semantics: Speech Acts, Vol. 3. New York: Academic Press'':1975</ref>は、会話の参加者は4つの原則(量に関する原則、質に関する原則、関連性に関する原則、様式に関する原則)を守ると仮定し、聴者は「話者のこれらの原則の違反」に気づくことで、話者の発話意図を推測するという論を展開した。量に関する原則:話者は「聴者が理解するために必要かつ十分な量の情報」を提供しなければならない。質に関する原則:話者は「自分が信じていないことや根拠のないこと」を言ってはならない。関連性に関する原則:話者は「当面の話題と関係のないこと」を言ってはならない。様式に関する原則:話者は「曖昧な表現を避け、簡潔に、順序よく」言わなければならない。
 [[協調の原理]]に関して、[[wj:ポール・グライス|グライス]]<ref name=Grice1975>'''Grice, P'''<br>Logic and conversation.<br>''In P. Cole and J. Morgan (Eds.), Syntax and semantics: Speech Acts, Vol. 3. New York: Academic Press'':1975</ref>は、会話の参加者は4つの原則(量に関する原則、質に関する原則、関連性に関する原則、様式に関する原則)を守ると仮定し、聴者は「話者のこれらの原則の違反」に気づくことで、話者の発話意図を推測するという論を展開した。量に関する原則:話者は「聴者が理解するために必要かつ十分な量の情報」を提供しなければならない。質に関する原則:話者は「自分が信じていないことや根拠のないこと」を言ってはならない。関連性に関する原則:話者は「当面の話題と関係のないこと」を言ってはならない。様式に関する原則:話者は「曖昧な表現を避け、簡潔に、順序よく」言わなければならない。
 
=== 関連性理論 ===
 [[関連性理論]]に関して、[[wj:ダン・スペルベル|スペルベル]]とウィルソン<ref name=Sperber1986>'''Sperber, D. and Wilson, D'''<br>Relevance: Communication and cognition.<br>''Oxford: Blackwell'':1986 (『関連性理論:伝達と認知』, 内田聖二他訳, 研究社出版; 第二版は1995年)</ref>は、[[関連性]]という[[認知効果]]と[[処理労力]]のバランスで定まる情報の属性を手掛かりとして、聞き手は「話し手が伝えたいと思っている意味」を推論しているという論を展開した。[[認知効果]]は、私たちの心的状態に何らかの変化を与えることで、例えば、気づきやものの見方の変化はその代表例である。一方、[[認知効果]]を得るためには、ことばを理解するための[[処理労力]]を払う必要があり、関連性は両者のバランスにより、刻々と変化すると考えられている。これにもとづいて、認知の原則と、コミュニケーションの原則を提案している。前者では、ヒトには受け取った情報からなるべく少ない[[処理労力]]で最大限の[[認知効果]]を得ようとする先天的な傾向があることを強調している。ただ、ヒトのコミュニケーションにおいては、前置きを理解しないとその次に来る話のポイントが理解できないことはしばしばあり、この原則だけでは、特に[[認知効果]]のない前置きの理解のために[[処理労力]]を払うことが説明できないという難点がある。そこで、後者では、ヒトは「会話の発話者は先行して払う[[処理労力]]に見合う[[認知効果]]を含んだ情報を提供している」ということを自動的に予期する傾向があることを強調している。
 [[関連性理論]]に関して、[[wj:ダン・スペルベル|スペルベル]]とウィルソン<ref name=Sperber1986>'''Sperber, D. and Wilson, D'''<br>Relevance: Communication and cognition.<br>''Oxford: Blackwell'':1986 (『関連性理論:伝達と認知』, 内田聖二他訳, 研究社出版; 第二版は1995年)</ref>は、[[関連性]]という[[認知効果]]と[[処理労力]]のバランスで定まる情報の属性を手掛かりとして、聞き手は「話し手が伝えたいと思っている意味」を推論しているという論を展開した。[[認知効果]]は、私たちの心的状態に何らかの変化を与えることで、例えば、気づきやものの見方の変化はその代表例である。一方、[[認知効果]]を得るためには、ことばを理解するための[[処理労力]]を払う必要があり、関連性は両者のバランスにより、刻々と変化すると考えられている。これにもとづいて、認知の原則と、コミュニケーションの原則を提案している。前者では、ヒトには受け取った情報からなるべく少ない[[処理労力]]で最大限の[[認知効果]]を得ようとする先天的な傾向があることを強調している。ただ、ヒトのコミュニケーションにおいては、前置きを理解しないとその次に来る話のポイントが理解できないことはしばしばあり、この原則だけでは、特に[[認知効果]]のない前置きの理解のために[[処理労力]]を払うことが説明できないという難点がある。そこで、後者では、ヒトは「会話の発話者は先行して払う[[処理労力]]に見合う[[認知効果]]を含んだ情報を提供している」ということを自動的に予期する傾向があることを強調している。


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