「細胞死」の版間の差分

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 1972年、Kerr, Wyllie, Currieは、生理的条件下でおこる細胞死には細胞壊死(necrosis)とは異なる、細胞小器官が正常な形態を保ちつつ、核の[[染色体]]が凝縮し、細胞全体が萎縮、断片化する死細胞があることを見いだした。そしてこの細胞死を、葉が木から落ちることを意味するギリシャ語から、アポトーシス(apoptosis)と命名した1. アポトーシス細胞は、組織[[切片]]上ではピクノーシス(pyknosis)と呼ばれる細胞の縮小とクロマチンの凝縮、断片化を特徴とする。さらにアポトーシスが進行すると、細胞に大小の膜で囲まれたくびれが生じて(blebbing)、細胞は球状の小体(アポトーシス小体: apoptotic body)に分かれて断片化する。このように、アポトーシスは元来形態学的分類から定義された言葉である。一方、アポトーシスはその実行に能動的な遺伝子プログラム(後述)が関与するため、しばしば「プログラム細胞死」と同一視されることがある。しかし、「プログラム細胞死」とは、正常発生で発生プログラム依存的に生じる細胞死のことを指した用語であり、アポトーシスとプログラム細胞死を同じ意味で用いるのは混同であり正しくない2。こうした誤用を避けるためにも、細胞内在の遺伝子プログラムを用いる細胞死を「制御された細胞死(RCD)」と呼ぶことが提唱されている3。
 1972年、Kerr, Wyllie, Currieは、生理的条件下でおこる細胞死には細胞壊死(necrosis)とは異なる、細胞小器官が正常な形態を保ちつつ、核の[[染色体]]が凝縮し、細胞全体が萎縮、断片化する死細胞があることを見いだした。そしてこの細胞死を、葉が木から落ちることを意味するギリシャ語から、アポトーシス(apoptosis)と命名した1. アポトーシス細胞は、組織[[切片]]上ではピクノーシス(pyknosis)と呼ばれる細胞の縮小とクロマチンの凝縮、断片化を特徴とする。さらにアポトーシスが進行すると、細胞に大小の膜で囲まれたくびれが生じて(blebbing)、細胞は球状の小体(アポトーシス小体: apoptotic body)に分かれて断片化する。このように、アポトーシスは元来形態学的分類から定義された言葉である。一方、アポトーシスはその実行に能動的な遺伝子プログラム(後述)が関与するため、しばしば「プログラム細胞死」と同一視されることがある。しかし、「プログラム細胞死」とは、正常発生で発生プログラム依存的に生じる細胞死のことを指した用語であり、アポトーシスとプログラム細胞死を同じ意味で用いるのは混同であり正しくない2。こうした誤用を避けるためにも、細胞内在の遺伝子プログラムを用いる細胞死を「制御された細胞死(RCD)」と呼ぶことが提唱されている3。


 アポトーシスは、タンパク質すなわち遺伝子産物の制御による能動的な細胞死である。Horvitzらの[[線虫]]を用いた遺伝学的な研究によって、プログラム細胞死に影響のある変異体、中でも、全ての細胞死実行が抑制されるced-3, ced-4変異体や、これらの遺伝子の作用を抑制する変異体ced-9等が得られた4,5. CED-3は[[カスパーゼ]] (caspase)、CED-4はカスパーゼ活性化に働くアダプタータンパク質Apaf-1 (apoptotic protease activating factor-1)、CED-9はアポトーシス抑制活性を有するがん遺伝子bcl-2に相当する。
 アポトーシスは、タンパク質すなわち遺伝子産物の制御による能動的な細胞死である。Horvitzらの[[線虫]]を用いた遺伝学的な研究によって、プログラム細胞死に影響のある変異体、中でも、全ての細胞死実行が抑制されるced-3, ced-4変異体や、これらの遺伝子の作用を抑制する変異体ced-9等が得られた4,5。CED-3は[[カスパーゼ]] (caspase)、CED-4はカスパーゼ活性化に働くアダプタータンパク質Apaf-1 (apoptotic protease activating factor-1)、CED-9はアポトーシス抑制活性を有するがん遺伝子bcl-2に相当する。


 アポトーシス刺激を受けた細胞では、カスパーゼの活性化、ミトコンドリア膜の透過性増大・膜電位低下、細胞膜のフォスファチジル[[セリン]](phosphatidylserine: PS)の細胞表面への露出、クロマチンの切断が見られる6. これらはアポトーシス細胞で一般的に観察されるため、アポトーシスのよいマーカーとして用いられる。しかし、これら変化は生理的な変化や[[細胞分化]]に伴って引き起こされる場合や、アポトーシス以外の原因で生じることもあるため、一部のマーカー変化だけでアポトーシスと断定できない点に留意が必要である。
 アポトーシス刺激を受けた細胞では、カスパーゼの活性化、ミトコンドリア膜の透過性増大・膜電位低下、細胞膜のフォスファチジル[[セリン]](phosphatidylserine: PS)の細胞表面への露出、クロマチンの切断が見られる6. これらはアポトーシス細胞で一般的に観察されるため、アポトーシスのよいマーカーとして用いられる。しかし、これら変化は生理的な変化や[[細胞分化]]に伴って引き起こされる場合や、アポトーシス以外の原因で生じることもあるため、一部のマーカー変化だけでアポトーシスと断定できない点に留意が必要である。
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===ネクロプトーシス===
===ネクロプトーシス===
 ネクロプトーシス(Necroptosis)は、最もよく研究されている制御されたネクローシスである7,8。ある種の細胞ではTNFα刺激による外因性アポトーシス経路が阻害された場合にはネクローシス様の細胞死が代償的に生じるが、2005年にJunying Yuanらのグループがその阻害剤を同定し、Necrostatin (Nec)-1と命名した9。さらに Nec-1の標的因子のひとつとしてreceptor interacting protein kinase-1(RIPK1)と呼ばれるセリン[[スレオニン]]キナーゼを同定したのを端緒に、その分子機構の解明に飛躍的な進歩がもたらされた7,8。ネクロプトーシスの実行には、RIPK1と相同性を有するRIPK3と呼ばれるキナーゼとその基質であるmixed lineage kinase like (MLKL)が必須であるとされる10。ネクロプトーシスに関与すると考えられてきたRIPK1は、ネクロプトーシスを促進する場合と抑制する場合があることが、最近の組織特異的なRIPK1遺伝子欠損[[マウス]]の解析から明らかになった。ネクロプトーシス実行時には、RIPK1, RIPK3, MLKLを含むNecrosomeと呼ばれるタンパク質複合体が形成される。多量体化しリン酸化により活性化したRIPK3はMLKLをリン酸化し、リン酸化MLKLは細胞膜上で膜孔を形成または細胞膜への[[イオンチャネル]]の配向を介して細胞膜の破裂を引き起こすというモデルが提唱されている27−31。 ネクロプトーシス実行はさまざまな経路を介して生じるが、アポトーシスの制御と密接な関連を持つ。外因性アポトーシス経路活性化刺激が入った際に、カスパーゼ8とFADDが存在すればアポトーシスが実行される。活性化されたカスパーゼ8はRIPK1, RIPK3, CYLDなどのネクロプトーシス誘導に関与する分子を切断、不活性化することでネクロプトーシス誘導をブロックしていると考えられる。逆にカスパーゼ8活性が化合物やウイルス由来の阻害タンパク質あるいは遺伝的欠損により失われた場合、ネクロプトーシスが実行される。同様に、自然[[免疫]]経路であるToll-like receptor (TLR)4やTLR3によってもRIPK3-MLKL依存的なネクロプトーシスが生じる場合があり、パイロトーシスとのクロストークも示唆される。このように、ネクロプトーシス実行は細胞種・状況依存度が高いといえる10。
 ネクロプトーシス(Necroptosis)は、最もよく研究されている制御されたネクローシスである7,8。ある種の細胞ではTNFα刺激による外因性アポトーシス経路が阻害された場合にはネクローシス様の細胞死が代償的に生じるが、2005年にJunying Yuanらのグループがその阻害剤を同定し、Necrostatin (Nec)-1と命名した9。さらに Nec-1の標的因子のひとつとしてreceptor interacting protein kinase-1(RIPK1)と呼ばれるセリン[[スレオニン]]キナーゼを同定したのを端緒に、その分子機構の解明に飛躍的な進歩がもたらされた7,8。ネクロプトーシスの実行には、RIPK1と相同性を有するRIPK3と呼ばれるキナーゼとその基質であるmixed lineage kinase like (MLKL)が必須であるとされる10。ネクロプトーシスに関与すると考えられてきたRIPK1は、ネクロプトーシスを促進する場合と抑制する場合があることが、最近の組織特異的なRIPK1遺伝子欠損[[マウス]]の解析から明らかになった。ネクロプトーシス実行時には、RIPK1, RIPK3, MLKLを含むNecrosomeと呼ばれるタンパク質複合体が形成される。多量体化しリン酸化により活性化したRIPK3はMLKLをリン酸化し、リン酸化MLKLは細胞膜上で膜孔を形成または細胞膜への[[イオンチャネル]]の配向を介して細胞膜の破裂を引き起こすというモデルが提唱されている27-31。 ネクロプトーシス実行はさまざまな経路を介して生じるが、アポトーシスの制御と密接な関連を持つ。外因性アポトーシス経路活性化刺激が入った際に、カスパーゼ8とFADDが存在すればアポトーシスが実行される。活性化されたカスパーゼ8はRIPK1, RIPK3, CYLDなどのネクロプトーシス誘導に関与する分子を切断、不活性化することでネクロプトーシス誘導をブロックしていると考えられる。逆にカスパーゼ8活性が化合物やウイルス由来の阻害タンパク質あるいは遺伝的欠損により失われた場合、ネクロプトーシスが実行される。同様に、自然[[免疫]]経路であるToll-like receptor (TLR)4やTLR3によってもRIPK3-MLKL依存的なネクロプトーシスが生じる場合があり、パイロトーシスとのクロストークも示唆される。このように、ネクロプトーシス実行は細胞種・状況依存度が高いといえる10。


===パイロトーシス===
===パイロトーシス===

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