「神経経済学」の版間の差分

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英語名:[[neuroeconomics]]<br />
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我々は日常生活の中で、お金や食べ物などの「報酬」に関わる様々な選択問題を解いている。それはどのような脳の働きによるものだろうか?この疑問に答えようとするのが、「神経経済学(ニューロエコノミクス)」である。<br>
我々は日常生活の中で、お金や食べ物などの「報酬」に関わる様々な選択問題を解いている。それはどのような脳の働きによるものだろうか?この疑問に答えようとするのが、「神経経済学(ニューロエコノミクス)」である。
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==神経経済学の成り立ち==
脳科学の分野では、古くから報酬に基づく動物や人間の[[意思決定]]のメカニズムが調べられてきた。その中で、価値や期待値、予測との誤差などの数理的なモデルを脳の情報処理モデルとして仮定し、実験的手法で検証する計算論的アプローチが用いられるようになった。これらのアプローチは始め、脳の情報処理の基本単位である[[神経細胞]](ニューロン)やその回路レベルでの振る舞いを対象にして行われていたが、近年の[[機能的磁気共鳴画像法 (fMRI)]]などの、脳への外科的手術を必要としない、非侵襲的計測手法の発達と普及により、経済的選択などの複雑な問題を解いている時の人間の脳の様子を調べることが容易になってきた。<br>
脳科学の分野では、古くから報酬に基づく動物や人間の[[意思決定]]のメカニズムが調べられてきた。その中で、価値や期待値、予測との誤差などの数理的なモデルを脳の情報処理モデルとして仮定し、実験的手法で検証する計算論的アプローチが用いられるようになった。これらのアプローチは始め、脳の情報処理の基本単位である[[神経細胞]](ニューロン)やその回路レベルでの振る舞いを対象にして行われていたが、近年の[[機能的磁気共鳴画像法 (fMRI)]]などの、脳への外科的手術を必要としない、非侵襲的計測手法の発達と普及により、経済的選択などの複雑な問題を解いている時の人間の脳の様子を調べることが容易になってきた。<br>
伝統的経済学では、経済行動の意思決定は経済人的合理性を持って行われるという仮定を置くので、意思決定のメカニズムはブラックボックスとして扱い、解明しようとはしない。一方、脳科学のアプローチでは、実際の人間の経済行動が生み出される脳の仕組みに注目し、外からは観測できない意思決定のメカニズムを重要視する。つまり、人間本位の経済理論を作るという行動経済学の目指すところを脳の仕組みの解明の側面から探究するものであるといえる。<br>
伝統的経済学では、経済行動の意思決定は経済人的合理性を持って行われるという仮定を置くので、意思決定のメカニズムはブラックボックスとして扱い、解明しようとはしない。一方、脳科学のアプローチでは、実際の人間の経済行動が生み出される脳の仕組みに注目し、外からは観測できない意思決定のメカニズムを重要視する。つまり、人間本位の経済理論を作るという行動経済学の目指すところを脳の仕組みの解明の側面から探究するものであるといえる。<br>
このような背景から、経済学と脳科学は出会い、1990年代後半から2000年代前半にかけて神経経済学という新しい分野が誕生したのである。まとめると、神経経済学とは、経済行動を生み出す脳の働きを、脳科学の手法を用いて解明し、実際の人間の経済行動をより良く説明できるような新しい経済理論を作ろうとする学問である。行動経済学は、初期には心理学実験を主要な手法として経済行動を探究したのであるが、近年になって神経経済学の手法も、従来の手法と補完的に用いられている。ここでは、この新しい分野である神経経済学の歴史的背景と主な研究分野について簡単に解説したい。
このような背景から、経済学と脳科学は出会い、1990年代後半から2000年代前半にかけて神経経済学という新しい分野が誕生したのである。まとめると、神経経済学とは、経済行動を生み出す脳の働きを、脳科学の手法を用いて解明し、実際の人間の経済行動をより良く説明できるような新しい経済理論を作ろうとする学問である。行動経済学は、初期には心理学実験を主要な手法として経済行動を探究したのであるが、近年になって神経経済学の手法も、従来の手法と補完的に用いられている。ここでは、この新しい分野である神経経済学の歴史的背景と主な研究分野について簡単に解説したい。
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==「報酬」に基づく意思決定==
==「報酬」に基づく意思決定==
我々の日常生活を思い浮かべても実感できるように、人間をはじめとする[[動物]]の行動は、食べ物やお金などの「報酬」に大きく左右される。報酬の効果を実験によって確かめたのが、20世紀初頭から行われた動物を用いた一連の条件付け実験である。ロシアの生理学者パブロフは、犬にベルを鳴らすのと同時に、餌を与えることを繰り返すと、ベルを鳴らすだけで犬は唾液を出すようになることを発見した。これは後に古典的条件付けと呼ばれる。また、コロンビア大学のソーンダイクは、レバーを押すと外に出られる仕組みの箱の中に[[ネコ]]を入れ、たまたまレバーを押して箱の外に出てエサを食べることができた、という試行錯誤を繰り返すことで、ネコがレバーを押して外に出るまでの時間が短くなることを発見した<ref name=Thorndike1911>'''Thorndike EL'''<br>[[Animal]] intelligence; experimental studies. <br>''New York: The Macmillan Company.'':1911 [http://dx.doi.org/10.5962/bhl.title.55072 DOI]</ref>。これは後に道具的条件付けと呼ばれる。ハーバード大学のスキナーは、これらの条件付けを定式化し、報酬の効果を、「ある刺激と報酬を伴う反応との間の連合を強め(強化)、その反応の生起確率の増加をもたらす」と定義した。心理学では、報酬のことを「強化因子」とも言う。報酬は、経済学における「インセンティブ(人の意欲を引き出すために、外部から与える刺激)」とほぼ同意であるといえる。
我々の日常生活を思い浮かべても実感できるように、人間をはじめとする[[動物]]の行動は、食べ物やお金などの「報酬」に大きく左右される。報酬の効果を実験によって確かめたのが、20世紀初頭から行われた動物を用いた一連の条件付け実験である。ロシアの生理学者パブロフは、犬にベルを鳴らすのと同時に、餌を与えることを繰り返すと、ベルを鳴らすだけで犬は唾液を出すようになることを発見した。これは後に古典的条件付けと呼ばれる。また、コロンビア大学のソーンダイクは、レバーを押すと外に出られる仕組みの箱の中に[[ネコ]]を入れ、たまたまレバーを押して箱の外に出てエサを食べることができた、という試行錯誤を繰り返すことで、ネコがレバーを押して外に出るまでの時間が短くなることを発見した<ref name=Thorndike1911>'''Thorndike EL'''<br>[[Animal]] intelligence; experimental studies. <br>''New York: The Macmillan Company.'':1911 [http://dx.doi.org/10.5962/bhl.title.55072 DOI]</ref>。これは後に道具的条件付けと呼ばれる。ハーバード大学のスキナーは、これらの条件付けを定式化し、報酬の効果を、「ある刺激と報酬を伴う反応との間の連合を強め(強化)、その反応の生起確率の増加をもたらす」と定義した。心理学では、報酬のことを「強化因子」とも言う。報酬は、経済学における「インセンティブ(人の意欲を引き出すために、外部から与える刺激)」とほぼ同意であるといえる。
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