「超解像蛍光顕微鏡」の版間の差分

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====STED====
====STED====
===Localization Microscopy===
===Localization Microscopy===
[[Image:PALM図8.png|400px|thumb|'''図1 PALMの原理'''<br>①視野内の疎らなPSFPのオン。オン状態のPSFPの位置をグレーの◯で示した。<br>
[[Image:PALM図8.png|400px|thumb|'''図1 PALMの原理'''<br>'''①視野内の疎らなPSFPのオン''' オン状態のPSFPの位置を灰色の◯で示した。<br>
②蛍光一分子画像の取得。主に全反射顕微鏡によって行うが共焦点顕微鏡の利用も可能である。得られる輝点は前述のとおり2次元のPSFに従った広がりを持っている。撮影後は視野内のオン状態のPSFPを全て退色させる(あるいは退色するまで撮影を続ける)。<br>
'''②蛍光一分子画像の取得''' 主に全反射顕微鏡によって行うが共焦点顕微鏡の利用も可能である。得られる輝点は前述のとおり2次元のPSFに従った広がりを持っている。撮影後は視野内のオン状態のPSFPを全て退色させる(あるいは退色するまで撮影を続ける)。<br>
③座標推定による分子の局在画像の構築。これは②の蛍光一分子画像をガウス関数でフィッティングして、蛍光分子の「座標」を推定する事である<ref group="注">フィッティング式、必要なら最後でOK</ref>。さらに、推定座標の「不確かさ」も求められる。座標推定から構築した点は②の相当する点に比べて小さくなるが、この点の輝度も2次元のガウス関数として表現される。ガウス関数の中心が上記のフィッティングにより推定された「座標」、標準偏差が「不確かさ」に相当する<ref group="注">2次元ガウス関数、必要なら最後に</ref>。また、一分子当たりの輝度の合計が等しくなるように規格化される。つまり、精度が高く推定された点は小さく明るい点、精度が低く推定された点は大きく広がった暗い点として局在画像では表現される事になる。<br>
'''③座標推定による分子の局在画像の構築''' ②の蛍光一分子画像をガウス関数で解析する事で、視野内での蛍光分子の「座標」を推定する<ref group="注">フィッティング式、必要なら最後でOK</ref>。また推定座標の「不確かさ」も同時に求められる。座標推定から構築した点の大きさは②の元の点に比べて小さくなるが、一点に決まるわけではなく、この点も2次元のガウス関数の輝度分布で表現される。このガウス関数の中心は解析により推定された「座標」、標準偏差が「不確かさ」になる<ref group="注">2次元ガウス関数、必要なら最後に</ref>。また各一分子の輝度の合計が等しくなるように規格化される。つまり精度が高く推定された点は小さな明るい点として、精度が低く推定された点は大きな暗い点として局在画像では表現される。<br>
④上記①~③操作を全てのPSFPがなくなるまで繰り返した後に、③で得られた画像を全て足し合わせる事で、PALM画像を得る事ができる。<br>
'''④PALM画像の構築''' 上記①~③操作を全てのPSFPがなくなるまで繰り返した後に、③で得られた画像を全て足し合わせる事でPALM画像が得られる<ref group="注">実際は全ての点をPALM画像に入れるのではなく、推定座標の「不確かさ」が大きな点はPALM画像には含めないという選抜が行われる。</ref>。最終的に得られたPALM画像の輝度は「蛍光分子がその位置で見つかる可能性」に比例する。]]
PALM画像の輝度は蛍光分子がその位置で見つかる可能性に比例する。図では比較のために②で得られた画像の総和も示した。これは通常の顕微鏡観察画像に相当する。この例では②の総和では見られなかった「P A L M」の4文字が③の総和では確認できる。]]
====PALM====
光学顕微鏡の空間分解能は先述のとおり、2つの点光源を異なる点として区別する「2点分解能」で表現され、可視光では200-300 nm程度である。しかしながら、隣り合った2点が重ならないほど離れていれば、蛍光一分子のPSFを2次元のガウス関数でフィッティングする事で、条件によっては~1.5 nmの精度で位置を決定できる。この蛍光一分子の正確な位置解析は(FIONA;fluorescence imaging with one-nanometer accuracy)として知られる<ref><pubmed> 12791999 </pubmed></ref>。超解像顕微鏡法の一つであるLocalization microscopy(蛍光一分子局在化顕微鏡法)は、FIONAを利用し光学顕微鏡の分解能を超えた画像を取得する方法である。このアイディアは古くからあったが、実現はされなかった。例えばGFPを発現した細胞にFIONAをそのまま適用する事は以下の点で困難なためである。<br>
1)発現しているGFPの数が多く、隣り合ったGFPのPSFが重なりあってしまう。<br>
2)GFPを重なりが無い程度に発現させるのは非常に困難である。<br>
3)仮に2)ができたとしても、細胞内に数個のGFPの位置を検出したところで分子の局在を知るには情報に乏しい。<br>
蛍光一分子局在化法では、蛍光色素の蛍光能や蛍光色が切り替わる性質を利用してこれらの問題を巧妙に回避した。具体例として蛍光一分子局在化法の一つであるPALM(photoactivated localization microscopy)<ref><pubmed> 16902090 </pubmed></ref>の原理を図解した。PALMでは蛍光色素として、特定波長の刺激光照射により無蛍光から蛍光状態へと変化するPA-GFPや、蛍光色が緑色から赤色に変化するmEOSといった「光スイッチング蛍光タンパク質(Photo-Switchable Fluorescent Protein; PSFP)」を利用する。光スイッチングにより蛍光性が切り替わる確率は刺激光の強度と照射時間におおよそ比例するので、それらをコントロールすることで、PSFが重ならない程度にPSFPをスイッチングさせる事が可能になる(図-①)。この状態でFIONAを適用し、各一分子の位置解析を行う(図-②,③)。視野内のPSFPを退色させた後に、同じ事をPSFPが全てなくなるまで何度も繰り返す。これにより発現させた蛍光分子全ての詳細な局在画像(PALM画像)を得る事ができる。<br>


====その他の蛍光一分子局在化法====
====PALM,FPALM====
蛍光一分子局在化法はPALMの他にも様々な方法が開発されているが、異なるのは図-①においてどのように蛍光一分子を疎らにオンするかだけであり、FIONAに相当する図-②,③の操作はほぼ同じと考えて良い。そこで、PALM以外の主な蛍光一分子局在化法に関しては以下に簡潔に記載する。<br>
光学顕微鏡の空間分解能は先述のとおり、2つの点光源を異なる点として区別する「2点分解能」で表現され、可視光では200-300 nm程度である。しかしながら、隣り合った2点が重ならないほど離れていれば、蛍光一分子のPSFを2次元のガウス関数で解析する事で、条件によっては1 nm程の精度で位置を決定できる。この蛍光一分子の正確な位置解析は(FIONA;fluorescence imaging with one-nanometer accuracy)として知られる<ref><pubmed> 12791999 </pubmed></ref>。超解像顕微鏡法の一つであるLocalization microscopy(蛍光一分子局在化顕微鏡法)は、FIONAを利用し光学顕微鏡の分解能を超えた画像を取得する方法である。このような考えに基づいて超解像を達成するというアイディアは古くからあったが<ref><pubmed> 19859146 </pubmed></ref>、理想的なサンプルを準備するのが困難なため実現はされなかった。例えば単純にGFP融合タンパク質を発現した細胞にFIONAを適用するのは、多くの場合で以下の様な問題が生じる。<br>
FPALM(Fluorescence photoactivation localization microscopy)<ref><pubmed> 16980368 </pubmed></ref>、STORM(stochastic optical reconstruction microscopy)<ref><pubmed> 16896339 </pubmed></ref>はPALMとほぼ同時期に発表された。FPALMではPALMと同じくPSFPを利用している。STORMでは蛍光色素がある条件下で暗状態と蛍光状態を可逆的に遷移する現象を利用している。具体的には、シアニン系色素(例えばCy5)に強い励起光(赤色)を与えた際に、寿命の非常に長い暗状態に入る<ref group="注">三重項を経た暗状態で寿命が1時間程度とされる。三重項のクエンチャーとして働く酸素分子は暗状態への遷移を阻害する。また、この暗状態はチオールとの結合により起こる。</ref><ref><pubmed> 15783528 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19961226 </pubmed></ref>。この暗状態において、より蛍光波長の短い別のシアニン系色素(例えばCy3)が近接している際にその励起光(緑色)を当てる事で蛍光状態への回復が起こるため、これを疎らな蛍光一分子のオンへと応用できる<ref><pubmed> 15783528 </pubmed></ref>。STORMではそのため2色の蛍光色素、2波長の光源を必要とするが、その後に報告されたdSTORM (direct STORM)<ref><pubmed> 18646237 </pubmed></ref>やGSDIM(ground-state depletion  
 1)発現しているGFPの数が多く、隣り合ったGFPのPSFが重なりあってしまうためFIONAを適用できない。<br>
and single-molecule return)<ref><pubmed> 18794861 </pubmed></ref>では、暗状態からの回復が別の蛍光色素の近接やその励起光無しでも非常に稀に起こる事を利用し、2つ以上の異なる蛍光色素をオン、オフさせる事が容易となりマルチカラー化への道を開いた。<br>
 2)PSFの重なりが無い程度にGFPを少なく発現させるのは非常に困難である。<br>
蛍光一分子局在化法のための蛍光色素の開発は現在も活発にされており、最近になり、自然に明滅を繰り返す蛍光色素HMSiR(Hydroxymethyl Si-rhodamine)が開発された<ref><pubmed> 25054937 </pubmed></ref>。これは高濃度のチオールや暗状態を作るための強い励起光照射が不要なため、サンプルへのダメージを最小限に抑えられるといったメリットが有る。
 3)仮に2)が達成できたとしても、わずか数個のGFPの位置を正確に検出したところで細胞内の分子の局在を知るための情報としては不十分である。<br>
蛍光一分子局在化法では、蛍光色素の蛍光能や蛍光色が切り替わる性質を利用してこれらの問題を巧妙に回避した。具体例として蛍光一分子局在化法の一つであるPALM(photoactivated localization microscopy)<ref><pubmed> 16902090 </pubmed></ref>の原理を図解した。PALMでは蛍光色素として特定波長の刺激光照射により無蛍光から蛍光状態へと変化するPA-GFPや蛍光色が緑色から赤色に変化するmEOSといった「光スイッチング蛍光タンパク質(Photo-Switchable Fluorescent Protein; PSFP)」を利用する。光スイッチングにより蛍光性が切り替わる確率は刺激光の強度と照射時間におおよそ比例するので、それらをコントロールすることで、PSFが重ならない程度にPSFPをオフからオンにスイッチングさせられる(図-①)。この状態であればFIONAを適用し蛍光一分子の位置解析を行う事ができる(図-②,③)。視野内のPSFPを退色させた後に同じ事をPSFPが全てなくなるまで何度も繰り返す。こうして発現させた蛍光分子全ての詳細な局在画像(PALM画像)を得る事ができる。図では比較のために②で得られた画像の総和も示した。これは通常の蛍光画像に相当する。通常の蛍光画像では観られなかった「P A L M」の4文字がPALM画像では確認できる。<br>
PALMと同時期に発表されたFPALM(Fluorescence photoactivation localization microscopy)<ref><pubmed> 16980368 </pubmed></ref>もPALMと同じくPSFPを利用してた方法である。<br>
蛍光一分子局在化法はPALM・FPALMの他にも様々な方法が開発されているが、異なるのは図-①においてどのように蛍光一分子を疎らにオンするかだけであり、FIONAに相当する図-②,③の操作はどの方法も同様である。そこで、その他の方法については本項目以下で簡潔に述べる。<br>
 
====STORM====
STORM(stochastic optical reconstruction microscopy)<ref><pubmed> 16896339 </pubmed></ref>もPALM・FPALMとほぼ同時期に発表された。STORMでは蛍光色素がある条件下で暗状態(オフ)と蛍光状態(オン)を可逆的に遷移する現象を利用している。具体的には、シアニン系色素(例:Cy5)に強い励起光(赤色)を与えた際に、寿命の非常に長い暗状態に入る<ref group="注">三重項を経た暗状態で寿命が1時間程度とされる。三重項のクエンチャーとして働く酸素分子は暗状態への遷移を阻害する。また、この暗状態はチオールとの結合により起こる。</ref><ref><pubmed> 15783528 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19961226 </pubmed></ref>。この暗状態において、より蛍光波長の短い別のシアニン系色素(例:Cy3)が近接している際にその励起光(緑色)を当てる事で蛍光状態への回復が起こるため、これを疎らな蛍光一分子のオンへと応用できる<ref><pubmed> 15783528 </pubmed></ref>。<br>
 
====dSTORM,GSDIM====
STORMでは超解像画像を一つ撮るために2つの蛍光色素を使うため、マルチカラー化が容易ではなかった。その後に報告されたdSTORM (direct STORM)<ref><pubmed> 18646237 </pubmed></ref>やGSDIM(ground-state depletion  
and single-molecule return)<ref><pubmed> 18794861 </pubmed></ref>ではこの問題が解決された。これらの方法では、蛍光色素の暗状態からの回復が別の蛍光色素の近接や励起光無しでも非常に稀に起こる事を利用して視野内の蛍光分子を疎らにオンにする。1つの蛍光色素で超解像画像が得られるようになりマルチカラー化が容易となった。<br>
 
====その他====
蛍光一分子局在化法のための蛍光色素の開発は現在も活発にされている。近年、自然に明滅を繰り返す蛍光色素HMSiR(Hydroxymethyl Si-rhodamine)が開発された<ref><pubmed> 25054937 </pubmed></ref>。これは従来の方法と比べて暗状態を作るための高濃度のチオールや強い励起光照射が不要なため、サンプルへのダメージを最小限に抑えられる。
==注釈==
==注釈==
<references group="注" />
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==参考文献==
==参考文献==
<references />
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