「臨界期」の版間の差分

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 臨界期は、大きく2つの時期に分けられる。1つ目は、遺伝子設計図に従い伸展した神経回路が、早期の神経活動により機能的に刈り込まれる臨界期、2つ目は、個体が独自の経験、刺激を継続的に受けることにより、既存の神経回路が再編される臨界期である。前者の神経回路の刈り込みには、回路で使用される[[神経伝達物質]]とその[[受容体]]の[[シグナル伝達]]系の役割が重要である。さらに、出生による[[セロトニン]]量の減少や、[[C1q補体ファミリー]]などの[[wikipedia:ja:免疫|免疫]]系因子が軸索の分離や刈り込みに関与することが示唆されている<ref name=ref5 />。
 臨界期は、大きく2つの時期に分けられる。1つ目は、遺伝子設計図に従い伸展した神経回路が、早期の神経活動により機能的に刈り込まれる臨界期、2つ目は、個体が独自の経験、刺激を継続的に受けることにより、既存の神経回路が再編される臨界期である。前者の神経回路の刈り込みには、回路で使用される[[神経伝達物質]]とその[[受容体]]の[[シグナル伝達]]系の役割が重要である。さらに、出生による[[セロトニン]]量の減少や、[[C1q補体ファミリー]]などの[[wikipedia:ja:免疫|免疫]]系因子が軸索の分離や刈り込みに関与することが示唆されている<ref name=ref5 />。


 後者の臨界期には、眼優位性可塑性の研究から、回路で使用される神経伝達物質/受容体や片眼遮蔽により活性化される因子([[tPA]]など)に加え、興奮-抑制[[バランス]]が重要であることが分かってきている。未熟な脳では[[興奮性]]活動が相対的に強いが、抑制機能が発達して自発発火が抑えられ、視覚入力による発火が顕著になると眼優位性の臨界期が活性化される。
 後者の臨界期には、眼優位性可塑性の研究から、回路で使用される神経伝達物質/受容体や片眼遮蔽により活性化される因子([[組織プラスミノーゲン活性化因子]] ([[tissue plasminogen activator]][[tPA]])など)に加え、[[興奮-抑制バランス]]が重要であることが分かってきている。未熟な脳では興奮性活動が相対的に強いが、抑制機能が発達して自発発火が抑えられ、視覚入力による発火が顕著になると眼優位性の臨界期が活性化される。


 抑制性[[介在ニューロン]]のなかでも、[[パルブアルブミン]]陽性細胞の機能発達が臨界期を制御する鍵と考えられる<ref><pubmed>19907494</pubmed></ref>。臨界期の可塑性の高まりは、[[興奮-抑制バランス]]が入力に応じて柔軟に変化する時期に見られ、特に、優位な入力をより多く受け取るように抑制機能が作用する。さらに、興奮-抑制性バランスが固定化されると、臨界期が終わると推測される<ref><pubmed>23975100</pubmed></ref>。パルブアルブミン陽性細胞の機能発達に関与する分子([[GAD65]]、[[BDNF]]、[[Otx2]]、[[NARP]])を欠損したマウスでは、臨界期が誘導されない<ref name=ref4 /><ref name=ref9><pubmed>18692473</pubmed></ref><ref><pubmed>23889936</pubmed></ref>。また細胞形態や抑制機能の固定化に関与する分子([[Nogo受容体]]、[[コンドロイチン硫酸プロテオグリカン]]、[[Lynx1]])を欠損したマウスでは、臨界期が終わらないことが示唆されている<ref><pubmed>21068299</pubmed></ref>。
 抑制性[[介在ニューロン]]のなかでも、[[パルブアルブミン]]陽性細胞の機能発達が臨界期を制御する鍵と考えられる<ref><pubmed>19907494</pubmed></ref>。臨界期の可塑性の高まりは、興奮-抑制バランスが入力に応じて柔軟に変化する時期に見られ、特に、優位な入力をより多く受け取るように抑制機能が作用する。さらに、興奮-抑制バランスが固定化されると、臨界期が終わると推測される<ref><pubmed>23975100</pubmed></ref>。パルブアルブミン陽性細胞の機能発達に関与する分子([[GAD65]]、[[BDNF]]、[[Otx2]]、[[NARP]])を欠損したマウスでは、臨界期が誘導されない<ref name=ref4 /><ref name=ref9><pubmed>18692473</pubmed></ref><ref><pubmed>23889936</pubmed></ref>。また細胞形態や抑制機能の固定化に関与する分子([[Nogo受容体]]、[[コンドロイチン硫酸プロテオグリカン]]、[[Lynx1]])を欠損したマウスでは、臨界期が終わらないことが示唆されている<ref><pubmed>21068299</pubmed></ref>。


 一方で、方位選択性の臨界期には、抑制性介在ニューロンの発達よりもむしろ[[興奮性シナプス]]の可塑性が重要である。[[GAD65]]やOtx2の欠損マウスでは方位選択性が正常に形成されるのに対し、[[NR2A]][[GluRε1]])や[[PSD-95]]の欠損マウスでは、眼優位性可塑性の異常よりも、方位選択性の形成不全のほうが顕著に見られる<ref name=ref4 /><ref name=ref9/>。ほぼ同時期に同じ視覚野において見られる臨界期でも、回路によって可塑性のメカニズムは異なることが示唆される。
 一方で、方位選択性の臨界期には、抑制性介在ニューロンの発達よりもむしろ[[興奮性シナプス]]の可塑性が重要である。GAD65やOtx2の欠損マウスでは方位選択性が正常に形成されるのに対し、GluN2A ([[NR2A]], [[GluRε1]])や[[PSD-95]]の欠損マウスでは、眼優位性可塑性の異常よりも、方位選択性の形成不全のほうが顕著に見られる<ref name=ref4 /><ref name=ref9/>。ほぼ同時期に同じ視覚野において見られる臨界期でも、回路によって可塑性のメカニズムは異なることが示唆される。


==参考文献==
==参考文献==
<references/>
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