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''東京大学大学院医学系研究科医学部''<br> | ''東京大学大学院医学系研究科医学部''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年1月14日 原稿完成日:2016年月日<br> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年1月14日 原稿完成日:2016年月日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター [ | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター [脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br> | ||
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===興奮性シナプスの刈り込み=== | ===興奮性シナプスの刈り込み=== | ||
[[image:シナプス刈り込み1.png|thumb|350px|'''図1.マウスの登上線維—プルキンエ細胞シナプスの刈り込み''']] | |||
====小脳の登上線維—プルキンエ細胞シナプス==== | ====小脳の登上線維—プルキンエ細胞シナプス==== | ||
中枢神経系において、シナプス刈り込みが観察される代表例として、延髄の下オリーブ核からの[[軸索]]である登上線維とその投射先である[[小脳]][[プルキンエ細胞]]の間のシナプス結合がある1)。生まれたばかりの動物のプルキンエ細胞では、5本以上の弱い登上線維がプルキンエ細胞の細胞体にシナプスを形成しているが(図1)、大人の動物ではわずか一本の強力な登上線維が、細胞体から張り出した樹状突起にシナプスを形成している(図1)。登上線維は、最初プルキンエ細胞の細胞体にシナプスを形成する。登上線維がプルキンエ細胞体上にある間に、登上線維間で入力強度(プルキンエ細胞にどれだけ大きなシナプス応答を引き起こすことができるか)に差が生じてくる2)。すなわち強い登上線維(勝者)と弱い登上線維(敗者)の選別はシナプスが細胞体にある間に始まる。この入力強度の違いは、各々の登上線維がどれだけ多くのシナプスをプルキンエ細胞に形成しているかという、量的な違いだけでなく、[[シナプス前終末]]からの[[グルタミン酸]]放出の特性という質的な違いも含んでいる。即ち、伝達物質の素量サイズや伝達物質の放出確率に違いはないが、「勝者」の登上線維では、複数の[[シナプス小胞]]が同時に放出される(multivesicular release)確率が、「敗者」の登上線維に比べて高いことが知られている2)。勝者と敗者の選別の後、勝者の登上線維のみが樹状突起に移動することができ、それ以外の敗者の登上線維は細胞体に取り残され、[[マウス]]では生後3週目までにそのほとんどが除去される3)。 | 中枢神経系において、シナプス刈り込みが観察される代表例として、延髄の下オリーブ核からの[[軸索]]である登上線維とその投射先である[[小脳]][[プルキンエ細胞]]の間のシナプス結合がある1)。生まれたばかりの動物のプルキンエ細胞では、5本以上の弱い登上線維がプルキンエ細胞の細胞体にシナプスを形成しているが(図1)、大人の動物ではわずか一本の強力な登上線維が、細胞体から張り出した樹状突起にシナプスを形成している(図1)。登上線維は、最初プルキンエ細胞の細胞体にシナプスを形成する。登上線維がプルキンエ細胞体上にある間に、登上線維間で入力強度(プルキンエ細胞にどれだけ大きなシナプス応答を引き起こすことができるか)に差が生じてくる2)。すなわち強い登上線維(勝者)と弱い登上線維(敗者)の選別はシナプスが細胞体にある間に始まる。この入力強度の違いは、各々の登上線維がどれだけ多くのシナプスをプルキンエ細胞に形成しているかという、量的な違いだけでなく、[[シナプス前終末]]からの[[グルタミン酸]]放出の特性という質的な違いも含んでいる。即ち、伝達物質の素量サイズや伝達物質の放出確率に違いはないが、「勝者」の登上線維では、複数の[[シナプス小胞]]が同時に放出される(multivesicular release)確率が、「敗者」の登上線維に比べて高いことが知られている2)。勝者と敗者の選別の後、勝者の登上線維のみが樹状突起に移動することができ、それ以外の敗者の登上線維は細胞体に取り残され、[[マウス]]では生後3週目までにそのほとんどが除去される3)。 |