16,039
回編集
細 (→参考文献) |
細編集の要約なし |
||
29行目: | 29行目: | ||
| species = '''''D. melanogaster''''' | | species = '''''D. melanogaster''''' | ||
| binomial = ''Drosophila melanogaster'' | | binomial = ''Drosophila melanogaster'' | ||
| binomial_authority = [[Johann Wilhelm Meigen|Meigen]], 1830<ref> | | binomial_authority = [[Johann Wilhelm Meigen|Meigen]], 1830<ref>'''Meigen JW'''<br>Systematische Beschreibung der bekannten europäischen zweiflügeligen Insekten. (Volume 6)<br>''Schulz-Wundermann'' 1830 [https://dlib.stanford.edu:6521/text1/dd-ill/insekten6.pdf PDF]</ref> | ||
}} | }} | ||
35行目: | 35行目: | ||
[[wikipedia:ja:昆虫網|昆虫網]]、[[wikipedia:ja:双翅目|双翅目]]に属する[[wikipedia:ja:ショウジョウバエ科|ショウジョウバエ科]]には2000種以上の種が存在するが、このうち一般にショウジョウバエと呼ばれるものはキイロショウジョウバエである。 | [[wikipedia:ja:昆虫網|昆虫網]]、[[wikipedia:ja:双翅目|双翅目]]に属する[[wikipedia:ja:ショウジョウバエ科|ショウジョウバエ科]]には2000種以上の種が存在するが、このうち一般にショウジョウバエと呼ばれるものはキイロショウジョウバエである。 | ||
[[wikipedia:ja:完全変態|完全変態]] | [[wikipedia:ja:完全変態|完全変態]]昆虫で、摂氏25度では、胚期(1日)、1齢[[wj:幼虫|幼虫]]期(1日)、2齢幼虫期(1日)、3齢幼虫期(2日)、[[wj:蛹|蛹]]期(5日)を経て約10日で[[wj:成虫|成虫]]になる。体長が小さく(成虫で3mm)、飼育が容易で、世代期間が短いことから、遺伝学的解析に適している。また、遺伝的組換えを抑制する[[wikipedia:ja:バランサー染色体|バランサー染色体]]を用いて[[wj:突然変異体|突然変異体]]を安定に継代維持することができるのも大きな利点である。神経細胞の数は幼虫で約1万、成虫で10万程度。 | ||
== よく用いられる遺伝学的手法 == | == よく用いられる遺伝学的手法 == | ||
遺伝子機能を解析する際には、遺伝子機能を欠失させたときにどのような影響([[wj:表現型|表現型]])がでるのか、逆に遺伝子を本来発現していない時間や場所(組織や細胞)に強制的に発現させたときにどのような影響がでるのかを調べるのが一般的である。以下に、ショウジョウバエにおいてこれらの解析がどのように達成されているのかを歴史的背景も含め概説する。また、クローン解析と呼ばれる特定の組織や細胞のみに変異を誘導する手法についても解説する。 | |||
=== 機能欠失型変異 === | === 機能欠失型変異 === | ||
45行目: | 45行目: | ||
1976年には[[トランスポゾン]][[P因子]]が発見され、個体への遺伝子導入が可能になるとともに、突然変異の原因遺伝子のクローニングが一挙に進んだ。さらに2000年頃に完了した[[wikipedia:ja:ゲノム|ゲノム]]解読後、P因子挿入部位のマッピングが進み、現在では60%以上の遺伝子についてデータベースを[[検索]]するだけでP因子挿入の変異体を得ることができる。さらに再転移法を用いて近傍のP因子から欠失変異体を得ることができるので、P因子を頼りに大多数の遺伝子の機能欠失体を得ることが可能となっている。 | 1976年には[[トランスポゾン]][[P因子]]が発見され、個体への遺伝子導入が可能になるとともに、突然変異の原因遺伝子のクローニングが一挙に進んだ。さらに2000年頃に完了した[[wikipedia:ja:ゲノム|ゲノム]]解読後、P因子挿入部位のマッピングが進み、現在では60%以上の遺伝子についてデータベースを[[検索]]するだけでP因子挿入の変異体を得ることができる。さらに再転移法を用いて近傍のP因子から欠失変異体を得ることができるので、P因子を頼りに大多数の遺伝子の機能欠失体を得ることが可能となっている。 | ||
さらに、[[RNAi]] | さらに、[[RNAi]]による遺伝子機能[[ノックダウン]]を可能にする系統(UAS-RNAi)もほとんどすべての遺伝子について利用可能である。RNAiの場合、遺伝子機能を完全には阻害することができないという問題がある一方で、下記の[[Gal4-UASシステム]]と組み合わせることで、特定の細胞においてのみ遺伝子機能を阻害できるという利点がある。一方、[[マウス]]で用いられる[[相同組み替え]]のように特定の遺伝子を狙って欠失変異体を作成する手法は長年存在せず、遺伝学モデルとしての弱点のひとつであったが、組換え酵素[[FLP]]を利用して相同組換えを誘導する系が最近開発された。さらにごく最近では[[ゲノム編集]]を用いることで、より効率的に変異体を作成することが可能となっている。 | ||
=== 機能獲得型変異 === | === 機能獲得型変異 === | ||
62行目: | 62行目: | ||
=== 神経行動学 === | === 神経行動学 === | ||
[[wj:シーモア・ベンザー|S. Benzer]]が開拓した行動遺伝学は多数の変異体のなかから特定の行動に異常をもたらすものを単離することで、遺伝子の機能と動物行動との因果を明らかにした。有名な例として、[[概日周期]]の制御に関わる[[period]]遺伝子、[[記憶]]・[[学習]]に関わる[[dunce]]遺伝子があげられる。また、[[fruitless]]など[[求愛行動]]に関わる変異の研究は脳の性差の理解につながった。 | |||
=== 機能生理学 === | === 機能生理学 === | ||
68行目: | 68行目: | ||
== 最近の研究動向 == | == 最近の研究動向 == | ||
米国の[[wikipedia:Janelia Research Campus|Janelia研究所]]を中心に単一の神経細胞種において特異的に発現を誘導するGal4系統が拡充されており、大量のGal4系統を用いた解剖学的脳マッピングが進行している。また[[オプトジェネティクス]] | 米国の[[wikipedia:Janelia Research Campus|Janelia研究所]]を中心に単一の神経細胞種において特異的に発現を誘導するGal4系統が拡充されており、大量のGal4系統を用いた解剖学的脳マッピングが進行している。また[[オプトジェネティクス]]を用い、特定の神経細胞の活動を促進もしくは阻害したときの動物行動や回路の挙動への影響を調べる研究も盛んに行われている。成虫の脳部位や幼虫の全[[中枢神経系]]において、[[コネクトミクス]]解析(連続[[切片]]電子顕微鏡画像三次元再構築)による回路構造決定のプロジェクトも進行している。[[カルシウムイメージング]]や[[パッチクランプ法]]を用いて神経活動を測定する研究も急増している。 | ||
以上のような革新的技術を組み合わせて、感覚情報処理、記憶学習や行動制御の仕組みを回路レベルで理解しようとするシステム神経科学が急ピッチで展開している。また、[[アルツハイマー病]]や[[パーキンソン病]]などの[[モデル動物]]が作成されるなど、[[精神神経疾患]]のハイスループットモデル系としても活用されている。 | 以上のような革新的技術を組み合わせて、感覚情報処理、記憶学習や行動制御の仕組みを回路レベルで理解しようとするシステム神経科学が急ピッチで展開している。また、[[アルツハイマー病]]や[[パーキンソン病]]などの[[モデル動物]]が作成されるなど、[[精神神経疾患]]のハイスループットモデル系としても活用されている。 | ||
85行目: | 85行目: | ||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<REFERENCES /> | <REFERENCES /> | ||
<br> | |||
:2. 神経科学研究において用いられる遺伝学的手法について<pubmed>22017985</pubmed> | |||
: | :3. 神経科学における代表的研究について<br><pubmed>20383202</pubmed> | ||
: | :4. オプトジェネティクスなどの新技術を用いた行動解析について<br><pubmed> 22285110 </pubmed> | ||