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==診断と分類== | ==診断と分類== | ||
[[DSM-Ⅳ]]-TRでは解離を「[[意識]]、[[記憶]]、[[同一性]]、または周囲の[[知覚]]についての、通常は統合されている機能の破綻(disruption)」<ref name=ref1>American Psychiatric Association Diagnostic and statistical manual of mental disorders (4th ed.), Text Revision (DSM-IV-TR)<br>Washington, DC, 1994<br>('''高橋三郎、大野裕、染矢俊幸訳'''<br>DSM-Ⅳ-TR精神疾患の診断・統計マニュアル 新訂版<br>''医学書院''、2004)</ref>と定義していたが、[[DSM-5]]は、解離症群の特徴を「意識、記憶、同一性、[[情動]]、知覚、[[身体表象]]、[[運動制御]]、行動の正常な統合における破綻(disruption)および/または不連続(discontinuity)」としている<ref name=ref2>American Psychiatric Association Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed.)<br> Washington, DC, 2013<br>('''高橋三郎、大野 裕監訳'''<br>DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル<br>医学書院、2014)</ref>。[[ICD-10]]では、運動機能や[[感覚]]の喪失、[[けいれん]]などの身体症状も解離症状に含め、解離性(転換性)障害は[[転換性障害]]を含んでより広い概念となっている。またDSM- | [[DSM-Ⅳ]]-TRでは解離を「[[意識]]、[[記憶]]、[[同一性]]、または周囲の[[知覚]]についての、通常は統合されている機能の破綻(disruption)」<ref name=ref1>American Psychiatric Association Diagnostic and statistical manual of mental disorders (4th ed.), Text Revision (DSM-IV-TR)<br>Washington, DC, 1994<br>('''高橋三郎、大野裕、染矢俊幸訳'''<br>DSM-Ⅳ-TR精神疾患の診断・統計マニュアル 新訂版<br>''医学書院''、2004)</ref>と定義していたが、[[DSM-5]]は、解離症群の特徴を「意識、記憶、同一性、[[情動]]、知覚、[[身体表象]]、[[運動制御]]、行動の正常な統合における破綻(disruption)および/または不連続(discontinuity)」としている<ref name=ref2>American Psychiatric Association Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed.)<br> Washington, DC, 2013<br>('''高橋三郎、大野 裕監訳'''<br>DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル<br>医学書院、2014)</ref>。[[ICD-10]]では、運動機能や[[感覚]]の喪失、[[けいれん]]などの身体症状も解離症状に含め、解離性(転換性)障害は[[転換性障害]]を含んでより広い概念となっている。またDSM-5の日本語版では、それまでの解離性障害を解離症とすることが提案され、従来の解離性障害と併記されている。以下では解離症と表記するが、特にDSM-5以前の解離性障害ないしはその下位分類に言及するときは解離性障害とする。 | ||
DSM- | DSM-5では、それまでのDSM-Ⅳと異なり、解離の定義として、前述の通り、身体表象、運動制御、行動が加わり、解離がより広範囲の領域に拡大された。これは、身体症状を呈する変換症を解離性障害に含めているICD-10の定義を若干取り入れた形になっており、臨床の実際に沿った変更であるといえるが、変換症/転換性障害と解離症の関係に曖昧さを残すことにもなった。また、DSM-5の解離の定義は、DSM-Ⅳの「統合の破綻」から「統合の破綻と不連続性、またはそのどちらか」に変更され、主観的で細かい解離体験を含むようになった。 | ||
また解離症状は、a) 主観的体験の連続性喪失を伴った、意識と行動へ意図せずに生じる侵入(すなわち、同一性の断片化、[[離人感]]、[[現実感]]消失といった「陽性」の解離症状)、および/または、b) 通常は容易であるはずの情報の利用や精神機能の制御の不能(例:健忘のような「陰性」の解離症状)に分けられる。離人感や現実感消失を陽性とし健忘を陰性の解離症状とすることの妥当性については、今後の課題であろう。 | また解離症状は、a) 主観的体験の連続性喪失を伴った、意識と行動へ意図せずに生じる侵入(すなわち、同一性の断片化、[[離人感]]、[[現実感]]消失といった「陽性」の解離症状)、および/または、b) 通常は容易であるはずの情報の利用や精神機能の制御の不能(例:健忘のような「陰性」の解離症状)に分けられる。離人感や現実感消失を陽性とし健忘を陰性の解離症状とすることの妥当性については、今後の課題であろう。 | ||
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|2つまたはそれ以上の、他とははっきりと区別される[[パーソナリティ]]状態によって特徴づけられた同一性の破綻である。文化によっては[[憑依体験]]と記述される。症候は他の人によって観察される場合もあれば、本人から報告される場合もある。解離性健忘を伴う。 | |2つまたはそれ以上の、他とははっきりと区別される[[パーソナリティ]]状態によって特徴づけられた同一性の破綻である。文化によっては[[憑依体験]]と記述される。症候は他の人によって観察される場合もあれば、本人から報告される場合もある。解離性健忘を伴う。 | ||
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|'''離人感・現実感消失症''' | |'''離人感・現実感消失症''' | ||
|自らの考え、感情、感覚、身体、または行為について、非現実、離脱、または外部の傍観者であると感じる体験(離人感)や、周囲に対して非現実または離脱の体験(現実感消失)が持続的または反復的にみられる。[[現実検討]]は正常に保たれている。 | |自らの考え、感情、感覚、身体、または行為について、非現実、離脱、または外部の傍観者であると感じる体験(離人感)や、周囲に対して非現実または離脱の体験(現実感消失)が持続的または反復的にみられる。[[現実検討]]は正常に保たれている。 | ||
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#長期および集中的な威圧的説得による同一性の混乱 | #長期および集中的な威圧的説得による同一性の混乱 | ||
#ストレスの強い出来事に対する急性解離反応 | #ストレスの強い出来事に対する急性解離反応 | ||
#[[解離性トランス]] | #[[解離性トランス]] | ||
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|'''特定不能の解離症''' | |'''特定不能の解離症''' | ||
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症状評価方法は[[自記式質問紙法]]と[[構造化面接法]]に大きく分けられる。一般に自記式質問紙法は簡便であるが診断の精度は構造化面接に劣る。一方で、構造化面接では直接の交流から得られる情報が多いが、評価に時間を要すること、被面接者の負担が大きいなどの問題がある。 | 症状評価方法は[[自記式質問紙法]]と[[構造化面接法]]に大きく分けられる。一般に自記式質問紙法は簡便であるが診断の精度は構造化面接に劣る。一方で、構造化面接では直接の交流から得られる情報が多いが、評価に時間を要すること、被面接者の負担が大きいなどの問題がある。 | ||
=== | ===自記式質問紙=== | ||
もっともよく用いられているのは28項目からなる[[解離体験尺度]](Dissociative Experiences Scale,DES)<ref name=ref6>'''Carlson ER and Putnam FW'''<br>An update on the Dissociative Experiences Scale. <br>''Dissociation'': 1993, 6; 6-27</ref> | もっともよく用いられているのは28項目からなる[[解離体験尺度]](Dissociative Experiences Scale,DES)<ref name=ref6>'''Carlson ER and Putnam FW'''<br>An update on the Dissociative Experiences Scale. <br>''Dissociation'': 1993, 6; 6-27</ref>である。これは日常的な解離から病的な解離まで解離の連続性を想定して作成されている。自記式の質問紙に回答できない児童に対しては、他者評定で解離をとらえる20項目の[[Child Dissociation Checklist]](CDC)がある<ref name=ref7><pubmed> 8287286</pubmed></ref>。これらは解離症のスクリーニングに用いられることが多い。 | ||
Dellによる[[multidimensional Inventory for Dissociation]] | Dellによる[[multidimensional Inventory for Dissociation]](MID)は218項目からなる自記式質問紙があるが、その実施には約1時間かかる<ref name=ref5 />。 | ||
===構造化面接法=== | ===構造化面接法=== | ||
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解離症や外傷ストレスによる病態で特徴的なのは分離して不連続な自己状態である。こうした解離症の病態メカニズムについては、神経生理学研究、神経内[[分泌]]研究、脳画像研究など多くの報告がなされているが、いまだ十分にはわかっていない。 | 解離症や外傷ストレスによる病態で特徴的なのは分離して不連続な自己状態である。こうした解離症の病態メカニズムについては、神経生理学研究、神経内[[分泌]]研究、脳画像研究など多くの報告がなされているが、いまだ十分にはわかっていない。 | ||
脳の[[ | 脳の[[大脳新皮質]]、[[辺縁系]]、[[脳幹]]は互いに関連し合っており、眼窩前頭皮質は、[[視床下部]]、[[扁桃体]]、脳幹などとも連絡し、自律神経系を調整する。 | ||
解離症では、心的外傷により大脳皮質と脳幹の統合、左右大脳半球の統合が妨げられた結果、トップダウンやボトムアップの過程の統合不全により、感覚入力、情動、思考などに問題が生じるという<ref name=ref10>'''Lanius UF, Paulsen SL, Corrigan FM'''<br>Dissociation: cortical differentiation and the loss of self.<br>In (Lanius UF, Paulsen SL, Corrigan FM Eds.) Neurobiology and treatment of traumatic dissociation: toward an embodied self. <br>''Springer Publishing Company'', 5-28, 2014</ref>。 | |||
Allan Score<ref name=ref11>'''Schore AN'''<br>Attachment trauma and the developing right brain: Origins of pathological dissociation. <br>In: P. F. Dell & J. F. O’Neil (Eds.)<br>Dissociation and the dissociative disorders: DSM-V and beyond (pp. 107–141)<br>New York: '''Routledge''', 2009</ref>によれば、外傷を含んだ早期の[[アタッチメント体験]]はとりわけ右脳と辺縁系に衝撃を与える。そのため右半球における皮質と皮質下辺縁領域との間の垂直的なつながりに障害がみられ、さらに情動調整のための[[迷走神経]]回路を上位の皮質辺縁系が調整することができなくなる。こうしたことが解離の症候学に反映されているという。 | Allan Score<ref name=ref11>'''Schore AN'''<br>Attachment trauma and the developing right brain: Origins of pathological dissociation. <br>In: P. F. Dell & J. F. O’Neil (Eds.)<br>Dissociation and the dissociative disorders: DSM-V and beyond (pp. 107–141)<br>New York: '''Routledge''', 2009</ref>によれば、外傷を含んだ早期の[[アタッチメント体験]]はとりわけ右脳と辺縁系に衝撃を与える。そのため右半球における皮質と皮質下辺縁領域との間の垂直的なつながりに障害がみられ、さらに情動調整のための[[迷走神経]]回路を上位の皮質辺縁系が調整することができなくなる。こうしたことが解離の症候学に反映されているという。 |