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Yoheiokubo (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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小胞体内腔へのCa<sup>2+</sup>取り込みを担うCa<sup>2+</sup>ポンプは、筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼ(sarco/endoplasmic reticulum Ca<sup>2+</sup>-ATPase; SERCA)である。SERCAは小胞体膜に局在し、ATPを 分解することによってCa<sup>2+</sup>を濃度勾配に逆らい取り込む<ref><pubmed> 8388268 </pubmed></ref>。SERCAの活性は細胞質Ca<sup>2+</sup>の除去によるCa<sup>2+</sup>シグナル形成のみならず、小胞体内腔の高いCa<sup>2+</sup>濃度の維持に不可欠である。実際にタプシガルギンなどのSERCA阻害薬を処置することで、小胞体内腔のCa<sup>2+</sup>濃度が大きく減少する(Ca<sup>2+</sup>枯渇)。Ca<sup>2+</sup>枯渇により、小胞体膜上のSTIM1を介して細胞膜のCa<sup>2+</sup>チャネルOraiが活性化される(容量依存性Ca<sup>2+</sup>流入)。これは小胞体内腔のCa<sup>2+</sup>濃度を維持するための恒常性機構であると期待される<ref><pubmed> 22914293 </pubmed></ref>。 | 小胞体内腔へのCa<sup>2+</sup>取り込みを担うCa<sup>2+</sup>ポンプは、筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼ(sarco/endoplasmic reticulum Ca<sup>2+</sup>-ATPase; SERCA)である。SERCAは小胞体膜に局在し、ATPを 分解することによってCa<sup>2+</sup>を濃度勾配に逆らい取り込む<ref><pubmed> 8388268 </pubmed></ref>。SERCAの活性は細胞質Ca<sup>2+</sup>の除去によるCa<sup>2+</sup>シグナル形成のみならず、小胞体内腔の高いCa<sup>2+</sup>濃度の維持に不可欠である。実際にタプシガルギンなどのSERCA阻害薬を処置することで、小胞体内腔のCa<sup>2+</sup>濃度が大きく減少する(Ca<sup>2+</sup>枯渇)。Ca<sup>2+</sup>枯渇により、小胞体膜上のSTIM1を介して細胞膜のCa<sup>2+</sup>チャネルOraiが活性化される(容量依存性Ca<sup>2+</sup>流入)。これは小胞体内腔のCa<sup>2+</sup>濃度を維持するための恒常性機構であると期待される<ref><pubmed> 22914293 </pubmed></ref>。 | ||
小胞体からのCa<sup>2+</sup>放出 | ===小胞体からのCa<sup>2+</sup>放出=== | ||
小胞体内腔からCa<sup>2+</sup>を放出するのは、イノシトール三リン酸受容体(inositol triphosphate receptor; IP3R)とリアノジン受容体(ryanodine receptor; RyR)という二種類のCa<sup>2+</sup>チャネルである。 | 小胞体内腔からCa<sup>2+</sup>を放出するのは、イノシトール三リン酸受容体(inositol triphosphate receptor; IP3R)とリアノジン受容体(ryanodine receptor; RyR)という二種類のCa<sup>2+</sup>チャネルである。 | ||
小胞体の細胞内カルシウムストアとしての意義 | IP3Rはイノシトール三リン酸が結合することによって活性化され、また細胞質Ca<sup>2+</sup>によっても活性化される。約2700アミノ酸からなる巨大分子で、IP3R1、IP3R2、IP3R3の3つのサブタイプが存在する<ref><pubmed> 17429043 </pubmed></ref>。IP3R1は主に神経細胞に発現しており、特に小脳のプルキンエ細胞に豊富に存在する<ref><pubmed> 7945203 </pubmed></ref>。IP3R2は主にアストロサイトに豊富に発現している<ref><pubmed> 18463250 </pubmed></ref>。 | ||
RyRは細胞質Ca<sup>2+</sup>によって活性化される。また、一酸化窒素により活性化される機構も報告されている<ref name=kakizawa><pubmed> 22036948 </pubmed></ref>。約5000アミノ酸からなる巨大分子で、RyR1、RyR2、RyR3の3つのサブタイプがある。RyR1は骨格筋や小脳プルキンエ細胞、RyR2は心筋や脳、膵臓に、RyR3は平滑筋や脳などに優位に発現が見られる<ref><pubmed> 7876312 </pubmed></ref>。 | |||
===小胞体の細胞内カルシウムストアとしての意義=== | |||
細胞内カルシウムストアとしての小胞体機能の著名例として、骨格筋や心筋における興奮収縮連関が挙げられるが、中枢神経系においても多様な機能を担っている <ref><pubmed> 9697848 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 15618481 </pubmed></ref>。疾患との関係に着目すると、脊髄小脳変性症15型(SCA15)ではIP3R1遺伝子に欠失やミスセンス変異が見つかっている<ref><pubmed> 18579805 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 12828938 </pubmed></ref>。小胞体を細胞膜に近接させることでRyR機能に関与するジャンクトフィリン3については、ハンチントン病類縁疾患2型において当該遺伝子でのトリプレット伸長が報告されている<ref><pubmed> 11694876 </pubmed></ref>。また、一酸化窒素によって活性化されたRyR1を通じたCa<sup>2+</sup>放出が脳虚血時等の神経細胞死に関与することも示されている<ref name=kakizawa />。 | 細胞内カルシウムストアとしての小胞体機能の著名例として、骨格筋や心筋における興奮収縮連関が挙げられるが、中枢神経系においても多様な機能を担っている <ref><pubmed> 9697848 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 15618481 </pubmed></ref>。疾患との関係に着目すると、脊髄小脳変性症15型(SCA15)ではIP3R1遺伝子に欠失やミスセンス変異が見つかっている<ref><pubmed> 18579805 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 12828938 </pubmed></ref>。小胞体を細胞膜に近接させることでRyR機能に関与するジャンクトフィリン3については、ハンチントン病類縁疾患2型において当該遺伝子でのトリプレット伸長が報告されている<ref><pubmed> 11694876 </pubmed></ref>。また、一酸化窒素によって活性化されたRyR1を通じたCa<sup>2+</sup>放出が脳虚血時等の神経細胞死に関与することも示されている<ref name=kakizawa />。 | ||
ミトコンドリア | ==ミトコンドリア== | ||
ミトコンドリアはATP合成などを担う細胞内小器官であるが、細胞内カルシウムストアとしても機能する。静止状態のミトコンドリアマトリックス内Ca<sup>2+</sup>濃度は、細胞質と同程度であるが、刺激に応じて一過的に10 µM程度にまで上昇するという報告がある<ref><pubmed> 8235595 </pubmed></ref>。 | ミトコンドリアはATP合成などを担う細胞内小器官であるが、細胞内カルシウムストアとしても機能する。静止状態のミトコンドリアマトリックス内Ca<sup>2+</sup>濃度は、細胞質と同程度であるが、刺激に応じて一過的に10 µM程度にまで上昇するという報告がある<ref><pubmed> 8235595 </pubmed></ref>。 | ||
ミトコンドリアへのCa<sup>2+</sup>取り込み | ===ミトコンドリアへのCa<sup>2+</sup>取り込み=== | ||
ミトコンドリアへのCa<sup>2+</sup>の取り込みを主に担っているのは、ミトコンドリアカルシウムユニポーター(mitochondrial calcium uniporter; MCU)と呼ばれるCa<sup>2+</sup>チャネルである<ref><pubmed> 21685886 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 21685888 </pubmed></ref>。MCUはミトコンドリア内膜上に存在し、細胞質からミトコンドリアのマトリックスへCa<sup>2+</sup>を流入させる。近年、MCUの機能を制御するタンパク質も報告されている<ref><pubmed> 23101630 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 24231807 </pubmed></ref>。 | ミトコンドリアへのCa<sup>2+</sup>の取り込みを主に担っているのは、ミトコンドリアカルシウムユニポーター(mitochondrial calcium uniporter; MCU)と呼ばれるCa<sup>2+</sup>チャネルである<ref><pubmed> 21685886 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 21685888 </pubmed></ref>。MCUはミトコンドリア内膜上に存在し、細胞質からミトコンドリアのマトリックスへCa<sup>2+</sup>を流入させる。近年、MCUの機能を制御するタンパク質も報告されている<ref><pubmed> 23101630 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 24231807 </pubmed></ref>。 | ||
また、Ca<sup>2+</sup>トランスポーターとしてLetm1が同定されている<ref><pubmed> 19797662 </pubmed></ref>。マトリックスへのCa<sup>2+</sup>取り込みとプロトン汲み出しを共役するCa<sup>2+</sup>/H+アンチポーターである。 | また、Ca<sup>2+</sup>トランスポーターとしてLetm1が同定されている<ref><pubmed> 19797662 </pubmed></ref>。マトリックスへのCa<sup>2+</sup>取り込みとプロトン汲み出しを共役するCa<sup>2+</sup>/H+アンチポーターである。 | ||
ミトコンドリアからのCa<sup>2+</sup>放出 | ===ミトコンドリアからのCa<sup>2+</sup>放出=== | ||
ミトコンドリアからCa<sup>2+</sup>を放出する分子として、ミトコンドリア内膜に存在するNa+/Ca<sup>2+</sup>アンチポーター(Na+/Ca<sup>2+</sup> exchanger; NCLX)が挙げられる<ref><pubmed> 20018762 </pubmed></ref>。また、生理的条件下では開口しないものの、過剰なCa<sup>2+</sup>濃度上昇やアポトーシス誘発因子Baxなどによって開く、ミトコンドリア膜透過性遷移孔(mitochondrial permeability transition pore; mPTP)というチャネル状の構造体が存在する。開口するとミトコンドリア外膜の破壊を招き、Ca<sup>2+</sup>を含むさまざまな物質が漏出する。 | ミトコンドリアからCa<sup>2+</sup>を放出する分子として、ミトコンドリア内膜に存在するNa+/Ca<sup>2+</sup>アンチポーター(Na+/Ca<sup>2+</sup> exchanger; NCLX)が挙げられる<ref><pubmed> 20018762 </pubmed></ref>。また、生理的条件下では開口しないものの、過剰なCa<sup>2+</sup>濃度上昇やアポトーシス誘発因子Baxなどによって開く、ミトコンドリア膜透過性遷移孔(mitochondrial permeability transition pore; mPTP)というチャネル状の構造体が存在する。開口するとミトコンドリア外膜の破壊を招き、Ca<sup>2+</sup>を含むさまざまな物質が漏出する。 | ||
ミトコンドリアの細胞内カルシウムストアとしての意義 | ===ミトコンドリアの細胞内カルシウムストアとしての意義=== | ||
Ca<sup>2+</sup>の取り込みと放出を通じて、Ca<sup>2+</sup>ウェーブやCa<sup>2+</sup>オシレーションの形成に寄与している<ref><pubmed> 16415789 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 7566122 </pubmed></ref>。また、mPTPはCa<sup>2+</sup>とともにシトクロムCを放出させ、カスパーゼ経路を介した細胞死を引き起こす<ref><pubmed> 10393078 </pubmed></ref>。 | Ca<sup>2+</sup>の取り込みと放出を通じて、Ca<sup>2+</sup>ウェーブやCa<sup>2+</sup>オシレーションの形成に寄与している<ref><pubmed> 16415789 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 7566122 </pubmed></ref>。また、mPTPはCa<sup>2+</sup>とともにシトクロムCを放出させ、カスパーゼ経路を介した細胞死を引き起こす<ref><pubmed> 10393078 </pubmed></ref>。 | ||
ミトコンドリアはmitofusin2などの因子を介して、小胞体と近接して局在する<ref><pubmed> 19052620 </pubmed></ref>。これにより、小胞体から放出されたCa<sup>2+</sup>がミトコンドリアに効率的に取り込まれる<ref><pubmed> 9624056 </pubmed></ref>。このような小胞体とミトコンドリアの連関は、局所的なATP合成の活性化などを促す役割があると考えられる<ref><pubmed> 20655468 </pubmed></ref>。 | ミトコンドリアはmitofusin2などの因子を介して、小胞体と近接して局在する<ref><pubmed> 19052620 </pubmed></ref>。これにより、小胞体から放出されたCa<sup>2+</sup>がミトコンドリアに効率的に取り込まれる<ref><pubmed> 9624056 </pubmed></ref>。このような小胞体とミトコンドリアの連関は、局所的なATP合成の活性化などを促す役割があると考えられる<ref><pubmed> 20655468 </pubmed></ref>。 | ||
その他の細胞内カルシウムストア | ==その他の細胞内カルシウムストア== | ||
ゴルジ体は内腔のCa<sup>2+</sup>濃度がmMオーダーとされる報告もあり、細胞内カルシウムストアとして働いている可能性がある<ref><pubmed> 8195154 </pubmed></ref>。イノシトール三リン酸依存的な経路を介してCa<sup>2+</sup>を放出すると考えられているが、さらなる研究が必要である<ref><pubmed> 9736609 </pubmed></ref>。 | ゴルジ体は内腔のCa<sup>2+</sup>濃度がmMオーダーとされる報告もあり、細胞内カルシウムストアとして働いている可能性がある<ref><pubmed> 8195154 </pubmed></ref>。イノシトール三リン酸依存的な経路を介してCa<sup>2+</sup>を放出すると考えられているが、さらなる研究が必要である<ref><pubmed> 9736609 </pubmed></ref>。 | ||
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