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 洋の東西を問わず、意識・主観性にまつわる問題は、宗教・哲学が様々な角度から論じてきた(Van Gulick, 2014)。17世紀以降、意識(精神)と脳(物質)の関係性をめぐる問題はmind-body problemと呼ばれ、盛んに議論されてきた。
 洋の東西を問わず、意識・主観性にまつわる問題は、宗教・哲学が様々な角度から論じてきた(Van Gulick, 2014)。17世紀以降、意識(精神)と脳(物質)の関係性をめぐる問題はmind-body problemと呼ばれ、盛んに議論されてきた。


 19世紀後半から20世紀初頭まで、意識の問題は心理学者ウィリアム・ジェイムスや生理学者ヘルマン・フォン・ヘルムホルツなどにより盛んに研究された。外部の感覚入力刺激と、それがどのように意識にのぼってくるかの関係性を、自分の経験を注意深く振り返る内省・内観(introspection)をもとに、定量的に調べる精神物理学(psychophysics)が発展したのはこの頃である。
 19世紀後半から20世紀初頭まで、意識の問題は心理学者ウィリアム・ジェイムスや生理学者ヘルマン・フォン・ヘルムホルツなどにより盛んに研究された。外部の感覚入力刺激と、それがどのように意識にのぼってくるかの関係性を、自分の経験を注意深く振り返る内省・内観(introspection)をもとに、定量的に調べる精神物理学(psychophysics)が発展したのはこの頃である。


 20世紀初頭に起きたスキナー(Skinner) らによる行動主義(behaviorism) の台頭により、意識研究は一時的に科学の舞台から姿を消す。行動主義の学者らは、外部から観察できない精神現象は科学研究の俎上には載らず、実験者が制御できる入力刺激と、観察可能な行動の関係性だけを科学研究の対象にするべきであると主張した。
 20世紀初頭に起きたスキナー(Skinner)らによる行動主義(behaviorism)の台頭により、意識研究は一時的に科学の舞台から姿を消す。行動主義の学者らは、外部から観察できない精神現象は科学研究の俎上には載らず、実験者が制御できる入力刺激と、観察可能な行動の関係性だけを科学研究の対象にするべきであると主張した。


 1960年以降、認知心理学(cognitive psychology)の登場により、脳をある種の情報処理装置としてモデル化し、外からは直接観測できないような注意・感情・記憶などの精神現象をも研究対象とし、どのような内部プロセスがこれらを支えられているかが研究されるようになった。しかし、その後も数十年の間、意識を科学的に研究する動きは出てこなかった。
 1960年以降、認知心理学(cognitive psychology)の登場により、脳をある種の情報処理装置としてモデル化し、外からは直接観測できないような注意・感情・記憶などの精神現象をも研究対象とし、どのような内部プロセスがこれらを支えられているかが研究されるようになった。しかし、その後も数十年の間、意識を科学的に研究する動きは出てこなかった。


 1980年代後半の脳イメージング技術の発達が契機となって、1990年序盤には、著名な脳科学者が意識研究に積極的に参加するようになった。現在でも続く二つの大きな国際意識研究学会、Toward a Science of Consciousness(2016年以降はThe science of onsciousness)(http://www.consciousness.arizona.edu/)および Association for Scientific Study of Consciousness (ASSC) (http://www.theassc.org/)は、この頃に創設された 。意識研究の代表的な専門誌Journal of Consciousness Studies (http://www.imprint.co.uk/product/journal-of-consciousness-studies/)と Consciousness and Cognition(http://www.journals.elsevier.com/consciousness-and-cognition/)が創刊したのも同時期である
 1980年代後半の脳イメージング技術の発達が契機となって、1990年序盤には、著名な脳科学者が意識研究に積極的に参加するようになった。現在でも続く二つの大きな国際意識研究学会、[http://www.consciousness.arizona.edu/ Toward a Science of Consciousness(2016年以降はThe science of onsciousness)]および[http://www.theassc.org/ Association for Scientific Study of Consciousness (ASSC)]は、この頃に創設された 。意識研究の代表的な専門誌[http://www.imprint.co.uk/product/journal-of-consciousness-studies/ Journal of Consciousness Studies]と[http://www.journals.elsevier.com/consciousness-and-cognition/ Consciousness and Cognition]が創刊したのも同時期である


 脳科学による意識研究の成立にインパクトが大きかったのは、1990年代にクリックとコッホによって提唱された意識研究の枠組みである(C Koch, 2004)。この枠組みでは、特にヒトとサルの視覚系に注目して、特定の視覚意識を生み出すのに十分な最小限の神経細胞集団、いわゆる「意識の神経相関 (the neural correlates of consciousness; NCC)」を同定することが大きな目的とされた。この目的のもとに、数多くの実証的脳科学意識研究が生み出された(NCC研究については4.3章を参照)。これらの研究は、多くの脳科学者に意識が具体的な研究対象となることを確信させ、現在の意識研究の基礎となっている。
 脳科学による意識研究の成立にインパクトが大きかったのは、1990年代にクリックとコッホによって提唱された意識研究の枠組みである(C Koch, 2004)。この枠組みでは、特にヒトとサルの視覚系に注目して、特定の視覚意識を生み出すのに十分な最小限の神経細胞集団、いわゆる「意識の神経相関(the neural correlates of consciousness; NCC)」を同定することが大きな目的とされた。この目的のもとに、数多くの実証的脳科学意識研究が生み出された(NCC研究については4.3章を参照)。これらの研究は、多くの脳科学者に意識が具体的な研究対象となることを確信させ、現在の意識研究の基礎となっている。


 意識そのものの研究は直接できないという考えが支配的であった時代でも、注意や作業記憶など、意識と関係が深いと考えられる心理学的な概念は盛んに研究された。それらの研究の中には、注意や作業記憶の理解が進めば、意識の理解も進むと考えていたものも多い(B. Baars & Franklin, 2003; Baddeley, 2003; Posner, 1994)。現在では、これらの認知機能と意識がそれぞれどのような神経活動により支えられており、どのように関連し合っているのかなどが批判的に精査されている(Koch & Tsuchiya, 2007; Soto & Silvanto, 2014)。
 意識そのものの研究は直接できないという考えが支配的であった時代でも、注意や作業記憶など、意識と関係が深いと考えられる心理学的な概念は盛んに研究された。それらの研究の中には、注意や作業記憶の理解が進めば、意識の理解も進むと考えていたものも多い(B. Baars & Franklin, 2003; Baddeley, 2003; Posner, 1994)。現在では、これらの認知機能と意識がそれぞれどのような神経活動により支えられており、どのように関連し合っているのかなどが批判的に精査されている(Koch & Tsuchiya, 2007; Soto & Silvanto, 2014)。
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 2006年にAdrian Owenらが報告した植物状態の患者における意識研究は、意識の臨床研究に大きなインパクトを与えた(Monti et al., 2010; Owen et al., 2006)。重度の脳障害から回復したにも関わらず、医師・看護師の要請に答えて体を意志的に動かすことが全くできない患者は、意識のない植物状態患者と判定されることが多い。しかし、Owenらは、こうした患者の中には、意志の力で脳活動をコントロールし、外部とコミュニケーションできる能力を持っている患者がいることを示した。現在では、そのような患者は、植物状態とは区別されて最小意識状態(Giacino et al., 2002)にあると区別されるようになっている。
 2006年にAdrian Owenらが報告した植物状態の患者における意識研究は、意識の臨床研究に大きなインパクトを与えた(Monti et al., 2010; Owen et al., 2006)。重度の脳障害から回復したにも関わらず、医師・看護師の要請に答えて体を意志的に動かすことが全くできない患者は、意識のない植物状態患者と判定されることが多い。しかし、Owenらは、こうした患者の中には、意志の力で脳活動をコントロールし、外部とコミュニケーションできる能力を持っている患者がいることを示した。現在では、そのような患者は、植物状態とは区別されて最小意識状態(Giacino et al., 2002)にあると区別されるようになっている。


 2010年以降は深層学習を使った人工知能(Artificial Intelligence, AI)技術の発展が著しくなり(Mnih et al., 2015; Silver et al., 2016)、AIは意識をもちうるのか、という問題も社会問題として考えられるようになってきた。これまでは、人工的なネットワークに意識が宿る可能性は、哲学の主題でしかなかったが、「統合情報理論」(5.2参照)などの理論的意識研究がすすめば、科学的検証も可能になるかもしれない。
 2010年以降は深層学習を使った人工知能(Artificial Intelligence, AI)技術の発展が著しくなり(Mnih et al., 2015; Silver et al., 2016)、AIは意識をもちうるのか、という問題も社会問題として考えられるようになってきた。これまでは、人工的なネットワークに意識が宿る可能性は、哲学の主題でしかなかったが、「統合情報理論」(5.2参照)などの理論的意識研究がすすめば、科学的検証も可能になるかもしれない。


==意識の脳科学的な定義・関連用語との関係性==
==意識の脳科学的な定義・関連用語との関係性==
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[[image:意識1.png|thumb|350px|'''図1.NCC 研究に使われる多義図形の例'''<br>a.ネッカーの立方体<br>b.ルビンの壷<br>c.両眼視野闘争((Blake & Logothetis, 2002)より改変)]]
[[image:意識1.png|thumb|350px|'''図1.NCC 研究に使われる多義図形の例'''<br>a.ネッカーの立方体<br>b.ルビンの壷<br>c.両眼視野闘争((Blake & Logothetis, 2002)より改変)]]


[[image:意識2.png|thumb|350px|'''図2.Logothetis らによるサルでの両眼視野闘争実験'''<br>a)効果的な訓練を受けることでサルは両眼視野闘争中の経験をレバー押しによって報告できるようになる。(Blake & Logothetis, 2002)。<br>b)両眼視野闘争中のサルの脳から記録したニューロン活動が、初期視覚野(V1/V2)ではほとんど意識内容の報告と相関しないのに対し、V4/MT(V5)、さらにTPO/TEm/TEaなどの高次視覚野では意識報告との相関が高まる。(Logothetis, 1998)。]]
[[image:意識2.png|thumb|350px|'''図2.Logothetis らによるサルでの両眼視野闘争実験'''<br>a)効果的な訓練を受けることでサルは両眼視野闘争中の経験をレバー押しによって報告できるようになる。(Blake & Logothetis, 2002)。<br>b)両眼視野闘争中のサルの脳から記録したニューロン活動が、初期視覚野(V1/V2)ではほとんど意識内容の報告と相関しないのに対し、V4/MT(V5)、さらにTPO/TEm/TEaなどの高次視覚野では意識報告との相関が高まる。(Logothetis, 1998)。]]


 本項では、1990年以降に盛んになってきた「意識の神経相関(NCC, the neural correlates of consciousness)」について短く触れる。詳細は(S. Dehaene, 2015; C Koch, 2004; Koch et al., 2016)を参照。
 本項では、1990年以降に盛んになってきた「意識の神経相関(the neural correlates of consciousness; NCC)」について短く触れる。詳細は(S. Dehaene, 2015; C Koch, 2004; Koch et al., 2016)を参照。


 NCCは、クリックとコッホによって1990年代以降広められた概念で、ある特定の意識内容を経験するのに十分な最小限の(minimally sufficient)神経細胞集団の活動、と定義される(C Koch, 2004)。この定義によると、十分に高い意識レベルを維持するためのメカニズムは入らない。それらのメカニズムは、意識の「生成条件(enabling factor)」として区別される(C Koch, 2004)。NCCが、人工的な電気刺激等の方法により直接に変更されると、ある特定の意識内容が失われたり、逆に、特定の意識内容が生みだされたりする。たとえば、視覚野を電気刺激すると、何もない場所に光の点が見えたり、見ている顔が変化するなどの意識知覚が生じたりする(Parvizi et al., 2012; Selimbeyoglu & Parvizi, 2010)。
 NCCは、クリックとコッホによって1990年代以降広められた概念で、ある特定の意識内容を経験するのに十分な最小限の(minimally sufficient)神経細胞集団の活動、と定義される(C Koch, 2004)。この定義によると、十分に高い意識レベルを維持するためのメカニズムは入らない。それらのメカニズムは、意識の「生成条件(enabling factor)」として区別される(C Koch, 2004)。NCCが、人工的な電気刺激等の方法により直接に変更されると、ある特定の意識内容が失われたり、逆に、特定の意識内容が生みだされたりする。たとえば、視覚野を電気刺激すると、何もない場所に光の点が見えたり、見ている顔が変化するなどの意識知覚が生じたりする(Parvizi et al., 2012; Selimbeyoglu & Parvizi, 2010)。
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 NCC研究の目的は、経験する意識の内容と相関して変化するような神経活動を特定することである。外部からの感覚入力が一定であるにも関わらず、主観的な意識経験の内容が明らかに変化するような場合(視覚イリュージョン、想起、夢、幻覚など)では、経験される意識の内容と相関して変化する神経活動はNCCだけのはずである。
 NCC研究の目的は、経験する意識の内容と相関して変化するような神経活動を特定することである。外部からの感覚入力が一定であるにも関わらず、主観的な意識経験の内容が明らかに変化するような場合(視覚イリュージョン、想起、夢、幻覚など)では、経験される意識の内容と相関して変化する神経活動はNCCだけのはずである。


 ルビンの壷などの多義図形や、両眼視野闘争などを使うと (図1) (Kim & Blake, 2005)は、視覚入力が一定であるにも関わらず、意識にのぼってくる視覚経験が連続的に変化させることが可能になる。そのような状況で、被験者に意識内容を報告してもらい、その被験者の報告と相関するような神経活動を特定するのが、最も一般的なNCC研究である。
 ルビンの壷などの多義図形や、両眼視野闘争などを使うと(図1)(Kim & Blake, 2005)は、視覚入力が一定であるにも関わらず、意識にのぼってくる視覚経験が連続的に変化させることが可能になる。そのような状況で、被験者に意識内容を報告してもらい、その被験者の報告と相関するような神経活動を特定するのが、最も一般的なNCC研究である。


 このような手法は、人間を対象に様々な脳イメージング技術をつかって行うのが最も一般的であるが(Tong, Meng, & Blake, 2006)、サルなどのモデル動物でも実験を行うことができる。ドイツのLogothetis らは1980年代以降、両眼視野闘争や関連する視覚イリュージョン中に、サルに彼らの経験を報告させる訓練に成功し、そのような視覚経験中の神経活動記録に成功している。(図2)。
 このような手法は、人間を対象に様々な脳イメージング技術をつかって行うのが最も一般的であるが(Tong, Meng, & Blake, 2006)、サルなどのモデル動物でも実験を行うことができる。ドイツのLogothetis らは1980年代以降、両眼視野闘争や関連する視覚イリュージョン中に、サルに彼らの経験を報告させる訓練に成功し、そのような視覚経験中の神経活動記録に成功している。(図2)。
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 NCC研究が盛んになるにつれ、意識の内容についての概念の整理や定義の洗練化がすすんだ。特に近年、意識と関連する認知機能と意識そのものとの関係性がより深く議論されるようになり、操作的な定義をもとにさまざまな実証実験が行われるようになっている。
 NCC研究が盛んになるにつれ、意識の内容についての概念の整理や定義の洗練化がすすんだ。特に近年、意識と関連する認知機能と意識そのものとの関係性がより深く議論されるようになり、操作的な定義をもとにさまざまな実証実験が行われるようになっている。


 意識に関係する概念を整理するのに重要なのは、哲学者Ned Block が提唱した「アクセス意識(access consciousness)」と「現象的意識(phenomenal consciousness)」という区別である(Block, 2005)。アクセス意識は、報告できる意識内容のことであり、その内容は短期的に記憶に保持され、意図的な行動の計画に使われる。現象的意識は、「クオリア」のことであり、意識内容を報告できるかどうかは関係がない。たとえば、読者がこのページを読んでいる現在、直接に読んでいる注視点の付近の単語は意識にのぼっており、アクセス可能であるが、注視点周辺では、文字らしきものが意識にはのぼっているが、それがどのような文字であるかを報告することはできない。そのような文字は現象的には意識にのぼっているが、アクセスができない状態にあると考えることもできる。
 意識に関係する概念を整理するのに重要なのは、哲学者Ned Block が提唱した「アクセス意識(access consciousness)」と「現象的意識(phenomenal consciousness)」という区別である(Block, 2005)。アクセス意識は、報告できる意識内容のことであり、その内容は短期的に記憶に保持され、意図的な行動の計画に使われる。現象的意識は、「クオリア」のことであり、意識内容を報告できるかどうかは関係がない。たとえば、読者がこのページを読んでいる現在、直接に読んでいる注視点の付近の単語は意識にのぼっており、アクセス可能であるが、注視点周辺では、文字らしきものが意識にはのぼっているが、それがどのような文字であるかを報告することはできない。そのような文字は現象的には意識にのぼっているが、アクセスができない状態にあると考えることもできる。


 現在の意識研究者の間でも、脳科学はアクセス意識に集中して研究すべきだと考える研究者(Cohen & Dennett, 2011; S. Dehaene, 2015)と、脳科学が真に研究すべきは現象的意識の方であると考える研究者(N Tsuchiya, Wilke, Frässle, & Lamme, 2015)に分かれている。注意と意識の関係性については(Cohen et al., 2012; N. Tsuchiya & Koch, 2015)を参照。作業記憶と意識については(Soto & Silvanto, 2014)を参照。報告と意識については(Aru, Bachmann, Singer, & Melloni, 2012; N Tsuchiya et al., 2015)を参照。
 現在の意識研究者の間でも、脳科学はアクセス意識に集中して研究すべきだと考える研究者(Cohen & Dennett, 2011; S. Dehaene, 2015)と、脳科学が真に研究すべきは現象的意識の方であると考える研究者(N Tsuchiya, Wilke, Frässle, & Lamme, 2015)に分かれている。注意と意識の関係性については(Cohen et al., 2012; N. Tsuchiya & Koch, 2015)を参照。作業記憶と意識については(Soto & Silvanto, 2014)を参照。報告と意識については(Aru, Bachmann, Singer, & Melloni, 2012; N Tsuchiya et al., 2015)を参照。
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===統合情報理論===
===統合情報理論===
 ジュリオ・トノーニによって提唱された「統合情報理論(Integrated Information Theory, IIT)」は、主観的に各人が体験する意識の特徴を抽出するところから始まり、そのような特徴を支えることができるような物理的なメカニズムとは一体どのようなシステムでありうるかについて仮説を立てる、という体裁をとる。
 ジュリオ・トノーニによって提唱された「統合情報理論(Integrated Information Theory; IIT)」は、主観的に各人が体験する意識の特徴を抽出するところから始まり、そのような特徴を支えることができるような物理的なメカニズムとは一体どのようなシステムでありうるかについて仮説を立てる、という体裁をとる。


 統合情報理論が特に注目する意識現象の特徴は、意識経験の持つ膨大な情報量と、意識経験が常に統合されている、というものである 。情報量については、ある一瞬の意識経験があるだけで(たとえば、現在この脳科学辞典の意識のエントリーを読んでいるという経験)、それを経験している人にとってあらゆる全ての他の経験の可能性を排除する(たとえば、読者は今、このエントリー以外のものを見ていない、今聞いている音楽以外の音を聞いていない、等)、という意味で、意識経験の情報量は膨大である とする。膨大な情報量は高いレベルの意識が生じるのに必要ではあるが、十分ではない。たとえば、光を感知すると電流が流れる、というフォトダイオードをもとにした電気回路システムは、光の有る無しの二つの可能性のどちらかを選択できるが、その情報量は、人の意識を支える大脳−視床システムとは比べ物にならない。一方で、単純なフォトダイオードをたくさんつなげて、デジタルカメラを作っても、デジタルカメラに意識は宿らない。それは、それぞれのフォトダイオードの間の相互作用が無く、意識を支えるのに必要な情報の統合がなされていないからである、とIITは説明する。
 統合情報理論が特に注目する意識現象の特徴は、意識経験の持つ膨大な情報量と、意識経験が常に統合されている、というものである 。情報量については、ある一瞬の意識経験があるだけで(たとえば、現在この脳科学辞典の意識のエントリーを読んでいるという経験)、それを経験している人にとってあらゆる全ての他の経験の可能性を排除する(たとえば、読者は今、このエントリー以外のものを見ていない、今聞いている音楽以外の音を聞いていない、等)、という意味で、意識経験の情報量は膨大である とする。膨大な情報量は高いレベルの意識が生じるのに必要ではあるが、十分ではない。たとえば、光を感知すると電流が流れる、というフォトダイオードをもとにした電気回路システムは、光の有る無しの二つの可能性のどちらかを選択できるが、その情報量は、人の意識を支える大脳−視床システムとは比べ物にならない。一方で、単純なフォトダイオードをたくさんつなげて、デジタルカメラを作っても、デジタルカメラに意識は宿らない。それは、それぞれのフォトダイオードの間の相互作用が無く、意識を支えるのに必要な情報の統合がなされていないからである、とIITは説明する。
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==外部リンク==
==外部リンク==
[[http://plato.stanford.edu/entries/consciousness/ Consciousness (哲学)]]
意識の学会
[[http://www.consciousness.arizona.edu/ Toward a Science of Consciousness]]
 
[[http://www.theassc.org/ Association for Scientific Study of Consciousness (ASSC)]]
[http://plato.stanford.edu/entries/consciousness/ Consciousness (哲学)]
 
[http://www.consciousness.arizona.edu/ Toward a Science of Consciousness]
 
[http://www.theassc.org/ Association for Scientific Study of Consciousness (ASSC)]


意識の学術雑誌
意識の学術雑誌
1. Journal of Consciousness Studies http://www.imprint.co.uk/product/journal-of-consciousness-studies/
 
2. Consciousness and Cognition  http://www.journals.elsevier.com/consciousness-and-cognition/
[http://www.imprint.co.uk/product/journal-of-consciousness-studies/ Journal of Consciousness Studies]
3. Neuroscience of Consciousness http://nc.oxfordjournals.org/
 
[http://www.journals.elsevier.com/consciousness-and-cognition/ Consciousness and Cognition]
 
[http://nc.oxfordjournals.org/ Neuroscience of Consciousness]


==謝辞==
==謝辞==

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