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=== 機能獲得型変異 === | === 機能獲得型変異 === | ||
当初は発現制御領域(エンハンサーやプロモーター)の下流に解析したい遺伝子をつないだコンストラクトを、[[P因子転換法]]を用いて個体に導入することで[[強制発現]]を誘導していたが、現在ではGal4-UASシステムを用いるのが一般的である<ref name=ref01 /> <ref name=ref09 />。[[Gal4]]は[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]由来の[[転写因子]]で、[[UAS配列]]に結合し下流の遺伝子の発現を活性化させる。このシステムの最大の特徴は、「発現場所」を決めるGal4系統と、「何を発現するか」を決めるUAS系統を独立に作成し、これらを交配した子孫において表現型を解析することにある(binary expression system)。これにより致死性の変異の解析を可能にするとともに、多様な組み合わせでの強制発現が効率良く行えるようになった。発現制御領域に結合したコンストラクトや[[エンハンサー・トラップ法]]を用いることで、様々な組織や細胞で特異的にGal4を発現する系統が多数作成されており、ストックセンター等から入手可能である | 当初は発現制御領域(エンハンサーやプロモーター)の下流に解析したい遺伝子をつないだコンストラクトを、[[P因子転換法]]を用いて個体に導入することで[[強制発現]]を誘導していたが、現在ではGal4-UASシステムを用いるのが一般的である<ref name=ref01 /> <ref name=ref09 />。[[Gal4]]は[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]由来の[[転写因子]]で、[[UAS配列]]に結合し下流の遺伝子の発現を活性化させる。このシステムの最大の特徴は、「発現場所」を決めるGal4系統と、「何を発現するか」を決めるUAS系統を独立に作成し、これらを交配した子孫において表現型を解析することにある(binary expression system)。これにより致死性の変異の解析を可能にするとともに、多様な組み合わせでの強制発現が効率良く行えるようになった。発現制御領域に結合したコンストラクトや[[エンハンサー・トラップ法]]を用いることで、様々な組織や細胞で特異的にGal4を発現する系統が多数作成されており、ストックセンター等から入手可能である<ref name=ref09 />。 | ||
同様に多くの遺伝子の上流にUASをもつ系統が作成されストックセンターから入手可能である<ref name=ref09 />。また[[緑色蛍光タンパク質]][[GFP]]、[[カルシウムインジケーター]][[GCaMP]]、[[光感受性チャネル]][[Channelrhodopsin2]]など様々な分子ツールを発現するためのUAS系統についても共通の財産として研究者間で共有されている<ref name=ref09 />。また、[[LexAシステム]](大腸菌由来のDNA結合タンパク質LexAとその標的DNA配列lexAopによるGal4-UASと独立なbinary expression system)など他の発現系を併用することで、複数の遺伝子やレポーターを独立に別の細胞群において発現させることも可能である<ref name=ref09 />。 | 同様に多くの遺伝子の上流にUASをもつ系統が作成されストックセンターから入手可能である<ref name=ref09 />。また[[緑色蛍光タンパク質]][[GFP]]、[[カルシウムインジケーター]][[GCaMP]]、[[光感受性チャネル]][[Channelrhodopsin2]]など様々な分子ツールを発現するためのUAS系統についても共通の財産として研究者間で共有されている<ref name=ref09 />。また、[[LexAシステム]](大腸菌由来のDNA結合タンパク質LexAとその標的DNA配列lexAopによるGal4-UASと独立なbinary expression system)など他の発現系を併用することで、複数の遺伝子やレポーターを独立に別の細胞群において発現させることも可能である<ref name=ref09 />。 | ||
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== 神経科学における代表的研究 == | == 神経科学における代表的研究 == | ||
=== 神経発生学 === | === 神経発生学 === | ||
胸[[体節]]が重複する[[bithorax変異]]に代表されるホメオティック変異体の解析は、[[ホメオボックス転写因子]]群による体(および[[脳神経]]系)の[[前後軸]] | 胸[[体節]]が重複する[[bithorax変異]]に代表されるホメオティック変異体の解析は、[[ホメオボックス転写因子]]群による体(および[[脳神経]]系)の[[前後軸]]決定機構の解明につながった。また胚発生における変異の網羅的解析は、[[WNT|Wnt]]([[Wingless]])、[[TGF-β]]([[Dpp]])、[[hedgehog]]などの同定につながった(以上の功績により[[wikipedia:ja:エドワード・ルイス|E.B. Lewis]]、C. Nusslein-VolhardとE. Wieschausが1995年[[wikipedia:ja:ノーベル賞|ノーベル賞]]受賞)。この他、[[Notch]]-[[Delta]]系、[[achaete-scute complex]]に代表される[[bHLH転写因子]]群等神経発生に関わる多くの重要遺伝子がショウジョウバエにおいて発見された。後に、これら遺伝子のホモログの同定・解析が[[脊椎動物]]の神経発生の研究にも革新をもたらした。 | ||
=== 神経行動学 === | === 神経行動学 === | ||
[[wj:シーモア・ベンザー|S. Benzer]] | [[wj:シーモア・ベンザー|S. Benzer]]が開拓した行動遺伝学は多数の変異体のなかから特定の行動に異常をもたらすものを単離することで、遺伝子の機能と動物行動との因果を明らかにした。有名な例として、[[概日周期]]の制御に関わる[[period]]遺伝子、[[記憶]]・[[学習]]に関わる[[dunce]]遺伝子があげられる。また、[[fruitless]]など[[求愛行動]]に関わる変異の研究は脳の性差の理解につながった。 | ||
=== 機能生理学 === | === 機能生理学 === | ||
Benzerらの行動スクリーニングはまた[[イオンチャネル]]などの生理機能分子の同定にもつながった。例えば、[[Shaker]]変異は最初の[[カリウムチャネル]] | Benzerらの行動スクリーニングはまた[[イオンチャネル]]などの生理機能分子の同定にもつながった。例えば、[[Shaker]]変異は最初の[[カリウムチャネル]]のクローニングにつながった。同様に[[TRPチャネル]]もショウジョウバエでの研究から発見されたものである(以上の[[ショウジョウバエ#|神経科学における代表的研究]]に関する文献については優れた総説<ref name=ref011><pubmed></pubmed></ref>を参照されたい)。 | ||
== 最近の研究動向 == | == 最近の研究動向 == | ||
米国の[[wikipedia:Janelia Research Campus|Janelia研究所]]を中心に単一の神経細胞種において特異的に発現を誘導するGal4系統が拡充されており、大量のGal4系統を用いた解剖学的脳マッピングが進行している | 米国の[[wikipedia:Janelia Research Campus|Janelia研究所]]を中心に単一の神経細胞種において特異的に発現を誘導するGal4系統が拡充されており、大量のGal4系統を用いた解剖学的脳マッピングが進行している(http://flweb.janelia.org/cgi-bin/flew.cgi)。また[[オプトジェネティクス]]を用い、特定の神経細胞の活動を促進もしくは阻害したときの動物行動や回路の挙動への影響を調べる研究も盛んに行われている<ref name=ref011 /> <ref name=ref012><pubmed></pubmed></ref>。成虫の脳部位や幼虫の全[[中枢神経系]]において、[[コネクトミクス]]解析(連続[[切片]]電子顕微鏡画像三次元再構築)による回路構造決定のプロジェクトも進行している<ref name=ref02 /> <ref name=ref013><pubmed></pubmed></ref>。[[カルシウムイメージング]]や[[パッチクランプ法]]を用いて神経活動を測定する研究も急増している <ref name=ref011 /> <ref name=ref012 />。 | ||
以上のような革新的技術を組み合わせて、感覚情報処理、記憶学習や行動制御の仕組みを回路レベルで理解しようとするシステム神経科学が急ピッチで展開している。また、[[アルツハイマー病]]や[[パーキンソン病]]などの[[モデル動物]]が作成されるなど、[[精神神経疾患]]のハイスループットモデル系としても活用されている<ref name=ref014><pubmed></pubmed>< /ref>。 | 以上のような革新的技術を組み合わせて、感覚情報処理、記憶学習や行動制御の仕組みを回路レベルで理解しようとするシステム神経科学が急ピッチで展開している。また、[[アルツハイマー病]]や[[パーキンソン病]]などの[[モデル動物]]が作成されるなど、[[精神神経疾患]]のハイスループットモデル系としても活用されている<ref name=ref014><pubmed></pubmed>< /ref>。 | ||
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Janelia研究所で作成されたGal4系統のコレクションを用いた神経細胞のマッピング、解剖アトラス。 | Janelia研究所で作成されたGal4系統のコレクションを用いた神経細胞のマッピング、解剖アトラス。 | ||
== 参考文献 == | ==参考文献== | ||
< | <references /> | ||
:2. 神経科学研究において用いられる遺伝学的手法について<pubmed>22017985</pubmed> | :2. 神経科学研究において用いられる遺伝学的手法について<pubmed>22017985</pubmed> | ||