「パーソナリティー障害」の版間の差分

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 DSM-5の第3部「新しい尺度とモデル」に記述されている代替診断基準は、ディメンショナルモデルとカテゴリカルモデルを融合させたハイブリッドモデルと称されている。このようにDSM-5では、第2部と第3部とで異なるパーソナリティ障害の診断基準が収載されている。前者は従来のDSM-IVのものをほとんど変更せずに載せたものであり、後者は新たに開発されたが、フィールドトライアルで採用が時期尚早と判断され、今後、大幅な修正が行われる予定のものである。ここには、パーソナリティ障害概念の混乱が如実に表れている。他方、後述するようにこの代替診断基準には、理論的に優れた考え方が多く組み入れられている。
 DSM-5の第3部「新しい尺度とモデル」に記述されている代替診断基準は、ディメンショナルモデルとカテゴリカルモデルを融合させたハイブリッドモデルと称されている。このようにDSM-5では、第2部と第3部とで異なるパーソナリティ障害の診断基準が収載されている。前者は従来のDSM-IVのものをほとんど変更せずに載せたものであり、後者は新たに開発されたが、フィールドトライアルで採用が時期尚早と判断され、今後、大幅な修正が行われる予定のものである。ここには、パーソナリティ障害概念の混乱が如実に表れている。他方、後述するようにこの代替診断基準には、理論的に優れた考え方が多く組み入れられている。


 DSM-5第3部の代替診断基準の全般的診断基準では、パーソナリティ障害がパーソナリティ機能の障害であることが明快に規定されている。これは、従来の定義と比較すると大きな進歩である。そのパーソナリティ機能とは、表1に示されているように自己機能、対人関係機能であり、さらにそれぞれが2つに分類されている。
 DSM-5第3部の代替診断基準の全般的診断基準では、パーソナリティ障害がパーソナリティ機能の障害であることが明快に規定されている。これは、従来の定義と比較すると大きな進歩である。そのパーソナリティ機能とは、'''表1'''に示されているように自己機能、対人関係機能であり、さらにそれぞれが2つに分類されている。
 
表1. DSM-5代替診断基準で規定されているパーソナリティ機能の4領域


{| class="wikitable" style="text-align:left"
|+表1. DSM-5代替診断基準で規定されているパーソナリティ機能の4領域
|-
|colspan="2" align="center" |'''パーソナリティ機能の領域'''
| align="center" |'''説明'''
|-
| rowspan="2"|自己機能||同一性 (Identity)||自己と他者との明瞭な境界をもって唯一の存在としての自己を体験すること;自尊心の安定性と自己評価の正確さ;幅広い感情を体験し制御する能力
|-
||自己志向性 (Self-direction)||一貫した有意義な短期および人生の目標の追求;建設的で向社会的な行動規範を利用すること;生産的に内省する能力
|-
|rowspan="2"|対人関係機能||共感性 (Empathy)||他者の体験と動機の理解と尊重;異なる見方の容認;自分自身の行動が他者に与える影響の理解
|-
||親密さ (Intimacy)||他者との関係の深さと持続;親密さに対する欲求および適応力;対人行動に反映される配慮の相互性
|}


 DSM-5第3部の代替診断基準では、これらのパーソナリティ機能の4領域の2つ以上に中等度以上の障害があることがパーソナリティ障害の診断の条件とされている。
 DSM-5第3部の代替診断基準では、これらのパーソナリティ機能の4領域の2つ以上に中等度以上の障害があることがパーソナリティ障害の診断の条件とされている。


 代替診断基準ではさらに、病的パーソナリティ特性が認められることが診断に必要とされる。それらは、否定的感情、離脱、対立、脱抑制、および精神病性の5つの特性である。それぞれの特性には、総計25種の特性側面が含まれている。病的パーソナリティ特性とその特性側面を表2に示す。
 代替診断基準ではさらに、病的パーソナリティ特性が認められることが診断に必要とされる。それらは、否定的感情、離脱、対立、脱抑制、および精神病性の5つの特性である。それぞれの特性には、総計25種の特性側面が含まれている。病的パーソナリティ特性とその特性側面を'''表2'''に示す。


表2. 5種の病的パーソナリティ特性と25種の特性側面
{| class="wikitable" style="text-align:left"
|+表2. 5種の病的パーソナリティ特性と25種の特性側面
|-
| align="center" |''''''
| align="center" |'''説明'''
| align="center" |'''特性側面'''
|-
| 否定的感情 (vs 感情安定)||不安、抑うつ、罪悪感、羞恥心、怒りといった否定的感情が広範囲で高度である。さらにそれに基づく自傷行為などの行動や依存などの対人関係が見られる。||不安傾向、分離不安、従順さ、敵意、固執、抑うつ傾向、猜疑心、感情不安定(制限された感情の欠如)
|-
| 離脱 (vs 外向性)||社会的感情的関わりの忌避。引きこもる、楽しみなどの感情体験を避ける。||親密さ回避、アンヘドニア、抑うつ傾向、制限された感情、猜疑心
|-
| 対立 (vs 協調)||自己イメージが尊大で、自分に特別な取り計らいを求める、他者に嫌悪感・反感を抱く、他者に配慮せず他者を自分のために利用する。||虚偽性、誇大性、注意喚起、冷淡、敵意
|-
| 脱抑制 (vs 誠実性)||直接的に欲求の充足を求めて、その場の考えや感情、状況からの刺激に反応して衝動的な行動に走る。||衝動性、転導性、無謀さ、硬直した完璧主義(の欠如)
|-
| 精神病性 (vs 明晰性)||文化にそぐわない奇妙な、普通でない行動や認知を示す。||奇妙さ、認知と知覚の統制障害
|}


 病的パーソナリティ特性は、'''表2'''において「否定的感情 vs 感情安定」といった形で示されているように、パーソナリティ障害のディメンションを表すものである。それらは、Costa  & McCraeの性格評価のための主要5 因子モデルのディメンション(神経症傾向、 内向性、 調和性(調和性のなさ)、 誠実性(誠実性のなさ)、 開放性(開放性のなさ))とほぼ対応がとれていると考えられる7。ここでは、病的パーソナリティ特性とは一般に見られるパーソナリティ傾向の極端な病的側面を取り上げたものと捉えられている。


 病的パーソナリティ特性は、表2において「否定的感情 vs 感情安定」といった形で示されているように、パーソナリティ障害のディメンションを表すものである。それらは、Costa  & McCraeの性格評価のための主要5 因子モデルのディメンション(神経症傾向、 内向性、 調和性(調和性のなさ)、 誠実性(誠実性のなさ)、 開放性(開放性のなさ))とほぼ対応がとれていると考えられる7。ここでは、病的パーソナリティ特性とは一般に見られるパーソナリティ傾向の極端な病的側面を取り上げたものと捉えられている。
 DSM-5第3部の代替診断基準でも、パーソナリティ障害タイプごとに設定された診断基準に従って操作的に診断手続きが行われる。次に境界性パーソナリティ障害の例を示す。


 DSM-5第3部の代替診断基準でも、パーソナリティ障害タイプごとに設定された診断基準に従って操作的に診断手続きが行われる。次に境界性パーソナリティ障害の例を示す。
 診断の過程は2つの段階から構成されている。
 
 まず、パーソナリティ機能('''表1'''参照)の2項目以上における中等度またはそれ以上の障害があることが条件になる。
 
 次いで、3つの病的パーソナリティ特性(否定的感情、脱抑制、対立 ('''表2'''参照))に属する7つの特性側面:
#情動不安定(否定的感情の一側面)、
#不安傾向(否定的感情の一側面)、
#分離不安(否定的感情の一側面)
#抑うつ傾向(否定的感情の一側面)
#衝動性(脱抑制の一側面)
#無謀さ(脱抑制の一側面)
#敵意(対立の一側面)


 診断の過程は2つの段階から構成されている。まず、パーソナリティ機能(表1参照)の2項目以上における中等度またはそれ以上の障害があることが条件になる。次いで、3つの病的パーソナリティ特性(否定的感情、脱抑制、対立 (表2参照))に属する7つの特性側面:(1) 情動不安定(否定的感情の一側面)、(2) 不安傾向(否定的感情の一側面)、(3) 分離不安(否定的感情の一側面)、(4) 抑うつ傾向(否定的感情の一側面)、(5) 衝動性(脱抑制の一側面)、(6) 無謀さ(脱抑制の一側面)、(7) 敵意(対立の一側面)、のうち4つ以上があり、そのうちの少なくとも1つは (5)、(6)、(7)のいずれか(脱抑制と敵対のどちらか)である必要があるとされる。
のうち4つ以上があり、そのうちの少なくとも1つは5、6、7のいずれか(脱抑制と敵対のどちらか)である必要があるとされる。


 他のタイプの診断でも、この例のようにパーソナリティ機能の評価と病的パーソナリティ特性側面の評価の両方が実施される。
 他のタイプの診断でも、この例のようにパーソナリティ機能の評価と病的パーソナリティ特性側面の評価の両方が実施される。

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