「パニック症」の版間の差分

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=== PDの疫学 ===  
=== PDの疫学 ===  


 有名なNational Comorbidity Survey(NCS)による疫学調査では、3.5%という結果であったが2)、これは若干高い数値で、その後の世界各国で行われた調査では1.5~2.5%の間にあるようだが、決して珍しい病気ではない。年間罹患率は一般的に0.5~1%であると報告されている3)。しかし、心疾患外来患者の16% 、あるいは過呼吸発作を訴えた患者の35%でPDの診断基準を満たすとの報告があり4)、一般臨床現場での有病率は、思ったよりも高い。また、PDの診断基準は満たさないものの、PAの繰り返しを持つ者は全人口の3.5%、生涯に1度でもPAを経験したことのある者は9~10%程度と見積もられており、潜在的な患者数も、かなり多いものと考えられている5)。性比については、女性は男性よりも一貫して高く、2倍以上であると報告されている2)。好発年齢は、15歳~45歳の若年層で、年齢分布としては、青年期後期の15~24歳と45~54歳に二峰性のピークを認め、高齢者の発症は稀である6)。ただし、このピークには性差があり、男性では25歳~30歳頃、女性では35歳前後と若干男性の方が若年発症の傾向があるとされている6)。
 有名なNational Comorbidity Survey(NCS)による疫学調査では、3.5%という結果であったが<ref name=ref2>8109651<pubmed></pubmed></ref>、これは若干高い数値で、その後の世界各国で行われた調査では1.5~2.5%の間にあるようだが、決して珍しい病気ではない。年間罹患率は一般的に0.5~1%であると報告されている<ref>3050062<pubmed></pubmed></ref>。しかし、心疾患外来患者の16% 、あるいは過呼吸発作を訴えた患者の35%でPDの診断基準を満たすとの報告があり<ref>8215805<pubmed></pubmed></ref>、一般臨床現場での有病率は、思ったよりも高い。また、PDの診断基準は満たさないものの、PAの繰り返しを持つ者は全人口の3.5%、生涯に1度でもPAを経験したことのある者は9~10%程度と見積もられており、潜在的な患者数も、かなり多いものと考えられている<ref>2185501<pubmed></pubmed></ref>。性比については、女性は男性よりも一貫して高く、2倍以上であると報告されている<ref name=ref2>8109651<pubmed></pubmed></ref>。好発年齢は、15歳~45歳の若年層で、年齢分布としては、青年期後期の15~24歳と45~54歳に二峰性のピークを認め、高齢者の発症は稀である6)。ただし、このピークには性差があり、男性では25歳~30歳頃、女性では35歳前後と若干男性の方が若年発症の傾向があるとされている6)。


 次に、PDの家系研究や双生児研究についてである。Croweらは1983年にPD患者の第一度親族における発症率が24.7%であるのに比べ、一般対照群では2.2%で、患者家族では発症のリスクが有意に高いことを指摘した7)。また、米国やベルギー、オーストラリア等で行われた大規模調査において、患者群の第一親等では正常対照群と比較し8倍の危険率との報告がなされている8)。Goldsteinらによる発症年齢における研究では、20歳以前の発症では家族性が強く17倍のリスクがあるのに対し、20歳以後の発症では6倍のリスクであったという9)。さらに双生児研究では、一卵性双生児の一致率24%に対して二卵性双生児では11%10)、双生児研究による遺伝率は、全般性不安障害(Generalized anxiety disorder:GAD)では32%であったのに対し、PDでは43%と高かったとの報告もあり11)、PDの発症には何らかの遺伝子要因が関与していることが示唆されている。  
 次に、PDの家系研究や双生児研究についてである。Croweらは1983年にPD患者の第一度親族における発症率が24.7%であるのに比べ、一般対照群では2.2%で、患者家族では発症のリスクが有意に高いことを指摘した7)。また、米国やベルギー、オーストラリア等で行われた大規模調査において、患者群の第一親等では正常対照群と比較し8倍の危険率との報告がなされている8)。Goldsteinらによる発症年齢における研究では、20歳以前の発症では家族性が強く17倍のリスクがあるのに対し、20歳以後の発症では6倍のリスクであったという9)。さらに双生児研究では、一卵性双生児の一致率24%に対して二卵性双生児では11%10)、双生児研究による遺伝率は、全般性不安障害(Generalized anxiety disorder:GAD)では32%であったのに対し、PDでは43%と高かったとの報告もあり11)、PDの発症には何らかの遺伝子要因が関与していることが示唆されている。  
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=== PDの病名の変遷 ===  
=== PDの病名の変遷 ===  


 図2に示したように、「パニック障害」という病名そのものは新しいものであるが、実は、同様の症状を呈する疾患の記述は19世紀まで遡る。当初は内科医の報告ばかりであるが、その後精神疾患との解釈がなされ、様々な病名がつけられた。有名なところでは、フロイドの「不安神経症」もPDを含む概念である。図をみるとわかるように、特に、戦時中にPAを呈する兵士が続発したことから、戦時中に数々の病名が生まれた経緯がある。そして、1980年になり、PDが本格的に世に出たわけであるが1)、それは、1960年代に出された2つの論文によるところが大きい。つまり、まず1964年にKleinは三還系抗うつ薬(Tricyclic antidepressant:TCA)であるimipramineがPAを抑制したと報告した13)。そしてその3年後の1967年には、PittsとMcClureによって、PD患者(当時は、“不安神経症“)では乳酸静注によってPAが生じるが、正常者ではそのようなことは起こらないことがわかったのである14)。したがって、PDは、フロイドが言うように内的不安が蓄積・爆発して生じるのではなく、生物学的な異常を基礎として生じているものであり、不安神経症とは独立した疾患概念であるとの見解に至った。
 図2に示したように、「パニック障害」という病名そのものは新しいものであるが、実は、同様の症状を呈する疾患の記述は19世紀まで遡る。当初は内科医の報告ばかりであるが、その後精神疾患との解釈がなされ、様々な病名がつけられた。有名なところでは、フロイドの「不安神経症」もPDを含む概念である。図をみるとわかるように、特に、戦時中にPAを呈する兵士が続発したことから、戦時中に数々の病名が生まれた経緯がある。そして、1980年になり、PDが本格的に世に出たわけであるが<ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref>1)、それは、1960年代に出された2つの論文によるところが大きい。つまり、まず1964年にKleinは三還系抗うつ薬(Tricyclic antidepressant:TCA)であるimipramineがPAを抑制したと報告した13)。そしてその3年後の1967年には、PittsとMcClureによって、PD患者(当時は、“不安神経症“)では乳酸静注によってPAが生じるが、正常者ではそのようなことは起こらないことがわかったのである14)。したがって、PDは、フロイドが言うように内的不安が蓄積・爆発して生じるのではなく、生物学的な異常を基礎として生じているものであり、不安神経症とは独立した疾患概念であるとの見解に至った。


== PDの病態仮説15) ==
== PDの病態仮説15) ==

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