「Eph受容体」の版間の差分

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 Ephは、Erythropoietin-producing hepatocellular carcinoma に発現する受容体型チロシンキナーゼをスクリーニングする過程で同定されたタンパク質である<ref><pubmed>2825356</pubmed></ref>。当初、それぞれのEph受容体は同定された生物種によって別々の名称で呼ばれていたが、Eph nomenclature committee により名称が統一された<ref><pubmed>9267020</pubmed></ref>。  
 Ephは、Erythropoietin-producing hepatocellular carcinoma に発現する受容体型チロシンキナーゼをスクリーニングする過程で同定されたタンパク質である<ref><pubmed>2825356</pubmed></ref>。当初、それぞれのEph受容体は同定された生物種によって別々の名称で呼ばれていたが、Eph nomenclature committee により名称が統一された<ref><pubmed>9267020</pubmed></ref>。  


== Eph受容体の構造とサブファミリー ==
==構造とサブファミリー ==
 Eph受容体は、そのアミノ酸配列及びとリガンドとの親和性の違いにより、EphAとEphBの2つのサブクラスに分類されている。脊椎動物において、EphAサブクラスは現在10種類 (EphA1~A10)、EphBサブクラスは6種類同定されている (EphB1~B6)。EphA、EphBはそれぞれエフリンA (ephrin-A) とエフリンB (ephrin-B)と呼ばれる細胞膜上のリガンドとほぼ選択的に結合するが、近年EphA4およびEphB2がそれぞれephrin-B3、ephrin-A5と結合することも報告されている<ref name=ref3><pubmed>12808016</pubmed></ref>。  
 Eph受容体は、そのアミノ酸配列及びとリガンドとの親和性の違いにより、EphAとEphBの2つのサブクラスに分類されている。脊椎動物において、EphAサブクラスは現在10種類 (EphA1~A10)、EphBサブクラスは6種類同定されている (EphB1~B6)。EphA、EphBはそれぞれエフリンA (ephrin-A) とエフリンB (ephrin-B)と呼ばれる細胞膜上のリガンドとほぼ選択的に結合するが、近年EphA4およびEphB2がそれぞれephrin-B3、ephrin-A5と結合することも報告されている<ref name=ref3><pubmed>12808016</pubmed></ref>。  


== Eph受容体シグナルの細胞生物学的機能 ==
== 細胞内シグナル==


 Eph受容体が細胞内にシグナルを伝達するためには、エフリンリガンドとの結合に加えて細胞膜上で受容体同士がお互いに結合すること (clustering) が必要である。Eph受容体は、その細胞内領域にチロシンキナーゼドメイン、[[wikipedia:JA:SAMドメイン|SAMドメイン]]、 [[PDZ]]結合モチーフを有している。リガンドの結合により、膜貫通領域の近傍に位置する[[wikipedia:JA:チロシン|チロシン]]と[[wikipedia:JA:セリン|セリン]]が[[wikipedia:JA:リン酸化|リン酸化]]され、チロシンキナーゼドメインが活性化されることで、下流分子にシグナルを伝達する。Eph受容体は様々な細胞内シグナル系を制御しているが、特に[[Ras]]/[[Rho]]ファミリーの[[低分子量Gタンパク質]]を介したシグナルは、[[アクチン]]フィラメントの構築を制御し、細胞の形態変化や[[接着]]性の低下、あるいは亢進を誘導する。 こうしたEph受容体を介した細胞特性の変化は、細胞の移動や突起の伸張、また細胞選別といった基本的な発生現象において極めて重要な役割を担っている。Eph受容体を介して、受容体を発現する細胞に伝達されるシグナルを正方向性シグナル (forward signal)、またエフリンリガンドを介してリガンド発現細胞に伝達されるシグナルを逆方向性シグナル (reverse signal) と呼んでいる<ref name=ref3><pubmed>12808016</pubmed></ref> <ref><pubmed>9233798</pubmed></ref> <ref><pubmed>10508149</pubmed></ref>。  
 Eph受容体が細胞内にシグナルを伝達するためには、エフリンリガンドとの結合に加えて細胞膜上で受容体同士がお互いに結合すること (clustering) が必要である。Eph受容体は、その細胞内領域にチロシンキナーゼドメイン、[[wikipedia:JA:SAMドメイン|SAMドメイン]]、 [[PDZ]]結合モチーフを有している。リガンドの結合により、膜貫通領域の近傍に位置する[[wikipedia:JA:チロシン|チロシン]]と[[wikipedia:JA:セリン|セリン]]が[[wikipedia:JA:リン酸化|リン酸化]]され、チロシンキナーゼドメインが活性化されることで、下流分子にシグナルを伝達する。Eph受容体は様々な細胞内シグナル系を制御しているが、特に[[Ras]]/[[Rho]]ファミリーの[[低分子量Gタンパク質]]を介したシグナルは、[[アクチン]]フィラメントの構築を制御し、細胞の形態変化や[[接着]]性の低下、あるいは亢進を誘導する。 こうしたEph受容体を介した細胞特性の変化は、細胞の移動や突起の伸張、また細胞選別といった基本的な発生現象において極めて重要な役割を担っている。Eph受容体を介して、受容体を発現する細胞に伝達されるシグナルを正方向性シグナル (forward signal)、またエフリンリガンドを介してリガンド発現細胞に伝達されるシグナルを逆方向性シグナル (reverse signal) と呼んでいる<ref name=ref3><pubmed>12808016</pubmed></ref> <ref><pubmed>9233798</pubmed></ref> <ref><pubmed>10508149</pubmed></ref>。  


== Eph受容体の中枢神経系における機能 ==
== 中枢神経系における機能 ==


 中枢神経系の発生・発達過程において、Eph受容体を介したシグナルは特に、初期中枢神経系の領域化における組織境界の形成、神経前駆細胞の増殖と細胞死、神経軸索ガイダンスといった現象に深く関与している。また生後・成体脳では、[[シナプス形成]]の制御や[[神経幹細胞]]の増殖と分化にも重要な役割を果たしている。  
 中枢神経系の発生・発達過程において、Eph受容体を介したシグナルは特に、初期中枢神経系の領域化における組織境界の形成、神経前駆細胞の増殖と細胞死、神経軸索ガイダンスといった現象に深く関与している。また生後・成体脳では、[[シナプス形成]]の制御や[[神経幹細胞]]の増殖と分化にも重要な役割を果たしている。  
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* 成体神経幹細胞の増殖・分化制御<br>Eph受容体とエフリンリガンドは成体脳に存在する神経幹細胞と[[ニッチ細胞]]にも発現している。成体[[側脳室]]壁では、EphA7受容体が[[上衣細胞]]に発現し、神経幹細胞および前駆細胞に発現しているephrin-A2リガンドを介した逆方向性シグナルにより細胞増殖を負に制御している<ref><pubmed>15713841</pubmed></ref>。また[[アストロサイト]]および移動中の[[ニューロブラスト]]に発現しているEphBおよびephrin-B受容体が、神経幹細胞の増殖とニューロブラストの移動様式を制御している<ref><pubmed>11036265</pubmed></ref> 。さらに成体[[海馬]][[歯状回]]においては、神経前駆細胞に発現するEphB1およびEphB2が、前駆細胞の増殖と移動、突起進展を制御していることが報告されている<ref><pubmed>18057206</pubmed></ref>。  
* 成体神経幹細胞の増殖・分化制御<br>Eph受容体とエフリンリガンドは成体脳に存在する神経幹細胞と[[ニッチ細胞]]にも発現している。成体[[側脳室]]壁では、EphA7受容体が[[上衣細胞]]に発現し、神経幹細胞および前駆細胞に発現しているephrin-A2リガンドを介した逆方向性シグナルにより細胞増殖を負に制御している<ref><pubmed>15713841</pubmed></ref>。また[[アストロサイト]]および移動中の[[ニューロブラスト]]に発現しているEphBおよびephrin-B受容体が、神経幹細胞の増殖とニューロブラストの移動様式を制御している<ref><pubmed>11036265</pubmed></ref> 。さらに成体[[海馬]][[歯状回]]においては、神経前駆細胞に発現するEphB1およびEphB2が、前駆細胞の増殖と移動、突起進展を制御していることが報告されている<ref><pubmed>18057206</pubmed></ref>。  


==関連項目==
*[[エフリン]]


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==

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