「前後軸」の版間の差分

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 前脳は間脳と終脳に分けられる。予定前脳領域神経板において非神経外胚葉と接する狭い領域は、前方神経境界領域 (anterior neural boundary: ANBまたはanterior neural ridge: ANR) と呼ばれている。この領域に発現するシグナリング分子FGF8は、近接する側方前脳領域において、脳形成に重要な転写因子BF1の発現を誘導する。したがって、前方神経境界領域は、前後軸が決定された後、さらに前脳をパターン化するためのシグナリングセンターとして重要である [5]。
 前脳は間脳と終脳に分けられる。予定前脳領域神経板において非神経外胚葉と接する狭い領域は、前方神経境界領域 (anterior neural boundary: ANBまたはanterior neural ridge: ANR) と呼ばれている。この領域に発現するシグナリング分子FGF8は、近接する側方前脳領域において、脳形成に重要な転写因子BF1の発現を誘導する。したがって、前方神経境界領域は、前後軸が決定された後、さらに前脳をパターン化するためのシグナリングセンターとして重要である [5]。
 ロンボメア形成や各々のHox遺伝子の発現境界が前後にずれていることは、菱脳の前後軸に沿った機能の違いを生み出すための重要なメカニズムであるが、前脳にも分節構造が存在するのかどうかは、前脳の多様な機能を考える上で、重要な問題であった。ルービンシュタインらは、ショウジョウバエの頭部形成に関わるホメオボックス転写因子の脊椎動物ホモログ遺伝子の発現をマウス胚前脳において調べ、個々遺伝子が前後軸に沿っていくつかの決まった位置に発現境界を示すことを発見した。このような遺伝子発現様式に基づき、前脳には前後軸に沿って6つの分節(プロソメア)(p1からp6) が存在するとするプロソメアモデル(prosomeric model)が提唱された<ref name=ref11><pubmed>7939711</pubmed></ref>。このモデルでは、p1-p3は視床を形成する間脳後方領域に相当し、p4-p6は間脳前方領域(視床下部)と終脳を形成する二次前脳胞(secondary procencephalon)に相当する。その後、視床と視床下部の区画に関する研究が進展し、p3に含まれる領域の変更と視床下部におけるプロソメア境界が再検討され、初期モデルのp4-p6領域は一区画に修正されている<ref name=ref12><pubmed>12948657</pubmed></ref>(図2)。p2/p3境界は、Six3およびFezf1/2の後方発現境界とIrx3の前方発現境界に一致している<ref name=ref5 />。Six3や[[Fezf1]]/[[Fezf2|2]]はp2/3境界形成に必須の遺伝子である(図2)<ref name=ref5 />。p2/p3境界には[[ソニックヘッジホッグ]]([[sonic hedgehog]]: [[Shh]]) を発現する[[Zli 領域]] ([[zona limitance intrathalamica]])が形成され、[[間脳原基]]から生じる[[視床]]の前後軸パターン化に関与している<ref name=ref5 />(図2)。間脳・中脳境界は、間脳後部に発現するPax6と中脳に発現するEn2の相互抑制機構により確立される(図2)。
 
 ロンボメア形成や各々のHox遺伝子の発現境界が前後にずれていることは、菱脳の前後軸に沿った機能の違いを生み出すための重要なメカニズムであるが、前脳にも分節構造が存在するのかどうかは、前脳の多様な機能を考える上で、重要な問題であった。ルービンシュタインらは、ショウジョウバエの頭部形成に関わるホメオボックス転写因子の脊椎動物ホモログ遺伝子の発現をマウス胚前脳において調べ、個々遺伝子が前後軸に沿っていくつかの決まった位置に発現境界を示すことを発見した。このような遺伝子発現様式に基づき、前脳には前後軸に沿って6つの分節(プロソメア)(p1からp6) が存在するとするプロソメアモデル(prosomeric model)が提唱された<ref name=ref11><pubmed>7939711</pubmed></ref>。このモデルでは、p1-p3は視床を形成する間脳後方領域に相当し、p4-p6は間脳前方領域(視床下部)と終脳を形成する二次前脳胞(secondary procencephalon)に相当する。その後、視床と視床下部の区画に関する研究が進展し、p3に含まれる領域の変更と視床下部におけるプロソメア境界が再検討され、初期モデルのp4-p6領域は一区画に修正されている<ref name=ref12><pubmed>12948657</pubmed></ref>('''図2''')。p2/p3境界は、Six3およびFezf1/2の後方発現境界とIrx3の前方発現境界に一致している<ref name=ref5 />。Six3や[[Fezf1]]/[[Fezf2|2]]はp2/3境界形成に必須の遺伝子である('''図2''')<ref name=ref5 />。p2/p3境界には[[ソニックヘッジホッグ]]([[sonic hedgehog]]: [[Shh]]) を発現する[[Zli領域]] ([[Zona limitans intrathalamica]])が形成され、[[間脳原基]]から生じる[[視床]]の前後軸パターン化に関与している<ref name=ref5 />(図2)。間脳・中脳境界は、間脳後部に発現するPax6と中脳に発現するEn2の相互抑制機構により確立される('''図2''')。


 二次前脳胞の背側から腹側にかけての領域からは、将来の[[大脳皮質]]、[[線条体]]、[[淡蒼球]]、[[視床下部]]が派生する。脳胞形成後の終脳先端正中部に位置するcommissural plateにはFGF8が発現している (図2)。FGF8をマウス大脳皮質原基の前方領域に発現させると、本来前方に位置する領野が後方へとシフトする。一方、FGF8を大脳皮質原基の後方領域に発現させると鏡像対称な[[体性感覚野]][[バレル構造]]が形成される。これらの結果から、commissural plate から分泌されるFGF8の濃度勾配が大脳皮質原基の前後軸パターン化を制御していることが示唆された<ref name=ref13><pubmed>11567107</pubmed></ref>。
 二次前脳胞の背側から腹側にかけての領域からは、将来の[[大脳皮質]]、[[線条体]]、[[淡蒼球]]、[[視床下部]]が派生する。脳胞形成後の終脳先端正中部に位置するcommissural plateにはFGF8が発現している (図2)。FGF8をマウス大脳皮質原基の前方領域に発現させると、本来前方に位置する領野が後方へとシフトする。一方、FGF8を大脳皮質原基の後方領域に発現させると鏡像対称な[[体性感覚野]][[バレル構造]]が形成される。これらの結果から、commissural plate から分泌されるFGF8の濃度勾配が大脳皮質原基の前後軸パターン化を制御していることが示唆された<ref name=ref13><pubmed>11567107</pubmed></ref>。

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