「中枢パターン生成器」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
 
13行目: 13行目:


== 概念と研究の歴史==  
== 概念と研究の歴史==  
 20世紀初頭にGraham Brown は、[[中枢神経系]]への感覚入力を遮断した[[wj:ネコ|ネコ]]において、[[胸髄]]のレベルで脊髄を横切断した直後に後肢の足関節にリズミックな屈曲・伸展の活動パターンがみられるということを報告した)<ref name=ref1><b> Thomas Graham Brown. </b><br>The intrinsic factors in the act of progression in the mammal. <br>Proc R Soc Lond B Biol Sci. 1911, 84:308–319.</ref>。これは感覚入力や脊髄の上位中枢からの入力がなくても下部胸髄から[[腰髄]]に局在する神経回路だけでリズミックな関節の動きが生み出されることを示唆した初めての例である<ref name=ref2><pubmed> 18582502 </pubmed></ref>。またCPGという用語が神経科学研究の論文において初めて用いられたのは、1960年代のWilsonとWymanによる[[wikipedia:ja:バッタ|バッタ]]の飛翔の神経メカニズムに関する研究とされる<ref name=ref3><pubmed>14268949 </pubmed></ref>。[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]においては、[[wikipedia:ja:咀嚼|咀嚼]]・[[wj:吸啜|吸啜]]の際の[[wj:顎関節|顎関節]]や[[wj:舌|舌]]の運動<ref name=ref4><pubmed>22342735</pubmed></ref>、呼吸の際の[[wj:横隔膜|横隔膜]]や[[wj:胸郭|胸郭]]の運動<ref name=ref5><pubmed>12598679</pubmed></ref>、そして歩行の際の四肢の運動<ref name=ref6><b> Sten Grillner.</b>  <br>Control of locomotion in bipeds, tetrapods, and fish. <br>In Handbook of Physiology: The Nervous System, 2, Motor Control<br>ed. V Brooks, 1981, pp. 1176–236. Bethesda, MA: Am.</ref>を制御するCPGが知られている。他の脊椎動物では[[wikipedia:ja:魚類|魚類]]や[[wikipedia:ja:両生類|両生類]]の幼生の泳動などを生み出している<ref name=ref7><pubmed>7571002</pubmed></ref><ref name=ref8> <pubmed>9928299</pubmed></ref>。また[[wikipedia:ja:無脊椎動物|無脊椎動物]]においても上述の[[wikipedia:ja:昆虫|昆虫]](バッタ)の飛翔の他、[[wikipedia:ja:軟体動物|軟体動物]]([[wikipedia:ja:クリオネ|クリオネ]])の泳動<ref name=ref9><pubmed>9928301</pubmed></ref>あるいは[[wikipedia:ja:甲殻類|甲殻類]]([[wikipedia:ja:イセエビ|イセエビ]]など)の胃咀嚼器のリズミックな運動を制御する神経回路<ref name=ref10><pubmed>9928300</pubmed></ref>がCPGとして知られており、神経回路のしくみ、特に細胞レベルの機能解析が進んでいる。ここでは主に脊椎動物の移動運動(Locomotion)、特に哺乳類の歩行と魚類の泳動を生成するCPGについて述べる。
 20世紀初頭にGraham Brown は、[[中枢神経系]]への感覚入力を遮断した[[wj:ネコ|ネコ]]において、[[胸髄]]のレベルで脊髄を横切断した直後に後肢の足関節にリズミックな屈曲・伸展の活動パターンがみられるということを報告した)<ref name=ref1><b> Thomas Graham Brown. </b><br>The intrinsic factors in the act of progression in the mammal. <br>Proc R Soc Lond B Biol Sci. 1911, 84:308–319.</ref>。これは感覚入力や脊髄の上位中枢からの入力がなくても下部胸髄から[[腰髄]]に局在する神経回路だけでリズミックな関節の動きが生み出されることを示唆した初めての例である<ref name=ref2><pubmed> 18582502 </pubmed></ref>。またCPGという用語が神経科学研究の論文において初めて用いられたのは、1960年代のWilsonとWymanによる[[wj:バッタ|バッタ]]の飛翔の神経メカニズムに関する研究とされる<ref name=ref3><pubmed>14268949 </pubmed></ref>。[[wj:哺乳類|哺乳類]]においては、[[咀嚼]]・[[吸啜]]の際の[[wj:顎関節|顎関節]]や[[wj:舌|舌]]の運動<ref name=ref4><pubmed>22342735</pubmed></ref>、呼吸の際の[[wj:横隔膜|横隔膜]]や[[wj:胸郭|胸郭]]の運動<ref name=ref5><pubmed>12598679</pubmed></ref>、そして歩行の際の四肢の運動<ref name=ref6><b> Sten Grillner.</b>  <br>Control of locomotion in bipeds, tetrapods, and fish. <br>In Handbook of Physiology: The Nervous System, 2, Motor Control<br>ed. V Brooks, 1981, pp. 1176–236. Bethesda, MA: Am.</ref>を制御するCPGが知られている。他の脊椎動物では[[wj:魚類|魚類]]や[[wj:両生類|両生類]]の幼生の泳動などを生み出している<ref name=ref7><pubmed>7571002</pubmed></ref><ref name=ref8> <pubmed>9928299</pubmed></ref>。また[[wj:無脊椎動物|無脊椎動物]]においても上述の[[wj:昆虫|昆虫]](バッタ)の飛翔の他、[[wj:軟体動物|軟体動物]]([[wj:クリオネ|クリオネ]])の泳動<ref name=ref9><pubmed>9928301</pubmed></ref>あるいは[[wj:甲殻類|甲殻類]]([[wj:イセエビ|イセエビ]]など)の胃咀嚼器のリズミックな運動を制御する神経回路<ref name=ref10><pubmed>9928300</pubmed></ref>がCPGとして知られており、神経回路のしくみ、特に細胞レベルの機能解析が進んでいる。ここでは主に脊椎動物の移動運動(Locomotion)、特に哺乳類の歩行と魚類の泳動を生成するCPGについて述べる。


== 基本的なしくみ==  
== 基本的なしくみ==  

案内メニュー