「イノシトール1,4,5-三リン酸」の版間の差分

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==IP<sub>3</sub>とイノシトールリン酸の代謝==
==IP<sub>3</sub>とイノシトールリン酸の代謝==
 IP<sub>3</sub>シグナルの細胞内における時空間的特性には、一次メッセンジャーが作用する細胞膜近傍におけるPI代謝と、その後のイノシトールポリリン酸(inositol polyphosphate)代謝活性が主に寄与する('''図3''')。産生後のIP<sub>3</sub>は、主にイノシトールポリリン酸5-ホスファターゼ(inositol polyphosphate 5-phosphatase、略称:INPP5)によるイノシトール環5位の脱リン酸化によってIP2(イノシトール1,4-二リン酸:Ins(1,4)P2)か、IP<sub>3</sub> 3-キナーゼ(inositol 1,4,5-trisphospate 3-kinase、略語:IP<sub>3</sub>K)やイノシトールポリリン酸マルチキナーゼ(inositol polyphosphate multikinase、略称:IPMK)による3位のリン酸化によってIP4(イノシトール1,3,4,5-四リン酸:Ins(1,3,4,5)P4)に代謝される。
 IP<sub>3</sub>シグナルの細胞内における時空間的特性には、一次メッセンジャーが作用する細胞膜近傍におけるPI代謝と、その後のイノシトールポリリン酸(inositol polyphosphate)代謝活性が主に寄与する('''図3''')。産生後のIP<sub>3</sub>は、主にイノシトールポリリン酸5-ホスファターゼ(inositol polyphosphate 5-phosphatase、略称:INPP5)によるイノシトール環5位の脱リン酸化によってIP2(イノシトール1,4-二リン酸:Ins(1,4)P<sub>2</sub>)か、IP<sub>3</sub> 3-キナーゼ(inositol 1,4,5-trisphospate 3-kinase、略語:IP<sub>3</sub>K)やイノシトールポリリン酸マルチキナーゼ(inositol polyphosphate multikinase、略称:IPMK)による3位のリン酸化によってIP4(イノシトール1,3,4,5-四リン酸:Ins(1,3,4,5)P<sub>4</sub>)に代謝される。
   
   
図3 ホスファチジルイノシトールとイノシトールポリリン酸/ピロリン酸の代謝
図3 ホスファチジルイノシトールとイノシトールポリリン酸/ピロリン酸の代謝


IP2は、イノシトールモノホスファターゼ(inositol monophosphatase、略称:IMPA)やイノシトールポリリン酸1-ホスファターゼ(inositol polyphosphate 1-phosphatase、略称:INNP1)によってさらに脱リン酸化を受けて、myo-イノシトールまで代謝される。myo-イノシトールは、ホスファチジルイノシトール合成酵素(phosphatidylinositol synthetase、略称:PIS)によって、小胞体(ER)膜で合成される中間体リン脂質のCDP-ジアシルグリセロール(CDP-DAG)と結合することで、再びPI合成のサイクルへ組み込まれる。気分安定薬としての薬理作用をもつリチウム(lithium、Li)<ref name=Harwood2005><pubmed>15558078</pubmed></ref> は、IMPA1やINNP1を阻害し脱リン酸化を抑制するため<ref name=Dollins2021><pubmed>33172890</pubmed></ref> 、myo-イノシトールの供給が抑制される。結果としてPI合成が低下し、IP<sub>3</sub>の産生とその下流のIICRへも影響が及ぶと考えられる。
 IP<sub>2</sub>は、イノシトールモノホスファターゼ(inositol monophosphatase、略称:IMPA)やイノシトールポリリン酸1-ホスファターゼ(inositol polyphosphate 1-phosphatase、略称:INNP1)によってさらに脱リン酸化を受けて、myo-イノシトールまで代謝される。myo-イノシトールは、ホスファチジルイノシトール合成酵素(phosphatidylinositol synthetase、略称:PIS)によって、小胞体(ER)膜で合成される中間体リン脂質のCDP-ジアシルグリセロール(CDP-DAG)と結合することで、再びPI合成のサイクルへ組み込まれる。気分安定薬としての薬理作用をもつリチウム(lithium、Li)<ref name=Harwood2005><pubmed>15558078</pubmed></ref> は、IMPA1やINNP1を阻害し脱リン酸化を抑制するため<ref name=Dollins2021><pubmed>33172890</pubmed></ref> 、myo-イノシトールの供給が抑制される。結果としてPI合成が低下し、IP<sub>3</sub>の産生とその下流のIICRへも影響が及ぶと考えられる。


IP4は、INPP5への親和性が高く競合阻害によってIP<sub>3</sub>の脱リン化を抑制する効果や、IP<sub>3</sub>受容体へのアゴニスト効果などが知られている。また、IP4は、IMPAによるイノシトール環6位のリン酸化でIP5(イノシトール1,3,4,5,6-五リン酸inositol pentakisphosphate、略称:Ins(1,3,4,5,6)P5)へ、次いでIP5がイノシトール五リン酸2-キナーゼ(inositol 1,3,4,5,6-pentakisphosphate 2-kinase、略称:IP5K)による6位のリン酸化でIP6(イノシトール六リン酸inositol hexakisphosphate、略称:InsP6)へと代謝が進む。IP5とIP6は、さらに高エネルギーリン酸結合をもつイノシトールピロリン酸(inositol pyrophosphate、略称:PP-InsP)を合成する基質となる(それぞれ5-PP-IP4、5-PP-IP5や1-PP-IP5など)<ref name=Chakraborty2011><pubmed>21878680</pubmed></ref><ref name=Irvine2001><pubmed>11331907</pubmed></ref><ref name=Laha2021><pubmed>33422459</pubmed></ref><ref name=Lee2012><pubmed>23050966</pubmed></ref><ref name=Mulugu2007><pubmed>17412958</pubmed></ref> 。PP-InsPは、クロマチンリモデリングや遺伝子発現、膜輸送、インスリン分泌、成長因子・サイトカイン経路、アポトーシス、ドーパミン放出などに関連する事例が報告されている<ref name=Chakraborty2011><pubmed>21878680</pubmed></ref><ref name=Lee2007><pubmed>17412959</pubmed></ref> <ref name=Monserrate2010><pubmed>20359876</pubmed></ref> 。
 IP<sub>4</sub>は、INPP5への親和性が高く競合阻害によってIP<sub>3</sub>の脱リン化を抑制する効果や、IP<sub>3</sub>受容体へのアゴニスト効果などが知られている。また、IP<sub>4</sub>は、IMPAによるイノシトール環6位のリン酸化でIP<sub>5</sub>(イノシトール1,3,4,5,6-五リン酸inositol pentakisphosphate、略称:Ins(1,3,4,5,6)P<sub>5</sub>)へ、次いでIP<sub>5</sub>がイノシトール五リン酸2-キナーゼ(inositol 1,3,4,5,6-pentakisphosphate 2-kinase、略称:IP<sub>5</sub>K)による6位のリン酸化でIP<sub>6</sub>(イノシトール六リン酸inositol hexakisphosphate、略称:InsP6)へと代謝が進む。IP<sub>5</sub>とIP<sub>6</sub>は、さらに高エネルギーリン酸結合をもつイノシトールピロリン酸(inositol pyrophosphate、略称:PP-InsP)を合成する基質となる(それぞれ5-PP-IP<sub>4</sub>、5-PP-IP<sub>5</sub>や1-PP-IP<sub>5</sub>など)<ref name=Chakraborty2011><pubmed>21878680</pubmed></ref><ref name=Irvine2001><pubmed>11331907</pubmed></ref><ref name=Laha2021><pubmed>33422459</pubmed></ref><ref name=Lee2012><pubmed>23050966</pubmed></ref><ref name=Mulugu2007><pubmed>17412958</pubmed></ref> 。PP-InsPは、クロマチンリモデリングや遺伝子発現、膜輸送、インスリン分泌、成長因子・サイトカイン経路、アポトーシス、ドーパミン放出などに関連する事例が報告されている<ref name=Chakraborty2011><pubmed>21878680</pubmed></ref><ref name=Lee2007><pubmed>17412959</pubmed></ref><ref name=Monserrate2010><pubmed>20359876</pubmed></ref> 。


==IP<sub>3</sub>/Ca<sup>2+</sup>シグナル伝達==
==IP<sub>3</sub>/Ca<sup>2+</sup>シグナル伝達==

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