「モノアシルグリセロールリパーゼ」の版間の差分

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英:monoacylglycerol lipase
英:monoacylglycerol lipase
{{box|text= モノアシルグリセロールリパーゼ(MGL)は、モノアシルグリセロールの長鎖脂肪酸を加水分解する酵素である。最初は、脂肪の分解に必要な酵素として注目された。その後、神経調節因子として働くエンドカンナビノイドの1つ2-AG(2-arachidonylglycerol)を分解する主要な酵素であることが判明した。2-AGはシナプス後ニューロンから放出され、シナプス前終末のCB1受容体に作用し神経伝達物質の放出を抑制する。このようなエンドカンナビノイドを介するシナプス伝達の調節(カンナビノイド系)は記憶・学習、不安、痛みなど様々な脳機能に関与している。また、MGLが2-AGを分解するとアラキドン酸が放出されることから、プロスタグランジンの生合成にも関与することが明らかとなった。よって、MGLはカンナビノイド系およびプロスタグランジ系の働きに影響をおよぼす可能性があり、MGLをターゲットとした治療薬の開発が進められている。}}
英略語:MGL
{{box|text= モノアシルグリセロールリパーゼは、モノアシルグリセロールの長鎖脂肪酸を加水分解する酵素である。最初は、脂肪の分解に必要な酵素として注目された。その後、神経調節因子として働くエンドカンナビノイドの1つ2-AG(2-arachidonylglycerol)を分解する主要な酵素であることが判明した。2-AGはシナプス後ニューロンから放出され、シナプス前終末のCB1受容体に作用し神経伝達物質の放出を抑制する。このようなエンドカンナビノイドを介するシナプス伝達の調節(カンナビノイド系)は記憶・学習、不安、痛みなど様々な脳機能に関与している。また、MGLが2-AGを分解するとアラキドン酸が放出されることから、プロスタグランジンの生合成にも関与することが明らかとなった。よって、MGLはカンナビノイド系およびプロスタグランジ系の働きに影響をおよぼす可能性があり、MGLをターゲットとした治療薬の開発が進められている。}}


== イントロダクション ==
== イントロダクション ==
 モノアシルグリセロールリパーゼの研究は、最初は脂肪の分解に必要な酵素として注目された('''図1''')。空腹時には動物はエネルギー源として脂肪を利用する。この時に脂肪組織ではトリアシルグリセロール(triacylglycerol:TG)の脂肪酸が切り離されジアシルグルセロール(diacylglycerol:DG)、モノアシルグリセロール(monoacylglycerol; MG)となり、最終的にはグリセロールと脂肪酸にまで分解される。この最終段階に働くMGを分解する酵素の同定が試みられた。Tornqvistらは1976年にラットの脂肪組織よりMGを加水分解する酵素MGLの抽出に成功した<ref name=Tornqvist1976><pubmed>1249056</pubmed></ref>。彼らはSDSゲル電気泳動の結果より分子量は32900と推定し、基質特異性としては、TGやDGには作用せずMG特異性が高いこと、MGであれば脂肪酸の結合位置がグリセロールのどの位置であっても分解できることを報告した。同グループは1997年にマウス脂肪組織のcDNAライブラリーからMGLをクローニングし、そのアミノ酸配列を特定した<ref name=Karlsson1997><pubmed>9341166</pubmed></ref>。また、MGLのmRNAの発現を調べ、MGLは脂肪組織のみならず脳を含む全身の組織で普遍的に発現されている酵素であることを明らかにした。同グループは2001年にはヒトのMGLのアミノ酸配列の特定にも成功した<ref name=Karlsson2001><pubmed>11470505</pubmed></ref>。  
 モノアシルグリセロールリパーゼの研究は、最初は脂肪の分解に必要な酵素として注目されたことに始まる('''図1''')。空腹時には動物はエネルギー源として脂肪を利用する。この時に脂肪組織ではトリアシルグリセロール(triacylglycerol:TG)の脂肪酸が切り離されジアシルグルセロール(diacylglycerol:DG)、モノアシルグリセロール(monoacylglycerol; MG)となり、最終的にはグリセロールと脂肪酸にまで分解される。この最終段階に働くMGを分解する酵素の同定が試みられた。Tornqvistらは1976年にラットの脂肪組織よりMGを加水分解する酵素MGLの抽出に成功した<ref name=Tornqvist1976><pubmed>1249056</pubmed></ref>。彼らはSDSゲル電気泳動の結果より分子量は32900と推定し、基質特異性としては、TGやDGには作用せずMG特異性が高いこと、MGであれば脂肪酸の結合位置がグリセロールのどの位置であっても分解できることを報告した。同グループは1997年にマウス脂肪組織のcDNAライブラリーからMGLをクローニングし、そのアミノ酸配列を特定した<ref name=Karlsson1997><pubmed>9341166</pubmed></ref>。また、MGLのmRNAの発現を調べ、MGLは脂肪組織のみならず脳を含む全身の組織で普遍的に発現されている酵素であることを明らかにした。同グループは2001年にはヒトのMGLのアミノ酸配列の特定にも成功した<ref name=Karlsson2001><pubmed>11470505</pubmed></ref>。  


 MGLはその後カンナビノイド研究において注目を集めることとなった('''図2''')。カンナビノイド(cannabinoid)とは、大麻(学名はCannabis sativa)に含まれる精神神経作用を引き起こす物質およびその類似物質を合わせた総称名である。1964年に大麻に含まれる有効成分としてTHC(Δ9-tetrahydrocannabinol)が同定され、THCが結合する受容体(カンナビノイド受容体)として1990年にCB1受容体、1993年にはCB2受容体のアミノ酸配列が特定された。1992年にはカンナビノイド受容体の内因性リガンド(エンドカンナビノイド)としてアナンダミド(N-arachidonoylethanolamide)が、1995年には2-AG(2-arachidonylglycerol)が発見された。その後、エンドカンナビノイドの生合成および分解に関与する酵素群('''図2''')が次々と特定され、それと並行しエンドカンナビノイドの生理的役割(カンナビノイド系)が次第に明らかとなった<ref name=Kano2009><pubmed>19126760</pubmed></ref>。この一連の研究の中で、2-AGの分解酵素としてのMGLの重要性が報告された。Piomelliらのグループが、2002年にラットのMGLのアミノ酸配列を特定するとともに、MGLが2-AGの分解の主要な酵素であることを証明した<ref name=Dinh2002><pubmed>12136125</pubmed></ref>。
 MGLはその後カンナビノイド研究において注目を集めることとなった('''図2''')。カンナビノイド(cannabinoid)とは、大麻(学名はCannabis sativa)に含まれる精神神経作用を引き起こす物質およびその類似物質を合わせた総称名である。1964年に大麻に含まれる有効成分としてTHC(Δ9-tetrahydrocannabinol)が同定され、THCが結合する受容体(カンナビノイド受容体)として1990年にCB1受容体、1993年にはCB2受容体のアミノ酸配列が特定された。1992年にはカンナビノイド受容体の内因性リガンド(エンドカンナビノイド)としてアナンダミド(N-arachidonoylethanolamide)が、1995年には2-AG(2-arachidonylglycerol)が発見された。その後、エンドカンナビノイドの生合成および分解に関与する酵素群('''図2''')が次々と特定され、それと並行しエンドカンナビノイドの生理的役割(カンナビノイド系)が次第に明らかとなった<ref name=Kano2009><pubmed>19126760</pubmed></ref>。この一連の研究の中で、2-AGの分解酵素としてのMGLの重要性が報告された。Piomelliらのグループが、2002年にラットのMGLのアミノ酸配列を特定するとともに、MGLが2-AGの分解の主要な酵素であることを証明した<ref name=Dinh2002><pubmed>12136125</pubmed></ref>。
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* [[アラキドン酸]]
* [[アラキドン酸]]
* [[プロスタグランジン]]
* [[プロスタグランジン]]
==参考文献==

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