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== 生理機能 == | == 生理機能 == | ||
動物型SRは、大脳皮質および海馬の組織に含まれる<small>D</small>-セリンの約90%の合成を担っている<ref name=ref14><pubmed>19118183</pubmed></ref><ref name=ref15><pubmed>19065142</pubmed></ref>。SRのセリンラセミ化反応により産生される <small>D</small>- | 動物型SRは、大脳皮質および海馬の組織に含まれる<small>D</small>-セリンの約90%の合成を担っている<ref name=ref14><pubmed>19118183</pubmed></ref><ref name=ref15><pubmed>19065142</pubmed></ref>。SRのセリンラセミ化反応により産生される <small>D</small>-セリンは、グルタミン酸受容体の一つであるNMDA型グルタミン酸受容体の内在性コ・アゴニストとして脳の高次機能発現に関与すると考えられている。 | ||
アストロサイト由来の内在性の<small>D</small>-セリンがNMDARの主なコ・アゴニストとして[[シナプス可塑性]]の制御に関わることが示唆されている。乳汁分泌期のラットの[[視床下部]][[視索上核]]では、シナプスを取り巻くアストロサイトが減少するとともに、シナプスにおけるNMDAR電流が減少し、シナプス可塑性の[[長期増強現象|長期増強]](long-term potentiation, LTP)が誘導されない。しかし、乳汁分泌期のラット脳スライスに<small>D</small>-セリンを投与すると、NMDAR依存性の神経伝達が回復し、LTPが誘導できる<ref><pubmed>16713567</pubmed></ref>。またHennebergerらは、アストロサイトが[[カルシウム]]依存的な<small>D</small>-セリンの放出によりNMDAR活動を制御し、LTP誘導を調節していることを報告している<ref><pubmed>20075918</pubmed></ref>。SRが主に神経細胞に発現していることから、アストロサイトが<SMALL>D</SMALL>-セリンの放出によりNMDARの機能を制御するには、神経細胞で合成された<SMALL>D</SMALL>-セリンが細胞外に放出され、アストロサイトに取り込まれる必要があるが、そのメカニズムに関しては未だに不明である。 | |||
現在、3系統のSRノックアウト(KO)マウスが確立されており、個体レベルにおけるSRの機能が明らかにされつつある。SRKOマウスでは、NMDAR 依存的な興奮性シナプス後電流(EPSCs)の減弱速度(decay) が遅くなり、海馬CA1のシナプスにおいてLTPが誘導されない<ref name=ref15></ref>。また、NMDAおよび[[アミロイドタンパク質|アミロイド]]β<sub>1-42</sub>(Aβ<sub>1-42</sub>)の脳内注入により誘導される[[神経細胞変性]]が野生型マウスに比べ有意に低下し、[[脳虚血]]により引き起こされる障害が緩和されることが報告されている<ref name=ref14></ref></ref><ref><pubmed>20107067</pubmed></ref> | NMDARのグリシンサイトには<SMALL>D</SMALL>-セリンのほかグリシンも結合するが、<SMALL>D</SMALL>-セリンはグリシンと比較して、リコンビナントNMDARに対して約3倍高い親和性を示す<ref><pubmed>7790891</pubmed></ref>。。脳スライスに<SMALL>D</SMALL>-セリンの分解酵素である<SMALL>D</SMALL>-アミノ酸酸化酵素(<small>D</small>-amino acid oxidase; DAO)を作用させ<SMALL>D</SMALL>-セリンのみを分解し、グリシンの量が変化しない実験条件において、NMDAR依存的な電流が減少し、LTPが誘導されない<ref><pubmed>14638938</pubmed></ref>。ことから、<SMALL>D</SMALL>-セリンがNMDARの生理的な内在性コ・アゴニストとして機能し、シナプス可塑性制御に関わると考えられている。 | ||
現在、3系統のSRノックアウト(KO)マウスが確立されており、個体レベルにおけるSRの機能が明らかにされつつある。SRKOマウスでは、NMDAR 依存的な興奮性シナプス後電流(EPSCs)の減弱速度(decay) が遅くなり、海馬CA1のシナプスにおいてLTPが誘導されない<ref name=ref15></ref>。また、NMDAおよび[[アミロイドタンパク質|アミロイド]]β<sub>1-42</sub>(Aβ<sub>1-42</sub>)の脳内注入により誘導される[[神経細胞変性]]が野生型マウスに比べ有意に低下し、[[脳虚血]]により引き起こされる障害が緩和されることが報告されている<ref name=ref14></ref></ref><ref><pubmed>20107067</pubmed></ref>。これらの結果から、SRにより産生される内在性の<SMALL>D</SMALL>-セリンがNMDAR機能制御に関与すると考えられる。SRKOマウスでは、空間記憶の異常などの認知機能および社会性行動の障害も認められている<ref name=ref15></ref><ref><pubmed>19483194</pubmed></ref>。 | |||
== 関連項目 == | == 関連項目 == |