「リソソーム」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
1行目: 1行目:
 リソソーム(リソゾーム、ライソソーム、ライソゾーム、lysosome)は[[wikipedia:JA:真核生物|真核生物]]の[[wikipedia:JA:細胞小器官|細胞小器官]]の一つである。リソソームの内腔はpH5前後に酸性化されており、種々の[[wikipedia:JA:加水分解酵素|加水分解酵素]]を含む。リソソームは細胞内外成分の分解機能を担い、分解基質は[[エンドサイトーシス]]、[[オートファジー]]などの経路によってリソソームに輸送される。リソソームの機能異常はリソソーム病を引き起こす。植物や酵母などでは[[wikipedia:JA:液胞|液胞(vacuole)]]がリソソームに相当する細胞小器官であると考えられている。
 リソソーム(リソゾーム、ライソソーム、ライソゾーム、lysosome)は[[wikipedia:JA:真核生物|真核生物]]の[[wikipedia:JA:細胞小器官|細胞小器官]]の一つである。リソソームの内腔はpH5前後に[[wikipedia:JA:酸|酸性]]化されており、種々の[[wikipedia:JA:加水分解酵素|加水分解酵素]]を含む。リソソームは細胞内外成分の分解機能を担い、分解基質は[[エンドサイトーシス]]、[[オートファジー]]などの経路によってリソソームに輸送される。リソソームの機能異常は[[wikipedia:JA:遺伝子疾患|遺伝性疾患]]のリソソーム病を引き起こす。[[wikipedia:JA:植物|植物]]や[[wikipedia:JA:酵母|酵母]]などでは[[wikipedia:JA:液胞|液胞]](vacuole)がリソソームに相当する細胞小器官であると考えられている。


 リソソームは1955年に[[wikipedia:JA:クリスチャン・ド・デューブ|ド・デューブ(Christian de Duve)]]によって細胞分画法・生化学的手法を用いて発見された<ref name="ref1"><pubmed> 13249955 </pubmed></ref>。ド・デューブはラット肝臓へのインスリンの作用を解析する過程で、[[wikipedia:JA:肝細胞|肝細胞]]内の加水分解酵素を含む顆粒が膜に包まれていることを偶然発見し、それらの顆粒をギリシア語の”lyso”(分解する)+”soma”(小体)を語源としてlysosomeと名付けた。さらに電子顕微鏡を用いてリソソームが実際に細胞小器官であることを1956年に報告した<ref name="ref2"><pubmed> 13357540 </pubmed></ref>。ド・デューブは「細胞の構造と機能に関する諸発見」によって[[wikipedia:JA:アルベルト・クラウデ|クラウデ(Albert Claude)]]、[[wikipedia:JA:ジョージ・エミール・パラーデ|パラーデ(George E. Palade)]]と共に1974年に[[wikipedia:JA:ノーベル生理学・医学賞|ノーベル医学生理学賞]]を受賞した。
 リソソームは1955年に[[wikipedia:JA:クリスチャン・ド・デューブ|ド・デューブ(Christian de Duve)]]によって[[細胞分画法]]・[[wikipedia:JA:生化学|生化学]]的手法を用いて発見された<ref name="ref1"><pubmed> 13249955 </pubmed></ref>。ド・デューブはラット肝臓への[[wikipedia:JA:インスリン|インスリン]]の作用を解析する過程で、[[wikipedia:JA:肝細胞|肝細胞]]内の加水分解酵素を含む顆粒が膜に包まれていることを偶然発見し、それらの顆粒をギリシア語の”lyso”(分解する)+”soma”(小体)を語源としてlysosomeと名付けた。さらに[[wikipedia:JA:電子顕微鏡|電子顕微鏡]]を用いてリソソームが実際に細胞小器官であることを1956年に報告した<ref name="ref2"><pubmed> 13357540 </pubmed></ref>。ド・デューブは「細胞の構造と機能に関する諸発見」によって[[wikipedia:JA:アルベルト・クラウデ|クラウデ(Albert Claude)]]、[[wikipedia:JA:ジョージ・エミール・パラーデ|パラーデ(George E. Palade)]]と共に1974年に[[wikipedia:JA:ノーベル生理学・医学賞|ノーベル医学生理学賞]]を受賞した。
[[Image:FigLysosome.jpg|thumb|500px|'''図 リソソームへの経路と機能'''<br>リソソームは細胞内外成分の分解機能を担い、エンドサイトーシス経路(ピノサイト―シス、ファゴサイトーシス)やオートファジー経路(マクロ、シャペロン介在性、ミクロ)から輸送されてきた基質を分解する。細胞外成分、EGF・EGF受容体、病原体などはエンドサイトーシス経路でリソソームへ輸送される。サイトゾル成分や細胞内小器官などはオートファジー経路でリソソームへ輸送される。リソソーム膜上にはV-ATPaseが存在し、内腔を酸性化する。リソソーム内には各種加水分解酵素が存在し、基質をアミノ酸、脂質、糖などにまで分解する。リソソームはエキソサイト―シスされることもある。リソソーム構成タンパク質の多くは、トランスゴルジ網から生合成経路を通り、後期エンドソームに運ばれた後、リソソームに到達する。膜タンパク質の一部は、構成性分泌経路で細胞膜に出た後、エンドサイトーシス経路でリソソームに到達する。]]
[[Image:FigLysosome.jpg|thumb|500px|'''図 リソソームへの経路と機能'''<br>リソソームは細胞内外成分の分解機能を担い、エンドサイトーシス経路(ピノサイト―シス、ファゴサイトーシス)やオートファジー経路(マクロ、シャペロン介在性、ミクロ)から輸送されてきた基質を分解する。細胞外成分、EGF・EGF受容体、病原体などはエンドサイトーシス経路でリソソームへ輸送される。サイトゾル成分や細胞内小器官などはオートファジー経路でリソソームへ輸送される。リソソーム膜上にはV-ATPaseが存在し、内腔を酸性化する。リソソーム内には各種加水分解酵素が存在し、基質をアミノ酸、脂質、糖などにまで分解する。リソソームはエキソサイト―シスされることもある。リソソーム構成タンパク質の多くは、トランスゴルジ網から生合成経路を通り、後期エンドソームに運ばれた後、リソソームに到達する。膜タンパク質の一部は、構成性分泌経路で細胞膜に出た後、エンドサイトーシス経路でリソソームに到達する。]]


==種類と構造==
==種類と構造==


 リソソームは6~10 nmの一重の[[wikipedia:JA:生体膜|生体膜]]に囲まれた直径0.1~1.2 μmの細胞小器官である。リソソームは極めて動的な存在であることから、様々な名称で分類されてきた。一次リソソーム(primary lysosome)は分解基質を含まないリソソームを指し、内部均一な高電子密度顆粒である。[[エンドソーム]]、ファゴソーム、オートファゴソームと融合し分解基質を含んだ一次リソソームは二次リソソーム(secondary lysosome)と呼ばれる。二次リソソームの大きさや形態は多様性に富んでおり、内部に基質由来の小粒子、層板構造を認めることが多い。二次リソソームはさらに基質の輸送経路に従ってファゴリソソーム(phagolysosome)、オートリソソーム(autolysosome)などとも呼ばれるが、両者は相互排他的ではないため明確に区別できない。またリソソームの生合成過程で出現する未成熟なリソソームはリソソーム前駆体(protolysosome)と呼ばれ、トランスゴルジ網から一次リソソームが新規合成される際や、二次リソソームからのリサイクルによって一次リソソームが再合成される際などに認められる<ref name="ref3"><pubmed> 20526321 </pubmed></ref>。未分解基質を多量に蓄積したリソソームは残余小体(residual body)と呼ばれ、老齢個体の肝細胞、心筋細胞、神経細胞などで認める。残余小体は「消耗性色素」「[[wikipedia:JA:リポフスチン|リポフスチン]]顆粒」とも呼ばれ、しばしば自家蛍光を発する。
 リソソームは6~10 nmの一重の[[wikipedia:JA:生体膜|生体膜]]に囲まれた直径0.1~1.2 μmの[[wikipedia:JA:細胞小器官|細胞小器官]]である。リソソームは極めて動的な存在であることから、様々な名称で分類されてきた。一次リソソーム(primary lysosome)は分解基質を含まないリソソームを指し、内部が均一な高電子密度顆粒である。[[エンドソーム]]、ファゴソーム、オートファゴソームと融合し分解基質を含んだ一次リソソームは二次リソソーム(secondary lysosome)と呼ばれる。二次リソソームの大きさや形態は多様性に富んでおり、内部に基質由来の粒子、層板状構造を認めることが多い。二次リソソームはさらに基質の輸送経路に従ってファゴリソソーム(phagolysosome)、オートリソソーム(autolysosome)などとも呼ばれるが、両者は相互排他的ではないため明確に区別できない。またリソソームの生合成過程で出現する未成熟なリソソームはリソソーム前駆体(protolysosome)と呼ばれ、[[トランスゴルジ網]]から一次リソソームが新規合成される際や、二次リソソームからのリサイクルによって一次リソソームが再合成される際などに認められる<ref name="ref3"><pubmed> 20526321 </pubmed></ref>。未分解基質を多量に蓄積したリソソームは残余小体([[wikipedia:residual body|residual body]])と呼ばれ、老齢個体の肝細胞、[[wikipedia:JA:心筋|心筋]]細胞、[[wikipedia:JA:神経|神経]]細胞などで認める。残余小体は「消耗性色素」「[[wikipedia:JA:リポフスチン|リポフスチン]]顆粒」とも呼ばれ、しばしば自家蛍光を発する。


==構成タンパク質==
==構成タンパク質==
14行目: 14行目:
===可溶性タンパク質===
===可溶性タンパク質===


 リソソーム内腔には生体高分子([[wikipedia:JA:タンパク質|タンパク質]]、[[wikipedia:JA:脂質|脂質]]、[[wikipedia:JA:炭水化物|糖質]]など)を構成単位([[wikipedia:JA:アミノ酸|アミノ酸]]、[[wikipedia:JA:リン脂質|リン脂質]]、[[wikipedia:JA:糖|糖]]、[[wikipedia:JA:核酸|核酸]]など)にまで分解できる約60種類の[[wikipedia:JA:加水分解酵素|加水分解酵素]]が存在する。[[wikipedia:JA:プロテアーゼ|プロテアーゼ]]、[[wikipedia:JA:グリコシダーゼ|グリコシダーゼ]]、[[wikipedia:JA:リパーゼ|リパーゼ]]、[[wikipedia:JA:ホスファターゼ|ホスファターゼ]]、[[wikipedia:JA:ヌクレアーゼ|ヌクレアーゼ]]、[[wikipedia:JA:ホスホリパーゼ|ホスホリパーゼ]]、[[wikipedia:sulfatase|スルファターゼ]]などがあり、多くは酸性域に至適pHを持つため、酸性加水分解酵素(acid hydrolase)と総称される。これらはA-B + H2O → A-H + B-OHという[[wikipedia:JA:加水分解|加水分解反応]]によって基質を分解する。
 リソソーム内腔には[[wikipedia:JA:生体高分子|生体高分子]]([[wikipedia:JA:タンパク質|タンパク質]]、[[wikipedia:JA:脂質|脂質]]、[[wikipedia:JA:炭水化物|糖質]]など)を構成単位([[wikipedia:JA:アミノ酸|アミノ酸]]、[[wikipedia:JA:リン脂質|リン脂質]]、[[wikipedia:JA:糖|糖]]、[[wikipedia:JA:核酸|核酸]]など)にまで分解できる約60種類の[[wikipedia:JA:加水分解酵素|加水分解酵素]]が存在する。[[wikipedia:JA:プロテアーゼ|プロテアーゼ]]([[wikipedia:protease|protease]])、[[wikipedia:JA:グリコシダーゼ|グリコシダーゼ]]([[wikipedia:glycosidase|glycosidase]])、[[wikipedia:JA:リパーゼ|リパーゼ]]([[wikipedia:lipase|lipase]])、[[wikipedia:JA:ホスファターゼ|ホスファターゼ]]([[wikipedia:phosphatase|phosphatase]])、[[wikipedia:JA:ヌクレアーゼ|ヌクレアーゼ]]([[wikipedia:nuclease|nuclease]])、[[wikipedia:JA:ホスホリパーゼ|ホスホリパーゼ]]([[wikipedia:phospholipase|phospholipase]])、[[wikipedia:JA:スルファターゼ|スルファターゼ]]([[wikipedia:sulfatase|sulfatase]])などがあり、多くは酸性域に至適水素イオン指数|pH]]を持つため、酸性加水分解酵素(acid hydrolase)と総称される。これらはA-B + H2O → A-H + B-OHという[[wikipedia:JA:加水分解|加水分解反応]]によって基質を分解する。


 リソソームに局在するプロテアーゼは20種類以上あり、それらはカテプシン(Cathepsin)と名付けられ、A-Zまで存在する。リソソームにはカテプシン以外の名称のプロテアーゼも存在する([[wikipedia:LGMN|Legumain]]、[[wikipedia:NAPSA|Napsin]]、[[wikipedia:TPP1|TPP1]]など)。これらのプロテアーゼは[[wikipedia:JA:活性中心|活性中心]]のアミノ酸残基の違いから、[[wikipedia:JA:システインプロテアーゼ|システインプロテアーゼ]](カテプシン[[wikipedia:Cathepsin B|B]]、[[wikipedia:Cathepsin C|C/J/DPP1]]、[[wikipedia:Cathepsin F|F]]、[[wikipedia:Cathepsin H|H/I]]、[[wikipedia:Cathepsin K|K/O2]]、[[wikipedia:Cathepsin L|L]]、[[wikipedia:Cathepsin O|O]]、[[wikipedia:Cathepsin S|S]]、[[wikipedia:Cathepsin L2|V/L2/U]]、[[wikipedia:Cathepsin W|W]]、[[wikipedia:cathepsin Z|X/P/Z/Y]]、[[wikipedia:LGMN|Legumain]])、アスパラギン酸プロテアーゼ(カテプシン[[wikipedia:cathepsin D|D]]、[[wikipedia:Cathepsin E|E]]、[[wikipedia:NAPSA|Napsin]])、[[wikipedia:JA:セリンプロテアーゼ|セリンプロテアーゼ]](カテプシン[[wikipedia:Cathepsin A|A]]、[[wikipedia:Cathepsin G|G]]、[[wikipedia:TPP1|TPP1]])に分類される。
 リソソームに局在するプロテアーゼは20種類以上あり、それらはカテプシン([[wikipedia:Cathepsin|Cathepsin]])と名付けられ、A-Zまで存在する。リソソームにはカテプシン以外の名称のプロテアーゼも存在する([[wikipedia:LGMN|Legumain]]、[[wikipedia:NAPSA|Napsin]]、[[wikipedia:TPP1|TPP1]]など)。これらのプロテアーゼは[[wikipedia:JA:活性中心|活性中心]]のアミノ酸残基の違いから、[[wikipedia:JA:システインプロテアーゼ|システインプロテアーゼ]](カテプシン[[wikipedia:Cathepsin B|B]]、[[wikipedia:Cathepsin C|C/J/DPP1]]、[[wikipedia:Cathepsin F|F]]、[[wikipedia:Cathepsin H|H/I]]、[[wikipedia:Cathepsin K|K/O2]]、[[wikipedia:Cathepsin L|L]]、[[wikipedia:Cathepsin O|O]]、[[wikipedia:Cathepsin S|S]]、[[wikipedia:Cathepsin L2|V/L2/U]]、[[wikipedia:Cathepsin W|W]]、[[wikipedia:cathepsin Z|X/P/Z/Y]]、[[wikipedia:LGMN|Legumain]])、アスパラギン酸プロテアーゼ(カテプシン[[wikipedia:cathepsin D|D]]、[[wikipedia:Cathepsin E|E]]、[[wikipedia:NAPSA|Napsin]])、[[wikipedia:JA:セリンプロテアーゼ|セリンプロテアーゼ]](カテプシン[[wikipedia:Cathepsin A|A]]、[[wikipedia:Cathepsin G|G]]、[[wikipedia:TPP1|TPP1]])に分類される。


 カテプシンの多くは不活性型の[[wikipedia:JA:酵素前駆体|前駆体]]として合成され、酸性環境下でプロセシングされて活性型となる。例えばカテプシンDは、不活性型のプレプロ酵素として[[wikipedia:JA:小胞体|小胞体]]で翻訳された後、小胞体内腔で[[wikipedia:JA:シグナルペプチド|シグナルペプチド]]を除去され、[[ゴルジ体]]内腔で糖鎖付加を受けてプロ酵素(52 kDa)となる。その後、生合成経路で後期エンドソームに達すると、N末端のプロペプチドが切離され、活性型の一本鎖ポリペプチド中間体(48 kDa)となる。最終的にリソソームに達すると、カテプシンBあるいはLによって軽鎖(14 kDa)と重鎖(32 kDa)の2本鎖に切断され、軽鎖と重鎖が[[wikipedia:JA:ジスルフィド結合|ジスルフィド結合]]で繋げられて成熟体となる。
 カテプシンの多くは不活性型の[[wikipedia:JA:酵素前駆体|前駆体]]として合成され、酸性環境下でプロセシングされて活性型となる。例えばカテプシンDは、不活性型のプレプロ酵素として[[wikipedia:JA:小胞体|小胞体]]で翻訳された後、小胞体内腔で[[wikipedia:JA:シグナルペプチド|シグナルペプチド]]を除去され、[[ゴルジ体]]内腔で糖鎖付加を受けてプロ酵素(52 kDa)となる。その後、生合成経路で後期エンドソームに達すると、N末端のプロペプチドが切離され、活性型の一本鎖ポリペプチド中間体(48 kDa)となる。最終的にリソソームに達すると、カテプシンBあるいはLによって軽鎖(14 kDa)と重鎖(32 kDa)の2本鎖に切断され、軽鎖と重鎖が[[wikipedia:JA:ジスルフィド結合|ジスルフィド結合]]で繋げられて成熟体となる。
22行目: 22行目:
===膜タンパク質===
===膜タンパク質===


 リソソーム膜タンパク質は100種類以上存在し、多くは内腔側に向け高度に[[wikipedia:JA:糖鎖|糖鎖]]修飾されている。それらの糖鎖修飾は、加水分解酵素の作用から逃れるために重要であると考えられている。主要なリソソーム膜タンパク質としては、[[wikipedia:LAMP1|LAMP-1]]、[[wikipedia:LAMP2|LAMP-2]]、LIMP-2などがあり、これらは全リソソーム膜タンパク質量の50%以上を占める<ref name="ref4"><pubmed> 19672277 </pubmed></ref>。LAMP-2はリソソーム病のダノン病([[wikipedia:Danon disease|Danon disease]])の原因遺伝子として知られている。
 リソソーム膜タンパク質は100種類以上存在し、多くは内腔側に向け高度に[[wikipedia:JA:糖鎖|糖鎖]]修飾されている。それらの糖鎖修飾は、加水分解酵素の作用から逃れるために重要であると考えられている。主要なリソソーム膜タンパク質としては、[[wikipedia:LAMP1|LAMP-1]]、[[wikipedia:LAMP2|LAMP-2]]、[[wikipedia:SCARB2|LIMP-2]]などがあり、これらは全リソソーム膜タンパク質量の50%以上を占める<ref name="ref4"><pubmed> 19672277 </pubmed></ref>。LAMP-2はリソソーム病のダノン病([[wikipedia:Danon disease|Danon disease]])の原因遺伝子として知られている。


 リソソーム膜には液胞型プロトンポンプ(V型/液胞型[[wikipedia:JA:ATPアーゼ|ATPアーゼ]]、vacuolar type H+-ATPase、[[wikipedia:V-ATPase|V-ATPase]])や塩化物イオンチャネル(chloride channel)が存在し、リソソーム内腔にそれぞれ水素イオン、塩化物イオンを輸送することで、内腔を低いpHに維持している。V-ATPaseは多数の[[wikipedia:JA:サブユニット|サブユニット]]から構成される超分子複合体であり、[[wikipedia:JA:アデノシン三リン酸|ATP]]を加水分解する親水性の触媒頭部(V1)と、水素イオンを輸送する膜内在性部分(V0)から構成される。ATPの加水分解反応と共役した回転触媒機構によって水素イオンをリソソーム内に輸送する。V-ATPaseは進化的、構造的に[[ミトコンドリア]]に局在する[[wikipedia:F-ATPase]]に類似している。
 リソソーム膜には液胞型プロトンポンプ(V型/液胞型[[wikipedia:JA:ATPアーゼ|ATPアーゼ]]、vacuolar type H+-ATPase、[[wikipedia:V-ATPase|V-ATPase]])や塩化物イオンチャネル(chloride channel)が存在し、リソソーム内腔にそれぞれ[[wikipedia:JA:水素イオン|水素イオン]]、[[wikipedia:JA:塩化物|塩化物イオン]]を輸送することで、内腔を低いpHに維持している。V-ATPaseは多数の[[wikipedia:JA:サブユニット|サブユニット]]から構成される[[wikipedia:JA:超分子|超分子]]複合体であり、[[wikipedia:JA:アデノシン三リン酸|ATP]]を加水分解する親水性の触媒頭部(V1)と、水素イオンを輸送する膜内在性部分(V0)から構成される。ATPの加水分解反応と共役した回転触媒機構によって水素イオンをリソソーム内に輸送する。V-ATPaseは進化的、構造的に[[ミトコンドリア]]に局在する[[wikipedia:F-ATPase]]に類似している。


 リソソーム膜には最終分解産物([[wikipedia:JA:アミノ酸、[[wikipedia:JA:ジペプチド|ジペプチド]]、[[wikipedia:JA:トリペプチド|トリペプチド]]、[[wikipedia:JA:糖|糖]]、[[wikipedia:JA:核酸|核酸]]、無機[[wikipedia:JA:イオン|イオン]]、[[wikipedia:JA:ビタミン|ビタミン]]、[[wikipedia:JA:コレステロール|コレステロール]]、[[wikipedia:JA:リン脂質|リン脂質]]など)を[[wikipedia:JA:細胞質|細胞質]]に送り出す様々な[[wikipedia:JA:膜輸送体|トランスポーター]]が存在しており、分解産物の再利用に重要である<ref name="ref5"><pubmed> 19146888 </pubmed></ref>。これらのトランスポーターの多くは水素イオンの濃度勾配を利用した二次性[[wikipedia:JA:能動輸送|能動輸送]]によって基質を共輸送すると考えられている。例えば最初に同定されたリソソーム膜トランスポーターである[[wikipedia:Cystinosin|Cystinosin]]は、アミノ酸の[[wikipedia:JA:シスチン|シスチン]]を水素イオンとともにリソソーム外へ共輸送するアミノ酸トランスポーターである。Cystinosinはリソソーム病のシスチノーシス([[wikipedia:Cystinosis|Cystinosis]])の原因遺伝子として同定されている。
 リソソーム膜には最終分解産物([[wikipedia:JA:アミノ酸、[[wikipedia:JA:ジペプチド|ジペプチド]]、[[wikipedia:JA:トリペプチド|トリペプチド]]、[[wikipedia:JA:糖|糖]]、[[wikipedia:JA:核酸|核酸]]、無機[[wikipedia:JA:イオン|イオン]]、[[wikipedia:JA:ビタミン|ビタミン]]、[[wikipedia:JA:コレステロール|コレステロール]]、[[wikipedia:JA:リン脂質|リン脂質]]など)を[[wikipedia:JA:細胞質|細胞質]]に送り出す様々な[[wikipedia:JA:膜輸送体|トランスポーター]]が存在しており、分解産物の再利用に重要である<ref name="ref5"><pubmed> 19146888 </pubmed></ref>。これらのトランスポーターの多くは水素イオンの濃度勾配を利用した二次性[[wikipedia:JA:能動輸送|能動輸送]]によって基質を共輸送すると考えられている。例えば最初に同定されたリソソーム膜トランスポーターである[[wikipedia:Cystinosin|Cystinosin]]は、アミノ酸の[[wikipedia:JA:シスチン|シスチン]]を水素イオンとともにリソソーム外へ共輸送するアミノ酸トランスポーターである。Cystinosinはリソソーム病のシスチノーシス([[wikipedia:Cystinosis|Cystinosis]])の原因遺伝子として同定されている。
30行目: 30行目:
===局在化機構===
===局在化機構===


 リソソーム可溶性タンパク質の多くは、生合成経路およびエンドサイトーシス経路を介してリソソームに輸送される(図)。[[wikipedia:JA:粗面小胞体|粗面小胞体]]で合成された加水分解酵素などの可溶性タンパク質は、シスゴルジ体で糖鎖部分にマンノース6―リン酸([[wikipedia:mannose 6-phosphate|mannose 6-phosphate]]: M6P)の付加を受け、トランスゴルジ網でマンノース6-リン酸受容体([[wikipedia:Mannose 6-phosphate receptor|mannose 6-phosphate receptor]])と結合し、[[wikipedia:JA:クラスリン|クラスリン]]/AP小胞に取り込まれる。その後、クラスリン被覆は脱重合し、被覆を失った小胞は後期エンドソームと融合する。後期エンドソームに入ったリソソーム酵素は、酸性環境下におかれることでM6P受容体から解離し、マンノース残基のリン酸基が除去され、リソソームへ輸送される。被覆タンパク質とM6P受容体はトランスゴルジ網に回収され再利用される。なおM6P非依存的な局在化機構も存在する<ref name="ref4" />。
 リソソーム可溶性タンパク質の多くは、生合成経路およびエンドサイトーシス経路を介してリソソームに輸送される(図)。[[wikipedia:JA:粗面小胞体|粗面小胞体]]で合成された加水分解酵素などの可溶性タンパク質は、シス[[ゴルジ体]]で糖鎖部分にマンノース6―リン酸([[wikipedia:mannose 6-phosphate|mannose 6-phosphate]]: M6P)の付加を受け、トランスゴルジ網でマンノース6-リン酸受容体([[wikipedia:Mannose 6-phosphate receptor|mannose 6-phosphate receptor]])と結合し、[[wikipedia:JA:クラスリン|クラスリン]]/AP小胞に取り込まれる。その後、クラスリン被覆は脱重合し、被覆を失った小胞は後期エンドソームと融合する。後期エンドソームに入ったリソソーム酵素は、酸性環境下におかれることでM6P受容体から解離し、マンノース残基のリン酸基が除去され、リソソームへ輸送される。被覆タンパク質とM6P受容体はトランスゴルジ網に回収され再利用される。なおM6P非依存的な局在化機構も存在する<ref name="ref4" />。


 リソソーム可溶性タンパク質への特異的なM6Pの付加は、ゴルジ体に局在するN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)-1-リン酸転移酵素([[wikipedia:N-acetylglucosamine-1-phosphate transferase|N-acetylglucosamine-1-phosphate transferase]])およびGlcNAc-1-リン酸ジエステルα-GlcNAc転移酵素(N-acetylglucosamine-1-phosphodiester-α-N-acetylglucosaminidase)が担っている。多くのリソソーム酵素は前者に特異的に認識されるアミノ酸配列を持ち、この酵素が欠損すると様々なリソソーム酵素がリソソームに輸送されず、リソソーム病のムコ脂質症Ⅱ型(I細胞病、[[wikipedia:I-cell disease|I-cell disease]])を引き起こす。
 リソソーム可溶性タンパク質への特異的なM6Pの付加は、ゴルジ体に局在するN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)-1-リン酸転移酵素([[wikipedia:N-acetylglucosamine-1-phosphate transferase|N-acetylglucosamine-1-phosphate transferase]])およびGlcNAc-1-リン酸ジエステルα-GlcNAc転移酵素(N-acetylglucosamine-1-phosphodiester-α-N-acetylglucosaminidase)が担っている。多くのリソソーム酵素は前者に特異的に認識されるアミノ酸配列を持ち、この酵素が欠損すると様々なリソソーム酵素がリソソームに輸送されず、リソソーム病のムコ脂質症Ⅱ型(I細胞病、[[wikipedia:I-cell disease|I-cell disease]])を引き起こす。
68行目: 68行目:
 リソソームは細胞内の栄養状態(アミノ酸など)を感知する場としても重要である。[[wikipedia:JA:MTOR|mTORC1]]複合体は細胞内のアミノ酸濃度を感知して、細胞成長・代謝・タンパク質合成などの様々な細胞機能を制御する重要なシグナル因子であるが、その活性化はリソソーム膜上で起こる<ref name="ref8"><pubmed> 20381137 </pubmed></ref>。mTORC1複合体は低栄養条件下では不活性型として細胞質に存在するが、細胞内のアミノ酸濃度が上昇すると、リソソーム膜上の活性型[[wikipedia:RRAGA|Rag]]複合体(GTP型RagA/B、GDP型RagC/D)と結合することでリソソームへ移行し、活性化される。Rag複合体はRagulatorと呼ばれるリソソーム膜タンパク質を含む複合体(p14、MP1、p18)を介してリソソーム膜上に恒常的に局在している<ref name="ref8" />。
 リソソームは細胞内の栄養状態(アミノ酸など)を感知する場としても重要である。[[wikipedia:JA:MTOR|mTORC1]]複合体は細胞内のアミノ酸濃度を感知して、細胞成長・代謝・タンパク質合成などの様々な細胞機能を制御する重要なシグナル因子であるが、その活性化はリソソーム膜上で起こる<ref name="ref8"><pubmed> 20381137 </pubmed></ref>。mTORC1複合体は低栄養条件下では不活性型として細胞質に存在するが、細胞内のアミノ酸濃度が上昇すると、リソソーム膜上の活性型[[wikipedia:RRAGA|Rag]]複合体(GTP型RagA/B、GDP型RagC/D)と結合することでリソソームへ移行し、活性化される。Rag複合体はRagulatorと呼ばれるリソソーム膜タンパク質を含む複合体(p14、MP1、p18)を介してリソソーム膜上に恒常的に局在している<ref name="ref8" />。


 さらに細胞内のアミノ酸濃度を感知するセンサータンパク質の多くもリソソーム膜上に局在する。最近、ロイシルtRNA合成酵素([[wikipedia:leucyl-tRNA synthetase|leucyl-tRNA synthetase]])が細胞内の[[wikipedia:JA:ロイシン|ロイシン]]濃度を感知してリソソームに移行し、Rag複合体を活性化することが報告された<ref name="ref9"><pubmed> 22424946 </pubmed></ref>。ロイシルtRNA合成酵素は、細胞内ロイシン濃度が上昇するとRag複合体と結合し、細胞質からリソソーム膜上へ移行する。さらにRagDの[[wikipedia:JA:低分子量GTPアーゼ|GTPase活性化タンパク質(GAP)]]として機能することでRag複合体を活性型に変換し、mTORC1複合体をリソソームへ移行させると考えられている。ロイシルtRNA合成酵素は酵母でも保存されており、液胞膜上でのロイシン依存的なTOR活性化に必要である<ref name="ref10"><pubmed> 22500735 </pubmed></ref>。一方、リソソーム内腔のアミノ酸がV-APTaseの構造変化を介してRag複合体やmTOR複合体の活性を制御するという報告もあり<ref name="ref11"><pubmed> 22053050 </pubmed></ref>、リソソーム自体が積極的に細胞機能を制御している可能性も示唆されている。
 さらに細胞内のアミノ酸濃度を感知するセンサータンパク質の多くもリソソーム膜上に局在する。最近、ロイシルtRNA合成酵素([[wikipedia:leucyl-tRNA synthetase|leucyl-tRNA synthetase]])が細胞内の[[wikipedia:JA:ロイシン|ロイシン]]濃度を感知してリソソームに移行し、Rag複合体を活性化することが報告された<ref name="ref9"><pubmed> 22424946 </pubmed></ref>。ロイシルtRNA合成酵素は、細胞内ロイシン濃度が上昇するとRag複合体と結合し、細胞質からリソソーム膜上へ移行する。さらにRagDの[[wikipedia:JA:低分子量GTPアーゼ|GTPase活性化タンパク質(GAP)]]として機能することでRag複合体を活性型に変換し、mTORC1複合体をリソソームへ移行させると考えられている。ロイシルtRNA合成酵素は酵母でも保存されており、液胞膜上でのロイシン依存的なTOR活性化に必要である<ref name="ref10"><pubmed> 22500735 </pubmed></ref>。一方、リソソーム内腔のアミノ酸が液胞型プロトンポンプの構造変化を介してRag複合体やmTOR複合体の活性を制御するという報告もあり<ref name="ref11"><pubmed> 22053050 </pubmed></ref>、リソソーム自体が積極的に細胞機能を制御している可能性も示唆されている。


==リソソーム病==
==リソソーム病==
46

回編集

案内メニュー