「ナトリウムチャネル」の版間の差分

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  [[Image:SelectiveFilter付近のアミノ酸配列.png|thumb|right|247x122px|図3. 電位依存性ナトリウムチャネル、およびカルシムチャネルのselective filter 付近のアミノ酸配列の比較。イオン選択性に最も重要であると考えられる部分をboxで囲んだ。]]   
  [[Image:SelectiveFilter付近のアミノ酸配列.png|thumb|right|247x122px|図3. 電位依存性ナトリウムチャネル、およびカルシムチャネルのselective filter 付近のアミノ酸配列の比較。イオン選択性に最も重要であると考えられる部分をboxで囲んだ。]]   


 イオン選択性に関わるselective filterは5番目のヘリックス(S5)と6番目のヘリックス(S6)の間に存在する。1価の正電荷を持つイオンの透過性はイオン半径に比例している。イオン半径の小さいプロトンに対して、非常に強い透過性を持ち、Li<sup>+</sup>≈Na<sup>+</sup>&gt;K<sup>+</sup>&gt;Rb<sup>+</sup>&gt;Cs<sup>+</sup>の順に透過性が高い。またグアニジウムはK<sup>+</sup>より透過しやすい。図3に真核生物のNavチャネルのselective filterのアミノ酸配列を示した。電位依存性カルシウムチャネルでは4つのリピート、すべてがマイナス電荷を持ったグルタミン酸になっている部分が、Navチャネルでは各リピートで異なり、中には電荷を持たない アミノ酸も含まれている。ナトリウムチャネルのリピートIII, IVのリジン、アラニンのいずれかをグルタミン酸に変異させると、ナトリウムイオンだけでなく、カリウムイオン、アンモニウムイオン、さらにカルシウムイオンに対しても透過性が現れる。特に、両方ともグルタミン酸に置き換えると、ナトリウムイオンよりカルシウムイオンに対して選択的になってしまう3。そのためアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アラニンが形成する環状の配置が、ナトリウムイオンの選択性に重要であると考えられている。
 イオン選択性に関わるselective filterは5番目のヘリックス(S5)と6番目のヘリックス(S6)の間に存在する。1価の正電荷を持つイオンの透過性はイオン半径に比例している。イオン半径の小さいプロトンに対して、非常に強い透過性を持ち、Li<sup>+</sup>≈Na<sup>+</sup>&gt;K<sup>+</sup>&gt;Rb<sup>+</sup>&gt;Cs<sup>+</sup>の順に透過性が高い。またグアニジウムはK<sup>+</sup>より透過しやすい。図3に真核生物のNavチャネルのselective filterのアミノ酸配列を示した。電位依存性カルシウムチャネルでは4つのリピート、すべてがマイナス電荷を持ったグルタミン酸になっている部分が、Navチャネルでは各リピートで異なり、中には電荷を持たない アミノ酸も含まれている。ナトリウムチャネルのリピートIII, IVのリジン、アラニンのいずれかをグルタミン酸に変異させると、ナトリウムイオンだけでなく、カリウムイオン、アンモニウムイオン、さらにカルシウムイオンに対しても透過性が現れる。特に、両方ともグルタミン酸に置き換えると、ナトリウムイオンよりカルシウムイオンに対して選択的になってしまう<ref><pubmed> 1313551 </pubmed></ref>。そのためアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アラニンが形成する環状の配置が、ナトリウムイオンの選択性に重要であると考えられている。


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 一般に、イオンチャネルの電位センサーは4つの膜貫通ヘリックスで構成されており、4番目のヘッリクス(S4)に存在するリジンやアルギニンなどのプラス電荷を帯びたアミノ酸が電位の感知に重要であることが分かっている。細胞膜が脱分極すると電位センサーが動き、“ゲート“が開くことで、ナトリウムイオンが流れる。  
 一般に、イオンチャネルの電位センサーは4つの膜貫通ヘリックスで構成されており、4番目のヘッリクス(S4)に存在するリジンやアルギニンなどのプラス電荷を帯びたアミノ酸が電位の感知に重要であることが分かっている。細胞膜が脱分極すると電位センサーが動き、“ゲート“が開くことで、ナトリウムイオンが流れる。  


 Navチャネルは脱分極により活性化された後、”不活性化”する。不活性化とは一旦開いたチャネルを閉じておく機構で、連続的なスパイク状の活動電位の形成に必須である。またこの機構が存在することで、活動電位に不応期が生じる。不活性化には数ミリ秒単位の速い不活性化と数十ミリ秒単位の遅い不活性化の2つの機構が存在する。速い不活性化については電位依存性カリウムチャネル(Kv1、Shaker型)のメカニズムと同様のball and chain modelによる孔の細胞内側からのブロックであることが知られている。リピートIIIとリピートIVの間のリンカー部分を認識する[[wikipedia:ja:抗体|抗体]]を細胞内側から投与すると不活性化が遅くなる4、またリンカー部分を欠失したチャネルは不活性が著しく遅いこと5、さらにリンカーを欠失したチャネルに、“ball”に相当するペプチド(IFM)を細胞内側から投与すると、速い不活性化が起きることが分かっている6。遅い不活性化については速い不活性化ほど分子機構は明瞭ではない。ヒトの骨格筋や心筋の興奮性の異常を示すいくつかの遺伝病の研究により、遅い不活性化の異常を引き起こすアミノ酸変異が見つかっている。変異は複数の部分に渡っているため、遅い不活性化の過程には複数のドメインが関与していると考えられる。
 Navチャネルは脱分極により活性化された後、”不活性化”する。不活性化とは一旦開いたチャネルを閉じておく機構で、連続的なスパイク状の活動電位の形成に必須である。またこの機構が存在することで、活動電位に不応期が生じる。不活性化には数ミリ秒単位の速い不活性化と数十ミリ秒単位の遅い不活性化の2つの機構が存在する。速い不活性化については電位依存性カリウムチャネル(Kv1、Shaker型)のメカニズムと同様のball and chain modelによる孔の細胞内側からのブロックであることが知られている。リピートIIIとリピートIVの間のリンカー部分を認識する[[wikipedia:ja:抗体|抗体]]を細胞内側から投与すると不活性化が遅くなる<ref><pubmed> 21743477 </pubmed></ref>、またリンカー部分を欠失したチャネルは不活性が著しく遅いこと<ref><pubmed> 2543931 </pubmed></ref>、さらにリンカーを欠失したチャネルに、“ball”に相当するペプチド(IFM)を細胞内側から投与すると、速い不活性化が起きることが分かっている<ref><pubmed> 8185942 </pubmed></ref>。遅い不活性化については速い不活性化ほど分子機構は明瞭ではない。ヒトの骨格筋や心筋の興奮性の異常を示すいくつかの遺伝病の研究により、遅い不活性化の異常を引き起こすアミノ酸変異が見つかっている。変異は複数の部分に渡っているため、遅い不活性化の過程には複数のドメインが関与していると考えられる。


 通常、Navチャネルは不活性化が速いため、一過的にしか内向き電流は流れないが、[[小脳]]の[[プルキンエ細胞]]をはじめ多くの神経細胞では、長時間にわたり不活性化せずに開き続ける持続的な内向き電流が存在する(持続性ナトリウム電流)。また、これに加えて小脳のプルキンエ細胞などでは、不活性化状態ののち再開口が起こりやすく(resurgent電流)、これによりスパイクの後に脱分極が引き起こされることが知られている。  
 通常、Navチャネルは不活性化が速いため、一過的にしか内向き電流は流れないが、[[小脳]]の[[プルキンエ細胞]]をはじめ多くの神経細胞では、長時間にわたり不活性化せずに開き続ける持続的な内向き電流が存在する(持続性ナトリウム電流)。また、これに加えて小脳のプルキンエ細胞などでは、不活性化状態ののち再開口が起こりやすく(resurgent電流)、これによりスパイクの後に脱分極が引き起こされることが知られている。  
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[[Image:Tree.png|thumb|right|図4. &alpha;サブユニットの系統樹]] Navチャネルの&alpha;サブユニットは、[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]では9つの[[wikipedia:ja:遺伝子|遺伝子]]が知られている。それぞれ発現場所や発生段階における発現のタイミング、および分子特性や薬理学的作用などが異なっている(表、図4参照)。Nav1.4は骨格筋、Nav1.5は心筋に多く発現し、Nav1.7、Nav1.8、Nav1.9は末梢神経に発現している。Nav1.1、Nav1.2、Nav1.3およびNav1.6は主に中枢神経で発現しているが、一部は末梢神経にも存在する。Axon initial segmentとランビエ紋輪のNavチャネルの多くはNav1.6であることが知られている。中枢神経細胞の樹状突起にもNav1.6は分布する。&nbsp;  
[[Image:Tree.png|thumb|right|図4. &alpha;サブユニットの系統樹]] Navチャネルの&alpha;サブユニットは、[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]では9つの[[wikipedia:ja:遺伝子|遺伝子]]が知られている。それぞれ発現場所や発生段階における発現のタイミング、および分子特性や薬理学的作用などが異なっている(表、図4参照)。Nav1.4は骨格筋、Nav1.5は心筋に多く発現し、Nav1.7、Nav1.8、Nav1.9は末梢神経に発現している。Nav1.1、Nav1.2、Nav1.3およびNav1.6は主に中枢神経で発現しているが、一部は末梢神経にも存在する。Axon initial segmentとランビエ紋輪のNavチャネルの多くはNav1.6であることが知られている。中枢神経細胞の樹状突起にもNav1.6は分布する。&nbsp;  


 またNavチャネルと似た配列を持つNaxと呼ばれるタンパク質が存在する。アミノ酸配列上、Navチャネルと同様、電位センサーおよびポアドメインに似た構造を持っているが、電位依存的にナトリウムイオンを透過させる機能を持っていない。Naxは中枢神経系などに発現し、チャネルではなくナトリウムセンサーとして働いているという報告がある7。
 またNavチャネルと似た配列を持つNaxと呼ばれるタンパク質が存在する。アミノ酸配列上、Navチャネルと同様、電位センサーおよびポアドメインに似た構造を持っているが、電位依存的にナトリウムイオンを透過させる機能を持っていない。Naxは中枢神経系などに発現し、チャネルではなくナトリウムセンサーとして働いているという報告がある<ref><pubmed> 11992118 </pubmed></ref>。


 [[wikipedia:ja:サソリ|サソリ]]や[[wikipedia:ja:イソギンチャク|イソギンチャク]]、[[wikipedia:ja:クモ|クモ]]などの種々の生物毒はNavチャネルに結合することが知られているが、結合性は&alpha;サブユニット間で異なる。[[フグ毒]]として知られているテトロドトキシン(tetrodotoxin, TTX)はナトリウムチャネルの細胞外側に結合し、ナトリウムイオン透過を阻害する。テトロドトキシンは多くのナトリムチャネルに結合するが、Nav1.5、Nav1.8およびNav1.9はテトロドトキシン抵抗性である。  
 [[wikipedia:ja:サソリ|サソリ]]や[[wikipedia:ja:イソギンチャク|イソギンチャク]]、[[wikipedia:ja:クモ|クモ]]などの種々の生物毒はNavチャネルに結合することが知られているが、結合性は&alpha;サブユニット間で異なる。[[フグ毒]]として知られているテトロドトキシン(tetrodotoxin, TTX)はナトリウムチャネルの細胞外側に結合し、ナトリウムイオン透過を阻害する。テトロドトキシンは多くのナトリムチャネルに結合するが、Nav1.5、Nav1.8およびNav1.9はテトロドトキシン抵抗性である。  
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== 転写の制御  ==
== 転写の制御  ==


 Nav1.2遺伝子の転写調節には転写抑制因子REST/NRSFが関わっている。通常、神経細胞由来の培養細胞(PC12 cell)では、神経細胞成長因子(neural growth factor) により神経突起の形成が誘導される。しかしながらREST/NRSFを発現させると、神経突起の形成が見られなくなり、ナトリウム電流も計測されない9。神経細胞以外の細胞ではREST/NRSFが発現し、他の多くの神経細胞特異的に発現する遺伝子の転写を抑制するとともに、Nav1.2の転写を抑制していると考えられている。<br>  
 Nav1.2遺伝子の転写調節には転写抑制因子REST/NRSFが関わっている。通常、神経細胞由来の培養細胞(PC12 cell)では、神経細胞成長因子(neural growth factor) により神経突起の形成が誘導される。しかしながらREST/NRSFを発現させると、神経突起の形成が見られなくなり、ナトリウム電流も計測されない<ref><pubmed> 11516394 </pubmed></ref>。神経細胞以外の細胞ではREST/NRSFが発現し、他の多くの神経細胞特異的に発現する遺伝子の転写を抑制するとともに、Nav1.2の転写を抑制していると考えられている。<br>  


== リン酸化による制御  ==
== リン酸化による制御  ==
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=== プロテインキナーゼCによるリン酸化  ===
=== プロテインキナーゼCによるリン酸化  ===


 リピートIIIとリピートIVの間の細胞内側リンカー部分は、速い不活性化に重要であるが、この部位は[[wikipedia:ja:プロテインキナーゼ|プロテインキナーゼC(PKC)]]によるリン酸化サイトでもある。リン酸化をされると不活性化が遅くなるのと同時に、同じ電位で比べたときに最大電流量が半分程度までに減少する。[[wikipedia:ja:海馬|海馬]]の培養神経細胞では[[wikipedia:ja:アセチルコリン受容体|ムスカリン性アセリルコリン受容体]]を刺激すると、ナトリウムチャネルがPKCを介してリン酸化されることが示されている8。
 リピートIIIとリピートIVの間の細胞内側リンカー部分は、速い不活性化に重要であるが、この部位は[[wikipedia:ja:プロテインキナーゼ|プロテインキナーゼC(PKC)]]によるリン酸化サイトでもある。リン酸化をされると不活性化が遅くなるのと同時に、同じ電位で比べたときに最大電流量が半分程度までに減少する。[[wikipedia:ja:海馬|海馬]]の培養神経細胞では[[wikipedia:ja:アセチルコリン受容体|ムスカリン性アセリルコリン受容体]]を刺激すると、ナトリウムチャネルがPKCを介してリン酸化されることが示されている<ref><pubmed> 8630240 </pubmed></ref>。


== RNA editing  ==
== RNA editing  ==


 [[wikipedia:ja:ショウジョウバエ|ショウジョウバエ]]のNavチャネルには、[[wikipedia:RNA editing|RNA editing]]が存在していることが知られている9。ショウジョウバエのナトリウムチャネルをコードしている[[wikipedia:ja:遺伝子座|遺伝子座]](para)には、少なくとも10か所の[[wikipedia:ja:選択的スプライシング|選択的スプライシング]]を受けるサイトが知られている。ここから転写されるアイソフォームの多くは、[[wikipedia:ja:アデノシン|アデノシン]]が[[wikipedia:ja:イノシン|イノシン]]に“編集”されるRNA editingを受けている。これまでのところナトリウムチャネルのRNA editingは、[[wikipedia:ja:昆虫|昆虫]]でのみ報告されており、哺乳類を含め他の生物種では見られていない。  
 [[wikipedia:ja:ショウジョウバエ|ショウジョウバエ]]のNavチャネルには、[[wikipedia:RNA editing|RNA editing]]が存在していることが知られている<ref><pubmed> 10414281 </pubmed></ref>。ショウジョウバエのナトリウムチャネルをコードしている[[wikipedia:ja:遺伝子座|遺伝子座]](para)には、少なくとも10か所の[[wikipedia:ja:選択的スプライシング|選択的スプライシング]]を受けるサイトが知られている。ここから転写されるアイソフォームの多くは、[[wikipedia:ja:アデノシン|アデノシン]]が[[wikipedia:ja:イノシン|イノシン]]に“編集”されるRNA editingを受けている。これまでのところナトリウムチャネルのRNA editingは、[[wikipedia:ja:昆虫|昆虫]]でのみ報告されており、哺乳類を含め他の生物種では見られていない。  


== チャネル病  ==
== チャネル病  ==


 Navチャネルは活動電位の形成に本質的な役割を担っており、変異が生じると重篤な病気の原因となる。骨格筋に発現しているNav1.4の&alpha;サブユニットにおけるある種の変異は、家族性の[[wikipedia:ja:周期性四肢麻痺|周期性四肢麻痺]]や[[wikipedia:Myotonia congenita|筋強直症]]を引き起こす。高カリウム性の周期性四肢麻痺では、Nav1.4の不活性化が不完全になり、持続的にナトリウム電流が流れる。そのため膜の再分極が浅くなり、Navチャネルの不活性化が解除されなくなる。その結果、活動電位が伝搬しなくなり筋の麻痺が生じる10 11。
 Navチャネルは活動電位の形成に本質的な役割を担っており、変異が生じると重篤な病気の原因となる。骨格筋に発現しているNav1.4の&alpha;サブユニットにおけるある種の変異は、家族性の[[wikipedia:ja:周期性四肢麻痺|周期性四肢麻痺]]や[[wikipedia:Myotonia congenita|筋強直症]]を引き起こす。高カリウム性の周期性四肢麻痺では、Nav1.4の不活性化が不完全になり、持続的にナトリウム電流が流れる。そのため膜の再分極が浅くなり、Navチャネルの不活性化が解除されなくなる。その結果、活動電位が伝搬しなくなり筋の麻痺が生じる<ref><pubmed> 1849724 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 8382500 </pubmed></ref>。


 また心筋に発現しているNav1.5の変異は、[[wikipedia:Long QT syndrome|先天性QT延長症候群(LQT)]]、特発性の[[wikipedia:ja:心室細動|心室細動]]等の[[wikipedia:ja:不整脈|不整脈]]を引き起こす。LQTを引き起こす変異は複数存在するが、その多くはチャネルの不活性化が不完全になる変異である12 13 14。このため持続的にナトリウム電流が流れ膜の再分極が遅れるため、QT間隔が伸長する。LQTの患者のうちNav1.5に変異を持つのは約10%である。  
 また心筋に発現しているNav1.5の変異は、[[wikipedia:Long QT syndrome|先天性QT延長症候群(LQT)]]、特発性の[[wikipedia:ja:心室細動|心室細動]]等の[[wikipedia:ja:不整脈|不整脈]]を引き起こす。LQTを引き起こす変異は複数存在するが、その多くはチャネルの不活性化が不完全になる変異である<ref><pubmed> 8917568 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 7651517 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 8620612 </pubmed></ref>。このため持続的にナトリウム電流が流れ膜の再分極が遅れるため、QT間隔が伸長する。LQTの患者のうちNav1.5に変異を持つのは約10%である。  


 中枢神経系で発現しているNav1.1の変異は[[てんかん]]の原因になる。これまで、[[wikipedia:Generalized epilepsy with febrile seizures plus|全般てんかん熱性痙攣プラス(generalized epilepsy with febrile seizures plus, GEFS+)]]および[[wikipedia:SMEI|乳児重症ミオクロニーてんかん(severe myoclonic epilepsy of infant, SMEI)]]を引き起こすNav1.1の変異が多数例、報告されている。不活性化が不完全になり持続的にナトリウム電流が流れるような変異や、不活性化がより高い電位で起こるような変異が報告されている。またGEFS+を引き起こす変異は&beta;1サブユニットにも見だされ、この変異を持った&beta;サブユニットは、&alpha;サブユニットの機能の調整をすることができない15 16。 侵害受容に関わる[[wikipedia:sensory neuron|一次知覚ニューロン]]に発現しているNav1.7の変異は、[[wikipedia:ja:先天性無痛無汗症|先天性の無痛症(congenital insensitivity to pain, CIP)]]や[[wikipedia:erythromelalgia|先端紅痛症(erythromelalgia, IEM)]]、[[wikipedia:paroxysmal extreme pain disorder|発作性の神経痛(paroxysmal extreme pain disorder, PEPD)]]に関わっている。これまで知られているCIPを引き起こす変異はすべてNav1.7をコードする遺伝子の途中に[[wikipedia:ja:終止コドン|終止コドン]]が挿入され、チャネルとしての機能を喪失することが分かっている17。またIEMでは遺伝子の変異により、低い電位でナトリウムチャネルが開口するため、[[閾値]]が低くなり活動電位が生じやすくなる17。PEPDの患者では速い不活性化に関わっているリピートIIIとIVの間に変異が見つかっている。この変異を持ったナトリウムチャネルは速い不活性化が起こる膜電位が高い電位にシフトする。そのため低い膜電位でも電気的に興奮しやすくなり、PEPDの症状が現れると考えられている17。
 中枢神経系で発現しているNav1.1の変異は[[てんかん]]の原因になる。これまで、[[wikipedia:Generalized epilepsy with febrile seizures plus|全般てんかん熱性痙攣プラス(generalized epilepsy with febrile seizures plus, GEFS+)]]および[[wikipedia:SMEI|乳児重症ミオクロニーてんかん(severe myoclonic epilepsy of infant, SMEI)]]を引き起こすNav1.1の変異が多数例、報告されている。不活性化が不完全になり持続的にナトリウム電流が流れるような変異や、不活性化がより高い電位で起こるような変異が報告されている。またGEFS+を引き起こす変異は&beta;1サブユニットにも見だされ、この変異を持った&beta;サブユニットは、&alpha;サブユニットの機能の調整をすることができない<ref><pubmed> 12486163 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 9697698 </pubmed></ref>。 侵害受容に関わる[[wikipedia:sensory neuron|一次知覚ニューロン]]に発現しているNav1.7の変異は、[[wikipedia:ja:先天性無痛無汗症|先天性の無痛症(congenital insensitivity to pain, CIP)]]や[[wikipedia:erythromelalgia|先端紅痛症(erythromelalgia, IEM)]]、[[wikipedia:paroxysmal extreme pain disorder|発作性の神経痛(paroxysmal extreme pain disorder, PEPD)]]に関わっている。これまで知られているCIPを引き起こす変異はすべてNav1.7をコードする遺伝子の途中に[[wikipedia:ja:終止コドン|終止コドン]]が挿入され、チャネルとしての機能を喪失することが分かっている<ref><pubmed> 20101409 </pubmed></ref>。またIEMでは遺伝子の変異により、低い電位でナトリウムチャネルが開口するため、[[閾値]]が低くなり活動電位が生じやすくなる17。PEPDの患者では速い不活性化に関わっているリピートIIIとIVの間に変異が見つかっている。この変異を持ったナトリウムチャネルは速い不活性化が起こる膜電位が高い電位にシフトする。そのため低い膜電位でも電気的に興奮しやすくなり、PEPDの症状が現れると考えられている<ref><pubmed> 20101409 </pubmed></ref>。


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