「ナトリウムチャネル」の版間の差分

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 一般に、イオンチャネルの電位センサーは4つの膜貫通ヘリックスで構成されており、4番目のヘッリクス(S4)に存在するリジンやアルギニンなどのプラス電荷を帯びたアミノ酸が電位の感知に重要であることが分かっている。細胞膜が脱分極すると電位センサーが動き、“ゲート“が開くことで、ナトリウムイオンが流れる。  
 一般に、イオンチャネルの電位センサーは4つの膜貫通ヘリックスで構成されており、4番目のヘッリクス(S4)に存在するリジンやアルギニンなどのプラス電荷を帯びたアミノ酸が電位の感知に重要であることが分かっている。細胞膜が脱分極すると電位センサーが動き、“ゲート“が開くことで、ナトリウムイオンが流れる。  


 Navチャネルは脱分極により活性化された後、”不活性化”する。不活性化とは一旦開いたチャネルを閉じておく機構で、連続的なスパイク状の活動電位の形成に必須である。またこの機構が存在することで、活動電位に不応期が生じる。不活性化には数ミリ秒単位の速い不活性化と数十ミリ秒単位の遅い不活性化の2つの機構が存在する。速い不活性化については電位依存性カリウムチャネル(Kv1、Shaker型)のメカニズムと同様のball and chain modelによる孔の細胞内側からのブロックであることが知られている。リピートIIIとリピートIVの間のリンカー部分を認識する[[wikipedia:ja:抗体|抗体]]を細胞内側から投与すると不活性化が遅くなる<ref><pubmed> 21743477 </pubmed></ref>、またリンカー部分を欠失したチャネルは不活性が著しく遅いこと<ref><pubmed> 2543931 </pubmed></ref>、さらにリンカーを欠失したチャネルに、“ball”に相当するペプチド(IFM)を細胞内側から投与すると、速い不活性化が起きることが分かっている<ref><pubmed> 8185942 </pubmed></ref>。遅い不活性化については速い不活性化ほど分子機構は明瞭ではない。ヒトの骨格筋や心筋の興奮性の異常を示すいくつかの遺伝病の研究により、遅い不活性化の異常を引き起こすアミノ酸変異が見つかっている。変異は複数の部分に渡っているため、遅い不活性化の過程には複数のドメインが関与していると考えられる。  
 Navチャネルは脱分極により活性化された後、”不活性化”する。不活性化とは一旦開いたチャネルを閉じておく機構で、連続的なスパイク状の活動電位の形成に必須である。またこの機構が存在することで、活動電位に不応期が生じる。不活性化には数ミリ秒単位の速い不活性化と数十ミリ秒単位の遅い不活性化の2つの機構が存在する。速い不活性化については電位依存性カリウムチャネル(Kv1、Shaker型)のメカニズムと同様のball and chain modelによる孔の細胞内側からのブロックであることが知られている。リピートIIIとリピートIVの間のリンカー部分を認識する[[wikipedia:ja:抗体|抗体]]を細胞内側から投与すると不活性化が遅くなる<ref><pubmed> 2554301 </pubmed></ref>、またリンカー部分を欠失したチャネルは不活性が著しく遅いこと<ref><pubmed> 2543931 </pubmed></ref>、さらにリンカーを欠失したチャネルに、“ball”に相当するペプチド(IFM)を細胞内側から投与すると、速い不活性化が起きることが分かっている<ref><pubmed> 8185942 </pubmed></ref>。遅い不活性化については速い不活性化ほど分子機構は明瞭ではない。ヒトの骨格筋や心筋の興奮性の異常を示すいくつかの遺伝病の研究により、遅い不活性化の異常を引き起こすアミノ酸変異が見つかっている。変異は複数の部分に渡っているため、遅い不活性化の過程には複数のドメインが関与していると考えられる。  


 通常、Navチャネルは不活性化が速いため、一過的にしか内向き電流は流れないが、[[小脳]]の[[プルキンエ細胞]]をはじめ多くの神経細胞では、長時間にわたり不活性化せずに開き続ける持続的な内向き電流が存在する(持続性ナトリウム電流)。また、これに加えて小脳のプルキンエ細胞などでは、不活性化状態ののち再開口が起こりやすく(resurgent電流)、これによりスパイクの後に脱分極が引き起こされることが知られている。  
 通常、Navチャネルは不活性化が速いため、一過的にしか内向き電流は流れないが、[[小脳]]の[[プルキンエ細胞]]をはじめ多くの神経細胞では、長時間にわたり不活性化せずに開き続ける持続的な内向き電流が存在する(持続性ナトリウム電流)。また、これに加えて小脳のプルキンエ細胞などでは、不活性化状態ののち再開口が起こりやすく(resurgent電流)、これによりスパイクの後に脱分極が引き起こされることが知られている。  
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 また心筋に発現しているNav1.5の変異は、[[wikipedia:Long QT syndrome|先天性QT延長症候群(LQT)]]、特発性の[[wikipedia:ja:心室細動|心室細動]]等の[[wikipedia:ja:不整脈|不整脈]]を引き起こす。LQTを引き起こす変異は複数存在するが、その多くはチャネルの不活性化が不完全になる変異である<ref><pubmed> 8917568 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 7651517 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 8620612 </pubmed></ref>。このため持続的にナトリウム電流が流れ膜の再分極が遅れるため、QT間隔が伸長する。LQTの患者のうちNav1.5に変異を持つのは約10%である。  
 また心筋に発現しているNav1.5の変異は、[[wikipedia:Long QT syndrome|先天性QT延長症候群(LQT)]]、特発性の[[wikipedia:ja:心室細動|心室細動]]等の[[wikipedia:ja:不整脈|不整脈]]を引き起こす。LQTを引き起こす変異は複数存在するが、その多くはチャネルの不活性化が不完全になる変異である<ref><pubmed> 8917568 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 7651517 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 8620612 </pubmed></ref>。このため持続的にナトリウム電流が流れ膜の再分極が遅れるため、QT間隔が伸長する。LQTの患者のうちNav1.5に変異を持つのは約10%である。  


 中枢神経系で発現しているNav1.1の変異は[[てんかん]]の原因になる。これまで、[[wikipedia:Generalized epilepsy with febrile seizures plus|全般てんかん熱性痙攣プラス(generalized epilepsy with febrile seizures plus, GEFS+)]]および[[wikipedia:SMEI|乳児重症ミオクロニーてんかん(severe myoclonic epilepsy of infant, SMEI)]]を引き起こすNav1.1の変異が多数例、報告されている。不活性化が不完全になり持続的にナトリウム電流が流れるような変異や、不活性化がより高い電位で起こるような変異が報告されている。またGEFS+を引き起こす変異は&beta;1サブユニットにも見だされ、この変異を持った&beta;サブユニットは、&alpha;サブユニットの機能の調整をすることができない<ref><pubmed> 12486163 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 9697698 </pubmed></ref>。 侵害受容に関わる[[wikipedia:sensory neuron|一次知覚ニューロン]]に発現しているNav1.7の変異は、[[wikipedia:ja:先天性無痛無汗症|先天性の無痛症(congenital insensitivity to pain, CIP)]]や[[wikipedia:erythromelalgia|先端紅痛症(erythromelalgia, IEM)]]、[[wikipedia:paroxysmal extreme pain disorder|発作性の神経痛(paroxysmal extreme pain disorder, PEPD)]]に関わっている。これまで知られているCIPを引き起こす変異はすべてNav1.7をコードする遺伝子の途中に[[wikipedia:ja:終止コドン|終止コドン]]が挿入され、チャネルとしての機能を喪失することが分かっている<ref><pubmed> 20101409 </pubmed></ref>。またIEMでは遺伝子の変異により、低い電位でナトリウムチャネルが開口するため、[[閾値]]が低くなり活動電位が生じやすくなる17。PEPDの患者では速い不活性化に関わっているリピートIIIとIVの間に変異が見つかっている。この変異を持ったナトリウムチャネルは速い不活性化が起こる膜電位が高い電位にシフトする。そのため低い膜電位でも電気的に興奮しやすくなり、PEPDの症状が現れると考えられている<ref><pubmed> 20101409 </pubmed></ref>。
 中枢神経系で発現しているNav1.1の変異は[[てんかん]]の原因になる。これまで、[[wikipedia:Generalized epilepsy with febrile seizures plus|全般てんかん熱性痙攣プラス(generalized epilepsy with febrile seizures plus, GEFS+)]]および[[wikipedia:SMEI|乳児重症ミオクロニーてんかん(severe myoclonic epilepsy of infant, SMEI)]]を引き起こすNav1.1の変異が多数例、報告されている。不活性化が不完全になり持続的にナトリウム電流が流れるような変異や、不活性化がより高い電位で起こるような変異が報告されている。またGEFS+を引き起こす変異は&beta;1サブユニットにも見だされ、この変異を持った&beta;サブユニットは、&alpha;サブユニットの機能の調整をすることができない<ref><pubmed> 12486163 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 9697698 </pubmed></ref>。 侵害受容に関わる[[wikipedia:sensory neuron|一次知覚ニューロン]]に発現しているNav1.7の変異は、[[wikipedia:ja:先天性無痛無汗症|先天性の無痛症(congenital insensitivity to pain, CIP)]]や[[wikipedia:erythromelalgia|先端紅痛症(erythromelalgia, IEM)]]、[[wikipedia:paroxysmal extreme pain disorder|発作性の神経痛(paroxysmal extreme pain disorder, PEPD)]]に関わっている。これまで知られているCIPを引き起こす変異はすべてNav1.7をコードする遺伝子の途中に[[wikipedia:ja:終止コドン|終止コドン]]が挿入され、チャネルとしての機能を喪失することが分かっている<ref name=refa><pubmed> 20101409 </pubmed></ref>。またIEMでは遺伝子の変異により、低い電位でナトリウムチャネルが開口するため、[[閾値]]が低くなり活動電位が生じやすくなる17。PEPDの患者では速い不活性化に関わっているリピートIIIとIVの間に変異が見つかっている。この変異を持ったナトリウムチャネルは速い不活性化が起こる膜電位が高い電位にシフトする。そのため低い膜電位でも電気的に興奮しやすくなり、PEPDの症状が現れると考えられている<ref name=refa />。


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