「ナトリウムチャネル」の版間の差分

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英語名:sodium channel  
英語名:sodium channel  


同義語/関連語:電位依存性ナトリウムチャネル、voltage-gated sodium channel
同義語/関連語:電位依存性ナトリウムチャネル、voltage-gated sodium channel  


 
<br>  ナトリウムチャネルは高い選択性を持って[[wikipedia:JA:ナトリウム|ナトリウム]]イオンを透過させる[[イオンチャネル]]である。ナトリウムチャネルとしては、[[電位依存性ナトリウムチャネル]](Navチャネル)、および[[上皮性ナトリウムチャネル]](ENaC)が知られているが、これらは分子構造が全く異なっているため、本項目では電位依存性ナトリウムチャネルについてのみ記述する。電位依存性ナトリウムチャネルは[[wikipedia:ja:アラン・ロイド・ホジキン|ホジキン]](Alan Lloyd Hodgkin)と[[wikipedia:ja:アンドリュー・フィールディング・ハクスりー|ハクスレー]](Andrew Fielding Huxley)による[[wikipedia:JA:イカ|イカ]]の[[巨大軸索]]を用いた研究によりその存在が予測され、1984年に沼博士らによって遺伝子が同定された。[[中枢神経]]や[[末梢神経]]、[[骨格筋]]、[[心筋]]に存在し、[[カリウムチャネル]]とともに[[膜電位]]を介して機能的に共役し、[[活動電位]]の開始および伝搬に本質的な役割を担っている。  
 ナトリウムチャネルは高い選択性を持って[[wikipedia:JA:ナトリウム|ナトリウム]]イオンを透過させる[[イオンチャネル]]である。ナトリウムチャネルとしては、[[電位依存性ナトリウムチャネル]](Navチャネル)、および[[上皮性ナトリウムチャネル]](ENaC)が知られているが、これらは分子構造が全く異なっているため、本項目では電位依存性ナトリウムチャネルについてのみ記述する。電位依存性ナトリウムチャネルは[[wikipedia:ja:アラン・ロイド・ホジキン|ホジキン]](Alan Lloyd Hodgkin)と[[wikipedia:ja:アンドリュー・フィールディング・ハクスりー|ハクスレー]](Andrew Fielding Huxley)による[[wikipedia:JA:イカ|イカ]]の[[巨大軸索]]を用いた研究によりその存在が予測され、1984年に沼博士らによって遺伝子が同定された。[[中枢神経]]や[[末梢神経]]、[[骨格筋]]、[[心筋]]に存在し、[[カリウムチャネル]]とともに[[膜電位]]を介して機能的に共役し、[[活動電位]]の開始および伝搬に本質的な役割を担っている。  


== 神経細胞における分布  ==
== 神経細胞における分布  ==
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=== 二次構造  ===
=== 二次構造  ===


[[Image:Nav channelの2次元構造.png|thumb|300px|'''図1. 電位依存性ナトリウムチャネルの二次構造''']]  脳および心筋のNavチャネルは分子量約260kのαサブユニットと1回膜貫通型のβサブユニットから構成されている。神経細胞や心筋に存在するチャネルは1つのαサブユニットとβ1、β2もしくはβ3、β4の二つのβサブユニットで構成され、骨格筋ではαサブユニットと1つのβサブユニットにより構成されている。
[[Image:Nav channelの2次元構造.png|thumb|300px|<b>図1. 電位依存性ナトリウムチャネルの二次構造</b>]]  脳および心筋のNavチャネルは分子量約260kのαサブユニットと1回膜貫通型のβサブユニットから構成されている。神経細胞や心筋に存在するチャネルは1つのαサブユニットとβ1、β2もしくはβ3、β4の二つのβサブユニットで構成され、骨格筋ではαサブユニットと1つのβサブユニットにより構成されている。  


 αサブユニットは4つの相同性の高いドメインの反復で構成されており、各ドメインは6つの膜貫通[[wikipedia:ja:Αヘリックス|ヘリックス]]を含んでいる(図1参照)。基本的なαサブユニットの二次構造は他の[[電位依存性イオンチャネル]]([[電位依存性カルシウムチャネル]]、[[電位依存性カリウムチャネル]]など)と同様で あり、各ドメインの最初の4つの膜貫通ヘリックス(S1-S4)は膜電位を感知する電位センサーとして働き、残りの2つ(S5,S6)はナトリウムイオンを透過させるための孔(ポアドメイン)を構成する 。
 αサブユニットは4つの相同性の高いドメインの反復で構成されており、各ドメインは6つの膜貫通[[wikipedia:ja:Αヘリックス|ヘリックス]]を含んでいる(図1参照)。基本的なαサブユニットの二次構造は他の[[電位依存性イオンチャネル]]([[電位依存性カルシウムチャネル]]、[[電位依存性カリウムチャネル]]など)と同様で あり、各ドメインの最初の4つの膜貫通ヘリックス(S1-S4)は膜電位を感知する電位センサーとして働き、残りの2つ(S5,S6)はナトリウムイオンを透過させるための孔(ポアドメイン)を構成する 。  


 βサブユニットは1回膜貫通型のサブユニットで、細胞外側に[[細胞接着]]に関わる分子に見られる[[免疫グロブリンドメイン]]を持っている。
 βサブユニットは1回膜貫通型のサブユニットで、細胞外側に[[細胞接着]]に関わる分子に見られる[[免疫グロブリンドメイン]]を持っている。  


[[Image:Nachannel-TopView.png|thumb|300px|'''図2 電位依存性ナトリウムチャネルの立体構造'''<br>この図ではポアドメインの中央部に、構造を決定する際に使用した水銀原子が見える。(Payandeh et al. 2011より転載)]]
[[Image:Nachannel-TopView.png|thumb|300px|<b>図2 電位依存性ナトリウムチャネルの立体構造</b><br />この図ではポアドメインの中央部に、構造を決定する際に使用した水銀原子が見える。(Payandeh et al. 2011より転載)]]  


=== 立体構造  ===
=== 立体構造  ===
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 2011年、Catterallらは[[wikipedia:ja:真正細菌|真正細菌]]の一種である[[wikipedia:Arcobacter|Arcobacter butzleri]]由来の電位依存性ナトリウムチャネル(NachBac)を用いてX線結晶構造解析を行い、その[[wikipedia:JA:三次元構造|三次元構造]]を明らかにした<ref><pubmed> 21743477 </pubmed></ref>。[[wikipedia:ja:真核生物|真核生物]]のNavチャネルが1分子に4つのリピート構造を含んでいるのに対して、NachBacはホモ4量体として機能する。電位依存性カリウムチャネルの構造と同様に、αサブユニットの各リピートのS5およびS6が集まってポアドメインを形成し、その四隅にS1からS4によって構成される電位センサーが配置する(図2参照)。  
 2011年、Catterallらは[[wikipedia:ja:真正細菌|真正細菌]]の一種である[[wikipedia:Arcobacter|Arcobacter butzleri]]由来の電位依存性ナトリウムチャネル(NachBac)を用いてX線結晶構造解析を行い、その[[wikipedia:JA:三次元構造|三次元構造]]を明らかにした<ref><pubmed> 21743477 </pubmed></ref>。[[wikipedia:ja:真核生物|真核生物]]のNavチャネルが1分子に4つのリピート構造を含んでいるのに対して、NachBacはホモ4量体として機能する。電位依存性カリウムチャネルの構造と同様に、αサブユニットの各リピートのS5およびS6が集まってポアドメインを形成し、その四隅にS1からS4によって構成される電位センサーが配置する(図2参照)。  


 イオン選択性は孔が一番狭くなっているselective filterと呼ばれる部分で行われている。Navチャネルは[[wikipedia:JA:グアニジン|グアニジウムイオン]]などの[[wikipedia:ja:イオン半径|イオン半径]]の大きいイオンに対してもある程度の透過性を持つことから、Navチャネルのselective filterの幅はナトリウムイオンよりも大きく、ナトリウムイオン1分子に対し、1分子の水を配位した状態で、孔を選択的に透過するという考えが提唱されてきた<ref>'''Bertil Hille''' <br>Ion Channels of Excitable Membrane third edition<br>Sinauer Associates,Inc.(Massachusetts,USA)</ref>。実際、NachBacの立体構造を見てみると、selective filterの一番狭くなっている部分の幅は、ちょうどナトリウムイオンに水分子が1つ配位したときのサイズに近いことが明らかになった。
 イオン選択性は孔が一番狭くなっているselective filterと呼ばれる部分で行われている。Navチャネルは[[wikipedia:JA:グアニジン|グアニジウムイオン]]などの[[wikipedia:ja:イオン半径|イオン半径]]の大きいイオンに対してもある程度の透過性を持つことから、Navチャネルのselective filterの幅はナトリウムイオンよりも大きく、ナトリウムイオン1分子に対し、1分子の水を配位した状態で、孔を選択的に透過するという考えが提唱されてきた<ref>'''Bertil Hille''' <br>Ion Channels of Excitable Membrane third edition<br>Sinauer Associates,Inc.(Massachusetts,USA)</ref>。実際、NachBacの立体構造を見てみると、selective filterの一番狭くなっている部分の幅は、ちょうどナトリウムイオンに水分子が1つ配位したときのサイズに近いことが明らかになった。  


== イオン選択性   ==
== イオン選択性   ==


  [[Image:SelectiveFilter付近のアミノ酸配列.png|thumb|300px|'''図3. 電位依存性ナトリウムチャネル、およびカルシムチャネルのselective filter 付近のアミノ酸配列の比較'''<br>イオン選択性に最も重要であると考えられる部分をboxで囲んだ。]]   
  [[Image:SelectiveFilter付近のアミノ酸配列.png|thumb|300px|<b>図3. 電位依存性ナトリウムチャネル、およびカルシムチャネルのselective filter 付近のアミノ酸配列の比較</b><br />イオン選択性に最も重要であると考えられる部分をboxで囲んだ。]]   


 イオン選択性に関わるselective filterは5番目のヘリックス(S5)と6番目のヘリックス(S6)の間に存在する。1価の[[wikipedia:JA:正電荷|正電荷]]を持つイオンの透過性はイオン半径に比例している。イオン半径の小さい[[wikipedia:JA:プロトン|プロトン]]に対して、非常に強い透過性を持ち、Li<sup>+</sup>≈Na<sup>+</sup>&gt;K<sup>+</sup>&gt;Rb<sup>+</sup>&gt;Cs<sup>+</sup>の順に透過性が高い。またグアニジウムイオンはK<sup>+</sup>より透過しやすい。図3に真核生物のNavチャネルのselective filterのアミノ酸配列を示した。電位依存性カルシウムチャネルでは4つのリピート、すべてがマイナス電荷を持った[[グルタミン酸]]になっている部分が、Navチャネルでは各リピートで異なり、中には電荷を持たない [[アミノ酸]]も含まれている。ナトリウムチャネルのリピートIII, IVの[[wikipedia:JA:リジン|リジン]]、[[アラニン]]のいずれかをグルタミン酸に変異させると、ナトリウムイオンだけでなく、カリウムイオン、アンモニウムイオン、さらにカルシウムイオンに対しても透過性が現れる。特に、両方ともグルタミン酸に置き換えると、ナトリウムイオンよりカルシウムイオンに対して選択的になってしまう<ref><pubmed> 1313551 </pubmed></ref>。そのため[[アスパラギン酸]]、グルタミン酸、リジン、アラニンが形成する環状の配置が、ナトリウムイオンの選択性に重要であると考えられている。
 イオン選択性に関わるselective filterは5番目のヘリックス(S5)と6番目のヘリックス(S6)の間に存在する。1価の[[wikipedia:JA:正電荷|正電荷]]を持つイオンの透過性はイオン半径に比例している。イオン半径の小さい[[wikipedia:JA:プロトン|プロトン]]に対して、非常に強い透過性を持ち、Li<sup>+</sup>≈Na<sup>+</sup>&gt;K<sup>+</sup>&gt;Rb<sup>+</sup>&gt;Cs<sup>+</sup>の順に透過性が高い。またグアニジウムイオンはK<sup>+</sup>より透過しやすい。図3に真核生物のNavチャネルのselective filterのアミノ酸配列を示した。電位依存性カルシウムチャネルでは4つのリピート、すべてがマイナス電荷を持った[[グルタミン酸]]になっている部分が、Navチャネルでは各リピートで異なり、中には電荷を持たない [[アミノ酸]]も含まれている。ナトリウムチャネルのリピートIII, IVの[[wikipedia:JA:リジン|リジン]]、[[アラニン]]のいずれかをグルタミン酸に変異させると、ナトリウムイオンだけでなく、カリウムイオン、アンモニウムイオン、さらにカルシウムイオンに対しても透過性が現れる。特に、両方ともグルタミン酸に置き換えると、ナトリウムイオンよりカルシウムイオンに対して選択的になってしまう<ref><pubmed> 1313551 </pubmed></ref>。そのため[[アスパラギン酸]]、グルタミン酸、リジン、アラニンが形成する環状の配置が、ナトリウムイオンの選択性に重要であると考えられている。  


== 膜電位依存的な活性化および不活性化  ==
== 膜電位依存的な活性化および不活性化  ==
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 一般に、イオンチャネルの電位センサーは4つの膜貫通ヘリックスで構成されており、4番目のヘッリクス(S4)に存在するリジンやアルギニンなどのプラス電荷を帯びたアミノ酸が電位の感知に重要であることが分かっている。細胞膜が脱分極すると電位センサーが動き、“ゲート“が開くことで、ナトリウムイオンが流れる。  
 一般に、イオンチャネルの電位センサーは4つの膜貫通ヘリックスで構成されており、4番目のヘッリクス(S4)に存在するリジンやアルギニンなどのプラス電荷を帯びたアミノ酸が電位の感知に重要であることが分かっている。細胞膜が脱分極すると電位センサーが動き、“ゲート“が開くことで、ナトリウムイオンが流れる。  


 Navチャネルは脱分極により活性化された後、”[[不活性化]]”する。不活性化とは一旦開いたチャネルを閉じておく機構で、連続的なスパイク状の活動電位の形成に必須である。またこの機構が存在することで、活動電位に[[不応期]]が生じる。不活性化には数ミリ秒単位の速い不活性化と数十ミリ秒単位の遅い不活性化の2つの機構が存在する。速い不活性化については電位依存性カリウムチャネル(Kv1、[[Shaker]]型)のメカニズムと同様のball and chain modelによる孔の細胞内側からのブロックであることが知られている。リピートIIIとリピートIVの間のリンカー部分を認識する[[wikipedia:ja:抗体|抗体]]を細胞内側から投与すると不活性化が遅くなる<ref><pubmed> 2554301 </pubmed></ref>、またリンカー部分を欠失したチャネルは不活性が著しく遅いこと<ref><pubmed> 2543931 </pubmed></ref>、さらにリンカーを欠失したチャネルに、“ball”に相当するペプチド(IFM)を細胞内側から投与すると、速い不活性化が起きることが分かっている<ref><pubmed> 8185942 </pubmed></ref>。
 Navチャネルは脱分極により活性化された後、”[[不活性化]]”する。不活性化とは一旦開いたチャネルを閉じておく機構で、連続的なスパイク状の活動電位の形成に必須である。またこの機構が存在することで、活動電位に[[不応期]]が生じる。不活性化には数ミリ秒単位の速い不活性化と数十ミリ秒単位の遅い不活性化の2つの機構が存在する。速い不活性化については電位依存性カリウムチャネル(Kv1、[[Shaker]]型)のメカニズムと同様のball and chain modelによる孔の細胞内側からのブロックであることが知られている。リピートIIIとリピートIVの間のリンカー部分を認識する[[wikipedia:ja:抗体|抗体]]を細胞内側から投与すると不活性化が遅くなる<ref><pubmed> 2554301 </pubmed></ref>、またリンカー部分を欠失したチャネルは不活性が著しく遅いこと<ref><pubmed> 2543931 </pubmed></ref>、さらにリンカーを欠失したチャネルに、“ball”に相当するペプチド(IFM)を細胞内側から投与すると、速い不活性化が起きることが分かっている<ref><pubmed> 8185942 </pubmed></ref>。  


 遅い不活性化については速い不活性化ほど分子機構は明瞭ではない。[[ヒト]]の[[wikipedia:JA:骨格筋|骨格筋]]や[[wikipedia:JA:心筋|心筋]]の興奮性の異常を示すいくつかの遺伝病の研究により、遅い不活性化の異常を引き起こすアミノ酸変異が見つかっている。変異は複数の部分に渡っているため、遅い不活性化の過程には複数のドメインが関与していると考えられる。  
 遅い不活性化については速い不活性化ほど分子機構は明瞭ではない。[[ヒト]]の[[wikipedia:JA:骨格筋|骨格筋]]や[[wikipedia:JA:心筋|心筋]]の興奮性の異常を示すいくつかの遺伝病の研究により、遅い不活性化の異常を引き起こすアミノ酸変異が見つかっている。変異は複数の部分に渡っているため、遅い不活性化の過程には複数のドメインが関与していると考えられる。  


 通常、Navチャネルは不活性化が速いため、一過的にしか内向き電流は流れないが、[[小脳]]の[[プルキンエ細胞]]をはじめ多くの[[神経細胞]]では、長時間にわたり不活性化せずに開き続ける持続的な内向き電流が存在する([[持続性ナトリウム電流]])。また、これに加えて小脳のプルキンエ細胞などでは、不活性化状態ののち再開口が起こりやすく([[resurgent電流]])(図4参照)、これにより[[スパイク]]の後に[[脱分極]]が引き起こされることが知られている。
 通常、Navチャネルは不活性化が速いため、一過的にしか内向き電流は流れないが、[[小脳]]の[[プルキンエ細胞]]をはじめ多くの[[神経細胞]]では、長時間にわたり不活性化せずに開き続ける持続的な内向き電流が存在する([[持続性ナトリウム電流]])。また、これに加えて小脳のプルキンエ細胞などでは、不活性化状態ののち再開口が起こりやすく([[Resurgent電流]])(図4参照)、これにより[[スパイク]]の後に[[脱分極]]が引き起こされることが知られている。 β4が細胞内側からのblocking particleとして作用し、resurgent電流の形成に関わるという報告<ref><pubmed>15664175</pubmed></ref>があるが、分子メカニズムについてはまだ分っていないことが多い。 [[Image:Resurgent電流.png|thumb|図4.Resurgent 電流。Raman IM et al. より転載]]
β4が細胞内側からのblocking particleとして作用し、resurgent電流の形成に関わるという報告<ref><pubmed>15664175</pubmed></ref>があるが、分子メカニズムについてはまだ分っていないことが多い。
 
[[Image:Tree.png|thumb|300px|<b>図5. サブユニットの系統樹</b>]] 


[[Image:Tree.png|thumb|300px|'''図5. サブユニットの系統樹''']] 
== αサブユニットの多様性  ==
== αサブユニットの多様性  ==


Navチャネルのαサブユニットは、[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]では9つの[[wikipedia:ja:遺伝子|遺伝子]]が知られている。それぞれ発現場所や発生段階における発現のタイミング、および分子特性や薬理学的作用などが異なっている(表、図5参照)。Nav1.4は骨格筋、Nav1.5は心筋に多く発現し、Nav1.7、Nav1.8、Nav1.9は[[末梢神経]]に発現している。Nav1.1、Nav1.2、Nav1.3およびNav1.6は主に[[中枢神経]]で発現しているが、一部は末梢神経にも存在する。軸索起始部(axon initial segment)とランビエ紋輪のNavチャネルの多くはNav1.6であることが知られている。中枢神経細胞の樹状突起にもNav1.6は分布する。
Navチャネルのαサブユニットは、[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]では9つの[[wikipedia:ja:遺伝子|遺伝子]]が知られている。それぞれ発現場所や発生段階における発現のタイミング、および分子特性や薬理学的作用などが異なっている(表、図5参照)。Nav1.4は骨格筋、Nav1.5は心筋に多く発現し、Nav1.7、Nav1.8、Nav1.9は[[末梢神経]]に発現している。Nav1.1、Nav1.2、Nav1.3およびNav1.6は主に[[中枢神経]]で発現しているが、一部は末梢神経にも存在する。軸索起始部(axon initial segment)とランビエ紋輪のNavチャネルの多くはNav1.6であることが知られている。中枢神経細胞の樹状突起にもNav1.6は分布する。  


 またNavチャネルと似た配列を持つ[[Nax]]と呼ばれるタンパク質が存在する。アミノ酸配列上、Navチャネルと同様、電位センサーおよびポアドメインに似た構造を持っているが、電位依存的にナトリウムイオンを透過させる機能を持っていない。Naxは中枢神経系などに発現し、チャネルではなくナトリウムセンサーとして働いているという報告がある<ref><pubmed> 11992118 </pubmed></ref>。  
 またNavチャネルと似た配列を持つ[[Nax]]と呼ばれるタンパク質が存在する。アミノ酸配列上、Navチャネルと同様、電位センサーおよびポアドメインに似た構造を持っているが、電位依存的にナトリウムイオンを透過させる機能を持っていない。Naxは中枢神経系などに発現し、チャネルではなくナトリウムセンサーとして働いているという報告がある<ref><pubmed> 11992118 </pubmed></ref>。  
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{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" align="center"
{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" align="center"
|+''' 表 各αサブユニットの発現場所、および機能等'''  
|+ '''表 各αサブユニットの発現場所、および機能等'''  
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== βサブユニット  ==
== βサブユニット  ==


 βサブユニットはβ1からβ4まで4種類存在する。これまでの研究によりαサブユニットだけでも、電位依存的にナトリウムチャネルを透過させる機能を保持していることが分かっているが、βサブユニットはαサブユニットと共に存在することで、ナトリウムチャネルの機能を変える。細胞外側の免疫グロブリンドメインにより、チャネルの機能を補完するだけでなく、種々の[[細胞接着因子]]と結合し、細胞運動や細胞接着、神経突起の伸長に重要な役割を担っていることが知られている<ref><pubmed>20600605</pubmed></ref>。
 βサブユニットはβ1からβ4まで4種類存在する。これまでの研究によりαサブユニットだけでも、電位依存的にナトリウムチャネルを透過させる機能を保持していることが分かっているが、βサブユニットはαサブユニットと共に存在することで、ナトリウムチャネルの機能を変える。細胞外側の免疫グロブリンドメインにより、チャネルの機能を補完するだけでなく、種々の[[細胞接着因子]]と結合し、細胞運動や細胞接着、神経突起の伸長に重要な役割を担っていることが知られている<ref><pubmed>20600605</pubmed></ref>。  


== 薬剤による機能の修飾  ==
== 薬剤による機能の修飾  ==


 Navチャネルに特異的に結合し、その性質を変える種々の薬剤が知られている(表参照)。最も早く発見されたのは、フグ毒として知られているテトロドトキシンで、ナトリウムチャネルのポアドメインに結合して、イオン透過を阻害する。[[β-サソリ毒]]はナトリウムチャネルの電位センサー部分に結合し、不活性化を阻害する。また、[[アコニチニン]]、[[グラヤノトキシン]]、[[ベラトリジン]]、[[バトラコトキシン]]は[[wikipedia:ja:細胞膜|細胞膜]]を透過し、細胞の内側からナトリウムチャネルに結合して、ナトリウムチャネルが開いている時間を長くする作用がある。また[[局所麻酔薬]]として知られている[[リドカイン]]は不活性化状態を安定化し電流量を減らす作用がある。  
 Navチャネルに特異的に結合し、その性質を変える種々の薬剤が知られている(表参照)。最も早く発見されたのは、フグ毒として知られているテトロドトキシンで、ナトリウムチャネルのポアドメインに結合して、イオン透過を阻害する。[[Β-サソリ毒]]はナトリウムチャネルの電位センサー部分に結合し、不活性化を阻害する。また、[[アコニチニン]]、[[グラヤノトキシン]]、[[ベラトリジン]]、[[バトラコトキシン]]は[[wikipedia:ja:細胞膜|細胞膜]]を透過し、細胞の内側からナトリウムチャネルに結合して、ナトリウムチャネルが開いている時間を長くする作用がある。また[[局所麻酔薬]]として知られている[[リドカイン]]は不活性化状態を安定化し電流量を減らす作用がある。  


== 転写の制御  ==
== 転写の制御  ==


 Nav1.2遺伝子の転写調節には[[転写抑制因子]][[REST]]/NRSFが関わっている。通常、神経細胞由来の培養細胞(PC12 cell)では、[[神経細胞成長因子]](nerve growth factor) により[[神経突起]]の形成が誘導される。しかしながらREST/NRSFを発現させると、神経突起の形成が見られなくなり、ナトリウム電流も計測されない<ref><pubmed> 11516394 </pubmed></ref>。神経細胞以外の細胞ではREST/NRSFが発現し、他の多くの神経細胞特異的に発現する遺伝子の転写を抑制するとともに、Nav1.2の転写を抑制していると考えられている。
 Nav1.2遺伝子の転写調節には[[転写抑制因子]][[REST]]/NRSFが関わっている。通常、神経細胞由来の培養細胞(PC12 cell)では、[[神経細胞成長因子]](nerve growth factor) により[[神経突起]]の形成が誘導される。しかしながらREST/NRSFを発現させると、神経突起の形成が見られなくなり、ナトリウム電流も計測されない<ref><pubmed> 11516394 </pubmed></ref>。神経細胞以外の細胞ではREST/NRSFが発現し、他の多くの神経細胞特異的に発現する遺伝子の転写を抑制するとともに、Nav1.2の転写を抑制していると考えられている。  


== リン酸化による制御  ==
== リン酸化による制御  ==
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== RNA編集  ==
== RNA編集  ==


 [[ショウジョウバエ]]のNavチャネルには、[[RNA編集]]が存在していることが知られている<ref><pubmed> 10414281 </pubmed></ref>。ショウジョウバエのナトリウムチャネルをコードしている[[wikipedia:ja:遺伝子座|遺伝子座]](''para'')には、少なくとも10か所の[[選択的スプライシング]]を受けるサイトが知られている。ここから転写されるアイソフォームの多くは、[[wikipedia:ja:アデノシン|アデノシン]]が[[wikipedia:ja:イノシン|イノシン]]に“編集”されるRNA編集を受けている。これまでのところナトリウムチャネルのRNA編集は、[[wikipedia:ja:昆虫|昆虫]]でのみ報告されており、哺乳類を含め他の生物種では見られていない。
 [[ショウジョウバエ]]のNavチャネルには、[[RNA編集]]が存在していることが知られている<ref><pubmed> 10414281 </pubmed></ref>。ショウジョウバエのナトリウムチャネルをコードしている[[wikipedia:ja:遺伝子座|遺伝子座]](''para'')には、少なくとも10か所の[[選択的スプライシング]]を受けるサイトが知られている。ここから転写されるアイソフォームの多くは、[[wikipedia:ja:アデノシン|アデノシン]]が[[wikipedia:ja:イノシン|イノシン]]に“編集”されるRNA編集を受けている。これまでのところナトリウムチャネルのRNA編集は、[[wikipedia:ja:昆虫|昆虫]]でのみ報告されており、哺乳類を含め他の生物種では見られていない。  


== チャネル病  ==
== チャネル病  ==
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 また心筋に発現しているNav1.5の変異は、[[先天性QT延長症候群]](LQT)、特発性の[[wikipedia:ja:心室細動|心室細動]]等の[[wikipedia:ja:不整脈|不整脈]]を引き起こす。LQTを引き起こす変異は複数存在するが、その多くはチャネルの不活性化が不完全になる変異である<ref><pubmed> 8917568 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 7651517 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 8620612 </pubmed></ref>。このため持続的にナトリウム電流が流れ膜の再分極が遅れるため、QT間隔が伸長する。LQTの患者のうちNav1.5に変異を持つのは約10%である。  
 また心筋に発現しているNav1.5の変異は、[[先天性QT延長症候群]](LQT)、特発性の[[wikipedia:ja:心室細動|心室細動]]等の[[wikipedia:ja:不整脈|不整脈]]を引き起こす。LQTを引き起こす変異は複数存在するが、その多くはチャネルの不活性化が不完全になる変異である<ref><pubmed> 8917568 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 7651517 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 8620612 </pubmed></ref>。このため持続的にナトリウム電流が流れ膜の再分極が遅れるため、QT間隔が伸長する。LQTの患者のうちNav1.5に変異を持つのは約10%である。  


 中枢神経系で発現しているNav1.1の変異は[[てんかん]]の原因になる。これまで、[[wikipedia:Generalized epilepsy with febrile seizures plus|全般てんかん熱性痙攣プラス]](generalized epilepsy with febrile seizures plus, GEFS+)および[[wikipedia:SMEI|乳児重症ミオクロニーてんかん]](severe myoclonic epilepsy of infant, SMEI)を引き起こすNav1.1の変異が多数例、報告されている。不活性化が不完全になり持続的にナトリウム電流が流れるような変異や、不活性化がより高い電位で起こるような変異が報告されている。またGEFS+を引き起こす変異はβ1サブユニットにも見だされ、この変異を持ったβサブユニットは、αサブユニットの機能の調整をすることができない<ref><pubmed> 12486163 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 9697698 </pubmed></ref>。 [[侵害受容]]に関わる[[一次知覚ニューロン]]に発現しているNav1.7の変異は、[[先天性無痛症]](congenital insensitivity to pain, CIP)や[[先端紅痛症]](erythromelalgia, IEM)、[[発作性神経痛]](paroxysmal extreme pain disorder, PEPD)に関わっている。これまで知られているCIPを引き起こす変異はすべてNav1.7をコードする遺伝子の途中に[[wikipedia:ja:終止コドン|終止コドン]]が挿入され、チャネルとしての機能を喪失することが分かっている<ref name="refa"><pubmed> 20101409 </pubmed></ref>。またIEMでは遺伝子の変異により、低い電位でナトリウムチャネルが開口するため、[[閾値]]が低くなり活動電位が生じやすくなる17。PEPDの患者では速い不活性化に関わっているリピートIIIとIVの間に変異が見つかっている。この変異を持ったナトリウムチャネルは速い不活性化が起こる膜電位が高い電位にシフトする。そのため低い[[膜電位]]でも電気的に興奮しやすくなり、PEPDの症状が現れると考えられている<ref name="refa" />。
 中枢神経系で発現しているNav1.1の変異は[[てんかん]]の原因になる。これまで、[[wikipedia:Generalized epilepsy with febrile seizures plus|全般てんかん熱性痙攣プラス]](generalized epilepsy with febrile seizures plus, GEFS+)および[[wikipedia:SMEI|乳児重症ミオクロニーてんかん]](severe myoclonic epilepsy of infant, SMEI)を引き起こすNav1.1の変異が多数例、報告されている。不活性化が不完全になり持続的にナトリウム電流が流れるような変異や、不活性化がより高い電位で起こるような変異が報告されている。またGEFS+を引き起こす変異はβ1サブユニットにも見だされ、この変異を持ったβサブユニットは、αサブユニットの機能の調整をすることができない<ref><pubmed> 12486163 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 9697698 </pubmed></ref>。 [[侵害受容]]に関わる[[一次知覚ニューロン]]に発現しているNav1.7の変異は、[[先天性無痛症]](congenital insensitivity to pain, CIP)や[[先端紅痛症]](erythromelalgia, IEM)、[[発作性神経痛]](paroxysmal extreme pain disorder, PEPD)に関わっている。これまで知られているCIPを引き起こす変異はすべてNav1.7をコードする遺伝子の途中に[[wikipedia:ja:終止コドン|終止コドン]]が挿入され、チャネルとしての機能を喪失することが分かっている<ref name="refa"><pubmed> 20101409 </pubmed></ref>。またIEMでは遺伝子の変異により、低い電位でナトリウムチャネルが開口するため、[[閾値]]が低くなり活動電位が生じやすくなる17。PEPDの患者では速い不活性化に関わっているリピートIIIとIVの間に変異が見つかっている。この変異を持ったナトリウムチャネルは速い不活性化が起こる膜電位が高い電位にシフトする。そのため低い[[膜電位]]でも電気的に興奮しやすくなり、PEPDの症状が現れると考えられている<ref name="refa" />。  


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==
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*[[活動電位]]  
*[[活動電位]]  
*[[Hodgkin-Huxley方程式]]  
*[[Hodgkin-Huxley方程式]]  
*[[電位依存性イオンチャネル]]  
*[[電位依存性イオンチャネル]]


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==
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<references />  
<references />  


 
<br> (執筆者:坂田宗平、岡村康司  担当編集委員:林康紀)
(執筆者:坂田宗平、岡村康司  担当編集委員:林康紀)
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