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160 バイト追加 、 2013年1月30日 (水)
  
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'''FM1-43'''  
'''FM1-43'''  


要約 FM色素は脂質二重膜を可逆的に染める蛍光色素で、シナプス前機能や分泌現象の計測に活用されている。  
要約 <br>
FM色素は脂質二重膜を可逆的に染める蛍光色素で、シナプス前機能や分泌現象の計測に活用されている。  


目次 1. FM1-43とは 2. 分子構造 3. 蛍光特性 4. 応用例・シナプス前機能の解析・開口放出現象の可視化・分泌小胞の直径測定
目次 <br>
1. FM1-43とは <br>
2. 分子構造 <br>
3. 蛍光特性 <br>
4. 応用例<br>
  ・シナプス前機能の解析<br>
  ・開口放出現象の可視化<br>
  ・分泌小胞の直径測定


<br>FM1-43とは FM(Fei Mao)は細胞膜を染めるスチリル色素を合成した。FM1-43はその代表格である。シナプス前終末の機能解析や、分泌小胞の動態解析に広く用いられる。色素の特性として次の3つの性質がある。①水溶液中に存在する場合に比べ、細胞膜に結合すると量子効率が著増し、強い蛍光を出す。②脂質二重膜を透過しない。③両親媒性で可逆的に膜を染める。
<br>FM1-43とは FM(Fei Mao)は細胞膜を染めるスチリル色素を合成した。FM1-43はその代表格である。<br>
シナプス前終末の機能解析や、分泌小胞の動態解析に広く用いられる。<br>
色素の特性として次の3つの性質がある。<br>
  ①水溶液中に存在する場合に比べ、細胞膜に結合すると量子効率が著増し、強い蛍光を出す。<br>
  ②脂質二重膜を透過しない。<br>
  ③両親媒性で可逆的に膜を染める。


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分子構造構造は、親水性領域、二重結合領域、疎水性炭素鎖領域に分けられる。親水性領域が正の電荷をもつため、膜を通過しない。二重結合の数は蛍光波長に関連する。二重結合が一つの FM1-43・FM1-84・FM2-10 は黄色蛍光を呈し、二重結合が二つのFM4-64・FM5-95 は赤色蛍光を呈する。疎水性炭素鎖の長さは細胞膜の染め方に関連し、長いものほど明るく、一旦膜に組み込まれると離脱しがたい<ref><pubmed> 10202529 </pubmed></ref>。
分子構造構造は、親水性領域、二重結合領域、疎水性炭素鎖領域に分けられる。<br>
。FM1-43の炭素鎖数は4であり、解離時定数τdissは 8 msを示す。より短いFM2-10(炭素鎖数2)は、比較的離脱しやすい(τdiss= 6.4 ms)。逆に、より長いFM1-84 (炭素鎖数5)は離脱に時間がかかる(τdiss= 36 ms)<ref><pubmed> 19580748 </pubmed></ref>。
親水性領域が正の電荷をもつため、膜を通過しない。二重結合の数は蛍光波長に関連する。<br>
二重結合が一つの FM1-43・FM1-84・FM2-10 は黄色蛍光を呈し、二重結合が二つのFM4-64・FM5-95 は赤色蛍光を呈する。<br>
疎水性炭素鎖の長さは細胞膜の染め方に関連し、長いものほど明るく、一旦膜に組み込まれると離脱しがたい<ref><pubmed> 10202529 </pubmed></ref>。
FM1-43の炭素鎖数は4であり、解離時定数τdissは 8 msを示す。より短いFM2-10(炭素鎖数2)は、比較的離脱しやすい(τdiss= 6.4 ms)。逆に、より長いFM1-84 (炭素鎖数5)は離脱に時間がかかる(τdiss= 36 ms)<ref><pubmed> 19580748 </pubmed></ref>。
   
   
'''<br>蛍光特性<br>''' FM1-43 の励起には1光子では波長480nm光、2光子では波長840 nm 光が頻用される。<br>
極大蛍光波長はリポゾーム中にて 580 nm である。<br>
波長480 nm光の高出力励起(~150 μW)にてジアミノベンゼン(DAB)の光変換(photoconversion) を起こす。そのため、アルデヒドで固定可能な色素:FM1-43FX と DAB を細胞に与え、光変換させると、共局在部位で電子密度の高い産物が作られ、電子顕微鏡観察が可能となる。FM1-43を取り込んだ小胞が、高い電子密度で描出され、微細構造解析に利用されている。 <br>


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<br>蛍光特性 FM1-43 の励起には1光子では波長480nm光、2光子では波長840 nm 光が頻用される。極大蛍光波長はリポゾーム中にて 580 nm である。波長480 nm光の高出力励起(~150 μW)にてジアミノベンゼン(DAB)の光変換(photoconversion) を起こす。そのため、アルデヒドで固定可能な色素:FM1-43FX と DAB を細胞に与え、光変換させると、共局在部位で電子密度の高い産物が作られ、電子顕微鏡観察が可能となる。FM1-43を取り込んだ小胞が、高い電子密度で描出され、微細構造解析に利用されている。
'''応用例<br>'''シナプス前機能の解析シナプス前終末における 小胞プールの大きさと開口放出量の測定。細胞外をFM1-43 で還流中に、短い放出刺激を与え(例 20 Hz、30 発)、開口放出した小胞の膜を染める。  
 
応用例シナプス前機能の解析シナプス前終末における 小胞プールの大きさと開口放出量の測定。細胞外をFM1-43 で還流中に、短い放出刺激を与え(例 20 Hz、30 発)、開口放出した小胞の膜を染める。  


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FM色素には、炭素鎖数の異なる複数種類の色素がある。これらが小胞膜を染める頻度を比較することにより、融合細孔の開放時間の長短が識別可能となる。FM2-10やFM1-43色素を用い、顆粒膜から離脱する完全融合型(full fusion)と、離脱しない不完全融合型(incomplete fusion)の識別が行われた<ref><pubmed> 9707119 </pubmed></ref>  <ref><pubmed> 12354398 </pubmed></ref>。
FM色素には、炭素鎖数の異なる複数種類の色素がある。これらが小胞膜を染める頻度を比較することにより、融合細孔の開放時間の長短が識別可能となる。FM2-10やFM1-43色素を用い、顆粒膜から離脱する完全融合型(full fusion)と、離脱しない不完全融合型(incomplete fusion)の識別が行われた<ref><pubmed> 9707119 </pubmed></ref>  <ref><pubmed> 12354398 </pubmed></ref>。
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開口放出現象の可視化<br>'''FM1-43を網膜双極性細胞のシナプス小胞に取り込ませて標識し、TIRF顕微鏡で細胞膜直下(~100nm)の観察を行い、単一小胞の開口放出現象の可視化が報告された<ref><pubmed> 10972279 </pubmed></ref> 。また、下垂体前葉細胞 (lactotrophs) や膵島細胞においても、大型有芯小胞の膜融合に伴い、開口放出部位においてFM1-43蛍光強度の上昇が報告された <ref><pubmed> 10953007 </pubmed></ref>。


開口放出現象の可視化 FM1-43を網膜双極性細胞のシナプス小胞に取り込ませて標識し、TIRF顕微鏡で細胞膜直下(~100nm)の観察を行い、単一小胞の開口放出現象の可視化が報告された<ref><pubmed> 10972279 </pubmed></ref> 。また、下垂体前葉細胞 (lactotrophs) や膵島細胞においても、大型有芯小胞の膜融合に伴い、開口放出部位においてFM1-43蛍光強度の上昇が報告された <ref><pubmed> 10953007 </pubmed></ref>
'''<br>分泌小胞の直径測定<br>'''シナプス小胞から大型有芯小胞に至るまで、小胞の直径計測に有効である <ref><pubmed> 16150799 </pubmed></ref>。水溶性色素(赤色 sulforhodamine B) とFM1-43を細胞外液に同時に与え、開口放出を誘発すると、水溶性色素は小胞内部に進入し、FM1-43は細胞外膜から小胞内膜へ拡散するため、開口放出した小胞が両色素で描出される。この際2光子励起画像を取得し、双方の色素の増加分の比を求めると小胞直径が計算される(直径=6 ΔSRB/ΔFM1-43)。本法は色素濃度やレンズ特性(point-spread function)によらず、シナプス小胞のような光学解像度以下の器官の計測にも応用可能である。  
 
<br>分泌小胞の直径測定シナプス小胞から大型有芯小胞に至るまで、小胞の直径計測に有効である <ref><pubmed> 16150799 </pubmed></ref>。水溶性色素(赤色 sulforhodamine B) とFM1-43を細胞外液に同時に与え、開口放出を誘発すると、水溶性色素は小胞内部に進入し、FM1-43は細胞外膜から小胞内膜へ拡散するため、開口放出した小胞が両色素で描出される。この際2光子励起画像を取得し、双方の色素の増加分の比を求めると小胞直径が計算される(直径=6 ΔSRB/ΔFM1-43)。本法は色素濃度やレンズ特性(point-spread function)によらず、シナプス小胞のような光学解像度以下の器官の計測にも応用可能である。  


<references/>
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