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英:G protein-coupled receptor 英略称:GPCR 独:G-Protein gekoppelten Rezeptors 仏:récepteur couplé aux protéines G | |||
同義語:7回膜貫通型受容体 (seven transmembrane receptor) | |||
類義語:代謝活性型受容体 (metabotropic receptor)、 代謝型受容体、代謝調節型受容体 | |||
[[ファイル:naokoadachi_Fig_1.jpg|400px|thumb|right|''' | {{box|text= 代謝活性型受容体とは真核細胞の細胞質膜上もしくは、細胞内部の構成膜上に存在する受容体の一種。神経伝達物質と結合し細胞内に情報伝達を引き起こす受容体には、大きく分けてイオンを直接透過させるイオンチャネル型受容体と代謝活性型受容体の二つがある。ここでは代謝活性型受容体のうち三量体Gタンパク質と共役し細胞内に情報を伝達するGタンパク質共役型受容体(Gタンパク質共役型受容体)に焦点を絞り説明する。<u>(編集部コメント:Gタンパク質共役型受容体に項目名を変えましたので、それに絞った抄録を御記述頂けないでしょうか。1段落程度でお願いいたします。)</u> }} | ||
[[ファイル:naokoadachi_Fig_1.jpg|400px|thumb|right|'''図.Gタンパク質共役型受容体の構造と翻訳後修飾(クラスA)''']] | |||
==Gタンパク質共役型受容体とは== | ==Gタンパク質共役型受容体とは== | ||
Gタンパク質共役型受容体は別名7回膜貫通型受容体と言われるように、7つのαへリックス構造が細胞質膜を貫通し、N末端は細胞外にC末端領域は細胞内に位置する。細胞外からの様々なシグナル([[神経伝達物質]]、[[ホルモン]]、化学物質、光等)を受容すると、Gタンパク質共役型受容体は構造変化を起こし、細胞質側に結合している[[三量体Gタンパク質]]に対して[[グアニンヌクレオチド交換因子]](GEF)として働く。 | |||
GDP型からGTP型へと変換されたGタンパク質は、つづいて[[効果器]]の活性を変化させることで、細胞外シグナルが細胞内へと伝達される。現在使用されている薬剤のおよそ40% | GDP型からGTP型へと変換されたGタンパク質は、つづいて[[効果器]]の活性を変化させることで、細胞外シグナルが細胞内へと伝達される。現在使用されている薬剤のおよそ40%がGタンパク質共役型受容体を標的としており、Gタンパク質共役型受容体の機構解明に大きく貢献した[[wj:ブライアン・コビルカ|Brian K. Kobilka]]と[[wj:ロバート・レフコウィッツ|Robert J. Lefkowitz]]が2012年に[[wj:ノーベル化学賞|ノーベル化学賞]]を共同受賞した<ref><pubmed> 23412332 </pubmed></ref>。 | ||
== 分類 == | == 分類 == | ||
[[ヒト]] | [[ヒト]]では800種以上のGタンパク質共役型受容体が見つかっており、その半数は[[感覚]]([[嗅覚]]、[[味覚]]、[[視覚]]、[[フェロモン]])に対する[[受容体]]である。残りの半数の内、3分の2はその他の様々な生理機能(神経系、[[内分泌]]系)に関与し、3分の1は生理的なリガンドが不明もしくは機能不明な[[オーファン受容体]](orphan receptor)である<ref><pubmed> 26582914 </pubmed></ref>。これまでに様々な方法で分類が試みられているが、ここでは代表的なクラスの概要を説明する。 | ||
=== クラス A: ロドプシン様受容体 === | === クラス A: ロドプシン様受容体 === | ||
N末端の細胞外領域が比較的短く、複数個の膜貫通領域によってリガンド結合部位が形成される。全Gタンパク質共役型受容体の85%を占める古典的なGタンパク質共役型受容体であり、[[ロドプシン]]、[[アドレナリン受容体]]、[[ムスカリン性アセチルコリン受容体]]、[[嗅覚受容体]]などを含む。クラスA受容体はさらにリガンドの種類によってA1-A19のサブグループに分けられている。 | |||
クラス A | クラス A のGタンパク質共役型受容体に保存されているアミノ酸配列として3つ目の膜貫通領域の細胞質側に位置するE/DRY(Asp/Glu, Arg, Tyr)モチーフがある。ロドプシンの結晶構造解析により、E/DRYモチーフのアルギニン(塩基性アミノ酸)は6番目の膜貫通領域の細胞質側に位置する保存された酸性アミノ酸([[グルタミン酸]]/[[アスパラギン酸]])と非共有結合(イオンロック;ionic lock)を作り、不活性型の構造を取ることが報告されている。これらの受容体ではE/DRYモチーフに変異を加えると恒常的に活性化状態を示す。一方で、恒常的活性化状態をとらない受容体も存在し、リガンド結合の変化、Gタンパク質シグナルの変化等を示す受容体も存在するが、E/DRYモチーフが受容体の機能に需要なのには変わりない<ref><pubmed> 12627940 </pubmed></ref><ref><pubmed> 17192495 </pubmed></ref>。 | ||
=== クラス B: セクレチン様受容体 === | === クラス B: セクレチン様受容体 === | ||
N末端側の細胞外領域が長くリガンド結合部位を形成する。[[セクレチン様]]と[[ | N末端側の細胞外領域が長くリガンド結合部位を形成する。[[セクレチン様]]と[[Adhesion型Gタンパク質共役型受容体]]の2つのサブグループに分けられる。セクレチン様受容体には[[セクレチン]]、[[グルカゴン]]、[[グルカゴン様ペプチド]](GLP)、[[カルシトニン]]、[[副甲状腺ホルモン]]等のペプチドホルモンに結合する受容体がある。一方で、Adhesion型Gタンパク質共役型受容体は巨大なN末端部位に様々なドメイン構造を持ち細胞外マトリックスとの相互作用が示唆されているが、その多くはリガンドが不明である<ref><pubmed> 23863939 </pubmed></ref>。 | ||
=== クラス C: 代謝型グルタミン酸受容体 === | === クラス C: 代謝型グルタミン酸受容体 === | ||
[[代謝型グルタミン酸受容体]]の他に、[[GABAB受容体|GABA<sub>B</sub>受容体]]、[[カルシウム感知受容体]]、[[味覚受容体]]がこのクラスに含まれる。N末端側の細胞外領域に[[Venus flytrap(VFT)ドメイン]]を持ち<ref><pubmed> 10224098 </pubmed></ref>、さらに、GABA<sub>B</sub>受容体以外は[[システインリッチ(CRD)ドメイン]]構造を持つ<ref><pubmed> 24305054 </pubmed></ref>。細胞外領域に結合する生理的リガンド(orthosteric ligand)に加えて、膜貫通領域部位に結合し受容体の活性状態を変化させる[[アロステリックリガンド]](allosteric ligand)を持つ受容体も報告されている<ref><pubmed> 23903222 </pubmed></ref>。 | [[代謝型グルタミン酸受容体]]の他に、[[GABAB受容体|GABA<sub>B</sub>受容体]]、[[カルシウム感知受容体]]、[[味覚受容体]]がこのクラスに含まれる。N末端側の細胞外領域に[[Venus flytrapドメイン|Venus flytrap(VFT)ドメイン]]を持ち<ref><pubmed> 10224098 </pubmed></ref>、さらに、GABA<sub>B</sub>受容体以外は[[システインリッチドメイン|システインリッチ(CRD)ドメイン]]構造を持つ<ref><pubmed> 24305054 </pubmed></ref>。細胞外領域に結合する生理的リガンド(orthosteric ligand)に加えて、膜貫通領域部位に結合し受容体の活性状態を変化させる[[アロステリックリガンド]](allosteric ligand)を持つ受容体も報告されている<ref><pubmed> 23903222 </pubmed></ref>。 | ||
=== クラス F: Frizzled/Smoothened === | === クラス F: Frizzled/Smoothened === | ||
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== 翻訳後修飾による調節 == | == 翻訳後修飾による調節 == | ||
Gタンパク質共役型受容体は細胞質膜を貫通する7つのαへリックス構造をもち、N末端側が細胞外にC末端側が細胞内に存在し、3つの細胞外ループ(Extracellular loop; ECL1/2/3)と3つの細胞内ループ(Intracellular loop; ICL1/2/3)を持つ。数多くの[[翻訳後修飾]]によるGタンパク質共役型受容体の機能調節が報告されており、以下に代表的なものをあげる。ただし、800種以上あるGタンパク質共役型受容体の中には例外も存在する。 | |||
=== 糖鎖修飾 === | === 糖鎖修飾 === | ||
多くのGタンパク質共役型受容体のN末端領域と細胞外ループは[[糖鎖修飾]]を受ける。最もよく知られているのが[[N型グリコシル化]]で受容体タンパク質の合成過程において[[粗面小胞体]]で[[オリゴ糖トランスフェラーゼ]]によって付加される。N型グリコシル化のコンセンサス配列はAsn-X-Ser/Thr(XはPro以外のアミノ酸)であり、[[アスパラギン]](Asn)に修飾を受ける<ref><pubmed> 6847620 </pubmed></ref>。多くのクラスAのGタンパク質共役型受容体では1~複数個の、クラスB及びクラスCのGタンパク質共役型受容体ではそれより多くの糖鎖修飾付加が報告されており<ref><pubmed> 10465525 </pubmed></ref><ref><pubmed> 25981296 </pubmed></ref>、細胞質膜上への発現や輸送、リガンドとの結合、Gタンパク質との結合<ref><pubmed> 26100877 </pubmed></ref>等への影響が報告されている。 | |||
=== ジスルフィド結合 === | === ジスルフィド結合 === | ||
クラスAのGタンパク質共役型受容体ではN末端細胞外領域と細胞外ループに、クラスBやクラスCでは細胞外領域のドメイン内部において2つの[[システイン]]残基間の[[wj:共有結合|共有結合]]([[wj:S-S結合|S-S結合]])が複数存在する。[[wj:ジスルフィド結合|ジスルフィド結合]]は[[小胞体]]で[[タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ]]を介して行われ、受容体の構造の安定化、細胞外ドメインの形成、リガンドの結合等に関与する<ref><pubmed> 25981296 </pubmed></ref>。 | |||
=== パルミトイル化 === | === パルミトイル化 === | ||
多くのGタンパク質共役型受容体では7番目の膜貫通領域直近のC末端側領域に存在する保存されたシステイン残基が[[S-パルミトイル化]]修飾を受ける。[[パルミトイル化|S-パルミトイル化]]修飾とは[[wj:飽和脂肪酸|飽和脂肪酸]]である[[wj:パルミチン酸|パルミチン酸]]( C<sub>16</sub>H<sub>32</sub>O<sub>2</sub>)がシステイン残基の[[wj:チオール基|チオール基]]に[[wj:チオエステル結合|チオエステル結合]]で付加される可逆的な修飾であり、細胞質側に存在する[[DHHCタンパク質]]ファミリーを介する<ref><pubmed> 20168314 </pubmed></ref>。多くはC末端領域に1~3個のパルミトイル化修飾が見つかっておりパルミトイル化されたC末端領域は新たな細胞内ループを形成する。パルミトイル化修飾によるGタンパク質共役型受容体の機能調節は多岐に渡り、各受容体によって異なるが、受容体の成熟、[[細胞質膜]]へ発現や輸送、Gタンパク質との結合への影響、[[脱感作]]や[[インターナリゼーション]]に関与することが報告されている<ref><pubmed> 19131499 </pubmed></ref>。 | |||
=== リン酸化 === | === リン酸化 === | ||
多くのGタンパク質共役型受容体は細胞内ループと細胞質側に位置するC末端側領域に[[リン酸化]]修飾を受ける[[セリン]]、[[スレオニン]]残基を持つ。リガンドと結合した受容体はGタンパク質または、他の結合タンパク質を介して下流にシグナルを伝達し、活性化した[[タンパク質リン酸化酵素]]([[タンパク質リン酸化酵素A]];[[PKA]]、[[タンパク質リン酸化酵素C]];[[PKC]]、[[Gタンパク質共役型受容体キナーゼ]];[[GRK]]等)によりリン酸化修飾される。 | |||
一般的にリン酸化された受容体は構造変化、もしくは、[[βアレスチン]]と結合することでGタンパク質との結合を阻害されGタンパク質を介したシグナルは収束し脱感作する。また、βアレスチンと結合した受容体は[[クラスリン]]と結合しエンドサイト―シスによって細胞質膜上より取り除かれる。 | 一般的にリン酸化された受容体は構造変化、もしくは、[[βアレスチン]]と結合することでGタンパク質との結合を阻害されGタンパク質を介したシグナルは収束し脱感作する。また、βアレスチンと結合した受容体は[[クラスリン]]と結合しエンドサイト―シスによって細胞質膜上より取り除かれる。 | ||
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=== その他 === | === その他 === | ||
その他にもGタンパク質共役型受容体は多彩な翻訳後修飾が報告されており、[[ユビキチン]]化による受容体の分解や細胞内輸送、[[SUMO]]化による受容体の安定性の向上等がある。 | |||
== | == Gタンパク質共役型受容体シグナル経路 == | ||
=== Gタンパク質シグナリング === | === Gタンパク質シグナリング === | ||
Gタンパク質共役型受容体に共役しているGタンパク質はα、β、γの三つのサブユニットの複合体であり、βとγサブユニットは常に複合体で挙動する。Gタンパク質共役型受容体が不活性状態であるとき、Gタンパク質は三量体G<sub>αγβ</sub>として存在しG<sub>α</sub>はGDPと結合しており不活性型をとる。Gタンパク質共役型受容体にリガンドが結合し活性化すると、G<sub>α</sub>はGDPをより高濃度に存在するGTPへ交換し、さらにG<sub>βγ</sub>から解離し活性型となる。解離したG<sub>α</sub>とG<sub>βγ</sub>はそれぞれの効果器にシグナルを伝える。G<sub>α</sub>はGTPアーゼ活性を持つため結合したGTPは時間経過と共にGDPに加水分解される。GDP型G<sub>α</sub>はG<sub>βγ</sub>と再結合し不活性状態三量体G<sub>αγβ</sub>へと戻る。 | |||
==== G<sub>α</sub>シグナリング ==== | ==== G<sub>α</sub>シグナリング ==== | ||
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{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
|+表. Gタンパク質の例 | |||
|- | |- | ||
|'''* G<sub>s</sub> ファミリー'''<br> | |rowspan=2|'''* G<sub>s</sub> ファミリー'''<br> | ||
||G<sub>αs</sub> ; [[アデニル酸シクラーゼ]]を活性化させ細胞内の[[cAMP]]濃度を上昇させる。<br /> | |||
||[[β1/2/3アドレナリン受容体|β<sub>1/2/3</sub>アドレナリン受容体]]、[[ヒスタミンH2受容体|ヒスタミンH<sub>2</sub>受容体]]<br /> | |||
|-G<sub>αolf</sub> ; アデニル酸シクラーゼを活性化させ細胞内のcAMP濃度を上昇させる(嗅覚受容体)。<br /> | |||
|- | |- | ||
|'''* G<sub>i/o</sub> ファミリー'''<br> | |'''* G<sub>i/o</sub> ファミリー'''<br> | ||
93行目: | 93行目: | ||
==== G<sub>βγ</sub>シグナリング ==== | ==== G<sub>βγ</sub>シグナリング ==== | ||
G<sub>βγ</sub>と結合したG<sub>α</sub>は[[GDP]]との親和性が上がることから、G<sub>βγ</sub>の第一の機能はG<sub>αβγ</sub>三量体を不活性状態に保つことだと考えられる。一方で、G<sub>αi/o</sub> | G<sub>βγ</sub>と結合したG<sub>α</sub>は[[GDP]]との親和性が上がることから、G<sub>βγ</sub>の第一の機能はG<sub>αβγ</sub>三量体を不活性状態に保つことだと考えられる。一方で、G<sub>αi/o</sub>と共役するGタンパク質共役型受容体ではG<sub>βγ</sub>のシグナル伝達が重要となる。G<sub>i/o</sub>はG<sub>s</sub>やG<sub>q</sub>と比較して細胞内に高濃度で存在するため、G<sub>αi/o</sub>共役型Gタンパク質共役型受容体が活性化すると放出されるG<sub>βγ</sub>の量は多くなる。G<sub>βγ</sub>はG<sub>αi/o</sub>共役型Gタンパク質共役型受容体の下流で[[Gタンパク質活性化カリウム]]([[GIRK]])チャネルや[[P/Q型]]と[[N型]]の[[電位依存性カルシウムチャネル]]、さらには[[ホスホリパーゼC]]、[[PI3キナーゼ|PI<sub>3</sub>キナーゼ]]などを活性化することが知られている。 | ||
=== Gタンパク質非依存的シグナリング === | === Gタンパク質非依存的シグナリング === | ||
117行目: | 117行目: | ||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references /> | <references />Gタンパク質共役型受容体 |