「神経筋接合部」の版間の差分

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=研究=<br> 神経筋接合部は、神経科学研究の良い材料として使われてきた。まず、第1に、神経伝達物質放出機構に関する研究が行われ、数々の重要な知見が得られた。たとえば、カエルの神経筋接合部を用いて、神経伝達物質放出には細胞外のカルシウムイオンが必要であること3が示され、アセチルコリン放出は、一定の単位ずつ行われるという量子仮説が提唱された4。さらに、ひとつの量子は、アセチルコリン約7000分子からなることが示された5。第2に、シナプスがどのように形成されるかという研究にも用いられてきた。基底膜のように神経筋接合部特有の構造もあるが、基本的なシナプス前後の構造、例えば、アクティブゾーンや受容体集積部位などは、神経―神経間のシナプスと同様の構造であり、共通のシナプス形成機構が存在すると考えられ、良いモデル系となっている。神経終末が筋肉細胞に接触すると、数時間のうちに、アセチルコリン受容体の集積が開始される6。このアセチルコリン受容体の集積は、コリン作動性神経終末特異的であり、神経細胞から集積を促す分子が分泌されていると考えられ、アグリンが同定された7。アグリンは、ヘパラン硫酸プロテオグリカンであり、ラミニンやヘパリン、ヘパリン結合タンパク質、インテグリンなどと相互作用する部位をもつ8。さらに、アグリンの受容体の一部として、muscle-specific receptor tyrosine kinase (MuSK)が同定され9、以降、シナプス後部の構造構築に働く細胞内シグナル機構の研究が盛んに行われている。近年では、分泌型glycoproteinであるWntがMuSKのリガンドとして働く可能性が示され10、研究の新展開が見られる。アセチルコリン受容体の集合だけでなく、合成も神経細胞の接触により引き起こされることも示されている2。このようなシナプス形成の良いモデルとなっているだけでなく、脊椎動物の神経筋接合部は、シナプス競合のモデルとしても研究が盛んである。発生初期において、一本の筋繊維上に、複数の神経繊維の終末がシナプスを形成するが、やがて、一本の神経繊維からの終末だけが残るようになる。これは、複数の神経終末間で競合が起こり、シナプス除去の機構が働いた結果起こると考えられている11, 12, 13。シナプス除去は、神経活動依存的に筋肉細胞側からの因子を奪い合う結果起こる可能性が考えられている14。<br>シナプス形成の研究では、近年、無脊椎動物であるショウジョウバエの幼虫の神経筋接合部を用いての研究も盛んになった。ショジョウバエ幼虫神経筋接合部では、神経伝達物質としてグルタミン酸が用いられている。どの神経繊維がどの筋肉細胞に接合部を形成するかが同定されており、シナプス形成機構研究の良いモデル系となっている。この系を用いて、運動神経細胞による特異的標的選択機構が研究され、運動神経細胞とその標的の筋肉細胞には、細胞表面に存在し、目印として働くと考えられる同じ標的認識分子が発現していることが明らかになった15。さらに、脊椎動物において、神経軸索の誘導や反発因子として働いているネトリン、セマフォリンのショウジョウバエホモログも、特定の筋肉細胞において発現し、標的選択機構に関与することが示されている16。また最近、Wntシグナルが神経筋接合部の特異性に関わることが明らかになっている17。ショジョウバエ幼虫神経筋接合部では、脊椎動物と異なり、発生過程において、最初から、決まった神経繊維が特定の筋肉細胞にシナプスを形成し、シナプス除去の機構はあまり必要ないと考えられていたが、近年では、神経活動を抑制すると、多シナプス状態が見られる18ことから、不要なシナプスを作らないようにする機構も存在していると考えられる。脊椎動物の骨格筋とは異なり、幼虫の筋肉細胞には電位依存性ナトリウムチャンネルが存在せず、脱分極が広がらないため、筋肉細胞の大きさに合わせて、神経終末の拡大がみられる。このため、筋肉細胞の成長に合わせたシナプス成熟・大きさの調節に関わる分子機構解明のための良いモデルともなっている。この過程には、筋肉細胞からの逆行性因子が関わっていると考えられ、成長因子、bone morphogenetic protein (BMP)シグナル系19やCaMKII20, 21が関与している可能性が示唆されている。<br>
=研究=<br> 神経筋接合部は、神経科学研究の良い材料として使われてきた。まず、第1に、神経伝達物質放出機構に関する研究が行われ、数々の重要な知見が得られた。たとえば、カエルの神経筋接合部を用いて、神経伝達物質放出には細胞外のカルシウムイオンが必要であること3が示され、アセチルコリン放出は、一定の単位ずつ行われるという量子仮説が提唱された4。さらに、ひとつの量子は、アセチルコリン約7000分子からなることが示された5。第2に、シナプスがどのように形成されるかという研究にも用いられてきた。基底膜のように神経筋接合部特有の構造もあるが、基本的なシナプス前後の構造、例えば、アクティブゾーンや受容体集積部位などは、神経―神経間のシナプスと同様の構造であり、共通のシナプス形成機構が存在すると考えられ、良いモデル系となっている。神経終末が筋肉細胞に接触すると、数時間のうちに、アセチルコリン受容体の集積が開始される6。このアセチルコリン受容体の集積は、コリン作動性神経終末特異的であり、神経細胞から集積を促す分子が分泌されていると考えられ、アグリンが同定された7。アグリンは、ヘパラン硫酸プロテオグリカンであり、ラミニンやヘパリン、ヘパリン結合タンパク質、インテグリンなどと相互作用する部位をもつ8。さらに、アグリンの受容体の一部として、muscle-specific receptor tyrosine kinase (MuSK)が同定され9、以降、シナプス後部の構造構築に働く細胞内シグナル機構の研究が盛んに行われている。近年では、分泌型glycoproteinであるWntがMuSKのリガンドとして働く可能性が示され10、研究の新展開が見られる。アセチルコリン受容体の集合だけでなく、合成も神経細胞の接触により引き起こされることも示されている2。このようなシナプス形成の良いモデルとなっているだけでなく、脊椎動物の神経筋接合部は、シナプス競合のモデルとしても研究が盛んである。発生初期において、一本の筋繊維上に、複数の神経繊維の終末がシナプスを形成するが、やがて、一本の神経繊維からの終末だけが残るようになる。これは、複数の神経終末間で競合が起こり、シナプス除去の機構が働いた結果起こると考えられている11, 12, 13。シナプス除去は、神経活動依存的に筋肉細胞側からの因子を奪い合う結果起こる可能性が考えられている14。<br>シナプス形成の研究では、近年、無脊椎動物であるショウジョウバエの幼虫の神経筋接合部を用いての研究も盛んになった。ショジョウバエ幼虫神経筋接合部では、神経伝達物質としてグルタミン酸が用いられている。どの神経繊維がどの筋肉細胞に接合部を形成するかが同定されており、シナプス形成機構研究の良いモデル系となっている。この系を用いて、運動神経細胞による特異的標的選択機構が研究され、運動神経細胞とその標的の筋肉細胞には、細胞表面に存在し、目印として働くと考えられる同じ標的認識分子が発現していることが明らかになった15。さらに、脊椎動物において、神経軸索の誘導や反発因子として働いているネトリン、セマフォリンのショウジョウバエホモログも、特定の筋肉細胞において発現し、標的選択機構に関与することが示されている16。また最近、Wntシグナルが神経筋接合部の特異性に関わることが明らかになっている17。ショジョウバエ幼虫神経筋接合部では、脊椎動物と異なり、発生過程において、最初から、決まった神経繊維が特定の筋肉細胞にシナプスを形成し、シナプス除去の機構はあまり必要ないと考えられていたが、近年では、神経活動を抑制すると、多シナプス状態が見られる18ことから、不要なシナプスを作らないようにする機構も存在していると考えられる。脊椎動物の骨格筋とは異なり、幼虫の筋肉細胞には電位依存性ナトリウムチャンネルが存在せず、脱分極が広がらないため、筋肉細胞の大きさに合わせて、神経終末の拡大がみられる。このため、筋肉細胞の成長に合わせたシナプス成熟・大きさの調節に関わる分子機構解明のための良いモデルともなっている。この過程には、筋肉細胞からの逆行性因子が関わっていると考えられ、成長因子、bone morphogenetic protein (BMP)シグナル系19やCaMKII20, 21が関与している可能性が示唆されている。<br>
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