神経筋接合部

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森本 高子
東京薬科大学 生命科学部
DOI:10.14931/bsd.594 原稿受付日:2012年4月26日 原稿完成日:2013年1月28日
担当編集委員:河西 春郎(東京大学 大学院医学系研究科)

英語名:neuromuscular junction

同義語:神経終板

神経筋接合部の模式図

 運動神経終末と筋肉組織の接着部。神経終板とも呼ばれる。シナプスが形成され、筋収縮を引き起こす神経伝達が行われる。脊椎動物の神経筋接合部では、神経終末からアセチルコリンが放出され、筋肉細胞に存在する受容体に受け取られる。これにより、筋肉細胞に脱分極が引き起こされ、通常、活動電位が発生し、筋収縮が引き起こされる。

構造

 図は脊椎動物の神経筋接合部を模式的に示したものである。神経終末と筋肉細胞間にはシナプス間隙(シナプスクレフト)と呼ばれる間隙構造があり、筋肉細胞側にはヒダのような陥没構造が見られる。間隙内には基底膜と呼ばれる細胞外マトリックスが存在している。コラーゲンIV、ラミニンアセチルコリンエステラーゼヘパラン硫酸プロテオグリカンなどが主な成分である。前シナプス側である神経終末には、神経伝達物質、アセチルコリンを含んだシナプス小胞が多数存在し、特に、シナプス小胞が集まっている場所をアクティブゾーンと呼ぶ。アクティブゾーン近傍には、電位依存性カルシウムチャンネルが存在し、運動神経の興奮に伴って、速やかな伝達物質放出が可能になっている。小胞にはこれ以外に、電子密度の高い部分を持つ有芯小胞もある。後シナプス側には、伝達物質を受け取るための伝達物質受容体が集合しており、1平方μmあたり、約1万個にも達する。接合部から離れた部位では1平方μmあたり10個程度であることから、その集合度合いは驚異的である。神経筋接合部には神経と筋線維だけでなく、シュワン細胞も存在し、神経終末を覆っている。このシュワン細胞の覆いは、神経終末を保護する働きがある。それ以外にも、神経損傷の際の神経リモデリングなど、積極的に神経筋接合部の形成・維持機能に関わっていることが明らかになりつつある[1] [2] [3]

神経伝達機構

 神経筋接合部は、神経科学研究の良い材料として使われてきた。特に、神経伝達物質放出機構に関する研究が行われ、数々の重要な知見が得られた。最初の化学伝達についての言及がなされたのは、脊椎動物の神経筋接合部を用いてである。神経終末からアセチルコリンが放出され、筋収縮が起こるということが示された[4]。また、カエルの神経筋接合部を用いて、神経伝達物質放出には、神経終末膜の脱分極時に細胞外のカルシウムイオンが必要であることが、カルシウムイオンの微小イオン電気泳動法による投与により示された[5]。さらに、アセチルコリン放出は、一定の単位ずつ行われるという量子仮説が提唱された[6]。カエルの神経筋接合部の微小終板電位を測定すると、電位の大きさは、最小のものの整数倍になっており、伝達物質放出の量子性が推測された。通常の終板電位に対しても、哺乳類神経筋接合部において、高マグネシウム下での測定により、量子性について確認された[7]。また、ヘビの神経筋接合部において、非常に細いガラス電極を用いたアセチルコリンの微小電気泳動法による投与により、ひとつの量子は、アセチルコリン約7000分子からなることが示された[8]。 最初に精製され遺伝子配列が決定された神経伝達物質受容体は、ニコチン性アセチルコリン受容体である[9]

シナプス形成に関わる分子機構

 脊椎動物の神経筋接合部を用いて、発生過程におけるシナプス形成過程の分子機構の研究が進められた。ヒダ状の構造のように神経筋接合部特有の構造もあるが、基本的なシナプス前後の構造、例えば、アクティブゾーンや受容体集積部位などは、神経―神経間のシナプスと同様の構造であり、共通のシナプス形成機構が存在すると考えられ、良いモデル系となっている。Xenopus胚から単離・培養された神経筋接合部のモデル系を用いて、神経が筋線維に接触前の成長円錐の状態でも神経伝達物質を放出することができること[10]、神経終末が筋肉細胞に接触すると、数秒以内にアセチルコリン放出が観測され、20分後には放出量の増大が見られた。このことから、筋肉細胞と神経終末が接触すると数分以内に、機能的なシナプス結合が形成されはじめることが明らかになった[11]。シナプス構造の分化過程のうちシナプス部へのアセチルコリン受容体の集積は、最初に、神経終末が筋肉細胞に接触してから、数時間以内に始まる。神経筋接合部におけるアセチルコリン受容体の集積は、コリン作動性神経終末特異的であり、神経細胞から集積を促す分子が分泌されていると考えられ、アグリンというタンパク質が同定された[12]。アグリンは、ヘパラン硫酸プロテオグリカンであり、ラミニンやヘパリン、ヘパリン結合タンパク質、インテグリンなどと相互作用する部位をもち[13]、運動神経終末から分泌され、シナプス間隙内の基底膜成分の一つとして組み込まれる。さらに、アグリンの受容体の一部として、muscle-specific receptor tyrosine kinase (MuSK)が同定され[14]、以降、シナプス後部の構造構築に働く細胞内シグナル機構の研究が盛んに行われている。近年では、分泌型glycoproteinであるWntがMuSKのリガンドとして働く可能性が示され[15]、研究の新展開が見られる。アセチルコリン受容体の集合だけでなく、合成も神経細胞の接触により引き起こされ[1]、神経由来のシナプス特異的な伝達物質受容体の転写を誘導する因子の関与が示唆されている[3]。生体内において、アセチルコリン受容体の転写は、シナプス直近の核で、他の核よりも高くなっていることが示されている[9]

シナプス除去に関わる分子機構

 脊椎動物の神経筋接合部は、初期シナプス形成の良いモデルとなっているだけでなく、出来上がったシナプスが再編される過程であるシナプス競合のモデルとしても研究が盛んである。脊椎動物の神経筋接合部では、発生初期において、一本の筋線維上に、複数の神経線維の終末がシナプスを形成する。最終的に、単一の運動神経から強いシナプス入力を受け取る筋線維では、やがて、一本の神経線維からの終末だけが残るように他の神経線維からの終末は除去される。これは、複数の神経終末間で競合が起こり、シナプス除去の機構が働いた結果起こると考えられている[16] [17] [18]。シナプス除去は、神経細胞の活動を抑制すると、抑制されることから、神経活動依存的であることが示されている[19]。アセチルコリンのアンタゴニスト、α-Bungarotoxinを微小領域に投与すると、投与された領域はシナプス除去される。しかし、筋線維全体にα-Bungarotoxinが投与されると、シナプス競合は起こらない[20]。これらのことから、神経活動依存的に筋肉細胞側からの因子(神経栄養因子など)を奪い合う結果、シナプス競合・除去が起こる可能性や、筋肉側から、シナプスを除去するような因子が放出されていて、活動の高い神経終末は、その毒性から守られているという可能性や、活動の高いシナプスでは、筋肉内でシナプスを保護する機構が活性化され、さらに、それ以外のシナプスを除去する機構も活性化させるという仮説が、考えられている[9]

無脊椎動物の神経筋接合部

 神経筋接合部を用いた研究において、無脊椎動物の神経筋接合部は優れた研究対象となっている。特に、遺伝学的手法・分子生物学的手法が容易に用いることができ、機能分子の同定が容易に行えるキイロショウジョウバエ胚および幼虫の体壁筋の神経筋接合部を用いての研究が盛んになった。室温(25度)の下、卵内において産卵後約13時間までに、筋肉細胞の融合が完成し、運動神経の成長円錐が、筋組織の表面に到達し、接触を開始する。産卵後約14-15時間には、機能的なシナプスが、筋肉細胞上に形成され初め、産卵後約21時間で初期の機能的神経筋接合部が出来上がり、卵は孵化し、1齢幼虫となる。その後、2齢幼虫、3齢幼虫期を経て、化する。幼虫期は、全体で、約6日間である。半体節に30本の筋肉細胞が規則正しく配列しており、この構造が各体節左右で繰り返されている。約35個の運動神経細胞がこの30本の筋肉細胞を支配している[21]。どの神経細胞がどの筋肉細胞に接合部を形成するかが1細胞レベルで同定されており、シナプス形成機構研究の良いモデル系となっている. また、1齢幼虫から3齢幼虫まで、体は10倍以上伸張し、筋肉細胞も成長する。神経終末もそれに合わせて成長するため、標的細胞に合わせたシナプス形成・成熟機構の良いモデルとなっている。

脊椎動物の神経筋接合部との共通点

基本的なシナプス構造、シナプス前細胞内での、シナプス小胞の集積、シナプス後細胞における伝達物質受容体の集積などは共通である。シナプスを構成する多くのタンパク質も共通もしくは類似している。発生過程における、神経伝達物質受容体の集積と発現が神経細胞の支配に依存しておこることも共通である。また、脊椎動物の神経筋接合部とは異なり、発生過程において、最初から、決まった神経線維が特定の筋肉細胞にシナプスを形成し、シナプス除去の機構はあまり必要ないと考えられていたが、近年では、神経活動を抑制すると、多シナプス状態が見られる[22]ことから、不要なシナプスを作らないようにする機構も存在している可能性も考えられるている。

脊椎動物の神経筋接合部との異なる点

幼虫の筋肉は単一の多核の細胞であり、脊椎動物のような、多数の筋線維が1つの機能ユニットとして束になっている状態は見られない。成熟した3齢幼虫のシナプス後部側である筋肉細胞の膜は、複雑な何層にも折りたたまれたSubsynaptic reticurumという特殊な構造となっている。神経伝達物質としてはアセチルコリンではなく、グルタミン酸が用いられている。脊椎動物の骨格筋の神経筋接合部は筋肉線維上の比較的中央の決まった場所に神経終末を形成しているが、幼虫の場合、筋肉細胞全体に広がるような神経終末を形成する。また、前述のように、脊椎動物の神経筋接合部においては、神経伝達物質受容体の集積にアグリンが関与しているが、ショウジョウバエでは、ホモログが見つかっていない。

シナプス形成機構に関わる分子機構の同定

この系を用いて、特定の筋肉細胞に発現しているタンパク質のスクリーニングから、いくつかのタンパク質が同定された。これらのタンパク質のうち、シナプス形成時の標的認識機構に関わるタンパク質が同定された。これらは、標的認識分子と呼ばれ、運動神経とそれがシナプスを形成する筋肉細胞との両方に存在し、目印として働くと考られている[23] 。さらに、脊椎動物において、神経軸索の誘導や反発因子として働いているネトリンセマフォリンのショウジョウバエホモログも、特定の筋肉細胞において発現し、標的選択機構に関与することが示されている[24]。また最近、Wntシグナルが神経筋接合部の特異的標的選択機構に関わることが明らかになっている[25]

シナプス成熟機構・可塑性に関わる分子機構の同定

幼虫の成長に伴い、筋肉細胞の成長に合わせた神経終末の成長が見られるため、筋肉細胞の大きさに合わせたシナプス成熟・大きさの調節に関わる分子機構の研究が進められた。一定の筋収縮を維持するためには、一定の神経伝達を維持する必要がある。幼虫の神経筋接合部では、このような恒常的なシナプス形成機構があり、実験的に加えられた変化、たとえば伝達物質受容体欠失個体などにおいて、その変化を補償するような機構が存在し、一定の神経伝達を維持している。この補償機構には、筋肉細胞からの逆行性因子が関わっていると考えられ、成長因子、骨形成因子 (bone morphogenetic protein, BMP)シグナル系[26]CaMKII[27] [28]が関与している可能性が示唆されている。

関連項目

参考文献

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