「産褥期精神障害」の版間の差分

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== 治療 ==
== 治療 ==


 妊産婦に投与された薬物は[[wikipedia:ja:胎盤|胎盤]]を介して児に移行するため、薬物が児の成長・発達に与えるリスクは治療方針を決める上で大きな判断材料となる。すなわち、未治療で経過した場合の精神障害自体の女性や児に対するリスク(自殺企図や低影響など)と、薬物の児へのリスク(催奇形性や発達の遅れ)とが、比較検討されるべきである。治療の詳細については、書籍や総説等<ref>'''石川直子、村瀬聡美、尾崎紀夫'''<br>これだけは知っておきたい女性とうつ病-サインを見逃さないために- 神庭重信 編 妊産婦のうつ病:p.108-116<br>''医薬ジャーナル社(大阪)'':2008</ref><ref>'''村瀬聡美、尾崎紀夫'''<br>精神疾患の薬物療法ガイド 妊娠期・授乳期の精神科薬物療法: p.163-175<br>''星和書店(東京)'':2008</ref><ref>'''久保田智香、岩本邦弘、尾崎紀夫'''<br> Bulletin of Depression and Anxiety Disorders 妊産婦における双極性障害の治療: p.6-8<br>''株式会社シナジー(東京)'':2011</ref>を参照して頂きたい。
 妊産婦に投与された薬物は[[wikipedia:ja:胎盤|胎盤]]を介して児に移行するため、薬物が児の成長・発達に与えるリスクは治療方針を決める上で大きな判断材料となる。すなわち、未治療で経過した場合の精神障害自体の女性や児に対するリスク(自殺企図や低影響など)と、薬物の児へのリスク([[wikipedia:ja:催奇形性|催奇形性]]や発達の遅れ)とが、比較検討されるべきである。治療の詳細については、書籍や総説等<ref>'''石川直子、村瀬聡美、尾崎紀夫'''<br>これだけは知っておきたい女性とうつ病-サインを見逃さないために- 神庭重信 編 妊産婦のうつ病:p.108-116<br>''医薬ジャーナル社(大阪)'':2008</ref><ref>'''村瀬聡美、尾崎紀夫'''<br>精神疾患の薬物療法ガイド 妊娠期・授乳期の精神科薬物療法: p.163-175<br>''星和書店(東京)'':2008</ref><ref>'''久保田智香、岩本邦弘、尾崎紀夫'''<br> Bulletin of Depression and Anxiety Disorders 妊産婦における双極性障害の治療: p.6-8<br>''株式会社シナジー(東京)'':2011</ref>を参照して頂きたい。


 薬物療法以外の治療法としては、認知行動療法や対人関係療法といった、心理社会的治療がある。投薬治療を受けた場合の児への影響を懸念し、心理社会的な治療を希望する妊産婦や家族が多いことも鑑みると、必要に応じて十分な技術をもった心理社会的治療を提供できる体制を整えることが重要であろう。
 薬物療法以外の治療法としては、認知行動療法や対人関係療法といった、心理社会的治療がある。投薬治療を受けた場合の児への影響を懸念し、心理社会的な治療を希望する妊産婦や家族が多いことも鑑みると、必要に応じて十分な技術をもった心理社会的治療を提供できる体制を整えることが重要であろう。


 現在我が国では、妊娠した女性に対し地方自治体が主体となって母子手帳を発行し、定期的な医師の診察を受けるように推奨している。また、自治体が主体となって、あるいは病院が独自に「産前教室」を行うこともあり、これらのサービスがうつ病の予防に役立っているとの報告がある<ref><pubmed>15023486</pubmed></ref>。コミュニティや病院で継続されるこれらの介入が、産褥期うつ病の発症予防の一助となることが期待される。
 現在我が国では、妊娠した女性に対し地方自治体が主体となって[[wikipedia:ja:母子手帳|母子手帳]]を発行し、定期的な医師の診察を受けるように推奨している。また、自治体が主体となって、あるいは病院が独自に「産前教室」を行うこともあり、これらのサービスがうつ病の予防に役立っているとの報告がある<ref><pubmed>15023486</pubmed></ref>。コミュニティや病院で継続されるこれらの介入が、産褥期うつ病の発症予防の一助となることが期待される。


 これまで様々な研究グループにより、産褥期精神障害(特に産褥期うつ病やマタニティーブルーズ)に関する研究が行われているが、いまだ充分とは言えず、病態や診療のあり方について、統一見解が得られていない部分も多い。一般的に治療効果や副作用に関する最も有効なエビデンスを与えてくれる[[ランダム化比較試験]](RCT)は、妊娠中および産後の女性を対象として行うことは倫理的に容認されず、RCT実施は事実上不可能であるため、自然経過から得た知見を蓄積することが重要である。
 これまで様々な研究グループにより、産褥期精神障害(特に産褥期うつ病やマタニティーブルーズ)に関する研究が行われているが、いまだ充分とは言えず、病態や診療のあり方について、統一見解が得られていない部分も多い。一般的に治療効果や副作用に関する最も有効なエビデンスを与えてくれる[[ランダム化比較試験]](RCT)は、妊娠中および産後の女性を対象として行うことは倫理的に容認されず、RCT実施は事実上不可能であるため、自然経過から得た知見を蓄積することが重要である。

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