膜融合

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末次 志郎、坂本 恵香
東京大学 分子細胞生物学研究所 分子機能・形成部門  細胞形態研究分野
DOI:10.14931/bsd.992 原稿受付日:2012年4月16日 原稿完成日:2012年5月11日
担当編集委員:柚崎 通介(慶應義塾大学 医学部生理学)

英:membrane fusion

 膜融合は二つの分かれた脂質二重膜からなる小胞が融合し、一つの小胞になる過程である。ゴルジ体小胞体膜を構成する小胞のように数百nm程度の比較的小さい小胞同士が融合する場合が最も良く研究されている。また、ゴルジ体等から細胞膜に輸送される小胞が最終的には細胞膜と融合する場合もある。この現象は神経伝達物質等の細胞外分泌(Exocytosis)に必要不可欠な過程である。また、より大きな細胞とウイルスの融合、あるいは細胞同士の融合も膜融合の過程ととらえることができる。膜融合は主にタンパク質によって進められ、SNAREが最も代表的なタンパク質群である。

膜融合とは

 ほとんどの細胞内の構造体は、大きさの違いはあるものの、脂質膜による小胞よって構成されている。細胞の脂質膜は、脂質二重膜から構成され、水溶性のシグナル伝達物質等を通すことができない。これらの脂質二重膜小胞の二つが、融合して一つになる現象を、ここでは膜融合と呼ぶ。つまり、膜融合は二つの分かれた脂質二重膜からなる小胞が融合し、一つの小胞になる過程である。膜融合を行う小胞の大きさは様々であり、ゴルジ体小胞体膜を構成する小胞のように数百nm程度の比較的小さい小胞同士が融合する場合が最も良く研究されている。また、ゴルジ体等から細胞膜に輸送される小胞が最終的には細胞膜と融合する場合もある。この現象は神経伝達物質等のエクソサイトーシス(exocytosis; 開口分泌)に必要不可欠な過程である。また、より大きな細胞とウイルスの融合、あるいは細胞同士の融合も膜融合の過程ととらえることができる。

 脂質二重膜の融合は、ほとんどの場合、脂質二重膜同士の繋留(tethering)、二重膜のうちの互いに接する一重膜部分のみの半融合(hemifusion)、残りの遠位の膜の融合と孔形成(full fusion)の順で生じると考えられる。繋留から半融合の過程では、融合する部分の脂質膜の曲率が高まった高エネルギー状態の中間体を取ると考えられる[1] [2]

細胞内小器官の膜融合

 以下に良く研究されている膜融合に関わるタンパク質について述べる。Rab結合タンパク質(Rabエフェクター)、SMタンパク質、Complexinとシナプトタグミンは、SNAREを介した膜融合に関わるが、アトラスチンは、SNARE経路とは独立であると考えられる。

Rab結合タンパク質(Rabエフェクター)

 小胞が膜と結合する最初の段階の繋留には、多種が存在するRab GTPaseに結合するRab 結合タンパク質が関与している場合が多いと考えられる。Rab結合タンパク質には、様々なものがあるが、いずれもSNAREタンパク質と機能的に、または、直接に結合することで、膜の融合を行う。

 Rab結合タンパク質(Rabエフェクター)はGTP結合型の活性化Rabに結合する。これらにはp115(あるいはUso1)やGM130EEA1Exocyst complexなどがあり、いずれもGolgi体や小胞体あるいはエクソサイトーシスにおける膜の融合に関与している。Rabのアミノ酸配列は保存性が高いが、Rab結合タンパク質のドメイン構造は様々である[3] [4]

SNARE

 膜の融合装置の本体と考えられるものは、SNARE(Soluble N-ethylmaleimide sensitive fusion protein attachment protein receptor)タンパク質(SNARE)複合体である。SNAREタンパク質には、多くの場合、標的側と考えられる大きい方の構造体の脂質膜に存在するt-SNARE/Q-SNARE(Qa-SNARE:シンタキシン(Syntaxin)1A/1Bなど、QbあるいはQcあるいはQbc-SNARE:SNAP25(synaptosomal-associated protein 25)など)と小胞側のv-SNARE/R-SNARE(シナプトブレビン/VAMP(vesicle-associated membrane protein)など)が存在している。動物細胞では少なくとも35種、酵母で24種の異なるSNAREが存在しており、それぞれがオルガネラ特有のエクソサイトーシスやエンドサイトーシスに関連している。SNAREには様々な大きさと構造があるが、60-70アミノ酸からなるコイルドコイルを含む共通のSNAREモチーフを持っている。SNAREsが小胞を正しいターゲット膜に融合させるというSNARE仮説が提唱されている。このSNARE複合体の形成には次に述べるSMタンパク質も重要であると考えられる。

 膜の融合過程においては、繋留の後、小胞側のv-SNARE/R-SNAREと標的側のt-SNARE(Qa-SNARE + Qbc-SNAREまたはQa-SNARE + Qc-SNARE + Qc-SAARE)の組み合わせで4つのヘリックス束を形成し、二つの膜をつなぎとめる。この状態をtrans-complexと呼ぶ。この状態で小胞と標的側の膜が近接した状態となり、脂質二重膜の半融合を経て、膜が融合すると考えられている。膜融合の後のv-SNAREとt-SNAREの膜貫通ドメインが同じ膜上にある状態をcis-complexと呼ぶ。この過程(つまり膜融合)は、SNAREタンパク質のtransからcisへのフォールディングの変換に伴うエネルギーの放出を利用する熱力学的な過程と考えられていて、とくにATP等を必要とする訳ではない。しかし、cis-complexのSNAREsにN-ethylmaleimide-sensitive factor (NSF)が結合してATP依存的にSNARE複合体を解離させ、次の融合に備える[5] [6]。この解離とアンフォールディングの過程でATPが消費される。

SMタンパク質

試験管内の再構成実験における膜融合はSNAREのみで十分におこる。しかし、生体内においては、SNAREのtrans-complexの形成には、Munc 18-1などのSM (Sec1/Munc18-like)タンパク質が、重要な役割を果たすと考えられている[7]。SMタンパク質は可溶性のタンパク質であり、t-SNAREにまず結合することで、v-SNAREとt-SNAREの会合を促進し、trans-complexの形成を促進すると考えられている。

Complexinとシナプトタグミン

SNAREのtrans-complexの形成において、実際に二つの膜は近接しているが、その融合には、complexinとシナプトタグミンが、重要な役割を果たしている。

 Complexinは、可溶性のαヘリックスであり、SNAREのtrans-complexに結合することで、trans-complexが膜融合を行い、cis-complexに変換する過程を妨げる。カルシウム濃度が高まると、シナプトタグミンがComplexinを追い出し、膜融合を行う。この機構はカルシウム依存的な、膜の融合に重要であると考えられている[8]

 シナプトタグミン Iは65kDaの膜タンパク質で、膜貫通ドメインと細胞質側の2つのC2ドメインの繰り返しの構造(C2AとC2B)を持っている。膜貫通ドメインでシナプス小胞の膜に存在し、C2ドメインでCa2+の濃度を感知する。このCa2+との結合は、C2ドメインに脂質膜結合能を持たせ、細胞膜側の脂質膜のチューブ化あるいは局所的な曲率の増大を引き起こすと考えられている。この局所的な脂質膜の曲率の増大は、とくにSNAREによる膜の融合を効率化すると考えられる[9] [10]。ここでは、膜のチューブ化がおこればよく、C2ドメインの機能は他の膜チューブ化タンパク質であるBARタンパク質のBARドメインによって代替できることが示されている[11]


アトラスチン

 近年まで、細胞内小器官同士の膜融合においてはSNAREがほとんど唯一知られているものであったが、ER膜融合にはアトラスチンとよばれるダイナミン様のGTPaseが必要なことが明らかになった。ダイナミン(dynamin)のファミリーは大きく、自己集合機構を持つGTPase群であり、ダイナミンそのものはエンドサイトーシスの小胞切断などに関与する。

 アトラスチンはグアニンヌクレオチド結合ドメイン(G)、中間ドメイン(M)、2つの膜貫通ドメイン(TM)と約60アミノ酸から成る細胞質の部分を持つ。アトラスチンが膜融合に関わるモデルは、2つのアトラスチンがGドメインによって二量体を形成することで2つの小胞体膜を引き寄せることで行われると考えられている[12]

ウイルスと宿主細胞の膜融合

 エンベロープウイルスは脂質二重層からなる膜を持つ。ウイルスは細胞の表面タンパク質に結合し、多くの場合エンドサイトーシスを経て、侵入する。エンベローブウイルス表面にあるタンパク質はエンベローブタンパク質と呼ばれ、そのうちのウイルスと宿主細胞の膜融合に関わる膜融合タンパク質は立体構造上の特徴によって2つに分類できる。クラスI融合タンパク質は、インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA2)やエボラウイルスのGP2タンパク質、HIVgp41などに見られる。クラスII融合タンパク質は、セムリキ森林熱ウイルス(SFV)のE1タンパク質やデングウイルスおよびフラビウイルスのEタンパク質等に見られる。ウイルス表面に不活性な膜貫通型ウイルスタンパク質として存在する。

 これらの融合タンパク質は、ウイルスと細胞表面の受容体との結合や、エンドサイトーシス後のエンドソームへの移行に伴うpH変化をきっかけに、融合タンパク質に著しい構造変化がおき、疎水性アミノ酸等の露出を伴って宿主細胞の膜に結合することが可能になる。この際、ウイルス膜と細胞膜が近接し、膜融合が起こると考えられている[13]

ミトコンドリアの融合

 ミトコンドリアは膜融合と分裂を繰り返し、膜タンパク質や内容物を混合する。融合と分裂は通常のミトコンドリアの機能に不可欠である。ミトコンドリアの融合には外膜内膜の融合が含まれる。

 融合にはダイナミン様GTPase群のOpa1mitofusinが関与している。融合はミトコンドリアの外膜に存在する膜貫通型タンパク質のmitofusin(Mfn1, Mfn2)によって、ミトコンドリア同士が結合することから始まる[14] [15] [16]

細胞間の細胞融合

 細胞間の細胞融合には、受精時に生じるもの、筋肉細胞多核化過程で生じるものが著名であるが、これらの膜融合過程におけるSNAREに相当する分子実体は不明である。分子実体の明らかになっている内在性の機構によって生じる細胞融合には、次のようなものがある。線虫(Caenorhabditis elegans)のanchor cellfusion failure-1 (AFF‑1) と epithelial fusion failure-1(EFF‑1)は、細胞をつなぎとめ、神経細胞の回路の形成に関与する細胞融合を媒介すると考えられている[17] [18]Syncytinは胎盤に発現しており、胎盤の外側を取り巻く合胞体性栄養膜を形成する際の栄養膜細胞同士の融合を担う。Syncytinはヒト内在性のレトロウイルスの産生タンパク質である[19] [20]

関連項目

参考文献

  1. McMahon, H.T., Kozlov, M.M., & Martens, S. (2010).
    Membrane curvature in synaptic vesicle fusion and beyond. Cell, 140(5), 601-5. [PubMed:20211126] [WorldCat] [DOI]
  2. Carr, C.M., & Rizo, J. (2010).
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  3. Hutagalung, A.H., & Novick, P.J. (2011).
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  8. Südhof, T.C., & Rothman, J.E. (2009).
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