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[[Image:低分子量Gタンパク質1.png|thumb| | [[Image:低分子量Gタンパク質1.png|thumb|240px|<b>図.低分子量G蛋白質の活性調節と作用機構</b><br>GDIと複合体を形成しているGDP結合型(不活性型)の低分子量G蛋白質はGDF によりGDI が遊離すると、GFFによりGTP結合型(活性型)となり、標的蛋白質に作用する。一方、GTP結合型の低分子量G蛋白質はGAPによりGTPが加水分解されてGDP結合型(不活性型)となる。<br>GDI:GDP解離阻害因子<br>GDF:GDI置換因子<br>GEF:GDP/GTP交換因子<br>GAP:GTPase活性化蛋白質 ]] | ||
低分子量Gタンパク質とは、分子量20-30kDaの[[wikipedia:ja:グアノシン三リン酸|グアノシン三リン酸]](GTP)結合タンパク質である。[[wikipedia:ja:グアノシン二リン酸|グアノシン二リン酸]](GDP)結合型からGTP結合型への転換により活性型となり、特異的な標的分子に結合して[[細胞内シグナル]]を伝達する分子スイッチとして機能する(図)<ref name="ref1"><pubmed>22270915</pubmed></ref>。活性調節は時間的、空間的に制御されており、バイオタイマーとしても機能する<ref name="ref2"><pubmed>11152757</pubmed></ref>。5つのファミリーに分類され、[[細胞増殖|増殖]]、[[分化]]、[[遺伝子発現]]、[[運動]]、[[小胞輸送]]などの細胞機能を制御する(表1)。神経系においては、低分子量G蛋白質は、神経細胞の軸索や樹状突起の伸長といった形態形成、神経細胞間の情報伝達など様々な機能を制御する(表2)。 | 低分子量Gタンパク質とは、分子量20-30kDaの[[wikipedia:ja:グアノシン三リン酸|グアノシン三リン酸]](GTP)結合タンパク質である。[[wikipedia:ja:グアノシン二リン酸|グアノシン二リン酸]](GDP)結合型からGTP結合型への転換により活性型となり、特異的な標的分子に結合して[[細胞内シグナル]]を伝達する分子スイッチとして機能する(図)<ref name="ref1"><pubmed>22270915</pubmed></ref>。活性調節は時間的、空間的に制御されており、バイオタイマーとしても機能する<ref name="ref2"><pubmed>11152757</pubmed></ref>。5つのファミリーに分類され、[[細胞増殖|増殖]]、[[分化]]、[[遺伝子発現]]、[[運動]]、[[小胞輸送]]などの細胞機能を制御する(表1)。神経系においては、低分子量G蛋白質は、神経細胞の軸索や樹状突起の伸長といった形態形成、神経細胞間の情報伝達など様々な機能を制御する(表2)。 |
2012年9月13日 (木) 15:13時点における版
Identifiers | |||||||||
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Symbol | Ras | ||||||||
Pfam | PF00071 | ||||||||
InterPro | IPR013753 | ||||||||
PROSITE | PDOC00017 | ||||||||
SCOP | 5p21 | ||||||||
SUPERFAMILY | 5p21 | ||||||||
OPM protein | 1uad | ||||||||
CDD | cd00882 | ||||||||
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英:small G protein 独:kleine G-Protein 仏:petites protéines G
同義語:低分子量GTPアーゼ (small GTPase)
低分子量Gタンパク質とは、分子量20-30kDaのグアノシン三リン酸(GTP)結合タンパク質である。グアノシン二リン酸(GDP)結合型からGTP結合型への転換により活性型となり、特異的な標的分子に結合して細胞内シグナルを伝達する分子スイッチとして機能する(図)[1]。活性調節は時間的、空間的に制御されており、バイオタイマーとしても機能する[2]。5つのファミリーに分類され、増殖、分化、遺伝子発現、運動、小胞輸送などの細胞機能を制御する(表1)。神経系においては、低分子量G蛋白質は、神経細胞の軸索や樹状突起の伸長といった形態形成、神経細胞間の情報伝達など様々な機能を制御する(表2)。
ファミリー | サブファミリー | 主な機能 |
Ras | Ras, Rap, Ral | 細胞の増殖や分化、遺伝子発現 |
Rho | Rho, Rac, Cdc42 | 細胞の運動、細胞骨格 |
Rab | 小胞輸送 | |
Ran | 細胞質−核間の輸送、有糸分裂の紡錘体集合、微小管構築 | |
Sar/Arf | 小胞輸送 |
表1.低分子量G蛋白質の分類と主な機能
ファミリー | 主な機能 | 参考文献 |
Ras | 神経伝達物質の放出 シナプスの可塑性 |
Ye and Carew TJ, 2010[3] |
Rho | 神経軸索突起の伸長 | Hall and Lalli, 2010[4] |
Rab | 神経軸索突起の伸長 シナプス小胞のエクソサイトーシス、エンドサートーシス、 輸送 |
Ng and Tang, 2008[5] |
Ran | 神経軸索突起の伸長 | Yudin and Fainzilber, 2009[6] |
Sar/Arf | 神経突起の伸長 シナプスの可塑性 |
Jaworski, 2017[7] |
表2.神経系における低分子量G蛋白質の主な機能
低分子量Gタンパク質とは
三量体Gタンパク質に対して、分子量20-30kDaのサブユニット構造を持たないGTP結合タンパク質を低分子量Gタンパク質という。酵母からヒトまでの真核生物に存在する。ヒトやマウスでは150以上の分子からなり[1]、5つのファミリーに分類される(表1)。不活性型のGDP結合型と活性型のGTP結合型が存在し、両者の転換により細胞内シグナルを伝達する分子スイッチとして機能する(図)。なお、低分子量Gタンパク質は低分子量GTPアーゼ(small GTPase)とも表記されるが、GTPase活性のない分子もあることや、他のGTPaseとは異なり、GTPase活性は標的分子への作用には必要なく、作用の終了後に必要であることから、低分子量GTPアーゼよりも低分子量Gタンパク質と表記する方がより適切である。
分類と機能
低分子量Gタンパク質は、Ras[8]、Rho[9]、Rab[10]、Ran[11]、Sar/Arf[12]の5つのファミリーに分類される(表1)。
Rasファミリー
ラットの肉腫から発見されたRas (Rat sarcoma)やRap (Ras-related protein)、Ral (Ras-like)などのサブファミリーからなる。Rasサブファミリーの分子にはH-Ras、K-Ras、N-Rasなど、RapサブファミリーにはRap1A、Rap1B、Rap2A、Rap2B、Rap2C、RalサブファミリーにはRalAとRalBがある。細胞の増殖や分化、遺伝子発現、細胞間接着などを制御する。ras遺伝子の変異は癌遺伝子として機能し、細胞のがん化に関与する。
Rhoファミリー
Rho (Ras homologous)、Rac (Ras-related C3 botulinum toxin substrate)、Cdc42 (cell division cycle42)のサブファミリーからなる。Rhoサブファミリーの分子にはRhoA、RhoB、RhoCなど、RacサブファミリーにはRac1、Rac2、Rac3、Cdc42サブファミリーにはCdc42、TC10、TCLなどがある。細胞骨格の形成を調節して、細胞の運動を制御する。例えば、ヒト線維芽細胞の運動時には、Cdc42はフィロポディアの形成を、Rac はラメリポディアとラッフルの形成を、Rhoはストレスファイバーの形成を制御する。RacはNADPHオキシダーゼの活性化を調節して活性酸素種 (reactive oxygen species: ROS)の産生も制御する。
Rabファミリー
Rab (Rat brain)は、Rab4、Rab5、Rab7、Rab11などの多数の分子からなるファミリーを形成する。ヒトでは約70ものRab分子が同定されている。トランスゴルジネットワーク−エンドソーム間、エンドソーム−細胞膜間、細胞膜−エンドソーム間、エンドソーム−リソソーム間など、細胞内の小胞輸送を制御する。
Ranファミリー
Ran (Ras-related nuclear protein)は細胞質−核間の輸送、有糸分裂の紡錘体集合、微小管構築、核膜形成を制御する。最近では、細胞増殖やがん化との関連も報告されている。
Sar/Arfファミリー
Sar (Secretion-associated and Ras-related)/Arf (ADP-ribosylation factor: ARF)は細胞内の小胞輸送、アクチン線維のリモデリングの制御のほか、NADPHオキシダーゼ、ホスホリパーゼD、ホスファチジルイノシトールキナーゼなどを活性化する。
未分類:
活性調節機構
GFFとGAPによる活性調節
低分子量Gタンパク質は、GDP/GTP交換因子(GDP/GTP exchange factor: GEF)によってGDPとGTPが交換され、GDP結合型からGTP結合型となる結果、活性化される(図)。一方、GTPase活性化タンパク質(GTPase activating protein: GAP)によって低分子量Gタンパク質自身の有するGTPase活性が亢進して、結合しているGTPが加水分解されてGDPとなる結果、不活性化される。
GDFとGDIによる活性調節
Rasを除く低分子量Gタンパク質は、通常、不活性型のGDP結合型の時には、GDP解離阻害因子(GDP dissociation inhibitor: GDI)と複合体を形成して細胞質に存在する(図)。これにより、GDPが解離して活性型に変換されるのが阻害されている。GDI置換因子(GDI displacement factor: GDF)により、GDIが遊離するとGFFによる活性化が可能となる。
プレニル化
低分子量Gタンパク質が細胞膜で活性化されるためには、細胞質から細胞膜に移行して結合する必要がある。低分子量Gタンパク質はC末端側のCys残基がプレニル化されて細胞膜に結合する。プレニル化には、ファルネシル基が結合するファルネシル化とゲラニルゲラニル基が結合するゲラニルゲラニル化がある。Rasはファルネシル化を受けるのに対し、RhoやRabなど多くの低分子量Gタンパク質はゲラニルゲラニル化を受ける。
神経系における低分子量G蛋白質の機能
低分子量G蛋白質は、神経細胞の形態や神経細胞間のシグナル伝達など様々な機能を制御する(表2)。Rasファミリーは、前シナプスからのグルタミン酸やGABAなどの神経伝達物質の放出や後シナプスでのグルタミン酸受容体のターンオーバーを調節し、シナプスの可塑性を制御する[3]。RhoファミリーやRanファミリーは、神経細胞の軸索や樹状突起の伸長など、形態形成を制御する[4] [6]。Rabファミリーは、神経細胞の軸索突起の伸長、シナプス小胞のエクソサイトーシスとエンドサイトーシス、輸送を制御する[5]。Sar/Arfファミリーは、形態形成およびシナプス小胞のエクソサイトーシスとエンドサイトーシスを調節し、シナプスの可塑性を制御する[7]。
参考文献
- ↑ 1.0 1.1
Rojas, A.M., Fuentes, G., Rausell, A., & Valencia, A. (2012).
The Ras protein superfamily: evolutionary tree and role of conserved amino acids. The Journal of cell biology, 196(2), 189-201. [PubMed:22270915] [PMC] [WorldCat] [DOI] - ↑
Takai, Y., Sasaki, T., & Matozaki, T. (2001).
Small GTP-binding proteins. Physiological reviews, 81(1), 153-208. [PubMed:11152757] [WorldCat] [DOI] - ↑ 3.0 3.1
Ye, X., & Carew, T.J. (2010).
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Hall, A., & Lalli, G. (2010).
Rho and Ras GTPases in axon growth, guidance, and branching. Cold Spring Harbor perspectives in biology, 2(2), a001818. [PubMed:20182621] [PMC] [WorldCat] [DOI] - ↑ 5.0 5.1
Ng, E.L., & Tang, B.L. (2008).
Rab GTPases and their roles in brain neurons and glia. Brain research reviews, 58(1), 236-46. [PubMed:18485483] [WorldCat] [DOI] - ↑ 6.0 6.1
Yudin, D., & Fainzilber, M. (2009).
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Jaworski, J. (2007).
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Karnoub, A.E., & Weinberg, R.A. (2008).
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Jaffe, A.B., & Hall, A. (2005).
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Donaldson, J.G., & Jackson, C.L. (2011).
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(執筆者:力武良行、高井義美 担当編集委員:河西春郎)